作品名 |
作者名 |
カップリング |
続アイ先生とマサヒコ君 |
518氏 |
アイ×マサヒコ |
その日アイは自宅マンションで中村と一緒だった。
と言っても、別に飲んでたわけではない。
二人共家庭教師のアルバイトをしていて。
お互いの教え子が同じ学校どころかクラスまで同じ。
当然、教える事も似通ってくる。
だったら授業準備も二人でやったほうが効率がいいわけで。
こうして二人でかわいい教え子のために頑張ってるわけだ。
「時にアイ。その後どうなのマサヒコは?」
「そーですねえ。苦手の数学の点もじわりじわりと上がってきてますし――」
「ああ。違う違う、勉強のことじゃなくて」
「はい?」
「やっぱヤリまくりなわけ?」
カターンとアイの手からペンが落ちる。
「な、なな、ななな!」
「なにいってる?って?」
「(こくこく)」
真っ赤になって頷くアイ。
はて、前にもこんなやり取りがあったような…とデジャブを感じる中村。
まあそれは置いておいて。先を続ける。
「初回こそいささかごーいんな展開だったけど、その後はどうなの?ん?」
「ど、どうなのって言われても…」
「ほれほれ。恥ずかしがらずにおねーさんに言ってみなさい」
「言うもなにも…なにもありませんよ」
カターンと中村の手からペンが落ちる。
デジャブ再び。
「なにも…ない?」
「はい」
「襲われるようなことも?」
顔を赤らめコクコクと頷くアイ。
「襲うようなことも?」
一層顔を赤らめコクコクと頷くアイ。
「…なんで!?」
「なんでって…あ、あれはより強固な信頼関係を築くために必要に迫られてやったわけで」
「そんなとってつけた理由はどーでもいいのよ!」
ぶっちゃけちゃう中村だがパニクってるアイは気づかない。
「やっちゃったのよ?しかも教師と教え子よ?
こんな燃えるシチュエーションであれ以来何にもない?あんたら正気!?」
「なんて言い草…」
「いやいや、ある意味真面目な話よ」
そう言って真剣な表情をする中村。
つられアイも気を引き締める。パニックも大分落ち着いた様だ。
「前にも言ったように相手はヤリたい盛り、思春期真っ只中の男子中学生。
一線を越えちゃったにも関わらずなにもしてこないなんて、これはもう事件よ」
「そうですかぁ?」
「そうなの!」
断言する中村。
ここまできっぱり言われると逆にすがすがしい。
「考えられる理由はいくつかあるわね。まず対象が魅力的でない場合」
そう言ってアイをじっと見る。
「まああんたはいちおーそこそこのランクいってるし、これはないわね」
「そうですか」
ほっとした様子のアイ。それが理由だと流石に凹んでしまう。
「或いは何らかの理由により行為に及べない場合。
でもこれも違うわね。仮にも一度合体してるわけだし」
「うんうん」
素直に頷くアイ。
冷静に考えればここで引っかかるはずなのだ。
行為に及べない理由。
アイが家庭教師をするのは昼である事。
一階には母親。
マサヒコの年齢等の倫理的問題。
ぱっと考えてみるだけでもこれだけ行為に及べない理由はある。
だが、あっさり二人共スルー。
それでいいのか大学生!?これでいいのか日本!?
「最後に…まあおそらくこれが原因でしょうね」
「な、なんなんですか!?」
ぐぐっと身を乗り出すアイ。
「きっかけがないのね」
「きっかけ?」
「そう。あの時は私が背を押した形になったわけだしね。
マサヒコはまわりに流されるって言うか…まわりが促してやらないと行動に移さないタイプでしょ」
「まあ…典型的現代っ子ですよね」
「その通り!だからこそアクションを起こし易いように導いてあげる必要があるのよ」
「なるほど…」
うんうんと真剣な表情で頷くアイ。
それを見て中村の中の悪戯心に火がつく。
「…まあなんだかんだ言ってあんたもアレね、アイ」
「はい?」
「マサヒコと色々したかったわけなのね?」
「なっ!!?」
ボンッと音がしそうな勢いで赤くなる。
「そ、そんなこと!」
「そーいうわりに熱心に私の話聞いてたじゃない」
「それは…その…正直私に魅力ないのかな〜とか思ってたってゆーかなんてゆーか……」
指をもじもじさせながら言う。
「まあよーするに。気持ちよかったからもう1回やってみたいって事でしょ?」
「せっ、先輩!!」
「照れない照れない」
「っ〜!……あ、あたしジュース買ってきます!」
不利を悟りそそくさとその場から離れようとしたアイ。
だが。
「あ」
「へ??」
グキッ!
「はうぁ!!」
鈍い音が部屋に響いた。
「ま、そんなわけでね。今日はマサもあたしが一緒に見てやるから」
「?? 何がそんなわけなんですか先生?」
「ちゃんと理由を話してください」
「え〜?」
学校までリンコとマサヒコを迎えに来た中村。
アイ不在の詳しい説明を求められ抗議の声を上げる。
「めんどくさ〜い」
「…俺んちか的山んちに行くにしても道中時間はありますから」
「しょ〜がないなぁ」
渋々理由を話す中村だった。
やって来たのは結局小久保家。
玄関を開けるとマサヒコの母が出迎えてくれる。
「あら?濱中先生は?」
「転んで手と足挫いたから自宅で療養中だってさ」
「ふ〜ん」
「かわりに私がマサヒコ君を指導しますので御心配なく」
「あ、そうですか。よろしくお願いしますね」
そう言って母は台所に引っ込んだ。
三人はマサヒコの部屋に入ると早速授業開始。
「さて…マサは数学でリンは化学か」
中村は大きなため息をつく。
「やれやれ。よりによって二人共苦手分野か。今日は苦労しそうね」
「「お手数かけます」」
「ま、いいわよ。こっちも仕事だし」
「身も蓋も無いことを」
「はいはい、じゃあこのテストやって。制限時間40分ね」
「「は〜い」」
二人共目の前の紙へと意識を集中させる。のだが。
「それにしてもアイのやつ。あの程度で捻挫だなんて…軟弱者め」
中村がぶつぶつ言うため集中しきれない。
どうにも気になってマサヒコが中村に問いかける。
「あの程度ってどの程度なんです?」
「置いてあったちょっと厚めな本を踏んだのよ。その拍子に足挫いて、倒れた時に左腕も捻挫したのよ」
「それはまた…不注意でしたね。濱中先生」
「まあその本買ってきてそこに置いたのは私だったんだけどね」
「あんたのせいかよ!」
すかさずツッコむマサヒコ。
「まあ正直。ちょ〜っとは私も悪いかな〜と思ってるわよ。
だからこうしてあの子の分もあんたの勉強見てやってるわけだし」
「いちおー責任は感じてるんですね」
「まあね」
やれやれと中村は肩をすくめる。
「それよりあんた手が止まってるわよ。ただでさえ計算遅いのにいいの?」
「うわっと!!」
慌てて難解な演習問題へと向かう。
しかし、
「マサヒコ〜!ちょっと降りてきな〜!」
母親に呼ばれる。
どうしたものかと中村に目をやると無言で顎でしゃくられる。
降りて行けと言うことなのだろう。
素直にマサヒコは一階へと向かう。
「ど〜したの母さん?」
「そこに差し入れ置いてあるから、二階に持ってきな」
母は小忙しそうにそう言ってなにやら準備をしている。
「どっか行くの?」
「ん。町内会の集まりでね。今日はレディースデーで町内会の集まりが半額だからオールナイトなのよ」
「……」
要するにカラオケに行くのかと納得。
「お金ここに置いてくから夕飯はてきとーに済ませといて。お父さんは残業で遅くなるって言うし。
暇なら濱中先生んとこに見舞いに行っとくといいわ。これ持ってね」
そう言ってバナナを持たされる。
「じゃ、後よろしく。行ってきま〜す!」
反論の隙すら与えずに母は行ってしまった。
さてどうしたものかと思うマサヒコだが…
「とりあえず、これ持ってくか」
差し入れのケーキを二階に運ぶ。
ケーキの登場に大はしゃぎのリンコと中村のため勉強は一時中断。
「つーかテスト中じゃあ?」
「臨機応変よ」
「そうだよ!ケーキに足が生えて逃げてっちゃうかもしれないよ!」
「………」
トンでもない理由にツッコミすら忘れるマサヒコ。
「…イチゴいただき」
その隙に中村がマサヒコのイチゴを奪取するのだった。
紆余曲折ありながらも、どうにかその日の授業も終了。
「今日はここまでね。残った問題は次の授業までに予習しときなさい」
「「は〜い」」
「じゃ帰るか。リン、送ってくわ」
「ありがとうございます」
それほど遅い時刻ではないが最近なにかと物騒だからだろう。
教え子を家まで送る心遣いにちょっと感心。
「それじゃあまたね小久保君」
「ああ。またな」
二人を部屋から送り出そうとして、
「あっ!そうだ中村先生」
「なに?」
中村を呼び止める。
「濱中先生の家の住所教えてもらえますか?」
「……夜這い?」
「母親からバナナ持って見舞いに行けっていわれたんで。顔出しとこうかと」
中村の戯言をきっぱり無視。
相手にするとつけあがる。
「放置プレイとは、やるわねマサ!」
「プレイゆーな!」
無視したら無視したで性質の悪い娘だ。
対処のしようがありゃしねぇ。
「えっと…結局教えてもらえるんですか?」
「ああ、そうだったわね」
中村は手帳を一枚破り、さらさらと書き込む。
「はい」
「……」
マサヒコは紙を手に取ると…無言でクシャクシャと丸め捨てる。
「……」
「……」
「??」
無言のマサヒコと中村。
よくわからない様子のリンコ。
沈黙。
沈黙沈黙。
沈黙沈黙沈黙。
「…マサ」
沈黙に屈したのは中村だった。
「なんでわかったの?」
「パターンですから」
おそらく卑猥な言葉でも書いてあるのだろうとのマサヒコの予想は当たったらしい。
「…成長したわね」
「こんな成長したくなかった…」
ふっと自嘲気味な笑みを浮かべる。
そんなマサヒコを中村は暖かな目で見る。
弟子を見る師匠のような…そんな感じで。
「マサ…」
「先生…」
見詰め合う二人。
……なんか芽生えてしまいそうな雰囲気。
だったのだが、
「生徒と教師の甘く淫猥な密会???どーゆう意味?」
はっと目をやればリンコ、何時の間にか先ほどの紙を広げて首を傾げている。
マサヒコは中村を見る。
中村は視線を逸らす。
さらにじっと見つめる。
視線を逸らす。
じっと見つめる。
逸らす。
見つめる。
逸らす。
じ〜〜っと見つめる。
「……(ぽっ)」
「顔を赤らめるな!」
「わ〜、小久保君が先生の事視姦してる〜」
「……」
もう…突っ込む気もうせちゃったマサヒコ。
ふらふらとベットの中にもぐりこむ。
「…マサ?」
「おやすみなさい……」
寝よう。
夢も見ないほど深い眠り。
「ちょっ、マサ!?」
「小久保君おやすみ〜」
ちょっといじめすぎたかと思う中村をよそにリンコはどこまでもゴーイング・マイウェイ。
暢気な娘さんだ。
「えっと…じゃあここに住所書いた紙置いてくから」
「またね〜」
部屋を出ていった。
マサヒコが布団から這い出て来たのはそれから10分ほどしてから。
テーブルの上の紙に目をやる。
アイの住所と共に一言。ハッスル!ハッスル!!と、書かれていた。
「…なにを?」
小川?というツッコミも捨てがたかったか、とりあえずオードソックスにツッコんでみた。
…だからどうってことでもないんだが。
「……行くか」
重い腰をあげた。
あっという間にアイのマンション前に到着。
お見舞いにはバナナとスポーツドリンクを持ってきた。
「…よく考えたら病気じゃないんだからスポーツドリンクは要らなかったんじゃ?」
ちょっと迂闊なマサヒコ。
「ま、いいか。邪魔にはなんないだろうし」
インターフォンを押す。
ドアの向こうから「どうぞ〜」と声が聞こえる。
いいのかよ!?とか、鍵開けっぱなし!?と思いながらもドアを開ける。
「先輩、マサヒコ君どうでし――」
「!!?」
てっきり中村がやって来たと思っていたアイ。
酷くあられもない姿。
バスタオル一枚を身体に巻いて髪を拭いていた。
なるほど風呂上りか、とマサヒコは頭の片隅で冷静に把握する。
残りの大部分はアイの姿に驚き、機能停止。
そしてアイは。
「はわ…はわわ!!」
激しく取り乱しバスルームに駆け込もうとする。が、
ズテッと転倒。
「せ、先生!」
マサヒコは慌ててアイに駆け寄る。もちろん靴は脱いでだ。
「いたたたた…お尻打ったぁ」
「大丈夫ですか?」
「うん。だいじょう――ってマサヒコ君!?なんでここに!?」
「えっと、お見舞いに来てみたんですけど…お邪魔でしたか?」
「ううん!そんなことない!」
ぶんぶんと激しく首を振る。
「すっごく嬉しいよ。ありがとう」
「そう言ってもらえるとありがたいです。けど…」
「?? けど?」
「服着てもらえるともっとありがたいです」
「…はわ〜!!」
今度こそほんとにアイはバスルームに飛びこんだ。
「…ごめんね待たせちゃって」
部屋着だろうキャミを着たアイがバスルームから出てくる。
「でも今日はどうしたの?」
「いや、中村先生から捻挫したって聞いたんで」
「それでわざわざ?」
「母親からも言われましたし。あ、これお見舞いのバナナとジュースです」
「ありがとう…」
嬉しそうに見舞いの品を受け取るアイの様子に、来てよかったと思うマサヒコ。
「それで、捻挫の具合はどうなんですか?」
「大した事無いよ。足の方は歩いたりするとちょっと痛むけど、腕は利き腕じゃないし」
「そりゃなによりです」
「うん。それよりごめんね」
いきなり謝られ、マサヒコは首を傾げる。
「何がですか?」
「しばらく家庭教師出来なくなっちゃって…」
「ああ。気にしないでください。今日は中村先生に見てもらいましたし。
それに捻挫の原因は中村先生なんでしょ?ちょっとは責任を取らせるべきですよ」
「そりゃ…本をあそこに置いたのは先輩だけど、気づかず踏んじゃった私も不注意だったわけだから…」
どうにも弱気と言うか……責任を感じている様子のアイ。
マサヒコはさてどうしたものかと考え、
「あ、じゃあ先生。俺、来ましょうか?」
「え?」
提案する。
「ですから。学校終わってからここまで来ましょうか?そんなに遠くないですし」
「ええ!?でもそれだとマサヒコ君大変じゃない?」
「別に大丈夫ですよ。先生はいつもうちまで来てるわけですし」
「で、でも!私は家庭教師で。家まで行ってこその家庭教師って言うかなんて言うか…」
もごもごと反論するアイ。
すると、
「あ…」
マサヒコはなにかに気づいた様子で。
「そ、そうですよね。すいません。ちょっと無神経でした」
「??」
急に意見を翻したマサヒコの様子にアイは不審に思う。
訪ねるより先にマサヒコの言葉。
「一人暮しの女の人の家に上がりこむのって失礼ですよね、やっぱり」
「ちがっ!そうじゃなくって!」
アイは慌てて反論する。
「たまに授業終わるのが遅くなる事もあるでしょ!?そうなると帰るのも遅くなるし、
ご両親も心配すると思うのよ」
「いや、その辺は大丈夫だと思いますけど。実際今日も父親は残業ですし、
母親はカラオケで遅くなるとか言ってましたし」
「…そうなの?」
「レディースデーだかオールナイトだかって言ってましたから。
ひょっとしたら帰ってこないかもしれないですけどね」
「でも…じゃあ晩御飯は?」
「お金渡されました。たまにあるんですよ、こーいうこと。
そんな親だから帰りが遅くなっても気にしないと思いますよ」
「……」
アイは考える。
確かに中村に頼りきりになるのは申し訳ない。
さりとてマサヒコをわざわざ家までこさせていいものだろうか?
無理にでも自分がマサヒコの家まで行くべきでは?と思い目の前のマサヒコに視線をやる。
じっと見つめてくるマサヒコ。
その熱い(?)視線に赤くなってしまいそうだったが、思考に耽ることで押さえる。
マサヒコはこう見えて……といったらかなり失礼だが、なかなかに優しい所がある。
無理にマサヒコの家に通って怪我を悪化させたりすると自らを責める可能性がなきにしもあらず。
それは避けたい。
だとすると……
「マサヒコ君」
結論が出る。
「はい」
「しばらくの間御苦労おかけします」
「気にしないでくださいよ」
そう言って微笑まれ。
赤くなってしまった。
「先生?顔赤いですけど?」
「な、なんでもないの!それより!じゃあ今日の分の勉強しましょう!」
「え?でも俺教材持ってきてませんよ?」
「大丈夫。うちにも参考書はあるから。でも教科書に沿ってやるのが一番だから
今日のところは簡単に済ませちゃおう。授業準備もしてないしね」
「はい」
こうして、急遽アイによる授業が開始された。
小1時間ほどなかなか密度の濃い授業が行われる。
いやいや、これこそ本来あるべき姿なのだろう。
マサヒコはぐぐっと身体を伸ばす、
「ん〜…久しぶりに勉強したって感じがしますよ」
いつもは中村やらリンコやら中村やら中村やら…まあつまり、大半は中村のせいで脱線するから。
久しぶりに集中できた感じなのだろう。
「ふふ、お疲れ様…っと、もうこんな時間ね。もう帰ったほうがいいんじゃない?」
時計はそろそろ6時を指そうとしている。
「早く帰らないとお母さん心配するんじゃない?」
「いえ、だから今晩母さんいませんし」
「あ、そっか。そうだったね……だったらさ」
思いついた事を提案する。
「うちでご飯食べてく?」
「え?」
「お惣菜じゃ物足りないでしょ?まあ君のお母さんほど料理上手じゃないけど。
とりあえず食べられるものは作れるつもりよ」
「いえ、それは前に作ってもらった時に(*本編第10話参照)わかってる事ですけど」
「ね?そうしなよ」
アイの誘いにマサヒコは考える。
誘いを断った場合。
夕食はコンビニ弁当か、帰り道のスーパーのお惣菜を一人で食べることになるだろう。
誘いを受けた場合。
夕食はアイと共に出来立ての物が食べられる事だろう。
選択肢は以上の2つ。
迷うまでもなかった。
「じゃあ遠慮なくご馳走になります」
「うん。やっぱり一人よりも二人で食べた方がおいしいもんね」
そう言って嬉しそうなアイは足を庇うようにしてキッチンへ向かう。
「それじゃあ何を作ろうかな?マサヒコ君なにか食べたいものある?」
「なんでもいいですよ」
「おっ!何でも食べてくれるんだ。そうだよね。好き嫌いしてたらおっきくなれないもんね」
「…そうですね」
身長が低い事を気にしているマサヒコの少々ぶっきらぼうな返答。
アイはくすくす笑いながら冷蔵庫を開け、
「あぁー!!」
絶叫。
「どうしたんですか!?ゴキブリでも出ましたか!?」
「冷蔵庫空っぽ…」
腰を浮かしかけていたマサヒコ、思わずテーブルにヘッドバット。
ゴツンと鈍い音がしてちょっと痛い。
「そ、そんなことですか」
「でもでも!これじゃなんにも作れないよ」
「買い物行けば……あ」
なるほどとマサヒコは納得。
アイは足を怪我しているのだ。
あまり出歩くのは怪我によろしい事とは思えない。
しかし、考えてみれば簡単な解決法があるじゃないか。
「じゃあ俺買い物行きますよ」
「え?で、でも!お客様を買い物に行かせるなんて」
「気にしないでください。タダでご馳走になるのは心苦しいと思ってたところですし。
ちょうどいいですよ。何買ってくればいいですか?」
「そう?それじゃあね……」
少々強引とも思えるマサヒコにアイは甘える事にする。
アイから言われた買い物をメモし、マサヒコは買い物に向かう。
一人残されたアイは思いを馳せる。
「そーいえば、ここで一人じゃない食事なんて久しぶりだな」
中村はよく来たりするのだが、それは飲む時で食事はあまりしない。
そのため食事は一人で取ることがほとんどで。
まして相手はマサヒコだ。
ついつい張りきって多めの食材を頼んでしまった。
「……はっ!?でもこれってマサヒコ君と二人っきりってこと!?」
今更ながらにその事実に気づくアイ。
「先輩はまたあーゆう関係になるにはきっかけが必要っていっていたし……あーゆう関係…」
自分で言っておいて真っ赤になってしまう純情なアイ。
かわいいじゃないか。
「きっかけ……きっかけ……どーしよ…」
きっかけを作るべきか作らぬべきか。
悩むアイだったが、
「……よし!!」
結構早く結論は出た。
つーか結論は始めから決まっていた。
問題は……
「あの作戦で行こう!」
きっかけの作り方だった。
マサヒコが帰ってくるとすぐにアイは夕食の準備に取りかかる。
マサヒコも手伝おうかとも思ったのだが…アイの手際を見るに下手な手出しは足手まといになると判断。
大人しくテレビを見ている。やがて、
「おまたせ〜♪」
そう言ってテーブルにアイが料理を運んでくる。
なかなかおいしそうだが…
「量すごいスね」
「だってマサヒコ君男の子だし…食べるでしょ?」
「いや、そりゃそうかもしれませんけど…」
テーブルの上に乗っている量は半端でない。
恐るべしアイの胃袋!!と、改めて認識する。
「それじゃあ冷めないうちに食べちゃお」
「はい。いただきます」
食べ始める。
「あ、おいしい」
「ほんと!?」
「はい。おいしいですよ、このきんぴら。こっちの小松菜とアサリの和え物も」
マサヒコの感想にアイは嬉しそう。
「よかった〜。きんぴらは母親直伝でちょっと自信あったんだ」
「俺実はきんぴらってちょっと苦手だったんですけど…これなら食べられますよ。先生料理上手なんですね」
「や、やだな〜…そんなに誉めてもなんにも出ないよ?」
アイ、デレデレ。
その後もマサヒコが料理の感想を言うたびに一喜一喜する。
え?一喜一憂じゃないかだって?
いえいえ。マサヒコ誉めてばっかりですから。
アイ喜びっぱなしですから、一喜一喜でいいんです。
和やかな雰囲気のまま食事は進み、やがてデザートのアイスも食べ終わる。
「ふ〜…ごちそうさまでした」
「はいお粗末さまでした」
そう言ってアイが食器を運ぼうとするが、
「あ、いいですよ。俺やりますから」
マサヒコが止める。
「洗い物なら俺にも出来ますから。先生はゆっくりしててください」
「え!?でも」
「ご馳走になったんですから。これくらいさせてくださいよ」
そう言ってやや強引にアイから食器を受け取り、流しに運び、洗い物を始める。
もちろん。
それがアイの足、並びに腕の捻挫を心配しての行為だと言うことは想像に固くない。
さり気なく優しい男、小久保マサヒコ。
アイは……そんなマサヒコに……少々やられ気味だったりしちゃったりして。
洗い物をするそれほど大きくないマサヒコの背をポ〜っと眺めていた。
「よしっと…」
最後の皿のすすぎを終えたマサヒコはふうと息をつく。
たまに家事を手伝う事があるので洗い物は苦ではなかったが、ちょっと疲れた。
「先生、洗い物……ん?」
「すぅ……すぅ……」
アイは横になり、眠ってしまっていた。
「せんせ〜。食べてすぐ横になると牛になっちゃいますよ〜」
「うう〜ん……」
起こそうと揺すると、嫌がるように身体を動かすアイ。
ごろりと大きく寝返りをうつ。
その際、キャミの肩紐が外れ、胸元があらわになる。
さらに言及するならば。
裾も大胆に捲くれあがり、本来見えてはならない白い物が見えてしまっている。
その様子を眺めていたマサヒコ。
ごくりと唾を飲み込み、そして……行動。
「……これでよし」
ベットの布団をアイにかけてふうと一息。
「鍵は郵便受けにいれとけばいいし、メモ残して帰るか」
「なんでやねん!?」
「うおぅ!!」
いきなり関西弁でツッコまれて飛びあがって驚くマサヒコ。
みればアイが上半身を起こして、涙目でマサヒコを睨んでいる。
「せ、先生起きてたんですか!?」
「そうじゃないでしょ!?」
「は?何がですか?」
「人が恥ずかしい思いしてきっかけ作ってるのにこの仕打ちは酷すぎるじゃない!?」
「………きっかけ?」
「あ…」
自らの失言にアイは口を押さえる。
「きっかけって…なんの?」
「それは……その、なんて言うか…」
真っ赤になって口篭もるアイ。
実はマサヒコ、それがなんの為のきっかけなのか薄々気づいてはいた。
ただ、確認は取りたかったわけで。
そして、アイの態度を見れば自身の予想の正否は簡単に判別できたわけで。
「先生」
「っ!!?」
出せるだろう限界の低い声。
その声にアイはビクリと身体をすくませる。
「先生もだいぶ中村先生に毒されてきたみたいですね」
「ちがっ!これは…その…」
今までに聞いた事のない低い声にアイは酷くうろたえる。
軽蔑されたか、或いは嫌われたか。
そう思うと狼狽が悲しみへとシフトしていく。
「その……違うの……わ、私は…」
なんとか誤解を解こうと…いや、あながち誤解ではないのだが。
ともかく、マサヒコに分かってもらおうと言葉を羅列しようとするが。
言葉が出てこない。
意味をなさない。
それでも必死にどうにかしようとしていると、
「うりゃぁ!」
「きゃっ!」
マサヒコにベットに投げ飛ばされた。
アイはその行為にデジャブを感じる。
確か以前も誰かにベットに投げ飛ばされたような……。
考えている間にマサヒコもベットに上がってくる。
「先生」
「ひゃい!」
「はい」と言うつもりで思わず噛んじゃったり。
「えっと…さっきの俺の言葉聞いてましたか?」
「え?」
「その、「先生もだいぶ中村先生に毒されてきたみたいですね」って」
「あうぅ…その、ごめんね」
へにゃっと、眉をハの字にして謝るアイ。
マサヒコは…大きなため息をつく。
それをどう取ったか、アイが泣きそうな顔になったのを見てマサヒコは苦笑する。
「いや、先生を責めてるんじゃなくてですね。気づきませんか?」
「??」
「俺は先生「も」って言ったんですよ?」
「それって――」
どーゆうこと?と聞きかけ、アイは気づく。
マサヒコの視線。
それはいつか感じたもの。
そう。
激しく求め合ったあったあの夜に感じたもの。
「そのつもりでいてくれるなら、俺も踏み止まりませんからね」
「マサ――んっ!!」
アイにしゃべる間も与えず、マサヒコは唇を押し付ける。
舌を挿し入れると、アイもまた答えてくれる。
やがて離れる頃にはアイの顔は真っ赤に染まってしまっていて。
「先生…いいんですね?」
「……うん」
おずおずと、アイが頷くのを確認しマサヒコはアイの服を脱がす。
と、言っても。
キャミと下着の3点だけなわけで。
あっという間にアイは生まれたままの姿にされる。
恥ずかしそうにアイは身体をくねらせるが、その動きがさらにマサヒコの中の雄の部分を刺激する。
つつつっとうなじに舌を這わせる。
「ひぃん!そこ…はぁ!」
アイが激しく反応する。
やはりうなじは弱いらしい。
しばらくうなじを責めたり耳を食んだりと堪能したマサヒコ、ふと思い立つ。
「先生」
「??」
「怪我した足ってどっちですか?」
「え?左足だけど、それがどうかしたの?」
上気し、ほんのり色づいた顔でかわいらしく小首を傾げるアイ。
その姿にマサヒコはくらりとしつつ。
顔を首筋から、足のほうへと持っていく。
「マサヒコく――ひっ!」
不意に足首に感じた生暖かな感触にアイは悲鳴を上げる。
感触の正体はマサヒコの舌。
怪我をした足首を、マサヒコは舐める。
それは獣が傷を癒すかのように。
元々敏感なアイはそれだけでゾクゾクと体を震わせる。
「マ、マサ…ふぁ!」
「少し熱持ってますね、ここ」
「だ、だって…ひぅ!…捻挫してるんだもん……腫れて炎症起こしてる…んっ!」
「じゃあ冷やした方がいいですよね」
さらに足首をぺろぺろと舐める。
アイは何とかマサヒコの行動を止めようと、
「で、でも!冷やすならシップとか…あるし!」
「気化熱で冷やすのもありですよね?」
言ってみたがあっさりマサヒコに論破される。
その後もじっくり責められ、そのたびにアイは悶える事になり。
ようやくマサヒコが止めた頃には息も絶え絶え。
「大丈夫ですか先生?」
「…いぢわる」
「なにゆえ!?」
身に覚えのない事実にマサヒコ愕然。
アイとしてはマサヒコに前回、今回と責められっぱなしで面白くない。
そこで、
「えい♪」
「うわっ!?」
逆襲。
隙の出来たマサヒコを逆に押し倒し、服を脱がせにかかる。
「もがっ!?」
「あ」
服が首のあたりで引っかかる。
ごーいんに脱がせようとしたためだ。
しかし、アイにとってこれは好奇……もとい好機!
ふがふがとマサヒコが服と格闘している間に下を脱がせる。
ベルトを外し、ズボンと一緒にトランクスもマサヒコからパージ。
出てきた臨戦体勢のマサヒコのモノを一気に飲み込む。
「けほけほっ!」
…飲み込みすぎたらしくむせる。
まったく…お約束のボケをかましてくれる娘だ。
咳き込みが納まった所でアイ、再びトラ〜イ。
改めて慎重に、とりあえず先端だけ咥える。
「うっ!」
それだけでマサヒコは激しく反応する。
ちなみにマサヒコ、いつの間にやら服を脱ぎ終わっている。
「ひもひひひほ?」
コクコクと頷くマサヒコを見て、アイは行為を続ける。
経験はなくても知識だけは豊富なアイ。
カリのまわりを責めてみたり、裏筋に舌を這わせたりとなかなかの物。
まあ…そうは言っても、初めての事。
多少舌使いは拙い。が、
舐められるマサヒコも初めてと言って過言ではない経験。
一気に上り詰めてしまいそうになるが。
「先生ストップ!」
「ふぇ!?」
強引にアイを引き剥がす。
先ほどはアイが荒い息をついていたわけだが、立場は逆転。
「大丈夫マサヒコ君?」
さっきのお返しとばかりに、そう言ってマサヒコをからかうが。
「……」
「んむ!」
キスで口を塞がれる。
そしてキスをしたままアイを改めて押し倒す。
「ん〜!んん〜!!」
何やらアイが言いたげなのでキスをやめる。
「どうしました先生?」
「どうしたって……息できないし…」
なかなかかわいい事を言うアイにマサヒコは笑う。
「笑わない!」
頬を膨らませるアイを見て、マサヒコはさらに笑ってしまう。
「も〜!」
笑い続けるマサヒコに腹を立て、アイはぷいと顔を逸らしてしまう。
「すいません、笑いすぎました……あの、怒っちゃいましたか?」
「……」
「…すいませんでした」
一転、シュンとしてしまうマサヒコの様子に今度はアイが笑みを浮かべる。
「大丈夫だよ。怒ってないから。ね?だからそんな顔しないで」
そう言って微笑みかけると、マサヒコの表情が和らぐ。
「ねえ、マサヒコ君。その……そろそろ、ね?」
何を言いたいのか始め分からなかったマサヒコだが、もじもじと足を擦り合わせているのを見て、意図に気づく。
アイが望んでいる事、それは一つになる事。
頷いて了解の意を示し、モノをアイの中に侵入させる。
以前とは違い、すんなり根元まで入る。
濡れ方が十分だった事も影響するのだろう。
アイにも苦痛の様子も見られないのでマサヒコは動く事にする。
ただし、かなりゆっくりと。
アイを気遣う意味もあるが、何より。
先ほどまでのアイの行為のため激しくするとすぐにでも達してしまいそうなのだ。
ゆっくりと、アイの中を掻き混ぜるような腰の動き。
動くたびにアイは甘い声を上げ、マサヒコにしがみつく。
マサヒコはアイの首筋に顔を埋め、アイの温もりと匂いを感じていたのだが。
なんとなく、目の前にあった耳がおいしそうだったのだパクッといって見た。
その瞬間アイがマサヒコのモノを激しく締めつける。
達してしまいそうになったマサヒコ、唇を噛んでそれを堪えるが。
それほど長く持ちそうにない。
そう判断しそれまでのゆっくりした動きから激しい動きへ。
アイの中を激しく抉り、かき混ぜる。
「だめっ!…はげし――ーああぁ!!」
「くっ!」
マサヒコがアイの中から抜いた瞬間、ほとばしる熱い液体がアイのお腹を汚す。
「うわぁ…熱いね、これ」
「……」
何も言わず。
心地よい疲労を感じながらマサヒコはアイの上に倒れこんだ。
「じゃあ俺帰りますね。ご飯ごちそうさまでした」
「うん」
「シャワーもありがとうございました」
「うん」
「怪我してるんですからあんまり無茶しちゃだめですよ」
「うん」
「それから…え〜っと……」
困った様子でマサヒコは視線をさまよわせる。
結局、思ったままを言うことにする。
「あの…離してくれないと帰れないんですけど」
「…うん」
そう。
アイの手がマサヒコの服の裾を掴み、離してくれない。
「先生」
「…うん」
名残惜しそうに、アイの手が、離れる。
「それじゃあ先生、また明日」
「うん。気をつけて帰るのよ」
「大丈夫ですよ」
そう言って玄関で別れる。
見送っていたアイだが、マサヒコの姿はすぐに見えなくなってしまう。
悲しげにため息をつき、アイは部屋に戻った。
一方のマサヒコ。
マンションから少し離れた所でアイの部屋を見上げる。
ぽりぽりと頬をかき、はあとため息をついた。
「参ったなぁ…」
言葉とは裏腹に。
顔は笑っているマサヒコだった。
END