作品名 | 作者名 | カップリング |
No Title | 518氏 | - |
「今年はクリスマスパーティーは行いません」 リョーコがそう宣言したのは小久保家で勉強している最中だった。 メンバーはいつもの家庭教師+教え子のダブルコンビにミサキとアヤナを加えた計6人。 「え~!そんなぁ!」 リョーコの言葉にリンコが不満の声をあげる。 「みんなで一緒にパーティーしましょうよ~」 「バカ言わない。あんたら受験生なのよ?そんな余裕あると思うの?」 「でも先輩、ちょっとぐらいなら」 「甘いわよアイ。もう受験まで時間もないんだから。 パーティーなんてしてる暇があるなら英単語の一つも覚えるべきよ!」 「う……」 ビシッと正論を言われてアイも返す言葉が無い。 「そーいう訳で、今年はパーティーは無しよ」 「そうですか……ちょっと残念です」 そう言ったのは昨年押しかけ同然で自宅をパーティー会場にされたアヤナだ。 「今年もすると思ってたからそれなりに準備もしてたんですけれど」 「それは……悪い事をしたわね」 「あ、いえ。おねえ様は私達の事を考えてくれているんですから。 謝ったりしないでください」 慌てた様子でパタパタと手を振る。 「そんなたいした準備じゃないんですから。ホントに気になさらないでください」 「そう?」 「シャンパンも栓を開けたわけじゃないですし」 「……シャンパン?」 きらりとリョーコの目が光る。 マサヒコはその目に何処かで見覚えがある気がしたが……思い出せない。 「ええ。父が用意してくれたんです。たしか……ドンなんとかってやつを」 「……パーティーしましょう!」 「は?」 「わざわざアヤナが準備してくれたんだもの。しないわけにはいかないじゃない」 「おねえ様……私のために」 いたく感激するアヤナ。 「でも先輩。さっきはそんな余裕無いって」 「ゆとりは大事よ。張り詰めた糸はちょっとのショックで切れちゃうし。 厳しいだけじゃだめ。たまには手綱を緩める事も大切なのよ」 「そ、そうですか?」 「だからパーティーよ。アヤナんちで今年もやるわよ!」 「わーい!パーティーパ-ティー!」 喜ぶリンコの横でミサキとマサヒコはひそひそと話す。 「ねえマサ君。中村先生シャンパンの名前聞いてから急に意見変えたけど」 「ああ」 マサヒコは頷く。 「酒の誘惑に負けたな」 おそらくアヤナが言いたかったのはドンペリニョン。 通称ドンペリ。 マサヒコでも知ってる高級シャンパンだ。 同時に。 マサヒコは思い出していた。 先ほどのリョーコの目。 アレは昨日テレビで見た目。 肉食獣が得物をロックオンした時の目と同じだった。 そして迎えたクリスマス。 …………正確にはクリスマスイブ。 「「かんぱーい!」」 若田部家に集まった面々は飲み物の入ったグラスを打ち合わせる。 グラスの中身はリョーコが若田部父が用意したドンペリ。 それ意外の者はオレンジジュースだ。 「しかし、去年に比べて今年は豪華だな」 アイの持ってきた某ケンタッキーのパーティーバーレルが貧相に見えるほどの充実っぷり。 飲み物もジュースはオレンジ、アップルのみならずマスカットやミックスジュースも。 酒もドンペリだけでなく清酒、ワイン、ウォッカやウイスキーもある。 食べ物もどこの店のコース料理だって思わせる充実っぷり。 アイは至福の笑顔でターキー(七面鳥)を頬張ってるし、 中村はホクホク顔で滅多に飲めない高級酒を楽しんでいる。 それにしても本当に豪勢。 マサヒコは思う。 「ひょっとして若田部もパーティーが楽しみだったのか?」 「あら、御挨拶ね」 小さな声で言ったつもりなのに聞きとがめられてちょっとビックリ。 「まあ、楽しみじゃなかった…と言えばウソになるけれどね」 「そうか……まあその辺りはおあいこだな」 マサヒコだって楽しみじゃなかったと言えばウソになる。 こうやってみんなでわいわいやるのはそんなに嫌いじゃない。 「おらマサ!な~にアヤナと二人で乳繰り合ってるのよ」 …………ちょっと疲れるけど。 「ほれマサ、あんたも飲みなさい」 「これ…お酒じゃあ」 「あんだ~?あたしの出したモノが飲めないってのかぁ!? それとも愛液か母乳がいいのかしらぁ?」 「いただきます」 訂正。 かなり疲れる。 マサヒコは差し出されたコップの中身を一気に流し込む。 「おっ!いい飲みっぷりねぇ」 「……にが」 「それがお酒ってもんよぉ。ほれ。もーいっぱい」 「はぁ…」 リョーコに勧められるまま杯を重ねるマサヒコ。 「あっ!ちょっと先輩!だめですよマサヒコ君に飲ませちゃ!」 「あ~?」 咎められ、めんどくさそうにする。 「もう!しかもこれウォッカじゃないですか!大丈夫マサヒコ君!?」 アイは心配そうにマサヒコの顔を覗きこむが、彼はいたって平然としている。 「え?何がですか?」 「何がって…結構飲まされてたみたいだけど……大丈夫みたいだね」 顔色も赤くなっていないし、意識もはっきりしているようだ。 「マサヒコ君……お酒強かったんだね」 「はあ……そうなんですか?」 「これウォッカだよ。しかもストレート。かなり飲んでたよね」 「まあ…4、5杯は飲みましたね」 「私だったらとっくにバタンキューだよ」 驚きの眼差しでマサヒコをみる。 飲みなれた大人でもキツイ量だろうに。 「だからもう飲まない方がいいよ」 「そうですね。これ飲んだら終わりにしますよ」 コップには1/4ほど残っているが、まあ今までの量からすれば微々たる量。 特に問題ないだろう。 そう考えアイは食事に戻ろうとして。 「あ!先輩!だから飲ませちゃだめですって!リンちゃんだめよ飲んじゃ!」 再びリョーコを制止することになった。 話は変わるが。 以前リョーコは言った。 張り詰めた糸はちょっとのショックで切れる、と。 マサヒコはまさにそれだった。 意識の糸が切れる寸前だったのだ。 コップに残った液体を全部飲み干した所で、マサヒコの手からコップが落ちる。 毛足の長い絨毯のせいで音はそれほど響かなかったし、コップも割れなかった。 「もう。なにやってるの小久保君」 しかし、傍にいたアヤナにはその音は十分聞こえた。 「おねえ様に大分飲まされてたみたいだけど大丈夫?酔ったんじゃ――」 拾ったコップを渡そうとしてマサヒコと顔を合わせた瞬間、固まる。 マサヒコは笑顔だった。 それも今まで見た事のないような。 良い意味でも、悪い意味でも、だ。 「こ、こく…こくぼ、くん?」 「ん?どうかしたの?」 「マサ君?若田部さん?」 異変に気付いた他の面々の視線が集まる中。 笑みを浮かべたまま、マサヒコの手はアヤナの頬を挟む様に捉え、そして―― 「!!!??」 おもむろに引き寄せて熱烈な口付けをお見舞いする。 当然の様にアヤナは抵抗する。 はじめは胸を叩いて押し返そうとする。 効果なし。 次いで肩に手をかけ引き剥がそうとする。 男女の力の差を痛感。 最終的にアヤナの手はマサヒコの背に回り………ぎゅっと抱きついた。 なにかを吹っ切ったらしい。 或いは赤い実がはじけたか。 しばらくそのままマサヒコとアヤナの濃厚なキスシーンは続き、唐突に終幕を迎える。 アヤナの手から力が抜け、だらりと垂れ下がる。 衝撃が臨界に達し脳がメルトダウンした模様。 それに気付いたマサヒコはアヤナを解放し、床に横たえる。 アヤナの顔はこれ以上になく真っ赤。 そんなアヤナの頬をマサヒコの手がそっと撫で、彼は立ち上がり。 観衆に向けてにこりと微笑んだ。 その笑顔に、一同はぞくりとした。 危険な笑みだと思った。 綺麗な薔薇にはトゲがあるというが、まさにそんな笑顔。 人の良さそうな笑顔の裏にはなにがある? おそろしや。 あな、おそろしや。 そんな恐ろしさに無縁な人物が一人。 「アヤナちゃん大丈夫?」 無頓着に、無防備に。 アヤナの身を素直に心配したリンコがマサヒコの横を通り過ぎようとしたとき。 マサヒコの手が、リンコの腕へ、伸びた。 「小久保君?」 きょとんとした表情でマサヒコを見る。 少し身長差のあるリンコの顎をくいっと持ち上げ、なぜかメガネを外す。 「わ!小久保君メガネ取っちゃうとなにも見えないよぉ」 抗議の声もなんのその。 チュッとリンコに口付け。 メガネは邪魔だったらしい。 アヤナの時のようにディープに長くするわけじゃなく。 ちゅっちゅと離れてはまた触れ、触れては離れるを繰り返す。 愛情よりも好意を表すかのようなキスの雨あられ。 「はふぅ~……」 ぺたんと、リンコは座りこむ。 そして真っ赤になったほっぺたをペチペチ叩きながらいやんいやんと言いたげに身体をくねらせている。 どうやら初めてのキスにテンションがおかしくなっている様だ。 マサヒコはポンポンとリンコの頭を撫で、視線を動かす。 「ゑ!?わ、わたし!?」 視線の先にいたのはアイ。 はわわ!と慌てるアイにマサヒコは笑顔で一歩ずつ近づいて行ったのだが、 「お待ち。私が相手よマサ」 「先輩!」 リョーコが立ちふさがる。 「カモーン!マサ!」 猪木張りに「こいやぁ!」と手招きするリョーコ。 招かれるまま、マサヒコはリョーコの間合いに足を進める。 「捉えた!」 リョーコの手がマサヒコの後頭部に回され、逃がさんと言わんばかりにロック。 マサヒコの手はリョーコの背に。 準備は整った。 「勝負!」 果たしてキスは勝負なのだろうか? そんな疑問を挟む余地もなく、リョーコはマサヒコにぶちゅっと行く。 あわさった唇から舌を挿し入れ、マサヒコの舌を絡め取る。 マサヒコだって負けずとやり返す。 互いの口を犯すかのように両者舌を動かし、絡めあい、吸いあう。 角度を変え、より深く貪る。 洋画のキスシーンを何倍にも濃密にしたような光景にアイもミサキも顔が赤くなる。 しかも長い。 しかし、終わりはいつかやってくる。 アイも、もちろんミサキも。 リョーコの勝利でマサヒコの唐突な強制猥褻行為はストップすると思っていた。 思っていたのに。 「……アイ」 「はい?」 「後は任せたわよ」 「せ、先輩!?」 なんと中村敗北。 サッカーブラジル代表が日本代表に敗れたかのような大番狂わせ。 中村はガクリとマサヒコに持たれかかる。 「せ、先輩を一撃で!マサヒコ君の口撃は戦艦並の威力があるっていうの!?」 「落ちついて大佐!」 二人共落ちつけ。 ガンダムじゃねーんだから。 とはいえ。 普段落ちつきのあるアイやミサキを慌てさせるほどの状況なのだ。 中村をソファに寝かせたマサヒコはメガネを外し、リンコから奪った物と一緒に机の上に置く。 メガネをかけたままの睡眠はメガネにも装着者にもよろしくないとの配慮からだろう。 こんな所だけは普段通りの優しいマサヒコなのに。 マサヒコは笑顔でアイへと近づく。 「あ、あう……あうあうあうあう」 へたり込んで後退っていたらミサキにぶつかった。 「だ、だめよマサヒコ君!ミサキちゃんには…ミサキちゃんには! ミサキちゃんにはこんなわけわかんない状況でキスしちゃだめ!」 ミサキが彼に対して好意を持っているからこそ。 出来るなら両者合意の上でさせてあげたいというのがアイの親(?)心。 「生徒の暴走を止めるのが(家庭)教師の勤め!さあ来なさいマサヒコ君!」 ミサキの前で仁王立ち。 ちょっとこの状況に酔っている節もあるが…まあいいだろう。 ミサキのためにと言うのは間違いなく事実なんだから。 そんなアイの心を知ってか知らずか。 マサヒコの手がアイの肩にかかる。 覚悟を決めたとはいえ、アイとてファーストキスなのだ。 緊張する。 子犬の如くふるふる震え、ギュッと目を瞑る。 「あ……」 柔らかな感触は唇でなく、おでこに。 予想外の場所だったので驚いて目を開けると、目の前には優しい笑みを浮かべたマサヒコ。 彼はアイの緊張を解くかのようにそっと頭を撫でる。 頬にキス。 瞼に。 またおでこに。 震えが止まった頃にようやく唇へ。 何度も何度も。 そして結局、 「……はふん」 アイも陥落した。 残るはミサキただ一人。 マサヒコはミサキに近寄り、手を取ってその甲にうやうやしく口付け。 ミサキの背をゾクゾクと快感が走る。 手の甲でこれだけの快感。 もし唇にされたらどうなってしまうのかと思うとドキドキが止まらない。 ロマンティックも止まらない。 マサヒコの手がミサキの肩に。 「マサちゃん……」 ミサキもマサヒコを受け入れる為に目を閉じ、唇を突き出す。 しかし……いつまで待っても来るべき感触が来ない。 おや?と思って目を開けた瞬間、覆い被さる様にマサヒコが倒れこんできた。 「わわわっ!」 堪えきれずミサキは尻餅をつく。 「マ、マサちゃん!あの、それは流石にちょっと……もう少しムードがほしいかなーって。 !!?違う違う!こーいうことはまだ早いかなって。もう少し時間をかけて………マサちゃん?」 「Zzzz……」 「……寝てる」 ちょっと安心。 そして、 「……そんなぁ」 すっごい不満。 とはいえ穏やかな寝顔で静かな寝息を立てているマサヒコを見ていると、 不満もどこかへ行ってしまう。 「ふふふっ」 笑顔がこぼれた。 マサヒコの下から抜け出し、改めてマサヒコの頭を膝の上へ乗せる。 ふと、唇に視線が行く。 今日一日で4人の女性を陥落させた罪作りな唇だ。 ミサキはキョロキョロと辺りを見まわす。 アヤナはまだメルトダウンしているし、リンコも違う世界にいったまま。 リョーコとアイも意識はない。 好機! 「これはキス魔になっちゃったお仕置き」 マサヒコと唇を合わせる。 「これはみんなを誘惑したお仕置き」 また、口付け。 「……これは、私の気持ち」 そして、キス。 「えへへ」 嬉しそうにはにかむ。 恥ずかしくてマサヒコを見ていられなくて視線をさ迷わせていると、 「あ、雪だ」 白い物が窓の外を落ちていく。 「ホワイトクリスマスだね、マサちゃん」 膝の上のマサヒコに話しかける。 そして、 「メリークリスマス、マサちゃん」 もう一度長いキスをした。 翌日のマサヒコ談。 「いや、なんか中村先生に御酒飲まされたところから何にも覚えてないんですよ。 気付いたら朝でした。えっと……あの、皆さん目が怖いんですけど。俺、なにかしましたか?」 その後、マサヒコがどうなったかはどの歴史書にも記されてない。 記されてたらある意味怖いし。 END
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