作品名 |
作者名 |
カップリング |
「見つめていたい」 |
弱味☆氏 |
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深夜零時十五分。とあるマンションのとある部屋の玄関が、勢いよく開けられた。
どどどどどどっ、というその足音の主は、リビングのドアを開ける、
というより蹴破るなり、中央のソファにぼすん、と倒れこんだ。
ヒップを後ろに突き出すような格好で、そのままずるずるとへたり込む。
目尻のつり上がった鋭角な瞳、描いたような眉に、尖った顎と赤みがかったロングヘア。
タイトスカートからのびたモデル並みの長い美脚と、くびれたウエスト、そして、
この歳になってもまだ成長を続けている乳房。
若田部アヤナ28歳の姿がそこにあった。
しばらくどろん、とした目で奥の部屋を見つめていたアヤナは、やおらソファから身を乗り出して、
肺の中の空気を全て使って声を張り上げた。
「ちょっとーーーーー!マサヒコくーーーーーん!お水ぅーーーーー!マサヒコぉーーーーー!」
仔犬が親を求めて鳴くように、奥の部屋に向かって叫び続ける。
「おーーーーーい!マサくーーーーーん!いないのぉーーーーー?」
「あーもー、騒ぐな騒ぐな」
奥のキッチンから、水の入ったグラスを持って、小久保マサヒコ28歳が姿を現した。
透けるような白い肌と、ガラス細工のような瞳、すっきり通った鼻筋、厚めの唇。
かつてアヤナをはじめ多くの女子を夢中にさせた美少年の面影は、今も色濃く残っている。
グラスを受け取ったアヤナは、コップ酒をあおるおやじのような勢いで、一気にそれを飲み干した。
「くわーっ、生き返るぅ」
台詞までおやじである。
「あーあ、生き返ったらお腹空いちゃった。マサヒコ君、ごはんごはん」
「はいはい、ちょっと待ってて」
今度は小学生の娘と父親のようであった。
アヤナがアメリカから帰ってきたのは20歳のときだから、今から8年前になる。
15歳のときの仲間は、銀行員という職業柄、全国各地を転々としている
リョーコ、故郷に戻って中学教師をしているアイ、高校に入学して間もなく、
父親の仕事の関係でフランスに行くことになってしまったミサキ、高校卒業と
ほぼ同時にできちゃった婚をして、現在は夫である元担任のところで暮らして
いるリンコと、東が丘に残っているのは唯一マサヒコだけという状況だった。
中村先生と豊田先生は未だに籍を入れていないらしい、とか、ミサキが旅立つ
直前にはわんわん泣かれて困った、という話をたびたび2人で逢ってしているうちに、
どちらからともなく、気づけばお互い「アヤナ」「マサヒコ君」と呼び合う仲になっていった。
その後東大を卒業して、大手製薬会社に勤めたものの、セクハラに抗議して半年で辞めたアヤナと、
大学時代から趣味で描きためていたイラストがある雑誌編集者の目に留まったことで、
内定していた就職先を蹴り、フリーのイラストレーターというものになる宣言をしてしまった
マサヒコが同棲を始めたのが4年前。両親にマサヒコとの関係を猛反対されたアヤナが、
ほとんど家出同然にマサヒコを巻き込んで始まった生活だった。
それからの4年間、転職先のごくごく小さな医療機器メーカーを、曲がりなりにも業界内で
Aクラスの評価を受けるまでに引っ張り上げたアヤナの働きで、マサヒコは生活してきた。
フリーといえば聞こえはいいが、知名度などないに等しいマサヒコには仕事など
ごくたまにしかないので、アヤナのヒモ同然である。
それでも、幾度もの挫折を乗り越え、何度かの誘惑を振り切って、朝早くから夜遅くまで働くアヤナのために、
慣れない主夫生活をしながら、あちこちに自分の描いたものを売り込むという地道な努力が報われたのか、
去年あたりからちらほらと仕事が舞い込むようになり、規模は小さいが選考のしっかりした新人賞をもらったことも手伝って、
小久保マサヒコの名は徐々に知られるようになって来ていた。
マサヒコの作った夕食を二人で食べる。付き合い出した頃にはよくマサヒコに
作ってあげていたアヤナの手料理も、最近は出番が全く無い。
代わりにマサヒコの料理の腕は飛躍的に上昇していた。今のアヤナが職場で
「カミソリ若田部」「鉄の女」などと陰口をたたかれるほどバリバリ仕事を
こなしているのも、主夫であるマサヒコが自分の体調管理をしっかり考えて
いてくれるからと、アヤナは信じている。
アヤナはマサヒコ作の鰤の照り焼きと、野菜のシチューをあっという間に平らげ、
ご飯も2杯おかわりをした。食後にゲップをしながら、干物のようにのびている
アヤナからは、顔さえ同じでなければ、かつてのお嬢様育ちの姿はとても想像できないけれど、
マサヒコはそんな今のアヤナが決して嫌いではない。
「アヤナ、ひざ立てて座るなよ。スカートの中が見えるぞ」
その言葉に、今まで死んだようになっていたアヤナがむっくりと起き上がった。美貌にぞくりと来るほど妖艶な笑みを浮かべている。
「スケベ」
「べ、別にそんな意味で言ったんじゃないよ」
あわてて食器を片付けようと立ち上がるマサヒコの背中に、アヤナが後ろから抱きついた。
むに、という豊かな胸の感触が、衣服を通り抜けて伝わってくる。
「食後のデザートに、マサヒコ君が食べたい」
「おいおい、それじゃ中村先生と言ってることが同じーーーーうぁっ!」
シャツの下から入り込んだアヤナの手が、マサヒコのわきの下をなぞった。
足の力が抜けて、その場に座り込んだマサヒコを、全体重をかけて押し倒す。
まだ何か言いたげなマサヒコの唇が、アヤナの唇でふさがれた。コロンの香りと、
アヤナの汗の匂いが、マサヒコの鼻腔を刺激してくる。見る間にマサヒコの唇が
アヤナの口紅と唾液でべとべとになっていく。貪る、という言葉がぴったり
はまるような接吻を何度も繰り返す。
こうなるとマサヒコにはもはや抵抗する素振りどころかむしろ逆の
感情が噴き出してきたらしく、アヤナの身体の下から、ブラウス越しに乳房に触れてくる。
あ……やっぱり、きもち、いい……
あくまでソフトな触れ方だったが、ここしばらく刺激を受けていなかったふくらみは敏感になっていた。
最近、またきつくなってきた気がするブラジャーの中で、乳首が正直に反応するのがわかる。
マサヒコが握る力を強めるたびに、アヤナの息遣いは荒くなっていく。
手という器官を多用して仕事をするせいか、マサヒコの手は普通の人より大きい。
その大きな手にちょうど収まる大きさのアヤナのふくらみ。マサヒコのためのあつらえ品なのかもしれない。
「あン……」
切なげな鳴き声を漏らして、アヤナの腕から力が抜ける。気合十分のマサヒコがアヤナの上にのしかかると、
アヤナは自分からブラウスとシャツのボタンをはずし始める。完全に脱ぐことをしないのは、その方がマサヒコが悦ぶからだ。
今度はマサヒコの方から唇を近づけてくる。反射的に吸い付き、熱い舌を貪る。漏れた吐息が耳に届く感触に、思わず太ももを擦り合わせる。
もうすぐ生理のはじまる女体は、アヤナ自身の予想をはるかにこえる敏感さを見せていた。
その変化をマサヒコは見逃さなかった。すでに膝の上20cmほどまくれ上がったタイトスカートのすそから手を入れたかと思うと、
マジシャンのような鮮やかな手つきで、一瞬でパンティとパンストをむしり取った。くるくると丸まった白いパンティの、股布の部分だけが晒されている様がいやらしかった。
と思う間もなく、
「ひぁっ……ん」
甘え鳴きが漏れた。マサヒコの長い指がアヤナの膣口をそろりと撫で上げたのだ。
医学的に言えば、女性の膣には神経が通っていないが、アヤナの全身には切ない電流が走った。
子宮の奥から、女蜜がとろとろとあふれ出てくるのがわかる。そのまま陰部を撫でこする
マサヒコの右手と、乳房をやわやわと揉みしだく左手に呼応するように、蜜の堤防が
臨界点を超えて決壊し、とめどなく女液がこぼれ出す。
「ふうっ!あふっ……マサ、ひこ、くふん………」
マサヒコ以外の男を知らない女体は、マサヒコの呼吸や鼓動にまで敏感な反応を見せる。
見る間にアヤナの股間は蜜にまみれ、全身は汗にまみれて、リビングの中に異様な
フェロモン濃度の空気が漂っていた。
いつの間にかマサヒコの顔はアヤナの陶器のような美脚の間に陣取り、
長い舌が卑猥な水音を立てている。
「やっ!…そんな、ぴちゃぴちゃって音たてちゃダメ……恥ずかしい……」
社会人でいる時の、どこに出ても恥ずかしくない女性像とは裏腹に、
マサヒコに求めるときは、初めて抱かれたときと変わらぬ反応を見せる。
それがマサヒコにはたまらなくいとおしかった。
「あっ、あン、嫌っ……」
アヤナの女体を知り尽くしているマサヒコの手と舌は、数分でアヤナを軽い高みへ導く。
そして、それだけでアヤナが満足するはずも無いことすら承知の上である。
「お願い、私、もう……」
マサヒコの指の間に自分の指を絡ませてくる。それがいつもの合図だった。
すでにいきり立つマサヒコのペニスを、熱いぬかるみへとあてがう。
瞳が涙に潤み、とろんとした視線がその部分に向けられる。
軽い抵抗とともに、マサヒコのペニスがぬかるみの奥へ侵入する。
マサヒコを見つめるアヤナの美貌が、見る間に甘く歪んでいく。
「あ……う……んん……マサヒコく……」
「ううっ………アヤナ……」
マサヒコの顔も同様に歪む。
両手をアヤナの背中にまわし、乳房に吸い付きながら腰をゆっくり突き上げる。
「あ……動いてる……私のなかで」
アヤナの細い腕がマサヒコの首に絡みつく。胸の谷間に顔をふさがれ、一瞬マサヒコは窒息しそうになる。陶酔の窒息だった。
さらに腰を動かし、膣内をかき混ぜるように動くと、膣肉がマサヒコのペニスを優しく撫でてくる。
お互いの存在を確かめ合うようにゆっくりと、しかしいやらしい腰つきで交わりあう。
マサヒコの途切れ途切れの呼吸が耳の後ろにかかるたびに、アヤナはマサヒコを強く抱き寄せる。
「はぁっ……大好き。マサヒコ君、大好き……」
アヤナも煩悶するように眉根を寄せながら、自ら腰をくいくいと動かしてくる。
きゅっと締まったウエストのラインが淫らにくねる。
「俺も……大好きだよ……」
「嬉しい……ううっ………あんっ」
ぬちょぴちゃという淫猥な音が下半身の方から聞こえてくる。
いやらしい部位でつながりあった感覚が、互いの性感をあおっていた。
それを合図にしたように、マサヒコの腰の動きが性急に、そして激しさを増す。
焼けた鉄のようになったマサヒコのペニスが、ぐちょぐちゃとアヤナをいたぶり、子宮口を突き上げる。頂点に達する瞬間が近づいていた。
「ああ、いきそう……ねえ、このまま……なかがいいのっ」
もはや理性というものはどこかへ消し飛んでいるのか、アヤナがメスの欲望を口にした。
絡ませたお互いの指先が、強く握り締められた。
「ううっ……アヤナっ!」
全身が炎に包まれたように熱くなる。アヤナの膣が引き締まり、睾丸がせり上がる。
「ああああああっ、!!!」
マサヒコのペニスの先端から、溶けたバターのような精液が、アヤナの子宮めがけて放出された。
マサヒコの尻が跳ね上がると同時に、アヤナの腰が沈む。膣内に射精されたのだ。
お互いの鼓動を心地よく耳にしながら、お互いを抱く手に、力を込めた。
アヤナの寝顔を見ていた。食欲と性欲の両方を満たした後の、満足げな寝顔が、今、マサヒコの目の前にある。
そういえば、こいつを好きになったのはいつからだっけ。
最初はそんなに好きでもなかったはずだ。綺麗な子だなという認識はあったけど、
すぐ殴るし、なにかと勝負を挑む性格だし、俺は嫌われていると思ってた。
なんだかんだ言っても楽しかった中学時代が終わって、アメリカ行っちゃえば、
もう逢うことも無いと思っていたのに、気がつけば、もう4年もこんな暮らしをしている。
アヤナはなんで俺と一緒にいるんだろう?
アヤナが眼を開けたら聞いてみようと思った。
(完)