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264氏 |
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…あの日から数日。
私の足の調子は、だいぶ回復してきた。
でも、まだ足首を強く曲げようとすると激痛が走る。
…この痛みで、私はある事を思いだすのだ。
怪我をしたあの日―。
私は、小久保君に抱きかかえられて帰宅した。
そして…彼と別れた後、私は濱中先生と恋敵になる誓いをたてた。
…そして、そんな事を知る訳も無く、
怪我をした翌日も、小久保君は私のお見舞いに来てくれた。
…天野さんやお姉様達も一緒に。
「早く治して、また一緒に勉強しような」
…帰り際の彼の笑顔や言葉が、目を閉じる度にリフレインする。
「……ふぅ…」
煮え切らない思いがつのり、自然とため息がこぼれ落ちた。
窓から望む景色は、外で降り続く雨で歪んだ車の照明しか確認できない。
もう夜中の1時だというのに、私はなかなか寝付けなかった。
ザアザアと雨の降る音がとても耳障り。
所々で雷鳴が鳴り響き、その都度心臓が飛び出しそうになる。
……でも、今の天気はどこか今の私の心中と似通っていると思うと、親近感が湧いてきた。
何をするでもなく、机の上に置いていた茶色の日記帳を開く。
――書いてあるのは、小久保君の事ばかり。
笑った顔や冷めた顔。
ページをめくり、目を通わせると、それらが浮かび上がっては消えていく。
「…はぁ……」
私は、再びため息を吐いた。
窓に当たった息が、白い煙のような水滴の集まりをガラスに作っている。
「……ん」
何故か、指が勝手に動きだす。
先端が、やけにヒンヤリして気持ちが良い。
曇った部分が、人差し指で徐々に減っていく。
「……あ…」
無意識に書かれた落書き、それは―――。
窓ガラスに私のパジャマ姿が投影される。
顔はトマトみたいに赤く、気のせいか少し挙動不審だった。
「…あ…消えちゃった…」
落書きの方を見返すと、水滴が既に幾分か滴り落ち、もう原型を留めていない。
…空虚だ。そう、私は感じた。
ポッカリ空いた穴がギュッと締まり、狂おしいほど私を苦しめる。
埋められる物は分かっているのだけれど…。
「……きゃあっ!?」
不意に、物凄い轟音と閃光が私を襲った。
目を瞑って、恐怖に耐える。
…どうやら、近くに落ちたようだ。
窓に目を向けると、先ほどよりも雨は強くなっていた。
「…明日は……晴れるかしら…」
見上げた先にある、照る照る坊主と相談。
「きっと‥晴れるよ!!」
‥そう微笑みかけてきたような気がした。
……明日は、小久保君とお姉様の家にワインを届けに行く約束をしている。
だから、なんとしても私達を見守る空は、爽やかな青空であって欲しい。
残された時間は、後僅か。
余裕なんて言葉は、そこに存在しない。
「………いいわ、止むまで待ってあげる…」
私は、勉強机から運んできたイスに座り、窓枠に肘をかけた。
「…小久保君と…楽しみ……」
そんな事を言って、漆黒の空に微笑みかけた。
降り止む気配の無い雨を見つめながら、私は考えることにする。
……これから始まる過酷な闘いの日々の事を。