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518氏 |
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的山家の家族構成。
まずは父と母。
それぞれ二人や三人居たりしたら非常に興味深い所なんだけど残念ながら一人づつ。
そして娘が一人。
名はリンコ。
誰に似たのか天然でどじっ子。
最後に犬一匹。
名はハナコ。
御近所からもかわいいいと評判の名犬。
なのだが。
「ハナコ待って〜!!」
リンコとの散歩中に逃げた。
ああ、所詮は犬畜生か。
「ううう…と、言うわけなんです。お願いします。ハナコ探すの手伝ってくださぁい…」
泣きながら小久保家にやってきたリンコはアイ、中村、アヤナ、ミサキにそう言う。
ちなみに。
小久保家、しかもマサヒコの部屋にいるにも関わらず当のマサヒコは買い物で不在。
どーなっとんのじゃ?
「ハナコって前に自由研究の対象だったあの犬の?」
「はい。散歩中に逃げちゃったんです」
「なんでまた?リードつけてなかったの?」
アヤナの当然の疑問。
まあ、昨今はリードもつけずに犬の散歩しているはた迷惑なババァがいたりもするが。
犬嫌いからすればマジ勘弁なのよ。
「つけてたんだけど…」
「だけど?」
「リードごと逃げちゃった」
「なにやってるのあんたは…」
呆れた中村の様子にリンコは小さくなってしまう。
「だって…おっきな犬に急に吠えられたから。その拍子に転んじゃって。
そしたらリードを離しちゃって。ハナコも驚いて逃げちゃって」
「これまたどじっ子の典型のような事を」
「まあまあ先輩。探してあげましょうよ」
「しょーがないわねぇ」
やれやれと重い腰をあげる中村。
アイ、ミサキ、アヤナは初めから手伝うつもりのようで。
「よろしくお願いします」
リンコは深深と頭を下げた。
犬には住んでいた場所へ帰ってくる、いわゆる帰巣性が多少なりある。
たまにニュースなどでも見る事だろうと思う。
そこでまず一同はハナコが逃げた場所へ向かう。
そこから的山家の方向へ散開して広く目撃情報を集める。
指定時間に的山家に集まった一同。
「見つかった?」
「だめでした」
「こっちもです」
中村の言葉にアイ、ミサキが首を振る。
「私の方は何人かそれらしい犬を見たって情報を得たんですけど…」
「けど?」
「どうもこっちじゃなくって逆方向に行ってるみたいなんですよ」
「ハナコ…そんなにあの犬が怖かったんだ」
「どんな犬だったの?」
「ゴールデンレトリバーです」
「ああ。やつらでっかいのよねぇ。仮にも猟犬だし、そりゃ怖いわ」
しみじみ語る中村。
なにか犬にいやな思い出でもあるのだろうか?
「これからどうします先輩?」
「そうねぇ。じゃあ正攻法でいくか」
「正攻法?どんな方法なんですかお姉様?」
「所在不明者の捜索の基本は渦巻きよ。住んでた場所を中心としたね。まあ今回の場合は
リンがハナコとはぐれた場所を始点にするのがベストね」
「そこから少しづつ捜索範囲を広げるんですね?さすがお姉様。合理的手段です」
「いやいや」
アヤナに誉められ満更でもない様子の中村。
「それじゃあ行きましょう」
「でも先輩」
「なに?」
「私はともかく、ミサキちゃんたちは帰したほうがよくありませんか?もうこんな時間ですし」
そう言って空を見上げる。
西の空が僅かに明るいだけで天中には既に星が輝き始めている。
「…そうね。ミサキちゃんとアヤナちゃんには帰ってもらったほうがよさそうね」
「まだ大丈夫ですよ」
「でも最近は物騒だし。危ないわよ」
「けどそれだったらアイ先生や中村先生も同じじゃないですか。女性なんですから」
「それは…そうだけど」
的山家の前で一同揉めていると、
「なにやってんですか?」
「マサヒコ君!?」
意外な人物登場。
さらにその腕の中にはさらに意外な人物…いや、意外な犬物の姿。
「ハナコ!!」
そう。
先ほどまで皆で探し回っていた的山家の一員、ハナコ。
ハナコはリンコの姿を見つけるとワンと一声鳴き、マサヒコの腕の中でしっぽを振る。
「よかったぁ〜…心配したんだよ〜」
涙腺の緩いリンコはぼろぼろと涙を零す。
「でもなんでマサヒコ君が?」
「ああ、それはですね――」
アイの疑問にマサヒコは事の経緯を語る。
「すっかり遅くなったな」
買い物に手間取ったマサヒコは急ぎ足で家路を急いでいた。
神社近くを通りかかった時、犬の鳴き声を聞いた。
ただし。
普通の鳴き声でなく、キャインキャインと悲痛な物。
動物は悲痛な声を滅多に出さない。
それは弱っている事を敵に知られないようにするためだ。
弱っていると敵に知られる事は、捕食される事、即ち死に直結する。
ペットなど飼われている動物にもそれは受け継がれており、
様子が変だと動物病院につれていった頃にはもう手遅れ…などと言うことは、悲しい事だが、ざらにある。
との事をつい最近テレビで知ったマサヒコ。
心配になり鳴き声の元へと向かうとそこには薄汚れた一匹の犬。
リードが木に絡まり、首が締められるような形になっている。
近寄ろうとしたマサヒコだが犬が唸って威嚇をする。
どうしたものかと首を捻っていたマサヒコだが、
「…あれ?」
どうも犬に見覚えがあるような気がする。
さて、何処で見たのだろうと頭をフル回転。
やがて思い至る。
「ハナコ?」
呼びかけるとワンと吠える。
「やっぱり…的山んちの犬か」
一度だけリンコに写真で見せて貰った事のあるハナコ。
「なんでこんなとこでこんなことになってんだ?」
疑問に思いながらリードを木から外してやる。
敵で無いと認識したらしく、ハナコはマサヒコにじゃれついてくる。
「わっ!こら!舐めるなって!わかった!わかったから!…あれ?お前足どうした?」
よく見れば前足を引きずっている。
「怪我か?……しょーがないな」
マサヒコはハナコを抱き上げる。
そのまま的山家まで搬送するつもりだ。
「…結構重いな、お前」
抗議するかのようにハナコはガブリとマサヒコの顔を甘噛みした。
「と、まあそんな訳でして」
「そうだったの」
「ありがとうね、小久保君」
「いや別に」
照れた様子で頬をかくマサヒコ。
「ホントに、ありがとう小久保君」
「いや、だから…」
落ち着かない様子で視線をさまよわせるマサヒコ。
「ひゅーひゅー!やるねぇ色男!」
「からかわんでくださいよ」
中村にからかわれ、逆に落ち着いたマサヒコ。
「それより的山」
「なあに?」
「さっきも言ったけど、足引きずってるみたいだから、病院につれてってやれよ」
「うん。お父さんに頼んでみるよ」
そう言って、改めて頭を下げる。
「小久保君、ホントにありがとう」
「…ああ」
感謝の言葉に、やっぱり照れるマサヒコだった。
翌日。
日曜日バンザイ。
朝早くに小久保家に来訪者。
「あら、リンコちゃん」
「おはようございます。えと…あの…」
「息子ならまだ寝てるけど?なんか用だった?」
「はい。あの、昨日ハナコの事見つけてくれて、あ!ハナコってうちで飼ってる犬なんですけど。
そのお礼を改めて言おうと思って。これ、うちの両親からです」
そう言ってリンコは菓子折りらしきものを差し出す。
「あら、悪いわねぇ。まあ上がって」
「え?でもまだ小久保君寝てるって」
「いいのいいの。いっそ起こしてやってよ。私今からちょ〜っとでかけて来るから。
あ、朝食はレンジでチンしなさいって言っといて」
言うが早いか、マサヒコ母は出て行ってしまう。
残されたリンコ。
しばらくぽかーんとしていたが、
「えっと…おこすんだよね」
言われるがままにマサヒコを起こしに二階へ向かった。
マサヒコの部屋の前まで来て…とりあえずノックしてみる。
二度、三度。
返事はないようなので、
「おじゃましま〜す」
一声掛けて、部屋に侵入。
カーテンが閉まったままのため、部屋の中は薄暗い。
しかし勝手知ったるなんとやら。
家具の位置は十分把握しているため多少暗かろうが問題はない。
ちょこちょこと歩いてベットへ。
「小久保く〜ん…おはよ〜、あさだよ〜」
「ん…」
リンコの呼びかけにマサヒコは唸って寝返りをうつ。
「も〜!小久保君ってばぁ〜!」
ゆさゆさと、揺すってみる。
「起きようよ〜」
つねつねと、つねって見る。
「朝だよ〜」
ぺちぺちと、叩いてみる。
しかし。
マサヒコ、一向に起きず。
「う〜…」
唸るリンコ。
悔しいので。
リンコは第一回マサヒコをじっくり観察しまSHOW!を開始する。
主に顔を。
「……かわいい」
第一印象はそれだった。
マサヒコが聞いたら凹むか、そうでなくとも複雑な顔をする事だろう。
男がかわいいと言われるのは…正直微妙。
だが、事実だ。
「小久保君ってお母さん似なんだ〜…目元が似てるかな」
発見には興奮を伴う。
そんなわけで。
テンションの上がってきたリンコ。
今度は触れてみる。
すりすりと、マサヒコの頬をなで、髪を触り、耳を引っ張る。
「ほっぺた柔らか〜い。髪はちょっとこしが強いかなぁ?」
言いながらリンコは自分の頬や髪を触って比較する。
流石に頬は自分の方が柔らかかった。
女の子だもの、当然だ。
その後もリンコは布団からはみ出している手を観察したり握ってみたり。
終いには布団の中に頭を突っ込んで足を観察してみたり。
やりたい放題。
しかしここまでされて起きないマサヒコっていったい。
疲れてるのか?
むしろ憑かれてるのか?
憑かれてる………中村にか!?
「ふぁ…」
第一回マサヒコをじっくり観察しまSHOW!を実施していたリンコ。
大きなあくびをする。
昨夜は遅くまでハナコの事を看て、さらに今日は小久保家に来るために早起き。
少々寝不足気味。
加えて。
今リンコは第一回マサヒコをじっくり観察しまSHOW!のため、マサヒコの眠る布団の中。
ほこほこと暖かく、ふかふかと柔らかなそこ。
リンコの睡魔に支援効果大。
リンコVS睡魔。
1RTKOで睡魔WIN!
もぞもぞと、リンコは寝やすい体勢を取る。
マサヒコに添い寝する体勢。
もっと言うならば。
マサヒコを抱き枕にする体勢。
ひどく抱き心地がいい。
ハナコと添い寝する時以上に。
「…おやすみなさぁい」
誰に言うでもなく、そう呟いてリンコは眠りに落ちていった。
穏やかな寝顔だった。
時が経つ事数十分。
小久保家に来訪者。
お向かいのミサキと、ふらりとやってきたアヤナの二人。
チャイムを鳴らすが…返答がない。
留守かと思いミサキがドアノブに手を掛けると…あっさり開いた。
「無用心ね」
ポツリと呟きアヤナはミサキと共に中へ。
つーか不法侵入では?
キッチンにマサヒコ母が居ないのを確認しつつ、二階のマサヒコの部屋へ。
開けてビックリ玉手箱…ではないが。
開けてビックリあらリンコinマサヒコのベッドの中。
固まる二人。
そして、
「淫猥ぃぃぃぃ!!」
「風紀が乱れてるぅぅぅ!!」
絶叫。
「なんだなんだ!?」
流石に飛び起きたマサヒコ。
ドアの傍に立っているアヤナとミサキの姿に目を丸くする。
「?? なんでふたりが?」
「それはこっちのセリフよ小久保君」
「はい?」
首を傾げるマサヒコに、アヤナは問題の人物を指で示してやる。
指の先に目をやり、
「ぬおぉ!?」
リンコの姿を見つけ、驚き飛びずさろうとして、出来ない。
腕を抱えこまれている。
「な、なんで的山がここにいるんだよ!?」
「それはこっちのセリフよ」
呆れた様子のアヤナ。
だが、彼女より問題なのは、
「小久保く〜ん」
「はひ」
激烈な闘気を発するミサキ。
「な・ん・で!リンちゃんがそんな所にいるのかなぁ!?」
「わ、わかりません!サー!!」
敬礼までするマサヒコだが。
ミサキがその程度で許してくれるわけもない。
「わ・か・ら・な・い・わ・け・な・い・で・しょぉ〜」
一文字一文字、力強く発声するミサキにマサヒコ、ライオンの前のウサギと化す。
アヤナはいつのまにか姿がない。
一階に避難したらしい。
「ま、的山!起きてくれ!なぜお前がここにいるのか事細かに説明してくれ!」
「ん〜…だめだってばぁ〜…そんなことしたらぁ」
「!!? マ、マサちゃん!?」
「ち、ちがう!聞いてくれ!」
実はこの時リンコは小さな声で「ハナコったらぁ」と言っていたのだが。
ミサキには聞こえるわけもない。
必死に弁解を試みようとするマサヒコだが。
鬼神と化したミサキに通じるかどうか。
マサヒコの不幸はなかなか終わりそうにない。
END