作品名 作者名 カップリング
リョーコ14歳/一周年 541氏

§リョーコ20歳/一周年

今日は家庭教師のアルバイトの日。
生徒達が待つ小久保家へ向っていたアイとリョーコは、
前方に下校中の小久保マサヒコの後姿を見つけた。駆け
寄って声をかけようとするアイを、リョーコは後ろから
腕を掴んで制した。

「待ってアイ。
 マサのやつ、見慣れない女の子を連れてる」
「あ、本当ですね。邪魔したら悪いかな」
「フフフ面白そうだから、このまま尾行するわよ」

リョーコは、マサヒコの連れをじっくり観察する。
その眼は、まるで獲物を狙うライオンのようだ。

(ふーん、栗色の髪で、背はマサと同じぐらいか。
 うわー、胸大きいじゃん。
 マサは、おっぱい星人?)

哀れな獲物達は尾行者には気付かず、やがて小久保家の
二つ真向いの家に入っていた。

「先輩、この家はミサキちゃんの……」
「いよいよ面白くなってきたわ。いくわよ、アイ!」
「え、家の中にですか」
「生徒に対する理解を深めるのは家庭教師の務めよ!」

リョーコは無茶な理屈でアイを説き伏せ、天野家に突入
する。躊躇していたアイも後に続く。下世話な興味の前
に、良心は脆くも消え去った。

そして、女子大生家庭教師二人は、中学生男女三人によ
る甘酸っぱい青春の一コマを、扉の影から覗き見ること
になった。



¶
二時間後、駅前通りにて。

バイトを終えて小久保家から退出した家庭教師二人は、
先刻の覗き…もとい生徒理解の成果を話題にしていた。

「"委員長"から"天野"って、マサの鈍チンめ」
「ププ、ミサキちゃん、スネてかわいかったですね」
「まったく、ああいう態度はイライラするわ」
「え?」
「勉強は出来るけど、あの娘はバカよ!
 欲しいものはさっさと掴み取らないと、
 後で後悔することになるのに」

リョーコの突然のマジギレに、ドンビキのアイ。

「ちょっと先輩、そんなにキレなくても……」
「アイ、あんたもよ。半天然で、ぼんやり生きてると、
 そのうち痛い目に合うわよ」

矛先が自分に向けられたアイは、あわてて話題転換を試
みる。

「そ、そういえば、そろそろ一年になりますね」
「は?何のこと」
「やだなー、先輩と出会ったことですよ。
 ちょうど去年の今頃のことでしたよね」

リョーコに向けて、にっこり微笑むアイ。さらに辛辣な
言葉を続けようとしていたリョーコだったが、気勢を削
がれた。アイの方は、さらになだめにかかる。

「そうだ、私達が出合ってから一周年。
 これを祝って、これから飲みにいきましょうよ」
「あんたは出会う人毎にお祝いするわけ?」
「え、先輩だけですよ。
 先輩は私にとって特別な人だから」

リョーコは、不覚にもアイの言葉にぐっと来てしまう。
悪女を気取っているが、ストレートに気持ちをぶつけて
くる相手には弱いのである。だが、素直になれない彼女
はボケに走る。



「アイからアイの告白を受けちゃったよ。
 そういうことなら、抱いてあげようか」

「ええっーーー、そんなつもりじゃなくてですね、
 私は純粋に女同士で…って、アレ?
 あ、や、や、やっぱり、無理です。
 私、男の人とも経験ないのに、
 いくら先輩とはいえ、心の準備がーっ」

くだらないオヤジギャグに、アイはマジボケを返す。

(ククク、あんたは面白いわ)

「冗談よ、アイ」
「はぁー。で、お祝いどうします?」

リョーコの返事を待つアイの目は、純朴な子犬のようだ
った。そんな目で見られては、これ以上ボケて逃げるこ
とは出来ない。

(アイから一本取ったし、素直に好意を受けておくか。
 追い討ちの策も思いついたし)

「わかったわアイ、豪華ディナーでお祝いしよう」
「やった」
「あんたの奢りで」
「えっ」

アイ撃沈。
リョーコは勝利の味を噛み締めた。

2004年4月中旬。
濱中アイ19歳、処女で半天然。性格は素直そのもの。
中村リョーコ20歳、恋愛経験豊富。身勝手で享楽的。
一見、相性が悪そうな二人だが、当人同士は妙に馬が合
った。リョーコはまだ自覚していないが、彼女の毒気を
アイの存在がすこしづつ中和し始めていた。



¶
「「カムパーイ」」

奮発してイタリアンレストランに入った二人は、ワイン
グラスを合わせて、一周年を祝った。
お祝いとなればグラスの中身はシャンパンにしたかった
のだが、アイの財布と相談の結果、ハウスワインとなっ
た。それをグラス半分あおったリョーコが口を開いた。

「もう一年になるのね。初めて声をかけたとき、あんた
 何て言ったか覚えてる?」

「もー、勘弁してくださいよ。
 大学生活も一人暮らしも初めてで何も判らず、とても
 不安だったんですよ。
 アルバイトも決めていなかったから家計も苦しくて、
 とても悩んでいたし」

「たしかに悩んでいたみたいだから、つい声をかけたん
 だけどさー。普通、初対面の相手に聞くか?
 『学食の特盛と大盛りの量の違い』
 なんて」

「切実な問題だったんですっ!」

アイの真剣な表情に、リョーコは思わず吹きだした。
脇では、ウェイターが料理の皿をテーブルに並べ、二人
のグラスにワインを注ぎ足していった。



¶
「アイ、夕方の話の続きなんだけどさー。
 もう少ししっかりしないとだめよ。
 危なっかしくって見てられないわ」
「モグ、モグ、モグ」

カツオのカルパッチョと生ハムを同時攻略中のアイに、
返事ができる道理がなかった。もとより返事を期待して
いない説教モードのリョーコは、構わずに続ける。

「周囲の危険に対する警戒心が無さ過ぎだよ。
 あんたも今年で二十歳なんだからさー、
 成人としての自覚を持ち、自立した大人を目指し…
 あ、コラ、私の分も残しておいてよ!」

シーザーサラダの山を、丸ごと取り皿に持っていこうと
していたアイは、悲しそうな目でリョーコを見た。

「あーーー、OK。それはアンタにあげるよ」
「バク、バク、バク」

リョーコは、申し訳程度に残った生ハムを、フォークで
すくいながら話を続けた。

「えーと、どこまで話したっけ。あー、成人か。
 あんた、来年正月には成人式だろ。
 これからは自分の行動に責任をもち、近付いてくるや
 つは、全員詐欺師か性犯罪者だと思うくらいの用心深
 さじゃないと、今に酷い目に遭うわよ」

サラダを片付け、口が空いたアイが反論する。

「そんなの寂しいですよ。
 世の中に、悪い人なんてそんなにいません。
 先輩も、マサヒコ君達も、大学の友達も、私の周りは
 良い人ばかりだし」

「ぐわー、この底抜けのお人好し。
 一度酷い目に遭わないと判らないようね」

「そうなったら、先輩が助けてくれますよね」
「お、おう」

逆手をとられたリョーコの負け。説教は不発だった。



¶
リョーコ行き付けカクテルバーにて。

「先輩、さっきの店の料理、最高でしたね」

アイは、イカスミパスタと鶏の香草焼きの味を頭の中で
反芻していた。リョーコは、ナッツを噛み砕くと、ジン
トニックで喉に流し込む。

「最高の料理とやらは、あんたがほとんど平らげてしま
 って、私はろくに食べてないぞ」
「先輩は飲んでばかりで、食べないんですもの」
「あのなあー」

(アイのやつ、調子に乗ってる。
 ここらでガツンとやって凹ましてやらないと)

「アイ、あんた男を作る気ないの?」
「な、な、な」
「実は百合?」
「違いますっ」
「じゃあ、どうして?」
「今は、大学もバイトも楽しいし、
 彼氏がいなくても平気かなーって」

「ふーん、では処女のまま成人式を迎えるんだ?」
「そうなりますねー」
「ねえ、私に任せてみない?」
「へ、何をですか」
「あんたの『夜の成人式』」
「は?」

出鱈目な思い付きだったが、酔っ払ったリョーコには、
それが素晴らしいアイデアに思えた。

アイの処女喪失を、リョーコの指導監督のもとで執り行
うという、実に鬼畜な計画であった。



¶
意味を理解していないアイを放置し、リョーコは店内を
見渡す。行き付けの店なので、見知った顔がすぐに見つ
かった。
リョーコはカウンター席を離れ、テーブル席へ向う。
そこには、若いサラリーマン風の二人連れが談笑してい
た。

「こんばんわ」
「お、リョーコちゃんか」
「それ、頂戴」

リョーコはついと手を伸ばし、男が手にしていたショッ
トグラスを奪い取ると、中の透明な液体を喉に流し込ん
だ。思ったより強い酒だった。

「グ、ゴホッ、ゴホッ。何これ?」
「ウオッカだ」
「キツイだけで、味も香りもないじゃん」
「そういう酒なんだ」
「こんなお酒は嫌いよ」
「人の酒を飲んでおいて、ケチつけるな」

彼らは、近くにあるスポーツジムの常連である。
週に一度、ジムで汗を流すことにしているリョーコは、
ジムやこの店で、彼らとちょくちょく顔をあわせたが、
単なる顔見知りで、特に親しい間柄ではない。
彼らが今夜の相手として相応しいかどうか、リョーコは
吟味した。

(悪党じゃないし、ルックスもまあまあ。
 筋トレマニアだけあって肉体も申し分なし。
 よし合格)



リョーコは、カウンター席のアイに手を振った。
アイが無邪気に手を振り返す。

「あの娘、私の友達なんだけど。どう思う?」
「どうって、かわいい娘だね」
「抱いてみたいと思う?」
「そりゃ、まあ」
「OK。これから、あの娘に紹介するから、
 今夜中に口説き落としてよ。私も協力する」

リョーコのぽん引きトークが炸裂。しかし、美味しい話
には必ず裏がある。サラリーマン二名は危険を感じて警
戒した。

「おいおい、なんのつもりだ」
「あの娘、彼氏にふられたばかりで寂しいのよ」

嘘も方便。

「あ、でも、そのことは絶対言っちゃだめよ。
 そして、何があっても関係は今夜一晩限り。
 誓える?」

とても都合の良い条件に思わず頷く男達。

彼らはあっという間にリョーコの計画に組み込まれた。
事態はリョーコの思惑通りに進みはじめる。



¶
「「あははは」」

泥酔し、ホテルの一室になだれ込んだ男女4人は、かな
りハイになっていた。男性陣は、期待に股間を膨らませ
ている。なんとなく2組に分かれてベッドサイドに腰掛
ける。

「リョーコちゃん、ベッドの上では負けないぞ」
「ばーか、全戦、私の一本勝ちだからね」

「アイちゃんかわいいね。下着もかわいい系かな?」
「え、ヤダーァ」

リョーコはベッドに倒れ込み、男と長いキスの最中。

一方のアイは、ぼんやりと男に脚を触らせていたが、
胸元に手がかかった辺りで酔いが吹き飛んだ。

「ちょ、ちょっとヤメてください」
「お、恥じらいプレイ。いいね」
「本当に、マジでダメ!」
「それはないよ。なあ、いいだろ。優しくするからさ」
「本当に、ごめんなさい」
「ここまで来て、それはないだろ!」

男はアイを無理矢理ベッドへ押し倒す。優しくすると言
ったばかりなのに。アイは思わず悲鳴を上げた。
横で男と絡んでいたリョーコと目が合った。


¶
「先輩、やっぱり私できません。ムリです」
「アイ、覚悟を決めなよ」
「ムリなものは、ムリです」

男達をベッドの上に残して、バスルームの中で相談する
アイとリョーコ。

「あんたの相手、なかなかイイ男じゃない」
「相手が誰でも、こんなの嫌です」
「いつまでも処女を抱えていると、重くなるわよ。
 ここらで散らしてしまった方が楽だって。
 怖がらなくても大丈夫。私が傍についてるしさ」
「絶対に嫌!」

周囲に流されるタイプ、と思われているアイだが、
意外に頑固である。貞操の危機だから当然であるが。

(やっぱ、処女に4Pはきついか)

奥手なアイは、これぐらいの強引なきっかけがないと、
大人の女に脱皮できないのではないか。そして、手荒く
扱われて初体験で傷つくことがないように、経験豊富な
自分が見守り、性の悦びに導いてあげなくては。

リョーコなりに考えてのセッティングだった。しかし、
残念ながらリョーコの常識は世間の非常識。リョーコが
処女を失う立場なら問題を感じなかったろうが、世間的
な良識を備えた常識人のアイにとっては大問題である。

今夜のリョーコの頭脳は、酒に焼かれてそのあたりの判
断ができていなかった。



酒に浸かった頭からは腐ったアイデアが湧き出る。

「アイ、男に一人帰ってもらって、3Pならどう?」
「嫌です」

では次のアイデア。

「ならばノーマルに2P。私は見てるだけにする」
「そういう問題じゃありません!」

これならどうだ。

「んじゃ、二人とも帰して、わたしがバイブで」
「いい加減にしてください!」

次々出される腐った提案に、さすがのアイも怒った。
万策尽きたリョーコはついに『濱中アイ、夜の成人式』
計画を断念した。

「でも、どうするよ。この状況〜」
「知りません」

リョーコは煙草を一服、収拾策を考える。
またもや腐ったアイデアが浮かぶ。
しかし、今夜のリョーコにはそれが名案に思えた。

「んーーーよし、これでいこう」

リョーコはバスルームを飛び出す。
男達はお預けされた犬のように、ベッドの上にきちんと
座って待っていた。

「アイは、そこで見てなさい」

リョーコは衣服を脱ぎ捨て、高らかに宣言する。

「坊や達、私が二人同時に相手をしてあげるわ」


¶
翌朝、コーヒーショップにて。

「アイ、どうだった?」
「……」

アイは耳の先まで真っ赤になって下を向いた。
かぶり付き席で生の3Pを見学したのだ、男性経験のな
いアイには刺激が強すぎた。まともにリョーコの顔を見
ることも出来ない。
昨夜はノリノリのリョーコだったが、一夜明けてアイの
ぎこちない態度に接し、はっと我に返って愕然とした。

(やり過ぎた。バカか私は)

猛烈な後悔と自己嫌悪。

「アイ、ゴメン。本当にごめんなさい」

アイは俯いたまま無言である。

「アイ、私のこと軽蔑した?」

不安そうにアイの返事を待つリョーコ。
その様子に何かを感じとったアイは、初めて顔をあげて
リョーコを真正面から見据えた。

「先輩は、いつも私のことをからかって、
 頭にくることもありますけど。
 昨夜も酷い目にあいましたけど。

 でも、先輩は、最後は必ず私を守ってくれますから。
 昨夜も最後は私に手出しさせないように体を張って…

 私、そういうの、わかりますから。
 ちょっと、癪に障るけど、
 やっぱり、先輩は私にとって特別な人です」

アイはリョーコの手をとって両手で握り締めた。
リョーコは嬉しくて泣き出しそうだった。


「アイ、ありがとう」

ちょっと涙声。リョーコの目は潤んでいた。
でも、ここで泣いたら女がすたる、と考えてしまうとこ
ろがリョーコらしい。

「アイ、私達、出会えて良かったね」
「はい」

「一周年のお祝い、生涯の思い出になるね」
「はい」

「来年も、お祝いやるわよ」
「はい!」

「二周年のお祝いはどんな趣向にしようか。SM?」
「そっちは結構ですっ」

これで良し。リョーコは満足して煙草を一服した。

(……アイ、私を泣かそうなんて十年早いわよ)

(END)

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