作品名 作者名 カップリング
アイ先生とマサヒコ君 バレンタインver. 518氏 -

バレンタイン。
とりあえず「ボビー?」ってボケてみよう。
「おいおい、そりゃ千葉ロッテの監督だろ」と返ってくる事だろう。
或いは「はぁ?なに言ってんだおめぇ?」と怪訝そうな目で見られる事だろう。

さてバレンタイン。
クリスマスに比肩するイベントだそうで。
まさかこんなところで主なるジーザス・クライストと同格に扱われることになるとは。
しかもキリスト教徒でもない東洋の弧状列島の住人に。
まさにバレンタインもビックリ。

さてさてバレンタイン。
お相手がいる御仁らにとっては楽しいこったろう。
一人身、ソロ、ピンの人々にとってはまさに厄日。
「恐怖の大王でも降ってこねーかなぁ」などと荒んだ心をしている人もいる事だろう。

と、いう訳でバレンタイン。
つい先日マサヒコとお付き合いなどというものをはじめたアイはどうするのかというと……



「ひょぇぇぇぇえ!!」
アイの自宅マンションにアイの悲鳴が響き渡る。
「るっさいわね。何事よ?」
居合わせた中村がうっとおしげに訪ねると。
アイはへにゃっと、泣きそうな表情で中村を見る。
「チョ、チョコが…」
「チョコ?」
「マサヒコ君に上げるつもりだったチョコが…」

アイの手の上には丁寧にラッピングされたB5サイズの箱。
その所々に茶色い物が染みている。
「…溶けたの?」
「開けてませんから分かりませんけど…多分……」
「なんで冷蔵庫に入れとかなかったの?」
「だって…昨日近所のスーパーが特売日だったから…」
「食糧で一杯だったってわけ?あんたねえ…」
呆れた様子の中村。
「どーしよう…これから家庭教師行かなきゃいけないのに」
「買いに行ってる時間はないわね」
「う〜…」
悲しげに目を潤ませるアイ。
その様子にやれやれと、中村はため息をつく。
「しょーがないわね」
そう言ってカバンから文庫本サイズの箱を出す。
「これ、売ったげるわよ」
「先輩!?い、いいんですか!?」
「自分で食べるつもりだったヤツだから、構わないわよ」
「あ、ありがとうございます!」
ぺこりと頭を下げるアイ。
しかし、
「けど…これすごく高いわよ」
「ええ!?」
「このラッピング見た事ない?」
「う…」
アイにも見覚えがあるそのラッピング。
大学近くのとってもおいしいと有名な高級菓子店の物だ。
かなり値が張る。

「で、どうする?」
「うぅぅぅぅ!!」
アイは……悶えた。


マサヒコにとって2月14日はそれほど重要な日ではなかった。
13日の次の日だし、15日の前日程度の認識……だった。
過去形。
けれど今現在は、いわゆる彼女なるものが居る身としてはちょっと期待もしたりする。
アイは義理堅いからチョコを貰えるのは確実だろうけど。
やっぱり貰えるかどうかちょっと不安でもある。
「こーんにーちはー!」
考えている間に家庭教師兼恋人のアイがやってきた様だ。
トントントンとリズミカルに階段を叩く音。
そして、
「はいマサヒコ君!!」
ノックも無しに戸を開けるやいなや、アイが丁寧にラッピングされた物を差し出してきた。
「…いきなりですね」
「だって、生チョコだから溶けちゃうもん」
「なるほど」
物を受け取ったマサヒコ、早速中身を取り出す。
高級感漂わせる箱から出てきたのは9つの生チョコ。
なかなかにおいしそうだ。
「じゃ、早速いただきますね」
そう言って食べようとしたマサヒコだが…視線を感じる。
見ればアイが物欲しそうな目でチョコを見ていた。
よく見たらよだれも少し垂れているような……。
「…あ〜ん」
「ふぇ!?あ〜ん」
言われるままに口を開けたアイ。

マサヒコはチョコを食べさせて上げる。
「おいし〜♪」
目をキラキラさせて喜ぶアイ。
幸せそうだ。
「あ〜ん」
「あ〜ん♪」
再び口を開けるアイに食べさせてやる。
「あま〜い♪」
幸せそうに頬を押さえるアイ。
あまりにもアイがいい顔をするので。
マサヒコはその顔をもっと見たくなり、
「あ〜ん」
「あ〜ん♪」
…なんて事を。
都合9回ほどやってしまったわけで。
「おいし〜♪……あ〜ん♪」
「もう今ので終わりですよ先生」
「あ…そっか。残念……って!全部私が食べちゃだめじゃない!」
今更ながらに気づくアイ。
「マ、マサヒコ君!」
「はい?」
「えっと…一個ぐらい食べたよね?」
「…いえ」
「あぅぅぅ……」
頭を抱えるアイ。
マサヒコがくれるものだからついつい甘えてしまった自分に反省。
ついでに、
「だめじゃない!食べなきゃ!」
マサヒコにやつあたり。
「せっかく上げたのに…一つも食べてないなんて」

「え〜っと…すいませんでした」
「も〜」
頬を膨らませて怒ってみたものの。
「なんか、先生がすごく食べたそうな顔してたのでつい」
「う…」
身に覚えがあるアイ、怒りがあっという間にしぼむ。
「それにチョコよりいいもの貰いましたし」
「え?誰かに…何か貰ったの?」
悲しそうな顔をするアイ。
「いえ、誰からも貰ってませんよ」
「でも今…」
「ですから、先生から貰ったんですよ」
アイは首を傾げる。
それも当然。
マサヒコにはチョコしかあげていない。
不思議そうなアイにマサヒコは答えを披露する。
「いい笑顔でした」
お前はいったい何処のジゴロか?と思われるセリフ。
言ってからクサさに気づいたか、マサヒコは視線をさまよわせる。
言葉と行動のアンバランスさにアイはクスクスと笑ってしまう。
アイの様子に少々釈然としないものを感じつつも。
なにはともあれ。
アイに笑顔が戻ってよかったよかった、とマサヒコ。
「でも…せっかくのチョコ、ごめんね」
「いえ。お構いなく」
「すっごくおいしかったのに私一人で……あ、そうだ」
なにやら思いついた様子のアイ。
ススススッとマサヒコににじり寄る。
「な、なん――」
疑問より早く。

アイが唇をあわせてくる。
驚くマサヒコに構わず、アイは舌をマサヒコの口内に挿し入れる。
マサヒコもその気になり、アイの舌を絡めとろうとするが、アイはさっさと舌を引っ込める。
今度は逆にアイの口へとマサヒコの舌が入りこむ。
僅かに甘味を感じる。
チョコの甘さだ。
なるほど、と、マサヒコは納得する。
どうやらそーゆうつもりでキスをしてきたらしい。
ならばと言わんばかりにマサヒコはアイの口の中を味わい尽くす。
ちょっと激しく味わいすぎてアイが真っ赤になってしまったのはご愛嬌。
そのまま二人共発情してしまったのもご愛嬌。
いざ本場!の直前にドアの隙間から母親が覗いているのに気づいて取りやめになったのはいと悲し。

ともあれ。
マサヒコにとってなかなかに有意義なバレンタインになったのは間違いない。

あと。
ホワイトデーはどうするべきなのだろうと今から頭を悩ませる事になった事も付け加えておこう。

END

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