作品名 作者名 カップリング
「DAY DREAM〜アイ誤解編〜」 264氏 -

 「あっついなぁ…」
さんさんと照りつける太陽。
 アスファルトから反射される熱が、景色を歪める。
ハンカチで顔を拭うと、あっという間に汗で湿ってしまった。
(もう少し歩けば…冷たい部屋でゆっくりできる)
それだけが、心の支えだった。
「ふぅ‥やっと着いた…」
汗まみれのアイの顔に安堵感がみなぎる。
「こんにちは〜」
アイの声に合わせて、ドアが開いた。
だが、アイが待望していた冷風はやってこない。出てきたのは夏特有の空気。
 例えるなら、炎天下の中に放置していた車内のそれである。
「うぇっ…!?」
暑さと予想を裏切られたショックに、思わず顔を背けてしまう。
「どうも先生、ごめんなさいねぇ…。一階のクーラーが壊れてて。
でも、マサヒコの部屋は大丈夫だから気にしないでね?」
団扇を仰ぎながら、マサヒコママが出迎える。
服装は、以前雨の日に借りた覚えのあるチューブトップと短パン。
スタイルが良く、顔のレベルの高い彼女だからだろう。見てくれは20代そこらに見える。
「あ〜そうそう、先にミサキちゃん達がマサヒコの部屋に上がってるから。
 あと、おやつ先に出しちゃったから、先生の分は後で持って来るわね」


「は〜い♪」
靴を脱ぐと、アイはいつもの階段を駆け上がる。
(今日のおやつは何だろなぁ?こんな暑い日だから、当然冷たいやつよね…)
考えただけで、よだれがじわ〜りと出てくる。
アイが階段を半分登った頃、マサヒコ達の騒ぐ声が聞こえてきた。
(ふふっ…。なんだかんだ言って、あの子達も子供ね♪)
いつもなら、そのまま部屋に入るのだが、その楽しそうな声が一種の清涼剤となり
アイはドアの前で彼らの会話を楽しむことにした。

「…なぁ、ミサキはどこにかけてほしい?」
「マサ君の好きな所でいいよ?」
「そうか…。的山はどうする?」
「じゃあ‥ここ!!いっぱいかけてね♪」
 「わかったわかった。よし!出すぞ」
『びゅるっ‥びちゃ』
「わ〜い♪小久保君ありがと〜」
「うーん‥なんか出が悪いなぁ…。まあ、いいや。次はミサキだな」
「あっ…。出ないならいいよ?無理しないで」
「そんなこと言うなって‥。美味しいぞ…きっと」
「ん〜‥マサ君がそこまで言うなら」
「よーし…あれ?出ないや」
「私…手伝うよ」
「!?バカっ!そんな強く握ったら…」
『どぴゅっ‥べちゃあ』
「…きゃあ!?」
「だ、大丈夫か!?今ティッシュ持って来るから」

「あはは♪ミサキちゃん、顔真っ白だよ」
「…何か気持ち悪い」
「悪い悪い、ほら‥これで顔拭いて」
「うん…あれ?髪にこびりついて取れないよ」

(ま、ま、ま、ま、マサヒコ君!?一体、何て事をしてるのかしら!?
中学生で3P?顔射?早すぎよぉ…。もう少しプラトニックに出来ないの!?
 ………あれ?私、ミサキちゃんとリンコちゃんに負けた?
私だけ処女?えっ…嘘でしょ?冗談よね?まさか…)
扉の向こうで行われている痴態に、気が動転し思考が混乱するアイ。

「あ〜。先生の分残ってるかな?」
(えっ…!?マサヒコ君たら、ミサキちゃん達に飽き足らず私にまで?
そんな…初体験が4Pなんて‥しかも飲まないといけないの?
とろろならいけるけど‥自信ないなぁ…。
 でも、マサヒコ君のなら飲めるかも…。
 きゃっ!?私ったらな、何言ってるの!?) 恥ずかしさの余り、顔を手で覆い座り込むアイ。覆い隠した顔は、耳まで真っ赤に染まっていた。
「どうしよう…帰ったら職務放棄だし、入ったら4Pだし‥誰か助けてよぅ…」
アイは階段に腰掛け、ブツブツと小声で独り言を呟く。

「あら?先生そんなとこいて何してるの?」
「お、お母さん!?」
アイの分のおやつを手に持って、マサヒコママが階段に姿をあらわす。
「だ、ダメェ〜!!お母さん上がらないで下さい!!」
(い、今お母さんが来たら、4Pが5Pになっちゃう!!
 マサヒコ君の為、私の為にもここは!!!)
アイは突然両手を開き、マサヒコママをとおせんぼする。
 「やっだぁ〜。もう、先生たら冗談のつもり?」
確かに、いきなりとおせんぼされた方には、冗談にしか見えない光景。
しかし、当のアイは必死でマサヒコママに立ちふさがる。
「あら?本気みたいね…。この私を止めることができるかしら?」
マサヒコママの目が、ギランと輝く。
「とぉっ!」
「!?そうは…いきませんよ!!」
まるでバスケット―。
シューターとディフェンダーのボールの奪い合い。
ゴール下ならぬマサヒコの部屋の下でのせめぎ合い、といったところか。
「ハア‥ハア…なかなかやるわね」
「絶対に‥ハア…いかせません」
互いに久々の運動のせいか、それとも暑さのせいか、呼吸が乱れている。
額には汗が光り、髪型は崩れ、周囲には女性特有の汗ばんだ時の匂いが立ち込める。


「…先生も疲れたでしょう?」
「…はい」
「なら、次で決着をつけましょう…」
ただならぬ雰囲気―。それは、先に動いた方が負けることを暗示していた。

ザッ!!

先に動いたのはマサヒコママの方だった。道を塞ぐアイの体を、フェイントで軽やかにかわす。
「どう?これが年の功ってヤツよ♪」
そう言って、マサヒコの部屋へと走って向かう。
(…まだよ!走れば間に合うわ!)
限界に近い体に鞭打って、アイはマサヒコママの後を追う。
 しかし、後一歩遅かった。
―頬を撫でる冷たい風。それはアイの敗北を意味していた。
(間に合わなかった…私の初体験は5Pなのね…)
涙を浮かべ、がくりとうなだれながら部屋に入る。
「先生も来てたんですか?暑かったでしょう?
 おやつはかき氷だから、溶けないうちに食べた方がいいですよ」
 マサヒコが温かく迎える。

かき氷!?

その一言でアイが顔を上げる。
「練乳はさっき色々あって…ほとんど無いですけど」
「小久保君ったら、ミサキちゃんの顔にかけちゃったんだよ!」
「うるせー!うるせー!」
「なんだ…そうだったんだぁ」
リンコとマサヒコのやり取りを聞きながら、やっと自分の誤解に気づいたアイ。

イチゴ色した氷山にさっそく食らいつく。
 「やっぱり、暑い日にはこれかスイカよねぇ♪」
 先ほどまでの落胆はどこへやら。ニコニコしながらスプーンを運ぶ。
「いい食べっぷりねぇ…。作ったかいがあるってもんよ」
小久保家の女傑が声を出して喜ぶ。
「ハハ…そうだ先生?何で、さっき私が部屋に入ろうとした時、必死に止めようとしたの?」
確信を突く質問。思わずスプーンが落ちる。
 「母さん、どういうこと?」
マサヒコが母親に尋ねる。ミサキやリンコも気になるようで、同じく首を縦に降る。
「だから…」
マサヒコママが三人に事のいきさつを話すと、三人の目がアイに向けられた。
「え〜と…あの、その…うーん」
(練乳をかけてたのと、顔射を聞き間違えたなんて言えるわけないじゃない!!)
 アイが一瞬目を逸らす。再び目線を戻すと、冷たい三人の目といつもの目。
「何考えてんだよ…アンタ」
「先生…流石に私もそこまでの想像力は無いわ」
「ま、マサ君と私はそんなことしてません!!」
「ねぇねぇ…ガンシャって何?」
どうやら、思っていた事を口に出してしまっていたらしい。
「あ、あの?今のは冗…」
アイはおそるおそる口を開くが、既に通じる空気ではない。


結局、アイはその後マサヒコとミサキに必死で謝ったら、
 怒ったミサキに無言で練乳をかけられて顔射されたと泣き出したとか。
とにかく、小久保家は今日も賑やかになりそうだ。

おしまい。

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