作品名 |
作者名 |
カップリング |
終アイ先生とマサヒコ君 |
518氏 |
アイ×マサヒコ |
「先輩早く早く!」
「落ち着きなさい。まったく…」
自分を急かすアイの様子に中村は苦笑する。
なんでも今日はとあるカラオケボックスの料金が半額なのだと言う。
さらにドリンク、フード類も半額だそうで。
カラオケ、さらに食べる事が大好きなアイにとっては正に夢のようなシチュエーション。
珍しく大学もサボり、中村を伴ってカラオケボックスへとやってきたわけだ。
「でも、半額だとかなり混むんじゃない?」
「そうなんですよ〜。すいててくれると助かるんですけどねぇ」
だが。
アイの願いも空しく、件のカラオケ店に足を踏み入れると順番待ちをしている大勢の人々。
「…混んでるわね」
「…そうですね」
「…よし、帰りましょう」
「え〜!!?」
中村の提案にアイは非難の声を上げる。
「少しくらい待ちましょうよ〜!」
「少しで済むわけ無いじゃないの。私、待つのは嫌いなの」
「でもでも!」
「うるさい。帰るわよ」
「ふぇ〜ん!!」
未練たらたらのアイを引っ張って店から出ようとした時、
「あら?濱中先生と中村先生じゃないですか?」
声を掛けられ振り返る。
「あ。マサヒコ君のお母さん」
「お二人もカラオケですか?」
「ええまあ。でも待ちが長そうなんで今帰るとこなんですけどね」
「だから、少しは待ちましょうよ先輩〜!」
「だから!待つのはやだって言ってるでしょ?いい加減にしないとバラすわよ、あれ」
「ど、どれですか!?」
モーレツにいやな予感がしてビクビクするアイ。
そんな二人の間にマサヒコ母が割って入る。
「まあまあ。なんなら私達と一緒にどう?」
「ええ!?で、でもいいんですか!?」
「もちろん。若い人の歌声も聞いてみたいし。いいでしょ?」
マサヒコ母が他の奥様方に同意を求めるとあっさりと肯定の意が帰ってくる。
「まあそんなわけなんだけど。どうする?」
「是非御一緒させてください!!」
「…やれやれ」
満面の笑みを浮かべるアイと対照的に、中村はため息をついた。
アイに振りまわされる中村というのもなかなかに珍しい構図なのだが…その事を突っ込む人間はいない。
残念だ。
「〜♪〜〜♪〜〜〜〜♪〜……」
気持ちよく一曲歌い終わったアイがぺこりと聴衆に頭を下げるとやんややんやの拍手喝采。
「は〜…濱中先生歌上手なのねぇ」
「そんなことないですよ〜」
誉められて悪い気はしないのだろう。
照れを隠すように目の前のフライドポテトを食べる。
「そうそう、そう言えば小久保さん」
奥様Aが思い出したようにマサヒコ母に話しかける。
「見つかりましたか?あれ」
「全然」
「あれって…エロ本?」
中村の疑問にマサヒコ母が頷く。
「影も形もありゃしないのよ。ベットの下にも引き出しの奥にも」
そう言ってため息。
プライバシーもなにもあったものじゃない様子にアイは苦笑する。
しかし、すぐにその笑みが凍りつく事になろうとは…
「まあ…EDやら男色で無い事は証明されたからいいんだけどね」
「?? どーゆうこと?」
「本より先に生身の方に手ぇ出したらしいのよ。うちの息子」
「っ!!?」
「ええ!?それほんと!?」
色めき立つ奥様方。
対照的にアイは、ピキィッと音を立てて固まる。
「や〜…まさか息子の筆おろしがこんなに早くなるとは思っても見なかったわ」
「そりゃそうよ」
「まだ14歳でしょ?」
「そ〜なのよね〜。正直心配なのよ」
ふうとマサヒコ母はため息。
「でしょうねぇ。そっちに気を取られて成績が下がったりしたら目も当てられませんものねぇ」
奥様Bもそれに同意。
そんな中奥様Cが、
「ところで、息子さん始めてだったんでしょう?うまく出来たのかしら?」
過激な発言。
「そうねぇ。どうなのかしら?」
マサヒコ母はアイを見る。
「どうでしたうちの息子?」
絶句するアイの手からポテトが落ちる。
「先生、食べ物を粗末にしちゃだめですよ」
「あ、はい。すいません…って!おおおおお母さん!?なにを!?」
「そんな、お義母さんだなんて」
「ちがっ!!」
真っ赤になってしまったアイ。
「まあ!この人がお子さんの始めての相手!?」
「先生って…教師!?教師と教え子!?」
「家庭教師なのよ、うちの子の」
「「「なんて燃えるシチュエーション!!」」」
拳を握り力説する奥様A&B&C。
「で、で、先生。どうだったんですか?」
「ど、どうだったって…その…あの…」
もごもごと口篭もっていたアイだが、はっと気づく。
「大体どうして私とマサヒコ君が…その…か、か、関係を持ったって…」
「中村先生が教えてくれたのよ」
「先輩!!」
「あっはっはっ」
チューハイ片手に中村が高笑い。
「いや〜、いちおー親御さんには報告したほうがいいかな〜と思ってさ〜」
「グッジョブです中村先生」
親指を立てるマサヒコ母。
中村もビシッと親指を立てる。
「先輩!」
「まあまあ。これでも見て落ち着きなさい」
「??」
何処から取り出したのやら、デジカメの液晶を指差され覗きこみ…真っ赤になる。
「な、ななななな!!!???」
液晶に表示されていたのはマサヒコとアイが激しく絡み合っている画像。
そう。
始めて結ばれたあの日の様子。
マサヒコ母や奥様方も覗きこみ「まあ!」だとか「あらあら」など驚きの様子。
「これはまた…やるわねぇ」
「その……ごめんなさい!!」
アイは机に押し付けるように頭を下げる。
「マサヒコ君は悪くないんです!私が酔っ払って彼を誘ったから!だから!」
「まあまあまあ、濱中先生落ち着いて」
肩を叩かれ、顔を上げる。
すぐそばに優しいマサヒコ母の顔。
「別にマサヒコを、もちろん濱中先生も責めるつもりはありませんから。
これがどちらかの一方的な…いわゆるレイプ的なモノだったら話は別ですけど…違いますよね?」
アイは頷く。
「なら別に何も問題無いわけだし」
「でも…年齢的なモノとか」
「「姉さん女房は銀のスプーンを咥えて探せ」って言うし」
「…それ、なんか混じってますから」
「正しくは「姉さん女房は金のわらじを履いてでも探せ」ですね」
「ああ、そうそれ。それに年齢的って言っても6つかそこらでしょう?そんな大した差じゃないし」
余談中の余談だがうちの父と母は7つ違いです。
「愛の前には年の差なんてポンポコピーですよ、濱中先生」
ポンポコピーがなんなのか非常に気になる所だ。
「そんなことより先生。結局どうだったんですかうちの息子は?巧かった?下手だった?」
「あうあうあう……」
真っ赤になってアワアワするアイ。
逃げようにも逃げられず。
結局アイは洗いざらい喋らせられる事となってしまった。
マサヒコは学校から自宅へと帰ってきた。
特になにがあるわけでもない、普通の一日だった。
「普通、最高」
などと。
達観した感のあるマサヒコ。
平穏な一日に感謝しつつ家に入ろうとしたが。
「…はぁ」
ため息。
玄関の前に見なれた後ろ姿を発見。
平穏、グッパイ。
波乱よこんにちは。
「濱中先生、今日はどうしたんですか?」
「……」
玄関の前に佇んでいた人影に話し掛けるが…返事が無い。
「濱中先生…ですよね?」
人違いかと近寄る。
間違いなくアイ。
後ろ姿でなんで分かったかって?
匂いです、とは口が裂けても言えやしない。
「どうしたんですか?」
マサヒコの再三の問いかけに、アイが振り返る。
涙目だった。
「!? ど、どうしたんすか!?」
「ふぇ〜ん!マサヒコく〜ん…」
いきなり半泣きで抱きつかれた。
これはまずいです。
色々な意味でまずいですよ!
「お、落ち着いてください先生!」
「ぐす……ぐす……」
「とにかく家の中に――」
ノブを回したが戸が開かない。
すぐさまカバンから鍵を取り出し開錠。
アイを家の中に引っ張り込む。
部屋まで行ってもよかったのだが、とりあえずキッチンへアイをつれていく。
アイに座るよう促しつつ冷蔵庫からジュースを取り出し、アイと自分の分をコップにそそぐ。
「どうぞ」
「ありがとう」
「それで…どうしたんですか?」
アイが落ち着いたのを確認し、マサヒコが切り出す。
「その…ごめんね、マサヒコ君」
「いや、いきなりあやまられても。理由を言ってください」
「……ばれた」
「は?なにが?」
「マサヒコ君と私の関係」
「……」
なんの事かしばらく考えこんだマサヒコ。
最悪の答えが導き出される。
「え〜っと…ひょっとしてそれって…」
「うん。その…関係持った事が、お母さんにばれちゃった。てへ」
「いや、「てへ」じゃなくって!なんで!?どーして!?ホワイ!!??」
「先輩がばらしたの」
「ジーザス!」
「しかもデジカメに一部始終記録してたみたいで」
「ガッテム!!」
何故かオール英語のマサヒコ。
「その…ごめんね。マサヒコ君」
「……いえ、先生が悪いわけじゃないですから」
そう言ってマサヒコはため息をつく。
そして恐る恐ると言った感じで、
「それで、母さんなんて言ってました?」
訪ねる。
「怒ってましたか?」
「ううん。なんて言うか…楽しそうだったよ」
「そうですか…」
再びため息。
アイは、こちらもまた恐る恐ると言った感じでマサヒコの様子を窺う。
「…怒ってる?」
「いえ。ただ…」
「ただ?」
「これからめっちゃからかわれるんだろうなぁと思いまして」
何度目かのため息。
苦労人マサヒコ。
「…ごめんね」
「いえ。だから先生が悪いわけじゃないんですから。謝らないでくださいよ」
「私は年上なんだから。あの時私が自制しなきゃいけなかったのに」
「いや、でも…その……」
マサヒコがそっぽを向いて、もごもごと口篭もる。
「?? マサヒコ君?」
「俺としては、その…自制してくれなくて、嬉しかったですけど」
「え?」
「まあ。あの時はそーいった明確な感情があったわけじゃないんですけど…まあ、なんてゆーか」
顔が赤いマサヒコ。
「今になって考えてみれば、あの日あの時あの事が無かったら今の先生との関係もなかったわけですから。
そーゆう意味では中村先生には感謝してますし」
そう言って真剣な目でアイを見る。
「先生」
「ひゃい!」
マサヒコの真剣な様子に気圧され、噛んじゃったアイ。
「俺は、後悔はしてませんから。母さんにからかわれるのも我慢できますから」
「それって…え?ええ??」
「…そーいえば、自分の言葉で言ったこと無かったですね」
マサヒコは目を閉じ、深呼吸し、息を整え、目を開き、アイを見据える。
「好きです」
「!!?」
マサヒコの言葉にアイは。
真っ赤になって。
目を丸くして。
口をぽかんとあけて。
とにかく、顔全部で驚きを表現する。
「え〜…それで、ですね。なんと言えばいいか…よーするに。
迷惑でなければ、お付き合いのようなものをして貰えたらなぁと。当方思う次第でして」
微妙な敬語のマサヒコ。
「だからえっと…その…すいません。巧い言葉が出てこなくって」
苦笑して頭をかくマサヒコに、アイは飛びついた。
首に手を回し、ギュッと抱きつく。
マサヒコは椅子ごと後ろに倒れそうになったが、机を掴んで堪える。
「濱中先生…これはOKと思っていいんですか?」
「(こくこく)」
「そうですか…」
ホッと息をつく。
じつはかな〜り緊張していたマサヒコ。
「でも…私でいいの?」
「??」
眉をひそめるマサヒコ。
アイは不安げな表情で、
「私年上だし。美人じゃないし。スタイルだって良くないし。ホントに私でいいの」
列挙するがマサヒコは笑って、
「別に年なんてカンケーないですよ。先生は美人ってよりかわいいですし。スタイルも良いですよ」
一蹴。逆に、
「先生こそ。俺年下ですし。頭も顔も良くありませんし。俺でいいんですか?」
「そんなの関係ないよ。私は…」
「「あなたがいい」」
アイとマサヒコの言葉。
綺麗に重なる。
きょとんとした様子のアイとしてやったりのマサヒコ。
顔を見合わせ、笑う。
「マサヒコ君」
「先生」
「「これからもよろしくお願いします」」
再び異口同音に言って。
笑って。
軽く唇を合わせて。
離れて、
「先生、顔真っ赤ですよ」
「君だって」
また笑いあった。
正にラブラブな二人。
だが…
「あらあら、見せつけてくれるわね」
「「!!??」」
第三者の声に振り向くと、果たしてそこには中村の姿。
「悔しいからまた撮っちゃった♪」
手にはデジカメ。
「さて、どーしよ―かしらこれ?ミサキちゃんにでも見せようかしら?」
「「なっ!?」」
「黙っててほしけりゃなんかおごってね」
「「……」」
アイとマサヒコ、顔を見合わせ深くため息。
「はいはい、ため息つかない。幸せ逃げるわよ。それより、
そろそろリンが来るから、ばれたくなきゃ自然にしてなさいよ」
「先輩…」
どうやら一応は二人のことを応援してくれているらしい。
「こ〜んに〜ちは〜」
「言ってる傍から来たわね…」
中村は玄関へと向かう。
残されたマサヒコとアイ。
「それじゃ、行きますか」
「そうね」
また、いつもの日々が始まる。
ただし。
今までとは、少し違った。
いつばれるとも知れない。
二人にとってスリリングな日々が。
END