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518氏 |
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ここに記そう。
二の月の第14番目の日に起こったあの出来事を。
後に。
血のバレンタインと呼ばれる出来事を。
………別に教室に核弾頭が打ち込まれたわけではないと言っておこう。
…………ホラー映画でもない。
2月14日。
男も女も落ち着きを無くす日。
どいつもこいつも製菓会社の陰謀に躍らされやがって。
お菓子産業はウハウハですな。
株でも買って儲けてやろうか?
「ふぁ〜…あ〜……ねむ」
そんな中マサヒコは普段通りの落ち着いた様子
「おーす、マサヒコ」
「ういーっす」
校門で出会った友人と挨拶。
「しかしなんだ。今日はあれだな、マサヒコ」
「ああ。数学の小テストだろ」
「そうじゃないだろバカ!」
「ん? 他になんかあったっけ? 英語の小テストか?」
「お前…今日はアニバーサリーだぞ! 日本語で言えば記念日だ!」
「記念日?……ああ、そっか。今日はバレンタインか」
ようやくそのことに思い至る。
「どーりで妙な雰囲気だと思ったよ」
周囲を歩く生徒達の妙に浮ついた雰囲気にも納得する。
そんなマサヒコの態度にカチンと来たのか、絡んでくる。
「おーおー。余裕だねぇ、ちみわ」
「余裕なんかないって。俺の成績だと英稜だってギリなんだから」
「誰が高校受験の話をしとるか! 今はバレンタインの話題だろーが!
そーゆーセリフをほざけるのが余裕の表れなんだよ!」
「いて! いててっ!」
ヘッドロックをかけられ、ぐりぐりと頭頂部を責められる。
「まったくよー! いいよな〜チョコ貰えるのが確定してるやつは」
「はぁ? 何の事だよ?」
「まだとぼけるかこのやろ!」
「だから痛えって!」
「若田部だろ? 的山だろ? んでとどめに天野! 三つ確定じゃねーか!!」
「んなことないって。俺チョコレート苦手だって知ってるだろ?」
「アレルギーとかで食べられないわけじゃないんだろ!? 貰ったら食べるんだろ!?」
「そりゃ……まあ」
「ちっくしょー! いっそ今この場でなにも食べられなくしてくれようか!!」
ヘッドロックがネックロックに変わり、さすがにマサヒコも本気で抵抗。
「や…めろっての!」
肘鉄砲を腹部へ。
ぐふぅ…とうめいて友人はその場にうずくまる。
やれやれとため息をつきながら靴を履き替え――
「ん? なんだこれ?」
ようとした所で下駄箱の中に異物発見。
核弾頭か?
「んなもん! 今日この日に下駄箱にある物なんざチョコに決まってるじゃねーか!」
「下駄箱に食べ物ってのは衛生的にどうなんだ?」
「いや、そんなこと真顔で言われても……」
マサヒコの発言には友人も毒気を抜かれてしまう。
「まあいいや。教室行こうぜ」
「ああ」
「はよーす」
「おいーす。おう聞け野郎ども。マサヒコが早速戦利品を得たぞ」
「「んだとゴルァ!」」
教室に行ったら行ったで騒がしい。
「まだ天野も的山も若田部だって来てないのにか!?」
「ちくしょー! 何で小久保だけ! 顔か!? 顔なのか!?」
「憎しみで……憎しみで人が殺せたら!」
「誰か駅の伝言板にピンクのチョークでXYZって書きこんでこい!」
シティハンターを雇う気か!?
「ちくしょ〜………うらやましい」
ポロリと本音が漏れる。
マサヒコはどう反応したものかと戸惑いながら、とりあえず、
「別に義理チョコなんだからそううらやましがらなくても」
思ったままを言ったらクラスがしーんとしてしまった。
「あれ? 俺なんか変なこと言った?」
「いや……別に…」
友人は顔をそらす。
「(ひそひそ)ありゃなんだ? 素で言ってるのか?」
「(ひそひそ)そうなんだろうなぁ。マサヒコだし」
「(ひそひそ)だからモテるんだろうけど……ミサキちゃん大変だわこりゃ」
「(ひそひそ)キング・オブ・鈍感……鈍王(ドンキング)だもんね」
「……何ヒソヒソ話してるんだよ」
一人だけのけ者にされ、さすがにむっとする。
「何でもない何でもない。小さいこと気にすんなって色男」
「なんだよそれ……」
さらにむっとする。
「まあまあ。マサヒコ、そんなにイライラするな」
するとさすがに悪いと思ったのか数人がマサヒコの機嫌をとる。
「所でお前今日日直だろ? 日誌取りに行かなくていいのか?」
「うわっと! そうだったそうだった。忘れてたよ。悪い、カバン置いといてくれ」
カバンを友人に押し付けて慌てた様子で職員室へ。
「しかしなんだな……」
彼はマサヒコのカバンを机に置きつつ、引出しを探る。
「はい、さらに三つ追加〜っと……マサヒコの奴なんでモテるんだろうな?」
「ガツガツしてないからじゃない? なんて言うか…小久保君って他の男子みたいに脂ぎってないもん」
「なるほど」
女子生徒の言葉に年相応に脂ぎってる野郎どもはちょっと納得。
「それに小久保君って保健委員でしょ?」
「そうだけど、それがモテるのとなんか関係あるのか?」
「保健委員ってさ、放課後の当番があるでしょ。
その時に手当てしてもらった女子生徒って結構いるのよ。部活で怪我したりして。
年下の子とか結構それで参っちゃうみたい」
「やけに詳しいな」
「うちの後輩にもいるのよ。小久保君のファンが」
そう言って彼女は肩を竦める。
「怪我して弱ってるときに優しくされるとやっぱりくらっと、ね。
まあ小久保君も下心があっての事じゃないと思うんだけど」
「普通にいい奴なんだよなぁ、マサヒコって」
彼の言葉にうんうんと皆頷く。
クラスメイトからもそれなりに好かれてるんです、マサヒコって。
ただ一点。
彼に問題があるとするならば。
「いい奴だけど……究極的に鈍いんだよな」
「そうなのよねぇ。全然気づいてないもんね、向けられる好意に」
「あの二人…いや、三人か?」
「うん」
なんて事を話していると、
「みんなおっはよ〜♪」
陽気な大声での挨拶に全員が振り返る。
リンコと、そしてアヤナとミサキ。
「おはよリンちゃん。今日は三人いっしょだったんだ」
「うん。校門でいっしょになったんだ」
いつも通りニコニコと笑顔のリンコ。
一方。
ミサキとアヤナは少し落ち着きがない。
「ところで小久保君は? まだ来てないのかな?」
リンコの無邪気な言葉にミサキとアヤナはピクッと傍目にもわかるほど反応した。
「小久保君? もう来てるけど、どうして?」
「今日バレンタインだからチョコ渡そうと思って」
リンコの無邪気な言葉にミサキとアヤナはピクッと傍目にもわかるほど反応した。
「あ、リンちゃんも渡すんだ」
「『も』って事は他にも誰かあげた人いるんだ」
リンコの無邪気な言葉にミサキとアヤナはピクッと傍目にもわかるほど反応した。
「うん。ほら、小久保君の机の上」
「わ! ほんとだ! 三つも貰ったんだ」
「カバンの中にもまだ入ってるぜ。下駄箱に入ってたやつがな」
「へ〜……小久保君モテるんだぁ」
リンコの無邪気な言葉にミサキとアヤナはピクッと傍目にもわかるほど反応した。
…………さすがにそんな二人の様子がちょっと怖くなってきた。
ので。
「ま、まあ、多分義理だと思うけどね」
一応フォローっぽい事をしてみた。
「ふ〜ん…そうなんだ」
「リンちゃんはどんなチョコ渡すの?」
「手作りのだよ。ミサキちゃんとアヤナちゃんといっしょに作ったんだ」
「ほほう。でも、義理なのにわざわざ手作りなんて手間かけたな、的山」
「そうね。受験勉強もあるのに」
そんなもっともな意見にリンコはにっこり笑う。
「だって小久保君と仲良しだもん」
リンコの無邪気な言葉にミサキとアヤナはピククッと傍目にもわかるほど反応した。
「そっか、仲良しか」
「うん」
満面の笑みで頷き、ミサキとアヤナを見る。
「だから義理チョコいっしょに作ったんだもんね」
「「義理じゃないよ(わよ)!!」」
ミサキとアヤナ、同時に叫ぶ。
瞬間、教室が静まり返り。
言ってしまった言葉にミサキとアヤナは口を押さえ。
リンコが、首をかしげて一言。
「え? じゃあ本命?」
その瞬間。
「「うおおおおお!!!」」
教室は割れんばかりの歓声に包まれた。
「告白! 告白ですよ奥さん!」
「聞いた聞いた! 聞いちゃったわよ〜!」
「ちがっ! 今のは違うの!」
「無駄無駄、否定したって無駄よ! ちゃーんと聞いちゃったんだもん。ね?」
「ああ聞いたさ! 「義理じゃないわよ」って! 聞いてしまったさ!」
「ちっくしょぉぉ! なぜマサヒコだけおいしい思いを!?」
「違うの! そうじゃないの!」
「ゴルゴ13にコンタクトだ! 狙撃を依頼しろ!」
「狩りだ! マサヒコ狩りだ! 皆の者武器を持てぃ!」
「やめなさい男子! ここは温かく見守ってあげるのが男の度量ってもんでしょ!?」
「そうよ。小久保君がどっちを選ぶか賭け――見守ってあげましょうよ」
「若田部さんファイト! 幼馴染属性に勝るとも劣らないツンデレ属性で勝負よ!」
「ミサキちゃん! 幼馴染から恋人へのクラスチェンジはワールドスタンダードだから!
大丈夫! スタイルや料理スキルで負けても大丈夫!」
「「だから違うのー!!」」
「「違わない!!」」
と、まあそんなわけで。
天野ミサキ、若田部アヤナにとって。
とっても恥ずかしい思いをした一日になったそうです。
冒頭、一部表記に誤りがあったことをお詫びと共に訂正させていただきます。
誤、血のバレンタイン → 正、恥のバレンタイン
余談。
「ん? どうした小久保? 職員室になにか用か?」
「今日日直だったんで日誌取りに来たんですけど」
「何で教室戻らないんだ?」
「シックスセンスが行っちゃダメだって言ってるんで」
「……は?」