作品名 作者名 カップリング
『初夏の衝動』前編 264氏 -

 初夏の日差しが容赦なく照りつける―そんなある土曜の昼下がり
「おじゃましま〜す」
「悪いな、まあ上がって俺の部屋で待ってて。何か冷たいもの持ってくるから」
「うん」
靴を脱ぎミサキは二階へ登る。マサママは定例集会らしい。
(やっぱり、二人きりだと緊張しちゃうなぁ…でも、前よりは進歩してるよね、私)
 誰もいないマサヒコの部屋は思いのほか静かで、ミサキは自分の心臓のが脈打っているのが聞こえた。呼吸をする度に"男"の香りがする―それだけでミサキの体は汗ばんだ。

ガチャッ。
ドアが突然開いた。いや、正確に言えばミサキがトランスしていて分からなかっただけだが、マサヒコがいきなり入って来たので、ミサキはたじろいでしまった。
「おまたせ。はい麦茶」
マサヒコが麦茶を手渡す。
「あっ…うん、ありがと」
ミサキが手を伸ばすと、ふいにマサヒコの手に触れた。
(あっ…)
ドクン。胸の高鳴る音、顔が赤くなっていくのが自分でも分かった。ミサキは焦りを紛らわせるため、マサヒコの手から麦茶を奪い取り、そのまま一気。―むせた。


「おいおい…大丈夫か?そんなに喉渇いてるなら、俺のもやるよ」
マサヒコ鈍っ。
「コホッコホッ…い、いいのマサ君。ホントいいから」
「そうか?まあ、いいや。これ飲んだら父さんの仕事部屋に行こう。先生達は4時頃来るから急がないと」
「そうだね…(小声で)先生達来なきゃいいのに…」
「?何か言った?」
「べべべ別に!?何も言ってないヨ?」
「??そうか」
(ミサキ、今日おかしいな…)
そう言って麦茶をサッと飲み干す。
二人はマサパパの部屋に入ると、マサヒコは椅子を用意し、ミサキはパソコンの電源をつけた。
「あれ?椅子ひとつしか無いや」
「いいよ。私立っとくから」
「いや、それはお前に悪いよ。俺部屋から取ってくる。先やっといて」
そう言い残して部屋から出るマサヒコ。パソコンが起動し、ミサキが画面に目を向ける。次の瞬間、彼女は目が点になった。見たことの無いアイコンが自己主張していた。
「大好きっコお兄…ちゃん?何コレ?」

「ふぅ…結構重いな、椅子って…おーい天野?」
 部屋に入ると少年は少女から発せられるプレッシャーに体中の穴から汗が吹き出した。
「ねぇ…マサ君、コレ何?」
穏やかな表情で画面を指差すミサキ。
「えっ…何?」
(何かマズいもんでもあったのか?)
近づき指差す箇所を覗く。凍りつくマサヒコ。目にはうっすらと涙が光る。
(インストールしちゃったのかよ…)

数日前、アイ先生に1ヶ月早めの誕生日プレゼントを貰った。俺がゲームを貸さなかったら、きっとあんなもの買ってこなかっただろう。貰ってすぐ投げたが、投げた場所が悪かった…

(まさか…冗談キツいぜ…)
マサヒコ、脳内で数人の自分と会議スタート。しかし、少女の「マサ君?」の言葉と殺気が彼を現実へ引き戻す。
「う‥うわっ、えーとその‥知らない!分からない!全然!いやマジで!」
「ホントに?」
ドスの効いた声。彼女のオーラが部屋を埋め尽くす。思わずツバを飲み込むマサヒコ。
(今ヘタな言い訳したら、死ぬな…俺)
マサピューター速攻の判断。そして、恐る恐る真実を話すことにした。

「ふぅん‥それならそう言ってくれれば良かったのに」
少女のオーラが弱まる。
「いや、うんゴメン」(無理だよ無理‥無理無理)
「まあ、いいや。早く宿題調べないと」
「!?あっ…そうだな…なぁクーラーつけていいか?この部屋暑くてさ、汗かいてきた」
「?別にいいけど」
(それにしても、このゲームどんなのだろう?まだ時間あるし…いいよね?)
思春期の冒険心は恐ろしい。マサヒコがエアコンの操作をしている間にミサキはダブルクリック。ゲームスタート、同時に運命の歯車大回転。
突如として部屋に響く明るい音楽。驚いて振り向くマサヒコ。
「何だ?…って何してんだオマエ!!!」
マサ絶叫。ミサキはおずおずとしながら
「何か面白そうだったから…ねぇ‥ダメ?」
ここでダメだと言えるほどマサヒコは強くは無かった。マサヒコ大きくため息。目を輝かせて画面に向かうミサキ。それとは対照的にうなだれるマサヒコ。そんな状態が続いた。
(コイツ…だいぶメガネに毒されてきたな…まあ、いいや‥どうせ止めても無駄だろうし、すぐ「卑猥よ!!」って言って止めるだろうし)
再びため息をつき、マサヒコはパソコンを見やる。ちょうど設定確認画面だったようだ。

[主人公]マサヒコ   [妹]ミサキ
[友人1]リンコ    [友人2]アヤナ
・・・[決定]
(おいおい、知り合いの名前を入れるなよ…って)
「オレを主人公にすんなぁァァ〜!!!」
「決定っと」
ミサキは無視してゲームを進める。マサヒコは口をあんぐりと開け固まってしまった。
「へぇ‥もっといやらしいものだと思ったけど、普通のゲームみたい…あっ、この妹の子‥私そっくり」
(マサちゃんが私を見る感じもこうなのかな…)
少し顔を赤らめながらも黙々と進めるミサキ。部屋にはマウスの音と室外機の音、そしてゲームの音声しかしない。マサヒコも観念し、ミサキの隣で画面をもじもじしながら見ている。立場逆じゃないか?普通‥
物語はスムーズに進み、案の定ゲーム上のマサヒコはミサキとの禁断の関係へと進んでいった。

* * * * * * * * * * * *
【限界だった。ミサキは、俺の中でただの妹から女へと変わってしまっていた。今までは兄妹だからーと、かろうじて理性を保っていたが、その理性を黒い欲望が少しづつ蝕んでいった。】
『お兄ちゃん?どうしたの?オナカ痛いのかなぁ‥』
【ミサキがうずくまる俺に、心配そうな目をして話しかけてくる。無垢な瞳が俺の最後の理性を吹き飛ばした。】
『……ミサキィィ!!!!』
【俺は力の限りミサキを抱きしめた。ミサキは突然の事に目を白黒させている。】
『お、お兄ちゃん!?どうしたの‥急に?私…恥ずかしいよぅ』
『…大丈夫だよ。これから、もっと恥ずかしい事をするんだから‥』
『えっ?』
【言葉の意味をようやく理解し、ミサキの顔は火を吹いたように真っ赤になった。】

『お前が欲しいんだ‥一つになりたいんだ、駄目か?』
『だっ‥ダメだよ、私達‥兄妹なんだよ?そんなことしちゃいけないんだよ?』
【戸惑いながら答えるミサキ。体は震え、目には涙をためている。俺は両手をミサキの白い頬にやった。】
『お兄ちゃんがキライなのか?いけない事だとは分かっているんだ。それでも、俺はお前が好きなんだ、愛しいんだ…もう‥抑えきれないんだ…』
【突然の兄の告白にためていた涙がこぼれ落ちる】
『私もお兄ちゃんのことは好きだよ…でもっ!?』
【我慢しきれず、俺はミサキの唇を塞いだ。ミサキは抵抗のそぶりを見せるが所詮男と女、力の差が違う。唇から伝わる柔らかい感触が心地よい。舌を入れてみる―ミサキが嫌々ながらも舌を絡めてくる。その度に淫靡な音が響きあった…】

* * * * * * * * * * * *
 パソコンの前では二人の男女が息を飲んでいた。
(うわっ…マジかよ)
マサヒコは目の前の羞恥に少し気分を悪くしていた。ミサキの方は、先ほどよりも顔が赤い。マウスを押す音も気のせいか強くなっている。
二次元とはいえ、一組の男女が淫らな行為を目の前でしている―マサヒコの心の興奮の種が芽吹く。そして、それは自己主張するかのように少年の体に働きかける。
(やべっ…勃ってきた)
こんなところを見られたら、ミサキに殺されてしまう。どうにか悟られまいと、コッソリ位置を変えるマサヒコ。なんとか成功し、一息吐いたところでミサキがつぶやいた。

「マサ君も‥こういうことしたいの?」
突然の言葉にマサピューター、フリーズ。
「!!?い‥いや、別に?」
…声がキョドってるぜ、マサヒコ。
「ふ〜ん‥じゃあ、なんで今ズボンに手を突っ込んだのカナ?」
(神様‥見抜かれてました)
焦りと緊張の余り、鼓動が激しくなるマサヒコ。

だが、鼓動が激しいのはもう一人の方も同じだった。いつの間にか息が荒い。それに、クーラーが付いているのに少し汗ばんでいる。怯えながらミサキを見て、それに気づく。そして、自らの生命の危機に少年は何かいい言い訳をしようとしたが、こんな時に限って浮かばない。

あたふたしているマサヒコを見て、ミサキが口を開いた。
「私は‥しても…いいよ?…マサちゃんがしたいなら…」
「!!?!!?なっ…」
想定の範囲外の一言にマサヒコがたじろぐ。そして、脳内会議再び。
『なっ…何を言ってんだ?』
『何って、ナニだろ』
『…とりあえず、この空気どうにかしないか?』
『『賛成!!』』
―脳内会議終了。
「なぁ‥お前何か悪い物でも食べたか?とりあえず落ち着けって」
冷静を装い、苦笑いしながらミサキを諭そうとする。しかし、ミサキの目は至って真剣だった。
「私は‥私はマサちゃんが好きなの…欲しいの!世界中の誰よりずっと…ねぇ、ちっちゃかった頃の約束覚えてる?私‥マサちゃんのお嫁さんになるって言ったの…ずっと‥覚えてたんだから」
「ミ、ミサキ…」
「マサちゃんは私がキライなの?」
「キ、キライじゃないけど…むぐっ!?」
ミサキはそれ以上我慢できなかったのか、ゲーム上の二人のように―立場は逆だが―マサヒコの唇を塞ぐ。
「んっ‥んぐ」
(ミ、ミサキ何を…あれ?コイツ‥泣いてる?)


マサヒコは一旦ミサキを離し、落ち着いた口調で話しかけた。
「ミサキ‥本当に俺なんかでいいのか?」
「うん‥むしろ…マサちゃんじゃなきゃイヤなのっ」
涙声混じりで答えるミサキ。マサヒコもこれ以上聞こうとは思わなかった。
「…わかった。でも、ここじゃ後々大変だから俺の部屋に行こう」
「うん‥」
半泣きの少女は小さくうなずいた。
マサヒコはミサキを自分の部屋に待たせ、パソコンの電源、クーラーを消し、椅子を片づけた。

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