作品名 |
作者名 |
カップリング |
『星に願いを』 |
264氏 |
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今日はカテキョの日。
小久保家にはマサヒコ、アイ、リンコ、リョーコの姿。そして、ミサキとアヤナの2人もいた。
流石に試験前、マサヒコの部屋に緊迫した雰囲気が漂う。
(今日は何事も無く終わりそうだ‥平穏バンザイ)
しかし、その予想はジェンガのように脆くも崩れ去った。
「マサヒコ君、今日は何の日?」
アイが唐突に尋ねる。
「?えっと…7月7日ですけど」
「だ・か・ら!!何の日?」
机をバシバシ叩いてマサヒコを威嚇。
だが、顔はふくれっ面。怖さ半減、可愛さ二倍増し状態。
「??浴衣の日ですけど‥」
※ちなみにマジです。
どこでそんなマニアックな記念日を…。ええい!最近の中学生は化け物かっ!
マサヒコのすっとんきょんな解答に、一同唖然。
「もう!そうじゃなくて」
一種のじらしプレイにも見える光景に、リョーコ失笑。口を必死で押さえている。
「???…ああ、七夕ですか」
やっとのことで、アイの望む答えを導き出したマサヒコ。
アイは安堵の表情を浮かべたが、再び厳しい(?)顔に戻る。
「そうよ!!なので、これから短冊を書こうと思います!」
「試験前なのに何で…」
アイの指先がマサヒコの目の前に突きつけられる。
「男は四の五の言わない!ロマンの無い人は嫌われるわよ!」
「そうだよ小久保くん。そんな事言ってたら、将来大学でヘンなサークルの代表になって
逮捕されちゃうよ?」
「ハイハイ。俺には遅稲田に入るほどの学力はねぇよ」
「いいんじゃない?丁度息抜きしたかったし…。若田部さんは?」
「わ、私は…お姉様がやるのなら」
「んじゃキマリね。アイ?」
リョーコがそう言うと、アイは鞄から短冊を取り出す。
(また、授業が脱線していく…)
大きなため息をつくマサヒコ。断りたいのに断れない。ああ、悲しきかな己の性。
「一人二枚ずつで、片方は今度の試験の目標を。
もう片方には、叶えたい事を書いてね。」
マサヒコの前に、色鮮やかな和紙が広がる。一枚取ろうとしたその時、
「そういえば先生、笹の木はどうするんですか?」
リンコらしからぬ鋭い質問。アイは口を開けて固まる。図星だったようだ。
「ふっふっふ…ぬかったようねアイ」
リョーコの不敵な笑いが部屋にこだまする。
と同時に、言い知れない不安が襲う。
マサヒコの背に滝のような汗。喉が水分を欲しがる。
マサヒコは、残っていたジュースを一気に飲み干した。
「なんと!マサのお母様に無理言って買って来て貰いましたぁ♪」
「あんた、人ん家の母親に何頼んでんだぁ〜〜〜!!」
「まあまあ、とりあえず書きましょう‥ね?」
マサヒコをなだめるアヤナ。意外と乗り気だ。
マサヒコは仕方なく筆を執ることにした。
数分後…
「みんな書けた?」
アイの質問に頷く一同。
外に出て各々短冊を笹の木にくくりつける。空はいつの間にか赤く染まっていた。
「マサヒコ君は何お願いした?」
「先生が先に言ったら、言いますよ」
そう言われて、少し顔を赤らめるアイ。
「どうしても?」
上目遣いでマサヒコの顔を伺う。マサヒコは無言で頷く。
「ワタシは…黄金鷲のチャレンジメニューを食べきること‥かな」
「叶いますよ‥先生なら絶対」
「マサヒコ君は?」
「やだなぁ先生、願いは簡単に口に出さない方が叶うんですよ」
そう言って微笑むマサヒコ。しかし、アイは納得がいかない。
「そんなの卑怯よ!」
「なら、言わなきゃよかったのに」
「ぐっ…そ、それは」
もっともな事を言われ、たじろぐアイ。
「みゅぅ…そうだ!ミサキちゃんは?」
「秘密です♪」
「うっ‥り、リンコちゃんは?」
「叶えたいから言わないもん!」
「あぅぅ…アヤナちゃんは?」
「言うと思いますか?」
「せ、せんぱ〜い」
「アイ、あんたバカ?」
自分だけ願いを打ち明けた恥ずかしさのあまりに泣き出すアイ。
「うっ‥うえ〜ん‥みんなヒドいよ…」
「まあまあ先生、部屋に戻ったらケーキあげますから」
アイの心の雨雲に光が差し込んでいく。
「ホント?」
「ええ、さあ行きましょう」
手を伸ばし、座り込んでいたアイの手を引く。
(えっ!!?)
思わず、ぼ〜っとするアイ。
「どうしたんですか?」
心配そうな目でアイを見つめるマサヒコ。
「な、何でもないヨ!!」
「…ならよかった。先生も急いで、みんなもう部屋に行っちゃいましたよ?」
「う‥うん♪」
元気よく立ち上がり、庭を後にする。
―いつだって優しい目や仕草。彼を好きになったのは、もういつのことだろう?
それにしても、マサヒコ君の言ってたことホントだ…
言わなきゃ叶うんだね…それとも偶然かな?
ううん、偶然じゃないよね。こうして出会えたのも運命だもの―
マサヒコに手を引かれ、家に入るアイ。その顔は何とも言えないほど幸せそうだった。
夏風が笹の木を揺らす。柔らかな風に揺れる、みんなの願い。
そこに一際大きく、丁寧な文字で書かれた短冊が一枚。
『マサヒコ君が私の気持ちに気付いてくれますように。』
…あなたの願いは何ですか?
おしまい。