作品名 作者名 カップリング
リョーコ14歳/診察 541氏

月曜日の昼休み、中学校の保健室。
学校医は、椅子を回してリョーコに向き直るとこういった。
「中村さんの家庭事情と先日の事件のことは、だいたい聞いているわ。
 怪我の方を診るから、上着を脱いで」
リョーコはスカーフを解き、制服の袖の止め具を外しにかかる。
「ほら、もたもたしないの。へー、なかなか良いスタイルしてるわね。
 これを見たら男も狼になるってもんだわ」
この30代の女医は、ズケズケとした物言いで生徒から人気があるのだが、
これはあまりに無神経である。リョーコは相手を睨み返した。

「おっと、デリカシーに欠ける発言だったわね。失敬、失敬」
女医はそう謝罪すると、リョーコの視線をさらりとかわし、胸元から腹部
にかけての打撲の跡を検分した。皮下出血の紫斑は僅かに残るのみ、若い
健康な肌に、彼女は目を細めた。
「怪我の方は大丈夫ね、後は精神的なケアということになるけど…
 うなされたり、事件の記憶が突然蘇って気分が悪くなることはある?」
「いえ、別に何も…」
今度は女医がリョーコに厳しい視線を浴びせる。

気まずい沈黙は一分も続いたろうか、女医は視線を外し
「まあいいわ、言いたくないなら無理に言わなくても。
 中村さん、あまり悲観的に考えないことね。
 貴方はね、
 大人になりたくて無理に伸びして火傷した。
 それだけのことよ」と突き放す

「そ、そんな言いかた酷い!」
「おや、言いたいことが出来たようね」さらに煽る女医。
リョーコはカッとなり、椅子を蹴って立ち上がった。
「わ、私は!!!
 あいつ、  無理矢理私の、
 それを、酷い     殴って」
「落ち着きな、順番に聞いてあげるから」
「先生になんか聞いて欲しくない!」
リョーコは、女医に背を向けると保健室を飛び出したが、上半身が下着姿
であることに気付き、慌てて廊下から部屋に戻った。

羞恥で耳の先まで赤くなった。
あわてて制服を着込むが、指先が震えてボタンがうまく留められない。
そのリョーコの肩越しに女医はこういった。
「中村さん、貴方は自分が思っているほど大人じゃないのよ。
 悲劇のヒロイン気取りは子供のすることよ」
「大人なら、どうするって言うんですかっ」
「知りたければ、大人になることね」
「卑怯だわ、答えになってないっ」
「大人はズルイのよ」
リョーコは踵を返して廊下に出ると、後ろ手でピシャリと扉を閉めた。

後に残された女医は、軽くため息をついた。
「中村さん、大人はね。嫌なことは忘れてしまうのよ。」

(TO BE CONTINUE)

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