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518氏 |
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神は、ひどく残酷だと思う。
なんてことを言うと熱烈な、いわゆる教徒辺りにぶっ飛ばされそうだが。
彼らも事実は事実として受け入れるべきだ。
考えてもらいたい。
神は、我らに与え給うた。
創造の喜びを。
破壊の悦びを。
創造と破壊。
悲しいかな。
創造の喜びよりも、破壊の悦びのほうが。
安易に、簡単に、容易く得られるのだ。
だから…世界は確実に破滅へと向かっていく。
悲しむべきか。
嘆くべきか。
呪うべきか。
だから。
神は、ひどく残酷である。
人は生まれた時から滅亡へと歩まざるを得ないのだから。
残酷なり。
非道なり。
ああ、神よ……。
といった内容は本文とはまったく関係ないと言っておこう。
「この時期のチョコは美味いのよ」
時はバレンタインちょい前。
そういって中村がおやつにチョコを持ってきた。
ちなみにここは小久保家のマサヒコの部屋。
いわゆるいつもの場所だ。
「みんなで食べましょ」
その言葉にリンコは大いに喜んだ。
同席したアヤナ、ミサキ、アイもリンコほど程ではないが喜んだ。
皆甘いものは大好きなのだ。
ただ一人、マサヒコだけはチョコが苦手なわけで、
「あ、じゃあ俺お茶入れてきますね。今日母さんいませんから」
「悪いわね」
一人階下へと降り、飲み物の用意をする。
甘いチョコだから砂糖は要らないだろうか?などと思いながら、5分ほどで紅茶の準備も終了。
二階へと持って上がる。
砂糖は一応持っていった。
「お待たせしました」
そう言って部屋に入ったマサヒコ。
各自の前に紅茶を置いていくのだが…。
「ん?」
違和感。
奇妙な匂い。
「あれ?」
「どしたのマサ?」
「なんか……いや、なんでもないです」
気のせいかと思い座る。
と。
ミサキがピトッとくっついてきた。
アヤナがしなだれかかってきた。
リンコが背中に飛び乗ってきた。
「な、なんだぁ!?」
ギョッとして三人を順繰りに見やる。
赤い顔と潤んだ瞳に締りのない笑顔。
そして…チョコの甘い匂いに混じっての僅かなアルコール臭。
「まさか…中村先生」
「あによ?」
「こいつらに未成年厳禁な飲み物飲ませましたか?」
「失敬な。いくら私でもそんなことしないわよ」
「…ほんとですか?」
疑わしげな目で中村を見るマサヒコ。
そこにアイが中村をフォロー。
「チョコがウイスキーボンボンだったのよ。しかもかなりキツイやつ」
「…なるほど」
「いや〜…まさかここまで効くとは思ってなかったわ」
「確信犯かよ!」
マサヒコのツッコミに、中村は冷静に、
「確信犯ってのはさ、政治的・宗教的あるいは道徳的義務の確信が動機となって行われる犯罪だから。
私無神論者だし、違うわよ」
などと、国語的見解を返してやる。
「じゃあ…こうなる事を狙ってチョコを出しましたね?」
「うん♪」
「かわいく言っても許されませんよ」
口元に手を持っていってぶりっ子ポーズの中村にマサヒコの視線は冷ややか。
中村はそのポーズのまましばらく何かを考えていたのだが、
「や〜ん、マサにかわいいって言われちゃった」
「何を言ってるんだか」
だが、マサヒコはここで勘違いをしていた。
中村の言葉はマサヒコに向けられた物ではなく。
「マサちゃん!」
「ぬ!?」
顔に手をかけられ、強引にミサキの方へと向かされる。
やばげな音が首からしたのは気のせいであって欲しい。
ゴキッなんて鈍い音は聞いてない。
そう暗示を掛けるマサヒコ。
「ど、どうした天野?」
素直な疑問を投げかけると、
「私…かわいい?」
「…は?」
予想外の言葉にマサヒコ、目が点。
「かわいい?って聞いてるのぉ!中村先生には言ったのに私には言ってくれないの?」
ぷんぷんとご立腹の様子のミサキ。
膨れたほっぺたがとってもキュート。
まあそれはそれとして。
酔っ払いには逆らうなとの格言もある。
と、言うわけで。
マサヒコはミサキが望むだろう言葉を言ってやる。
「ああ、かわいいかわいい。かわいいぞ」
「えへへ〜♪」
やや投げやり気味のかわいい発言に御満悦のミサキ。
すりすりとマサヒコに頬擦り。
試練を乗り越えやれやれと息をつくマサヒコだが、次の瞬間。
目に写る人物がミサキからアヤナへとかわる。
なぜ?
簡単だ。
強引にアヤナのほうを向かされたのだ。
メキッなんて鈍い音は聞こえない。
聞こえないったら聞こえない!
自己暗示再び。
「小久保君」
「…はいはい。若田部もかわいいぞ」
そう言ったのだが…どうもアヤナは納得していないようで。
不機嫌そうにマサヒコに流し目を送る。
色っぽい目元がとってもセクシー
「天野さんとおなじ?」
アヤナの言葉になるほどと納得したマサヒコ。
ならばとボキャブラリーを検索。
「ん〜…若田部は美人だな。うん。スタイルもいいし」
「ほんと?」
「ほんとほんと」
「……嬉しい♪」
ギュッとマサヒコに抱きついてくる。
胸が押しつけられてマサヒコちょとドギマギ。
ドギマギしていたら。
またまた顔に手がかかる。
右(アヤナ)の次はまた左(ミサキ)か、と思って自ら左を向こうとしたマサヒコ。
甘かった。
「こくぼくぅ〜ん」
「はぅ!」
今度は後ろだった。
ミシッなんて嫌な音は聞こえ…ました。
ええ、脳に響くほどに。
そろそろ危険だ。
「ど、どうした的山」
もう…息も絶え絶えなマサヒコ。
「お前もかわいいし美人だぞ?」
「ふたりとおなじじゃやぁ〜だぁ〜!」
微妙に舌たらずに抗議をおっしゃる。
キラキラした瞳がとってもプリティだ。
「あ〜、え〜…的山って癒し系だよな〜」
「いやしけ〜?」
「ああ。話してると落ち着けるし楽しいぞ」
「んふふ〜♪」
嬉しそうにマサヒコの顔をぺちぺちと叩く。
頬擦りされ、しがみつかれ、叩かれ。
「……なんだこりゃ?」
心の底から疑問を感じるマサヒコ。
でもだ〜れも疑問に答えてくれなどしない。
答えてくれそうな家庭教師二人はといえば………。
「…アイ」
「なんですか?」
「いやなんですかってあんた…」
呆れた様子の中村。
アイは一言で言えば不機嫌そうだった。
眉間にしわを寄せ、紅茶をがぶ飲み。
視線の先にはいちゃいちゃべたべたらぶらぶなマサヒコ達。
いや、マサヒコが一方的にされてるだけなのだが。
「アイ」
「だからなんですか!?」
やや強い口調で中村をキッと見る。
普段のアイからは考えられない行為。
彼女もやはり酔っているようだ。
いや、或いは。
アイ曰く「弟のように思っている」マサヒコを盗られたとでも思っているのだろうか?
ニヤリと笑みを浮かべる中村。
「まあまあ食べなさい食べなさい」
勧められるまま、無言でチョコをバクバクと食べる。
大食漢のアイからすれば微々たる量だが。
物はウイスキーボンボン。
しかもきっついやつなのだ。
そしてアイはそれほどアルコールに耐性がない。
ベロンベロンになるのは火を見るより明らかなわけで。
アイが更なる火種になるのは明らかで。
中村は満面の笑みを浮かべていた。
騒乱こそが彼女の悦び。
狂瀾こそが彼女の快楽。
生まれついての愉快犯にしてアジテーターなのだ。
……おお!なんか冒頭に繋がったっぽい!
ミサキに、アヤナに、そしてリンコに懐かれるマサヒコ。
ただただ流れに身を任せる。
幸い三人ともだいぶ落ち着いてきた様子だし。
時が過ぎ去るのを待つ。
そう、いい子にして待っていたのだが。
「マ〜サヒ〜コ君!」
「はい?……うぉっ!」
目の前にアイの顔があった。
ビックリして後ろに下がろうとしたが。
後ろにはリンコがいるし、アヤナ、ミサキの両名に腕を取られているし。
動けやしないマサヒコにアイが迫る。
「ねえ。マサヒコ君」
「はい」
「私…きれい?」
いやそんな口裂け女みたいなこと言われても…と言いたかったマサヒコだが。
もっとマシなことを言うことにした。
「先生、テーブルに乗るのは行儀が悪いですよ」
「そうだねぇ。じゃあこうしよっか」
「へ?」
「えい♪」
アイはテーブルから降りると胡座をかいたマサヒコの足の上に乗ったのだ。
「な、なにしてんすか!」
当然の抗議を上げるマサヒコだが、
「だめぇ?」
潤んだ瞳でマサヒコを見るアイ。
胸に押しつけられる豊かな胸がコケティッシュ!
「だめってわけじゃ…」
突き放せない悲しきマサヒコ。
「ってか。先生も酔ってますね」
「そ〜んなことないよ〜だ!」
そう言ってにこにこ笑うアイ。
ふと、何を思いついたのかくるりと回れ右をしてチョコを一つ取り、口に入れる。
「まひゃひほふん」
「は、はい?」
直感がやばいと告げているマサヒコ。
逃げたいところだが逃げられない。
前後左右人の壁。
空いているのは上ぐらいだが…残念。
マサヒコは飛べない。
為すすべなし。
観念するマサヒコ。
アイのすることだ。
いきなり殴られることはないだろう。
と、思っていたら。
「ん〜」
「!?」
キスされた。
殴られたような衝撃を受けるマサヒコ。
そしてそれ以上の衝撃が来る。
ぬるりと生暖かな物がアイの口から流れ込んでくる。
甘ったるく、その次に苦味。
溶けたチョコレートとその中身のウイスキーだ。
苦手のチョコと未知のアルコールから逃れようとじたばたと暴れるマサヒコだが。
くどい様だが飛びでもしない限り逃げ場はないのだ。
泣く泣く口の中のものを嚥下する。
それを確認しアイが離れる。
至極楽しそうな、嬉しそうなアイ。
対照的にマサヒコは顔が熱くなるのを感じる。
キスとアルコール。
どっちも初めてだからしょうがない。
「せ、先生いきなり何するんスか!?」
「んふふ〜♪」
マサヒコの問いに答えず、ご機嫌な様子で胸板に擦り寄る。
「あっはっはっ!こりゃーいいわ」
「笑ってないで助けてくださいよ」
「なんで?こんな楽しい余興を止める必要ないわよ」
「余興って…」
「それより…覚悟しといたほうがいいわよ」
「覚悟?」
「それ」
中村の指差す先にミサキ、アヤナ、リンコ。
素の三人ならば(主にミサキとアヤナが)先ほどのアイの行為に対して「淫猥」等の罵声が飛んでくるのだが。
そんなことは一切なく。
チョコに手を伸ばす三人。
それぞれチョコをパクッと。
そして、
「お、おい…ちょっとまて!俺はチョコは――いや!それ以前に食べ方に大問題が!」
にへら〜と笑ってマサヒコに顔を近づけてくる。
「待て!待ってくれ!タイム!代打!代打を!!」
「誰を代打に立てるつもりよ?」
「な、中村先生に」
「パス1。マサ…覚悟決めな」
「ぎゃー!!」
「HAHAHA!」
他人事の様に笑う中村。
憐れなりマサヒコ。
ちょっと羨ましいぞマサヒコ。
んで。
「最終的にこーなるわけなのね」
中村の言葉通り。
アイも含めた四人で代わる代わる口移しでマサヒコにチョコを流し込んだわけだが。
今はアルコールに屈して寝姿を披露している。
そして。
肝心のマサヒコはといえば、
「ん?マサ何もってきたの?」
「毛布ですよ」
わざわざ別の部屋から持ってきた毛布を掛けてやる。
「マサ」
「なんすか?」
「顔、すごいことになってるわよ」
「へ?」
きょとんとするマサヒコに中村は鏡を渡してやる。
「げっ!」
口の周りがチョコまみれ。
爆笑する中村を尻目に乱暴にティッシュで拭う。
「や〜、にしてもマサ。あんた結構強かったんだねぇ」
「何がですか?」
「酒。顔色もそんなに変わってないしさ」
「そう、なんですかね?」
「アイなんかちょいちょい飲んでるのにダウンしてるのよ。たいしたもんよ」
「はあ…」
いまいちピンと来てない様子のマサヒコ。
「それよりマサ。アイ、ミサキちゃん、アヤナちゃん、リンと四人にキスされたわけだけど。
誰のが良かった?」
「良かったって…分かりませんよそんなの」
「じゃあ…誰からのが嬉しかった?」
「…どーゆう意味すか?」
「聞いたままよ。タイプの違う女が四人いるんだから。一人ぐらい「これだっ!」て思う子いるでしょ?」
「ん〜…」
しばらく考える様子のマサヒコだったが。
「どうなんすかね?」
「いや、疑問でかえされても」
「天野は幼馴染だし。的山や若田部は仲のいい友達ですし。濱中先生はそのまんま先生ですし。
あんまりそんな見方出来ませんよ」
「でも、相手はそうは思ってないんじゃないの?」
意味深な物言いにマサヒコは眉をひそめる。
薄ら笑いを浮かべる中村。
「結局、酔っ払うとホントの自分が出るわけなのよ。んで。
酔っ払ったら全員あんたにべたべただったわけ。この意味、わかるわよね?」
「……」
考えこむ様子のマサヒコにさらに中村は問い詰める、
「で、で。誰?誰が好み?」
のだが。
思わぬしっぺ返しをうける。
「中村先生」
「なに?」
「中村先生なんかタイプかもしれません」
マサヒコの言葉に驚きの表情の中村。
だが。
「…マサにしては、やるじゃないの」
からかわれている事に気づき、いつものシニカルな笑みを浮かべたのだが、
「いつもの中村先生ほどじゃないですよ」
そう言って無邪気に笑うマサヒコを見て、一瞬……妙な気分になった。
「っと、電話だ。多分母さんだな」
降りていくマサヒコを見送り、中村は、本当に愉快そうな笑みを浮かべる。
「まさかこの私が手玉に取られるとはね」
そう言って、川の字…には一本多いが…で眠る四人を見る。
「ま、各々がんばんなさい。あんまりのんびりしてると掻っ攫われちゃうわよ」
そう言って立ちあがり、
「例えば私とかに、ね」
ベランダへ向かう。
煙草を吸うため。
火照った頬を冷ますため。
END