作品名 作者名 カップリング
No Title 518氏 マサ×アヤナ

「素敵な眺めね」
ワイングラスを片手にアヤナは窓の外を眺める。
高級ホテル最上階のロイヤルスイートから眺める夜景は文字通り絶景。
「ねえ、あなたもそう思うでしょ?」
振り返った先には、マサヒコ。
彼は何も言わない。
構わずアヤナは続ける。
「まるで私たち二人の新しい門出を祝福してくれているようで……とっても素敵な眺め」
微笑み、グラスの中の液体を飲み干す。
「あなたも飲まない? 味は保証するわよ」
マサヒコは答えない。
構わずアヤナは続ける。
「そう。そうね。こんなもの、いつでも飲めるものね。大事なのは……今という時だから」
アヤナはマサヒコに近寄る。
「あなたと二人で、歩んでいく道。二人で手を取って、歩いていく道。
今日はその出発点に立つ記念すべき日。
そんな善き日をアルコールでうやむやにするなんてもったいないものね」
そう言って、マサヒコに抱きつく。
「愛してるわ、小久保君……ううん。あ・な・た、と呼ぶべきかしら」
微笑む。
満面の笑み。
見るものを、とろけさせる微笑。
しかし。
マサヒコはアヤナの肩をつかみ、半泣きでその体を揺さぶる。
「若田部……帰って来いって!」
「……何を言ってるの?」
「現実から逃げるなよ。つーか俺一人残されてどうしろってんだよ?」
「小久保君も……こっちに来れば楽になるわよ」
「いや、楽にはなるかもしれないけどそりゃまずいって。
つーかワイン飲むなよ。未成年だそ、俺もおまえも」
「何を言っているの? 私たちはもう成人して、両親の薦めで結婚するんじゃない」
「まだ二人とも中学生だっての! 現実逃避したい気持ちはわかるが帰ってきてくれ若田部!
このままだと目論見どおりになっちゃうだろーが!」



小久保マサヒコ、15の冬に人生の冬(ある意味春)に遭遇。
パートナーの若田部アヤナは頭ん中が春になっちゃってるし。
マサヒコ、久々にガチのピンチ。
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「あの子って……男の子が好きなのかしら?」


「……」
愛する妻の言葉に彼は一瞬固まった後、何事もなかったかのようにウイスキーを飲み干す。
そして視線で妻に先を促す。
「あの子ももう15歳。エッチな本とか持っててもよさそうなのに一冊もないのよ。
思春期よ? 一番女体に興味もつ年じゃない? ねえ?」
同意を求められたがあえて無視した。
「だから女の子よりも男の子の方が好きなんじゃないかな〜って」
「そんなことないだろ」
「でもミサキちゃんのことだってあるし」
唐突にご近所の娘さんの名前が出てきて眉をひそめる。
「ミサキちゃんがどうかしたのか?」
「ほら、ミサキちゃん好き好き光線だしまくりなのに全然気づかないでしょ。あの子は」
「……」
知らなかったと心の中でつぶやく。
代わりに納得した。
どうやら息子は自分に似たらしい、と。
「あの子が男の子連れてきて「母さん、これが俺の恋人です」って言ったらどうしよう?
ぶっ飛ばしたほうがいいかしら?」
「やめておけ」
「ふーぞくにでも連れて行こうかしら?」
「もっとやめておけ」
「いっそ私が女の素晴らしさを手取り足取り腰取り」
「心底やめておけ」
息子をふーぞくに連れていこうとする母。
息子の筆おろしを試みる母。
どっか間違っている。
しかしそれもすべては息子を想うゆえ……………だと思いたい。
「もう! あなたももっと真剣に考えてよ。大切な一人息子のことなのよ!?」
「そうは言われてもな」
彼は腕を組んで唸る。
「あいつは私に似たんだろう。私もその時期、異性にそれほど興味はなかったからな。
だがまあ焦る事はない。ほんとに好きな子ができたらそーいうことにも興味をもつようになるさ」
「好きな子ねぇ」
それでもまだ納得が行かない様子だったので、
「何なら見合いでもさせてみるか?」
「あ、それいい」
「……」
つい余計な事を言ってしまって「しまった」と思った。
うっかり彼女のツボをクリティカルヒットしてしまった。
「お見合い、いい。させましょう! 面白そうだし!」
「い、いやしかし相手が……」
「あてがあるから「お見合いさせる」なんて言ったんでしょ?」
「う……」
確かにあてはある。
彼は某大企業の秘書室長をしており、かなり顔が広い。
取引先の重役が娘のお見合い相手を探していると言っていたのを
思い出してしまったからつい言ってしまったのだ。
「じゃあ相手に連絡しておいてね。日取りは……あさってがいいわね」
「早いな」
「善は急げよ。あ〜楽しみだわ〜。とりあえず明日あの子の服を買いに行かないと」
「……」


浮かれる妻の姿を見ながら、彼は天を仰ぐ。
そう言えばちょうどこの上は息子の部屋だ。
「すまん、マサヒコ」
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「すご……」
マサヒコはホテルを見上げうめいた
「ほんとにこんなとこで食事するの?」
「そうよ。だからそれなりの格好もしてるでしょ?」
マサヒコは昨日買ってもらったばかりのスーツ姿。
髪も美容院に連れていかれてばっちり決まっている。
「ん〜。こうしてみるとわが息子ながらいい男ね♪」
母親は彼のそんな姿にいたくご満悦で、抱きついてみたり頭を抱きしめたりと浮かれまくっている。
そんな彼女自身もぴしっとフォーマルな出で立ちだ。
「母さん浮かれすぎ」
「そ〜お〜?」
「……父さん」
「なんだ?」
「母さんのうかれっぷりも気になるけど、
父さんのその売られてく仔牛を見るような目も気になるんだけど」
見たことあるのか?売られてく(以下略)
「マサヒコ……こんどPSP買ってやろう」
「な、なに急に? まさか俺ほんとに売られるの?」
「当たらずとも遠からじ」
「と、父さん!?」
「母さんには逆らえないからなぁ」
「父さん……俺、死なないよね?」
「ある意味死ぬことになるやも……いや、言うまい」
「言ってる言ってる。言ってるよ父さん」
「マサヒコ、人生は絶えることなんだ」
「字が壮絶に間違ってる。「絶」えてどーするんだよ。「耐」えないと」
「……「耐」えきれず「絶」える」
「父さん……俺、ホントにどうなるの?」
「…………こんどニンテンドーDS買ってやろう」
「……」
何がどうなるかはわからないが。
「まあいいさ、腹を括るよ」
「それがいい」


「……首は括らなくてもいいよね?」
「……」
父はなにも言わなかった。
アーメン。
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「お見合い……」
「そう。お見合いよ。」
うれしそうに廊下を歩く母。
ホテルに入ってようやく今日の本当の目的を聞かされたマサヒコは……正直ほっとした。
お見合い。
結婚を決めるために他人の計らいで見知らぬ男女が顔をあわせ相手の様子をうかがうこと。
「お見合いか……そっか」
よかった。
人知の及ぶ範囲だ。
いろいろ突っ込みたいこともあるが、とりあえずよしとしよう。
「お見合い……なんで?」
よしとはしてもわけは知りたい。
マサヒコの言葉に母が答える。
「だって、あんたが男連れてきて「これが俺の恋人です」って言われても困るし」
「は?」
わけがわからず、マサヒコは父を見る。
父はなにも言わず首を振る。
「だから少しでもあんたの女性交友関係を開拓しておこうと思って」
「いや、それはもう正直お腹いっぱいなんだけど」
濃ゆい女性交友関係を構築しているマサヒコからすればもうご勘弁といったところだ。
母もそれは予想していたのだろう。
あっさり「知ってる」といった後さらに続ける。
「でもこれはお見合いよ? お見合い。
お見合いするってことはとーぜん相手も出会いを求めてるのよ?
だったら恋愛関係にも入りやすいじゃない」
「……お見合いって、たしか結婚を前提にするから、
ずるずる付き合うのってまずいんじゃなかったっけ?」
なかなか博識なマサヒコの言葉に父が頷く。
「確かにそうだな。相手に失礼にあたる」
すると母はあっさり言う。
「でもマサヒコまだ結婚できる年じゃないし」
「じゃあなんでお見合いさせるんだよ!?」
「それはおもしろそ――ゲフンゲフンッ……さっきも言ったようにあんたのためよ」
一瞬本心が見えた。
マサヒコは父を見た。
父はマサヒコを見てくれなかった。
そりゃないぜ。
「ところであなた」


そんな父子の複雑な胸中など露知らず、母の明るい声。
「お見合いの相手って誰なの?」
「ああ。取引先の重役の娘さんだ。
なんでも最近娘との会話で「おねえ様」という単語が出てきて危機感を持ったらしい」
「あら、うちと同じね」
「「違うと思う」」
「似たようなものよ」
少なくともマサヒコは一言も「お兄様」とは言った事はない。
が、母にはそんなこと関係ないらしい。
「それで、ほかには?」
「まあとりあえず相手の娘さんもまだ未成年だし。
すぐ結婚ってことじゃなくてとりあえず男性交友関係の構築が目的だそうだ」
「ますますうちみたいね」
「……そうだな。まあそんなところだ」
いろいろあきらめた感のある父。
まあ何はともあれ。
マサヒコはこれからお見合いをしなければならない。
これは小久保家の chief operating officer いわゆる最高執行責任者による決定事項だ。
しかしこれはそれほど困難なことではないとマサヒコは考えた。
お見合いがどういったものかは知らないが、普段の家庭教師の授業よりは楽なのではないかと思う。
あのエロ魔神がいる授業よりは楽だろうと思う。
少なくとも母の折檻を覚悟でここから大脱走するほど酷くはないと思う。
ちょっと会話して、食事して、それでさようなら。
せいぜい2、3時間の我慢だ。
おっと、我慢って言い方は相手に悪いかな?
な〜んて。
相手への気遣いも含めつつ楽観視していたのだが、
「あ、そー言えば聞いてなかったけど相手方の名前は?」
「若田部さんだ」
激烈にいやな予感が冷たい汗となって背中を滑り落ちる。
…………大脱走するべきだろうか?
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目的の部屋にいたのは果たして。
若田部アヤナとその両親だった。
「や〜…まさかお見合いの相手がアヤナちゃんだとは。夢にも思いませんでしたわ」
「世間って広そうで狭いものですのねぇ」
朗らかに話すは顔見知りの両家母。
「小久保さん、これはいったい?」
「どうやら、お互い知り合いだったようですな。知らぬは父ばかり」
「お互い駄目な父ですな。仕事仕事で家庭も顧みず」
「まったくです」
苦笑するは両家父。
「……」
「……」
火の出るような眼差しの主役と、その視線を全身で受けるもう一人の主役。
なんとも奇妙なお見合いだ。


「じゃあまあ、年寄りはこの辺で失礼しましょうか?」
「この二人なら「今更」って感じもしますけどね」
お見合いお決まりの「あとは若い二人に任せて」的発言をしつつ、そそくさと母二人が退室。
「じゃあアヤナ。マサヒコ君と仲良くな」
「マサヒコ……幸運を祈る」
ちょっと心配そうなアヤナの父と戦場に部下を送るかの面持ちのマサヒコ父も退室。
残されたのは主役二人。
「で、どーいうことかしら?」
「どーゆー事って言われても……実は――」
アヤナの言葉にマサヒコは自分の知る限りの情報を口にする。
「――と、まあ。こんな感じだよ、こっちは。そっちは?」
「同じよ。母親が面白がってるところからホテルで食事するって連れ出されたところまで、ね」
お互い改めて顔を見合わせて、
「「はぁ……」」
同時にため息。
「まあある意味、相手が若田部で助かったのかもな」
「あら、どうして?」
「いや、だって初対面で二人っきりにされてもなに話していいかわかんないし」
「じゃあ、私とはどんな話をしてくれるのかしら?」
ちょっと面白がるようなアヤナの声色。
マサヒコはしばし考え、
「母親へのリベンジの手段の相談を」
一も二もなく。
アヤナは何度も頷き、その後白熱したディスカッションがなされた。

その結果導き出された結論が Mission Impossible なんだから涙を誘う。
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「ホテルで食事をする」とは小久保、若田部両家の親の言葉だが、嘘ではなかったらしい。
ただし。
レストランで家族水入らず、ではない。
飛天の間とかいう広いホールで行われる豪華な立食パーティーへの出席という形で。
豪華な食事もそうだが、居並ぶ人々も凄い……らしい。
らしいとは父がそう言っていただけでマサヒコとしては凄いのかどうかわからない。
別に芸能人がいるわけではないのだが……どこかで見たことがあるような人がちらほら。
「父さん、これ何のパーティー?」
基本的なことをマサヒコは問う。
「父さんの会社と若田部さんの会社の提携記念のパーティーだ。
まあそれだけじゃないんだがな」
「ふ〜ん」
「経済界の重鎮の方も居られるから、あんまり失礼のないようにな」
「んなこといわれても……どうすればいいの?」
「普段通りしてればいい」
そう言って頭をくしゃくしゃっとなでられる。


そんな父の態度に少し安心する。
自分がかなり場違いな感じがしていたのだ。
「なにか食べるか? 取ってきてやるぞ」
「いいよ。それくらい自分でするから。それよりも挨拶とかあるんじゃないの?」
「まあそうなんだが……一人で大丈夫か?」
「母さんを一人にするほうがまずい気がするんだけど」
「……そうだな」
その母はといえばなにやら恰幅のいい高齢の男性と楽しげに談笑している。
父曰く「我が社の会長だ」とのこと。
話の内容は怖くて聞けやしない。
母の元へと向かう父を見送り、マサヒコは豪華な食事の並ぶテーブルへ。
並んでいるのはよくわからないが恐らく高級なんだろう材料を使った高級なんだろう料理の数々。
「濱中先生がいたら喜びそうだな」
大食漢の家庭教師を思い出し、顔が綻ぶ。
「小久保君」
声をかけられ、振りかえる。
そこにいたのは予想通りの人物だったが。
格好は予想通りではなかった。
「若田部……着替えたのか?」
「着替えさせられたのよ」
先ほどとは違いアヤナは胸元の大きく開いたワインレッドのドレスを身に纏っていた。
「ふ〜ん……若田部に赤ってよく似合うな」
「お、お世辞を言ってもなにも出ないわよ」
ちょっと照れた様子で顔を赤らめる。
その赤も似合うなぁとは思ったが口には出さない。
言ったら叩かれる。鉄板だ。
「それにしても凄い人の数ね」
「まったくだ。人波に酔いそうだよ」
「気をつけたほうがいいわよ。飲み物はほとんどアルコールだから文字通り酔っちゃうわよ」
今まさにオレンジ色の液体を飲もうとしていたマサヒコは驚き、軽く舐めて飲み物の正体を探る。
「ホントだ。ちょっとニガイ」
「しかも結構強いから。油断すると大人でも――」
「やあ小久保君!」
「――こうなるから」
アヤナはやれやれといった様子で頭を振る。
ニコニコとマサヒコに声をかけてきたのは彼女の父親。
顔が赤いのはアヤナの言葉通り、油断した結果なのだろう。
「食べてるかい? 飲んでるかい? 楽しんでるかい?」
「あ、はい。おかげさまで」
「何が「おかげさま」なんだか」
皮肉の言葉にマサヒコは苦笑する。
アヤナの父親はマサヒコの肩をバンバンとたたく。
「いやしかし。やっぱり小久保さんの息子さんというべきか。
さすが小久保さんの息子さんというべきか。たいした子だよ君は」
そう言ってバシバシと背を叩く。
「何が「たいした子」なんだか。小久保君と話なんてほとんどしてないじゃない」
今日のアヤナはちょっとシニカルだ。
しかし父は意にも介さず、逆に微笑む。
「わかるさ。アヤナの友達なんだ。悪い人間なわけがない。言うだろ? 類は友を呼ぶってね」
「……」
アヤナの顔が、少し赤い。


父親からの厚い信頼にちょっと照れたのだろう。
そんなアヤナの頭を笑顔で撫でていると、
「よう! まー坊!」
「お〜、けんちゃん! 久しぶりだなぁ」
一人の男性が声をかけてきた。
「ん? 誰だそれ? 愛人か?」
「ちがうちがう。愛娘だよ」
「ほ〜。これまたなんというか……くれ」
「ダメダメ。アヤナはこの子のだから。お見合いしたんだよ、今日」
「へ?」
そう言ってマサヒコの肩を叩く。
「おや、こちらもなかなかいい面構えの……誰?」
「小久保さんの息子さんだ」
「お〜お〜! なるほど! 確かに面影があるな」
納得した様子で何度も頷く。
「君、名前は?」
「小久保マサヒコです。父がいつもお世話になってます」
「いやいや、お世話になってるのはこっちのほうだよ。
いやしかしなるほど。そーなると小久保さんとまー坊は親戚関係だな」
「まあな」
「ちょ、ちょっと! お父さん!」
何やらすでに結婚が決まったかの言い様にアヤナが抗議の声をあげる。
「じゃあお祝いしないとな。マサヒコ君、家建てるならうちの会社で立ててあげよう。
原価割れで建ててあげるからな」
「は?」
「ふ、相変わらずけち臭いな貴様は」
「むむ! お前はマンション業界を牛耳ってるちー助!」
「私は君達の新居としてマンションをプレゼントしようじゃないか」
「いや、あの」
「おっ! そーいう事なら家具は俺が用意するぜ」
「あっちゃん! 家具の輸入販売を手がけるあっちゃんじゃないか!」
「ただ俺は電化製品はなぁ……ちと畑違いでな」
「だ〜いじょうぶだよ。家電のことならしんちゃんがいるから。おーい! しんちゃーん!」
そんな感じでどんどんアヤナとマサヒコの周りに人が集まってくる。
つーか知り合い多いな、アヤナの父よ。
しかも酔ってる為か妙に気前いい。
「なんか……気のせいかもしれないが大変なことになってきてないか?」
「なってるわよ。十分に」
二人顔を見合わせて「はあ……」とため息。
「アヤナ、マサヒコ君。来なさい」
「え? ちょっとお父さん! どこ行くのよ!?」
「いいからいいから」
ぐいぐいと手を引かれて会場から連れ出される。
それに続くアヤナのパパさんの親友たち。
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連れていかれたのは最上階のロイヤルスイート。
促されるまま部屋の中に入る。


「うわっ! すごっ!」
「広いわね……」
豪華さに庶民なマサヒコのみならずセレブなアヤナも圧倒される。
「一泊いくらだ、ここ?」
「下世話な疑問ね」
「下世話でも気になるものは気になるよ」
そう言って苦笑する。
「でもおじさん、なんで俺達をこんなところに連れてきたんですか?」
「うん。今夜は二人にこの部屋に泊まってもらおうと思って」
「「はぁ!?」」
「孫は女の子がいいなぁ。あ、マサヒコ君似の男の子もいいかも」
「ちょ、ちょっとおじさん!」
「まあ頑張ってくれたまえ」
「何言ってるのよお父さん!!」
「じゃ〜な〜」
そう言って出ていってしまう。
後を追おうとアヤナはドアに手をかけるが。
「っ! 開かない!?」
「はぁ? なんで!?」
「知らないわよ!」
ノブをガチャガチャと回すがドアは微動だにせず。
どんどんと叩いてみてもビクともしない。
どうやらカギが掛かっているらしい。
つーかなぜ外側からカギがかかる?
特殊病棟かここは?
保健指定医はどこだ?
「ダメか。別に出口ないかな?」
マサヒコはうろうろと部屋の中を歩き回る。
さすがにロイヤルスイート、広い。
和室もあり、刀と鎧一式が飾られていた。
まあ外人さんは喜びそうではある。
兜飾りに「愛」の文字がまぶしい。
「直江兼続か?」
キッチンに行ってみるとなぜか栓の開けられたワイン。
「何で栓が開いてるんだ?……まさか」
確信をもってマサヒコはアヤナを探す。

そして、伝説へ……もとい、物語は冒頭へ………。
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AFTERE 0:10:00
AFTERE 0:10:01
AFTERE 0:10:02
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「落ち着いたか?」
「ええ……ありがとう小久保君」
ソファに深く座り込んだアヤナが礼を言う。
マサヒコの用意した水を飲んだおかげで酔いも少し覚めたらしい。


隣に座るマサヒコに軽く頭を下げる。
「ごめんなさい。つい現実逃避しちゃって」
「いや、気持ちは十分わかるから」
マサヒコだって現実逃避したくないといったら嘘になる。
「小久保君もどう? 味は本当にいいわよ」
「ん〜……じゃあ一杯だけ」
マサヒコだって現実逃避したいんです。
アヤナの酌を受け、ワインをおっかなびっくり口に含む。
その様子がおかしかったのか、アヤナがくすくすと笑う。
「なあに小久保君ったら。そんなおっかなびっくり」
「飲んだことないんだからしょうがないだろ」
「男ならぐいっといきなさい。ほらイッキイッキ!」
アヤナに囃し立てられ、グイッと飲む。
「いい飲みっぷりじゃない。はい、もう一杯どーぞ」
「あ、ああ」
空になったグラスにアヤナがにこにこしながらワインを注ぐ。
落ち着いたとはいえまだまだ酔っている様子だ。
「うわっと!」
「あ、ごめんなさい」
その証拠に注ぎすぎて少し溢れてしまった。
「すぐに拭くから」
「大丈夫だって」
「ダメよ。シミになるわ」
そう言ってズボンにこぼれたワインをハンカチで拭くのだが。
(うおっ!?)
やや前のめりになったせいでアヤナの胸の谷間が強調されることになる。
普段のマサヒコならばすぐに視線を逸らしただろう。
しかし。
今は色々な意味で普段とはかけ離れていた。
ホテルの部屋に二人きりで、しかも慣れない、初めてのアルコール摂取。
彼の中の男としての本能が鎌首をもたげようとしていた。
だが。
彼はやっぱり小久保マサヒコなのだ。
「わ、若田部。その……胸が…」
「え?……あっ!?」
ぱっとマサヒコから離れ、胸元を手で隠す。
「……えっち」
「悪い」
マサヒコが悪いわけではないのだが、謝る。
「もう……でも……小久保君も、そーいう事に興味あるのね」
「……俺だって一応男だぞ?」
そう言ってマサヒコはグイッとワインを飲み、空いたグラスに手酌で注ぐ。
アヤナはくすくす笑いながら
「ごめんなさい。ちょっと意外だなって思ったのよ。
だって小久保君って女の子とかに興味ないって思ってたから」
「んなことないんだけどなぁ」
マサヒコはまたグイッとワインを飲み干す。
少々ペースが速い。
アヤナがワインを注ぐ。
……あ、今更だけどお酒は二十歳になってから♪
「でも、他の男子とは違うでしょ?」


「そうかな?」
「そうよ」
アヤナもワインをグイッと飲む。
頬が赤い。
再び酔いはじめたようだ。
「私、体育の時間がすごくいやなの」
「なんで? 若田部運動神経いいだろ?」
そう言って首を傾げるマサヒコに苦笑する。
「薄着になるでしょ?」
「あ、そっか」
そこまで言われ、さすがにマサヒコも気づく。
年の割に豊かな胸はアヤナのコンプレックスなのだ。
「胸をじろじろ見られるから。けど、小久保君は見たりしないでしょ?」
「そりゃまあ……だって俺は若田部が見られたくないって知ってるから見ないわけだし」
「じゃあ私が見られても構わないって思ってたらじろじろ見る?」
「どうだろうな……たぶん、それでも見ない……かな」
「でしょ? やっぱり他の男子とは違うのよ」
アヤナの言葉にマサヒコは考えるように宙を見上げる。
「どうしたの?」
「いや、その他の男子と違うってのは誉め言葉なのかなって思ってさ」
「誉め言葉ではないわね。けど……」
その先を言おうかどうか悩んだアヤナは、ワインの力も借りて言うことにした。
「けど、そんなあなたのこと、私は嫌いじゃないわよ」
「……そっか」
マサヒコもワインをグイッと飲む。
照れ隠しだ。
「小久保君がモテるのってそのあたりなのかもしれないわね」
「はぁ? 俺別にモテたりしてないぞ」
「あなたが気づいてないだけよ」
そう言ってクスクス笑われる。
どうにも居心地が悪くて、また、ワインを飲む。
アヤナももう一杯飲もうと空いたグラスに注ごうとして、
「あら、もう空ね」
中身が空っぽなことに気づく。
「もうちょっと飲みたいわね」
アヤナがそう言うとマサヒコが無言で立ち上がる。
「持ってきてく――!?」
ドサリ、とマサヒコがアヤナに圧し掛かる。
ソファに押し倒される形になったアヤナは目を見開く。
「こく、小久保君!?」
「……わかたべ」
「きゃっ!!」
マサヒコのささやきが、息が耳に降り掛かる。
「ちょ…ま、まって」
「…わかたべ……おれ…なんか…」
「ひぁぁ!」
わずかに。
耳に唇が触れただけなのにアヤナは背を反り返らせる。
確かに耳はアヤナの性感帯のひとつだ。
しかしそれを差し引いても………
(やだ………なにこれ)
感じすぎる。
快感が電流のように全身を駆け巡る。


「わかたべ……」
「ひぃんっ!」
「おれ……おれ……」
「う……うん」
アヤナは、覚悟を決める。
あのマサヒコがコトを望んでいる。
その事実はアヤナの中の女性の部分を非常に満足させていたし。
マサヒコのことは嫌いじゃない。
翻って好きだから。
だから、覚悟を決めた。
決めたのに。
「おれ…目が回る」
「……は?」
「世界が回る……なんだ、これぇ?」
「………」
マサヒコは酒に飲まれたようだ。
あんまりなマサヒコの言葉にアヤナは真っ赤になる。
これでは……これでは一人で興奮した自分がバカみたいじゃないか。
だから。
「小久保君……私は今からあなたを殴る!」
「はい?」
「体の痛みはすぐに消えるわ! けれどその心の痛みを忘れないで!」
「は? ちょっ? ええ!?」
戸惑うマサヒコをポコンと叩く。
ポコン、だ。
力なんかまったく込められちゃいない。
けれどそれで納得したのだろう。
アヤナは大きく息を吐き、自分に圧し掛かるマサヒコの体を抱しめる。
「しばらく安静にしてれば酔いは覚めるから。じっとしてて」
「いや、その前に。パンチとか、今の体勢とか。色々聞きたいことが」
「気にしないで」
「いや、しかし」
「気にしないで!」
「……そっか」
普段ならもっと色々突っ込んだだろうが、如何せん酔っている。
まあいっかと、マサヒコはぐったりとアヤナに体を預ける。
そうするとアヤナの体の柔らかさとか、やけに速い心拍とか、色々なものを感じることが出来る。
柔らかさ、特に胸のあたりに二つの柔らかいものが。
「……」
ついぞ意識したことのない何かが心の奥底から湧きあがってくるのをマサヒコは感じた。
それは多分、最も本能的なもので。
最も原始的なもので。
最も純粋で。
最も危険なもの。
「あら? 小久保君、あなたポケットにペンか何か入れ……て……」
太ももに当たる硬い感触にアヤナはそう言ってから気づいた。
「あ、あの…小久保君…これって……」
「う……いや、その…悪い」
真っ赤になって謝る。
何とかしたいがこればっかりは、自分の意思ではコントロールできない。
文字通りの暴れん棒なのだ。


「……なんで?」
「は?」
「何でおっきくなっちゃったの?」
「いや、それは……その……」
さすがにアヤナに欲情してしまったとは口が裂けたって言えやしない。
「言って小久保君」
「……若田部のせいだよ」
口が裂けてないけど言っちゃいました。
酔った勢いです。
「………欲情した?」
アヤナの直球に空振り三振でバッターアウト。
観念してマサヒコは頷いた。
アヤナはじっと、マサヒコの顔を見つめ、
「……する?」
続けて発せられたアヤナの言葉にマサヒコは顔をしかめる。
「んなこと言うなよ。さっきも言ったけど、俺だって一応男だぞ」
「知ってるわよ」
「……」
マサヒコは首だけ動かし、アヤナを見る。
アヤナもマサヒコの事を見ており、至近距離で視線が絡む。
いいのか? とのマサヒコの視線。
承諾を意味するかのように、アヤナは目を閉じてマサヒコへと顔を近づける。
触れ合う唇。
一度離れて、また触れ合うと、アヤナのほうからおずおずと舌を入れてきた。
ここまでされて引き下がるようでは男ではない。
据え膳食わぬは男の恥。
もちろんマサヒコは男の子だ。
しかも今日はいつも以上にケダモノチックな男の子だ。
「んぅっ!?」
アヤナの舌を押し返し、逆にアヤナの口内に進入。
侵略者は我が物顔でのさばり、隅々まで物色していく。
「んっ!……んぁ……ぁ!」
未知の感覚に戸惑っているのだろう、アヤナが身悶える。
口を離すと二人の間に唾液の糸が懸かる。
なんとも扇情的な光景にアヤナは顔を赤らめる。
そんなアヤナの耳元に顔を近づけ、
「若田部」
「ひっ!」
囁く。
「俺も初めてだから、うまく出来ないかもしれないけど、出来るだけ優しくするから」
「う…うん」
「痛かったり、嫌だったりしたら、言えよ」
「わかっ――ひあぁっ!だ、だめ。みみはだめぇ」
ぺろりと耳を舐められ、アヤナは甲高い声を上げる。
「やぁ!……みみ……やぁ……」
はむはむと甘噛みし、穴の中へと舌を差し入れる。
「ひぅっ!! ま、まっ……ひぁ!」
アヤナは身体をのけぞらせ、びくびくと身体を震わせる。
軽く達してしまったようだ。
「若田部……大丈夫か?」
はあはあと荒い息で、視点が定まらない様子のアヤナを気遣う。


「若田部?」
軽く頬を叩くとようやく視点が定まってくる。
「え……あれ? 私……」
「なんか痙攣したと思ったらいきなり動かなくなったんだけど……大丈夫か?
痛かったりしたらやめるけど?」
マサヒコの言葉にアヤナは首を振る。
「痛いとかじゃなくて、その……気持ちよくて……それでよく分からなくなって……その……」
「イッたって事か?」
「あぅ……」
恥ずかしさに顔を真っ赤にして、それでも素直に頷く。
「そっか。じゃ、続きな……と、その前に」
「え?……きゃっ!」
マサヒコはアヤナを、いわゆるお姫様抱っこで抱き上げる
「な、なに小久保君?」
「いや、ここじゃあれだろ? 場所移動だよ」
そういってベッドルームへ移動し、アヤナをそっとベッドに下ろすとアヤナの上にのしかかる。
すっと、マサヒコの手がアヤナの股間へと向かう。
「あっ!」
アヤナは反射的に両足をきつく閉じる。
するとマサヒコは無理に足をこじ開けることはせず、手を上へと向かわせる。
目的地は胸だ。
元々胸元の大きく開いたドレス、苦も無く胸を露出させることが出来る。
早速マサヒコはアヤナの胸を味わう。
そう、文字通りに。
「ひあぁ!」
乳首を強く吸われ、アヤナはあられもない声をあげてしまう。
「ここもかなりいい感じみたいだな」
「そんな……んっ!………こと!んあぁ!」
「気持ち……よくないのか?」
不安そうな顔をするマサヒコのためにアヤナは少しだけ恥ずかしい思いをすることにした。
「気持ち、いいわよ……ふぁっ!……自分でするより……んぁっ…」
「……自分でするより?」
「!?」
マサヒコの言葉に、自分が思わぬ失言をしていたことに慌てる。
「ちがっ! ちがうの!」
「何が違うんだ?」
「ふぁ!」
乳首をいじりながらちょっと意地悪に聞く。
言葉責めだ。
「なるほどなるほど。若田部は毎日毎日自分でいじっているのか」
「毎日なんてしてない……んぁぁ!」
「じゃあどのくらいのスパンでしてるんだ?」
今日のマサヒコはとってもケダモノチック。
お酒って怖いですね。
「そ、それは……」
「それは?」
「……週一回ぐらい」
恥ずかしいことを告白させられ、アヤナは目に涙を浮かべる。
それを見てマサヒコは「げっ!」と慌てる。
「わ、悪い! 変な事聞いた」
「……ヤダ」
「う……」
睨まれてマサヒコはたじろぐ。


「ご、ごめん」
先ほどまでの、いぢわるっぷりはどこへやら。
シュンと小さくなってしまうマサヒコを見てアヤナは怒りも忘れて笑ってしまう。
「もう。ほら、男の子がそんな顔しないでよ」
そう言って顔を寄せてキスをする。
「若田部……」
「さっきのことは許してあげるから。ね、だから……続き、して?」
最後のちょっと照れながら言った「して?」の部分が激烈にかわいかった。
もうこれ以上なくかわいかった!
マサヒコ、覚醒! 何が覚醒したかわからないがとにかく覚醒!!
「ひゃっ!」
アヤナの下半身へと手を伸ばす。
ツプッと人差し指の先をアヤナの膣へと埋めると、アヤナの腰がはねる。
「ひぁ!……な、かに……!……」
ゆっくりゆっくり奥へと指を進めて行くと壁のようなものに突き当たる。
「大丈夫か? 痛くないか?」
「うん、大丈夫みたい」
アヤナが大丈夫そうなのを確認し、マサヒコはズボンを下ろし、自らの欲望を露出させる。
目の当たりにしてアヤナの顔におびえが走る。
「っ!!? そ、そんなの入らないわよ!」
マサヒコのモノは馬並ってわけじゃなく、いたってノーマルサイズ。
それでも初見のアヤナにとっては十分グロテスクなものなわけで。
恐怖を喚起させるには十二分だった。
アヤナのおびえにマサヒコは、
「じゃあ……やめとくか? 俺は別にそれでもいいけど?」
大嘘をついた。
ジュニアは臨界寸前。
それでもアヤナを泣かせることになるよりはずっとマシだと思った。
「……ばか」
「なぜに?」
いきなり馬鹿呼ばわりされて少々傷つく。
「じゃあ聞くけど、やめてって言ったらやめてくれるの? やめられるの?」
「それは……」
言葉に詰まるマサヒコにアヤナはさらに詰め寄る。
「ねえ、どうなの?」
「……やめられないかも」
本当に、本当に申し訳なさそうな表情で言葉を続ける。
「悪い、若田部」
「アヤナ」
「……へ?」
「アヤナって、呼んでよ」
今更なことかもしれない。
お互い半裸で、抱き合って、性交をしようというときに望むことではないかもしれない。
けれど、アヤナにとっては大切なことだった。
「ねえ、呼んでよ。そうしたら――」
「……アヤナ、好きだよ」
「!?」
そして、マサヒコはアヤナの意思を十二分に理解していた。
だからこそ、一言付け加えた。
いや、一言だけじゃない。
「アヤナが好きだ。笑ってる顔のアヤナ、照れてる顔のアヤナ、
怒ってる顔のアヤナも、アヤナの全部が好きだと思う……うん、好きだな」
マサヒコの言葉を聞き、アヤナの目からぽろぽろと涙が出てきた。


「や、やだ! 何で私泣いてるのよ!好きな人に名前呼ばれたくらいで、泣くなんて。
私そんなステレオタイプじゃないのに」
「それだけ俺が想われてるって、勘違いしちゃってもいいか?」
こくりと、頷く。
「こく――マサヒコ……」
アヤナも、呼称を変える。
呼び方を変えて、一番最初に言いたいことは、もちろん、
「だいすき」
もう、我慢なんか出来なかった。
「んぁ!」
勢いよくアヤナの唇を奪い、そのままマサヒコは暴れん坊なジュニアをアヤナにロックオン。
「いくぞ」
「ん……」
アヤナの腕がマサヒコの背に回され、ぎゅっとしがみつく。
ゆっくりゆっくり、細心の注意を払いながらマサヒコはアヤナの膣へ。
僅かな抵抗を感じた後、一気につき入れる。
「ふっ――!!!?」
背に回されたアヤナの腕に一層の力。
食い込む爪。
そして、零れる涙。
「大丈夫か?」
「っ……!」
無言で何度も首を振る。
……縦に。
目を真っ赤にして、爪を立てて、全身で「痛い」と言ってるくせに。
嘘をつく。
痛みを与えた……いや、痛みを与え続けている、マサヒコの罪悪感を無くすために。
そんなアヤナの姿を目にしてマサヒコの胸に何かが込み上げてきて。
「アヤナ!」
ぎゅっと、強く抱きしめた。
それでも足りない。
自分の胸にこみ上げるこの想いを伝えきれない。
愛おしさを、伝えきれない。
だからキスをした。
この想い伝われと言わんばかりに。
何度も。
深く。
貪る。
何度も名を呼ぶ。
名を呼ぶたびにアヤナはマサヒコを甘く締め付ける。
たまらない。
我慢なんか出来るわけがない。
「っ! やべっ……」
熱いものがこみ上げてくるのを感じてアヤナの中から抜こうとするが、
「ちょっ…アヤナ!」
アヤナが足を絡めて離さない。
「やばいって!」
焦るマサヒコと対照に、アヤナは、笑った。
ぞくぞくするほど妖艶な、女の笑み。
限界だった。
だったら!との思いでマサヒコはアヤナの最奥をえぐり、そこに熱いものを注ぎ込む。


「っ!!?」
声にならぬ声をあげてアヤナの身体がびくんっと跳ねる。
欲望を吐き出し終わってもマサヒコのものはまったく萎える様子を見せない。



その夜、マサヒコとアヤナは気を失うまで交わりつづけた。
何度も、何度も。



目を開けたら至近距離にマサヒコの寝顔があって、アヤナは驚き思わず声を上げる。
「え!? ちょっ、なに!? なんで!?」
一瞬うろたえたが、すぐに昨夜のことがフラッシュバックのようによみがえり、顔を赤くする。
ぺちぺちと頬を叩いて火照りを冷まそうとする。
……無理です。
マサヒコの顔が至近距離にある以上、火照りを冷ますなんて無理。
”あばたもえくぼ”とはよく言ったもので。
ちょっと涎の垂れているマサヒコの寝顔を見ても……カッコいいとか思ってしまいました。
「ふふっ」
ニコニコしながらマサヒコの寝顔を眺めていると、
「ん……」
気配を察したか、マサヒコが目を開ける。
「あれ? 若田部?」
瞬間、アヤナの眉がつりあがり、マサヒコの頬を抓る。
「アヤナでしょ!? ア・ヤ・ナ!」
御立腹の様子のアヤナにマサヒコも色々と思い出し、顔を赤らめる。
「あ、ああ……えと、アヤナ」
「ちょっ…赤くならないでよ。私まで恥ずかしいじゃない」
昨夜のことを思い出し、二人そろって顔を真っ赤にしてしまう。
「え〜っと、なんだ。おはよう……にはまだ早いな」
「そうね」
ベッドサイドの時計の短針はまだ4と5の間だ。
「……とりあえずもう一眠りするか?」
「そうね」
二人でベッドにもぐりこんでのピロートーク。
「なんか、釈然としないわ」
「なにがだ?」
「だって、元々マサヒコとこーいう関係になるようにってここに泊まらされたわけでしょ?
それで目論見通りにこーいう関係になっちゃったんだもの」
「若――アヤナは俺としたこと、後悔してるのか?」
「違うわよ! ただ」
「じゃあいいんじゃないか?」
「でも……父に何か言われたらどうしよう?」
「『おかげさまで』って言ってやればいいさ」
「ふむ……なかなかいいわね、それ。マサヒコは両親になんて言うの?」
「俺は『予約してきた』とでも言うさ」
「あら、私なにに予約されちゃったの?」
「……想像に任せるさ……ふぁ〜……わるい、も…寝るな」
「マサヒコ?」
返事がない。
眠ったようだ。
アヤナもマサヒコの身体にしがみつくようにして目を閉じる。
やがて聞こえる寝息が二つ。


END

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