作品名 | 作者名 | カップリング |
「後夜祭」 | 518氏 | - |
深夜の若田部家のリビングは、まさに惨状だった。 アイは床に大の字に。 リョーコは酒瓶(アヤナ兄所蔵の高級ワイン)を抱えるようにして。 ミサキはソファーにうつ伏せになって。 アヤナはローテーブルに突っ伏して。 リンコは壁にもたれて。 以上、アルコール摂取(望むと望まざると)によるダウン者一覧。 あ、お酒は二十歳になってから♪僕と君との約束だ! ただ一人健在のマサヒコ。 あたりを見回してため息。 「まるで嵐の過ぎ去った後だな」 それはあながち間違っていない。 この1週間はホントに嵐の様だったのだ。 1週間前からマサヒコはアヤナの彼氏になっていた。 正確には彼氏のフリをしていたのだ。 アヤナの兄が大学の後輩をアヤナに紹介しようとした為の対抗措置として。 アヤナもこっそりマサヒコにその旨を言えばよかったものなのだが。 彼女も混乱していたのだろう。 よりによって教室で「彼氏になって」と言ったものだからさあ大変。 あっという間にクラスのみならず学年中をこのビックニュースがかけまわる。 その後アヤナからの事の説明を受け納得したクラスメート達は、 アヤナへの全面協力をクラス会で可決。 「小久保君と若田部さんを何処に出しても恥ずかしくない恋人関係に仕立て上げて見せるわ!」 てな感じでもう大変。 そんなことがあった割に兄がなんにも覚えていないという大どんでん返し! まあ、とりあえずめでたしめでたし……みたいな。 その後1週間の労をねぎらう意味での宴会と相成ったわけだ。 そして冒頭へ至る……。 説明長くなってすまんね。 改めてこの1週間を思い出していたマサヒコは、頬が緩んでいる事に気づいた。 確かに嵐のような1週間だった。 色々と大変な1週間だった。 けれど……けして不快ではなかった。 なんと言えばいいか……祭りの準備のような楽しさがあった。 だとしたら今は祭りの後、ということだろうか? 「だとしたら、納得いくかもな」 そう言って服の胸の辺りを掴む。 ぽっかり胸に穴が開いたような感覚。 そうだ。 これは祭りの後の寂寥感だ。 思わずしんみりしそうになったとき、 「んぅ~……」 アイが寝返りをうちながら寝言を。 「もう食べられない――」 「なんてベタな……」 「なんて言わせないわよ~」 「!!?」 ちょっとビックリ。 ……ネタを使いまわした事への驚きではない、一応。 「まったく先生は……」 笑いがこみ上げてきた。 先ほどまでの寂寥はもうない。 「そうだよな。祭りの後だなんて、なに考えてたんだか俺は。 毎日が祭りみたいなもんじゃないか」 そうだ。 いつかは終わるお祭り騒ぎな毎日だが、まだ続く。 もうしばらくは続くのだ。 このお祭りのような騒動の毎日は。 「まったく…気が重いな」 セリフとは裏腹に顔は笑顔。 ウソはつけない物だ。 誰が聞いてるわけでもないから嘘をつく必要もないのだが。 まあその辺りは自分に対して、といった所か。 「さて、と。このままってのもあれだし、片づけとくか」 テーブルの上の食器をまとめて流しへと運ぶ。 「ん?これって食器洗い乾燥機?ってことはここに入れればいいんだな。 しかしこんな物があるなんて、やっぱ若田部んちはブルジョアだな」 言いながら食器を次々入れていく。 「よし。さて……えっと……どうすれば動くんだ?」 「下のスイッチ押すのよ」 突然の声にギョッとして振り向く。 アルコールのせいか少し赤い顔をしたアヤナが壁にもたれるようにして立っていた。 「脅かすなよ」 「脅かすつもりなんて無いわよ。それとも」 すっと目を細め、マサヒコへ顔を近づける。 「聞かれちゃまずいことでも言ってたのかしら?」 「んな事無いって」 「人の家のことブルジョアだなんだって言ってたじゃない」 アヤナの言葉にマサヒコは苦笑する。 「聞いてたのかよ」 「ええ。ま、別に悪口ってわけじゃないから聞き流すけどね」 「ん、さんきゅ」 「恋人の言ったことだものね。多少の悪口も聞き流してあげるわよ」 マサヒコ、再び苦笑。 「それは今日までの約束だろ?」 「ええ。だからまだ恋人同士なんでしょ?」 アヤナの言葉通り。 今日が昨日になるにはまだあと30分ほどある。 つまり。 後30分はマサヒコとアヤナは恋人同士。 アヤナの手がマサヒコの手を掴む。 「小久保君」 「な、なんだ?」 「ゴメンナサイ」 改めて謝られてマサヒコはきょとんとする。 「私の身勝手な理由で振りまわしちゃって、ゴメンナサイ。 いっぱい迷惑かけちゃって、ゴメンナサイ」 「もういいって」 「小久保君がよくても私がよくないの。このお礼は、なんでもするから」 「若田部」 はあとため息をつき、マサヒコはアヤナの肩に手を置く。 その際ビクリとアヤナが震えたが、その事は気にしない。 「言ったろ? みんな楽しんでたんだから。誰も迷惑だなんて思ってないよ」 「……入ってるの」 「え?」 「その「みんな」の中に小久保君は入ってるの?」 マサヒコは「みんな楽しんでいた」と言う。 じゃあマサヒコは? 実質騒動の中心であったマサヒコはこの1週間どんな思いでいた? 迷惑だと思っていながら、グッと堪えていたのではないか? それこそがアヤナが気にかけていたこと。 「小久保君は……辛くなかった? 小久保君も楽しかった?」 不安げな面持ちでマサヒコを見つめるアヤナ。 マサヒコの答えは決まっていた。 「まあな。結構楽しかったぞ」 「本当?」 「ウソ言ってもしょうがないだろ? まあすこ~し恥ずかしかったけどな」 「そう……」 アヤナは、マサヒコの胸に頭を預ける。 そんな突然の行動にうろたえるマサヒコ。 「お、おい若田部」 「楽しかったんだ」 「?? だからそうだって」 「私と恋人のフリするのが、楽しかったんだ」 「……」 なんだか、妙な方向に話が進んでいる気がした。 マサヒコのシックスセンスが訴える。 ヤバイヨヤバイヨと某永遠の若手芸人並に連呼する。 「私も、楽しかったわよ」 「…ふ~ん」 「私も楽しかったし、小久保君も楽しかったのよね」 「そ、そうだな」 「ねえ。それならさ、フリじゃなくって……本当の、恋人になってみない?」 「!!?」 衝撃の告白。 そして気づく。 「若田部……お前酔ってるだろ?」 「ええ。酔ってるわよ」 あっさり肯定された。 「このシチュエーションにね」 しかもマサヒコの意図とは別の意味で。 厄介だ。 「ねえ……小久保君。私じゃだめ?」 「待て。落ちつけ若田部」 にじり寄るアヤナを肩を掴んで遠ざけようとしていると。 がたんと、音がした。 二人そろって音の出所を見て、 「天野さん?」 「ミサキ!?」 幽鬼の様にたたずむミサキの姿に二人同時に声をあげた。 ミサキの真っ赤な顔は怒りのためか? それとも酒が残っているのか? 頭部の角は闘気が凝縮したのか? 或いは指揮官の証か? マサヒコは咄嗟に逃げようとした。 しかし。 「逃がさない」 「うおっ!」 通常の三倍の速度で肉薄され、逃げ場を失う。 やはり赤くて角があると速い! 「マサちゃん!!」 「ぐっ!」 そのまま胸に向かって強烈な体当たりをされる。 (3番と4番を持ってかれた!?) そこまで強力ではない。 さすがに肋骨は折れてない。 「マサちゃん……あなたを殺して私も死ぬ!」 「なぜだ!?」 「二人はあの世で幸せに暮らすのよー!!」 彼女もまだまだ酒が残っているようだ。 厄介だ厄介だ。 「落ちつけ! とにかく落ちつけミサキ!」 「そうよ天野さん! 小久保君はわたしと一緒に死ぬのよ!!」 「お前もか!!」 二人にくびを絞められ辟易するマサヒコ。 「マサちゃんは私のものだもん! いっしょにお風呂入ったこともあるもん!」 「いつの話だよ。つーか俺は物扱いか?」 「私だって一緒の布団で寝たことあるわよ!」 「あれはお前が的山の布団と間違えたんだろ」 「結婚の約束だってしたもん!」 「したっけか?」 「私なんて押し倒されたのよ」 「あれは足が滑っただけだし」 さて。 くびを絞められているわりに余裕なマサヒコ。 それもそのはず。 ミサキとアヤナが「殺す~」と言って絞めているのは。 くびはくびでも手首。 ああ、酔っ払い。 いくら絞められたって死にません。死ねません。 ちょっと痛いけど。 「マサちゃん! マサちゃんは誰と死にたいの!?」 「とーぜん私よね? 小久保君!」 「んなこといわれても……」 困り果てて、マサヒコは天を仰いだ。 「死ぬときくらいは静かに一人で死にたい」 こんな大騒ぎな毎日がまだまだ続くと思うとまったくもって気が重い。 マサヒコは大きなため息をつくのだった。 END
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