作品名 作者名 カップリング
「中村的課外授業」 160氏 -

夏合宿も終わり、新学期の訪れも近くなってきたやけに日差しが厳しい日のこと。
「まったく…。 セミってヤツはなんであんなに鳴いてばかりいるんだか……」
マサヒコは、口に出せば鳴き止む訳でも無いことを分ってはいるのだが、ついつい愚痴を口にしながら
歩き続けていた。 あまり外には出歩かないように見えるマサヒコが午前中から歩き回っているのは
夏休みの宿題のひとつ、読書感想文用に課題図書を買いに行くためなのだが、その課題図書が
「『エロイカより愛をこめて』の創りかた」って言うのは男子的にはいかがなものなのかと、こちらは
至極真っ当な不満を抱えるのは仕方の無い事であろう。
「くそ、こんな課題図書決めたアホはどこのどいつだ」
午前中に回ってみた店では既に在庫が無く、仕方が無いなと昼飯にカレーを食べたのも失敗で
駅の反対側にある大型図書店に向かい始めたところ、すぐに汗が噴き出してきて、ワンショルダーのバッグを
体に掛けていることもあり、着ているTシャツは体に密着しようとしていた。

暑さでイライラが募り大股で歩くマサヒコにその呼び声は突然掛けられた。
「おニイさん、おニイさん! 今夜ヒマなら来てみない? 私みたいなカワイイ娘ばっかりよ〜!」
おいおいちょっと待ってくれよ、と思う。 いくらなんでも中学生をキャバクラに誘うのはどうなんだ、
と声を掛けられた方向に振り向いたマサヒコの視界に入ったのは、キャバ嬢ではないが、ある意味
キャバ嬢より恐ろしいとも言える、メガネをキラリと光らせた中村リョーコだった。
一瞬だけ振り向いたマサヒコだったがすぐに何事もなかったかのようにリョーコを無視して、歩き始め……
「こるぁ! マサ! 人が恥ずかしいの我慢してネタ降ってんのに、無視かよアンタ?」
いきなり前に立ちはだかり、マサヒコに向け人差し指を『ビシィッ!』と指すリョーコ。
周りの雑踏は、リョーコの声で雑踏より上の『観衆』に変貌しようとしているのがマサヒコには分る。
「いやいや。 つーか、先生別に恥ずかしいってキャラじゃないでしょ。 で、学校から怪しい人と話しちゃ
いけません。 って注意されているし。 ではこれで」
無表情のままシュタッ!と片手を上げ立ち去ろうとするマサヒコ。 だが『この人とは関わりたくない』
オーラを受けると、更に困らせてやりたくなるのが、痴 j o・・・じゃない素敵な大人の嗜みだ。



「ふ…、アタシはマサを困らせるためなら、大抵のことはするわ。 今ここで、地面に転がっておもむろに
アナルビーズを取り出してみせる……って言うコースではいかが?」
以前、スーパーの中でもゴロゴロと転がってマサヒコをドン引きさせた女、リョーコだ。 この人の羞恥心の
限界レベルが、はるか遠い山の頂よりも上にあることは、既に今までの言動からも分っている。
「はいはい。 んで俺はどうすればいいんですか? つかアナルビーズってなんだよ。 入れてんのかよ。
いや俺、子供だから分んねえよ」
結局、リョーコに対抗するレベルにまでは達していないか、と諦めの境地に辿り着くマサヒコだった。

『んじゃ、マサ、付いて来な』とリョーコに言われ、喫茶店で冷たいモノでも奢ってもらえるのかと思ったマサヒコだったが
二人が行き着いたのは、一応は日陰なのだが駅前通りの街路樹沿いに設置されている木製ベンチの一つで、
スカッとしたモノを飲みたかったにも関わらず、暑さのため自販機は売り切れ続出で二人が手にする事が出来たのは
紙パック入りの牛乳と言う非常にビミョーなシチュエーションである。
「まったく、あんな所で転がるって言われちゃ、相手してあげるしかないじゃないっすか」
「しかも先生の場合、ホントにやるって分ってるから始末におえないし」
「いや、マサ。 いくらアタシでもそんな公開羞恥プレイは……」
「つか、本当に銀行に就職決まった人ですか?」
諦めの境地に辿り着いたマサヒコだが、それでもリョーコにツッコミを入れ続けているのは、紙パックの牛乳では
癒す事の出来ない暑さゆえのことなのか。
「ちぇ〜、なんだよぅ。 結局付いて来たにしてははノリが悪いじゃないアンタ。 ほら、それ温くなっちゃうわよ」
ベンチに体を預け、だるそうに話すリョーコ。 こちらも実のところは、暑さに参っていたようだ。
「俺はコーラか何か飲みたかったのに牛乳じゃ……。 しかも乳脂肪分4.7ってなんですか?嫌がらせですか?」
「アンタ、奢って貰ってるわりにはごちゃごちゃうるさいわね。 アタシだってお金があれば喫茶店くらい連れて行くっつの。
マサがムスッとした顔して歩いているから、心配して声掛けてやったのに」
「へいへい。 是非、お金がある時に声掛けて欲しかったっすね」
「やだ、マサってば本当に今日はご機嫌斜めなのね。 でも、アタシ的には準ヒキコモリにしかみえないマサがなんで
こんなところ歩いていたのよ?」


準ヒキコモリは余計だ、と思ったがどうやら心配してくれているようだし、これ以上リョーコにツッコミを続けるんじゃ
本当のガキンチョだ、と冷静になったマサヒコ。 まあ、中村先生も今日はなんか気を使ってくれてるみたいだし、
少し話してから本屋に向かうのも良いか。 と、ようやくリョーコに事の次第を話し始めることにした。

「いや、宿題の読書感想文なんですけど。 課題図書がなかなか見つからなくて。 東口の本屋に行って探してみよ
うかと思って」
けだるそうにしていたリョーコだったが、読書感想文のことを話すと、一応は自分の領分にも関係してくると思ったのか
体をベンチから起こす。
「感想文? 課題図書ってどんな本なのよ?」
リョーコの問いに胸糞悪い課題図書の題名を挙げると、そこには意外な返答が返ってきた。
「あ? その本ならウチにあるわよ。 と言うか、なかなかヤるわね。 その課題図書の選定」
「そうなんですか? 俺には嫌がらせとしか思えないんですけど」
「バカね。 いかにもって言う様な名著なんか課題として出されるよりは、そういった本の方が読み始めると面白いし
本来の購読層じゃない中学生ならではの感想なんか出るわで、採点し易いものなんだわ。 これが」
マサヒコとしてはイマイチ納得のいかない説明なのだが、このクソ暑い中、遠くの本屋まで行かなくても良さそうな感じ
が出て来たわけで、早速お願いしてみる。
「えーと、その本、貸してもらっても良いでしょうか? 中村先生」
「…… …」
マサヒコの言葉にリョーコがいきなり黙り込んだため、『あれ? なんか俺地雷踏んだ? つか、あんだけツッコミ入れた後
じゃムシが良すぎたかな』とマサヒコは思ったのだが、リョーコは全く別の計算と言うか悪巧みをしていたのであった。
「マサ。 今、アンタお金どれくらい持ってる?」
うわ、いきなりお金ですか、と思ったが運の悪い事に、ママンから来月分の小遣いを既にもらっており尚且つ、課題図書の
お金ももらっているため、ゲームソフト一本を買うくらいのお金は持っている。
「ちょ、中村先生。 生徒からお金取るんですか? 持ってるっつっても中学生レベルっすよ?」


「いや、アタシ今月まだバイト代出てなくて、金欠状態なんだわ。 それに全額マサに出させるわけじゃなし、ちょっと援助して
くれれば良いからさ」
ちょっと援助……って、またそういう誤解を招くような発言を……。 アンタはどこかの出会い系女子高生かっつの!
と言うツッコミを入れたかったマサヒコだったが、引きずられるように駅の近くの総合スーパーのようなところに連れて行かれる
ハメになるに及んで、リョーコに問い返さずにはいられない状況となった。

「あの?中村先生? なんで俺は先生と一緒に水着売場に居るんでしょうか?」
「アンタは水着。 アタシはショバ代」
「いや、だからなんで水着?」
「今日は暑いのよ」
「話が全く見えないんですけど」
「アタシのアパートの隣がプール主体のレジャーランドでね。 一回行ってみたいと思っていたのよね」
ああ、なんかアイ先生がそんな事を言っていたなぁ。 『でも、今年は受験の大事な年だから来年合格したら皆で行こうね』とか
言っていたな。 って……。
「で、ストレスが溜まって悶々とした受験生でも、パーっと遊べばスッキリとヌケるでしょ」
「いや、ヌケるって、全然違うし」
自らのツッコミ癖と中村の話術で論点がずれて来ていることに気が付かないマサヒコ。
「だからマサは課題図書を買うお金でアタシとアンタの水着を買って、アタシは入場する方を何とかする、と」
そう言うとリョーコは男物の水着が入ったパックを一つと女物の水着が掛かったハンガーをマサヒコに投げた。
「あんまり水着の値段って言うのは分らないし、でもまあ安いほうなんでしょうけど、どう考えても本一冊の方が安いように思える
のは気のせいなんでしょうか?」
「決まった事なんだからゴチャゴチャ言わずに、さっさとレジに行く!」
両手を頭上に挙げ両手首を前方に折り曲げながら『キシャァーッ!』と、どこぞのクリーチャーかよアンタは。 みたいなリョーコの
ゼスチュアに仕方なくレジで会計を済ませたマサヒコの腕を取り、やっぱりまだマサヒコより背が高いリョーコに引きずられるように
店から出て行く二人は、ちょっと見には仲の良い姉弟にしか見えなさそうであった。


更衣室を出てから待ち合わせの場所でリョーコを待っているマサヒコの口はポカンと空いていた。 ええ、そりゃもうポカンと。
「マサ〜、お待たせ〜vVvvv」
などと着替えを終え、マサヒコの傍らに近寄ってきたリョーコがバカップルの木っ恥ずかしげな口調を真似をしているせいでは無い。
と言うか、こんなところミサキに見られたら、明日っていう日は俺には無いんだろうな。 などと悲嘆にくれているせいでもない。
「あら、マサってば、まだ怒ってるの?」
マサヒコの財布の中に入っていた程度のお金で買えたわりには、クリーム色を基調とし、トップスの左側にだけアロハシャツの模様に
良くあるようなスカイブルーと薄いブラウンのハイビスカス柄が入ったワイヤーネックビキニはリョーコ自身の魅力と併せ、充分に男の
視線を引き付けるものなのだが、マサヒコは未だ釈然としていない。
「俺は水着代を出したのに、中村先生は出したのはタダ券って……」
「ある物は使わなきゃ損ってものよ。 ここのプールの騒音のおかげで、どれだけ昼寝の邪魔されてると思ってるのよ? タダ券
どころか年間フリーパスをもらってもおかしくないくらいだってば。 大体、アタシの部屋にまで聞こえてくるバカップル共の会話っつの?
アレが聞こえてくるともうアッタマ来て…モルァ!!」
形の良い脚が振り抜かれると同時に鈍い音と共に倒れるゴミ箱…とその横で振った足を抱えて転がりながら痛がっているリョーコ。
この人やっぱり、バカなのかもしれない……。
「いや、色々と突っ込みどころ満載の逆ギレですね……」
放っておくといつまでも愚痴を言いかねないマサヒコにリョーコもうんざりしてきたのか、起き上がりながら
「全く…、ここまで来てまだそんなこと言ってるの? いい加減覚悟決めて、今日はアタシにつ・き・あ・え・っ・つ・の」
と、半ば脅しを掛け、やっとマサヒコも吹っ切れたようであった。
それでも最初のうちは無表情でリョーコに付いて回っているようなマサヒコだったが、結局はリョーコと共にプールを満喫する事が
出来たのはやはりストレスが解消できたからなのだろうか?
流れるプールでバナナタイプの浮き輪に乗ろうとするリョーコに『そんな年でもないでしょ』と冷静にツッコミを入れたところ、ミドルキックを
喰らったり(結局二人で乗らされたのだが)ウォータースライダーでは『カップルの方はご一緒にお願いしま〜す』と係員に言われ、
慌てて『いや、もう全然カップル違いますから』と言ったところ、リョーコに首根っこへダイブを喰らいつつ頭からチューブ内に二人で
突撃することになり、順番待ちをしていた他の客から生温かい目で見送られたり、と中々どうしてこうやってみると仲の良い姉弟と言う
ラインをちょっと超えた凸凹カップルのようにも見える二人である。


「ま、アンタも少しは溜まってたストレスが発散できたんじゃないの?」
波のプールで軽く泳ぎながらリョーコは少し前を泳いでいるマサヒコに話しかけた。
ちなみにリョーコ自身は、既に本日の暑さを吹っ飛ばす事が出来てご満悦だ。 こうやって前を泳いでいるマサヒコも、もう中学三年生。
アイ、リンコとの繋がりでマサヒコと知り合ってから2年。 散々からかったりしてきたリョーコだが、アイほどではないにせよ
マサヒコに対しては、口は悪いが可愛い弟のようなもの、といえる感情を既に持っているのだが……。
「確かになんかスッキリした気がしますよ。 リョーコさんと来られて楽しかったです」
何とはなしに、いつもの呼びかけ方である『中村先生』とではなく『リョーコさん』と言ってしまったマサヒコ。
まさか名前を呼ばれるとは思ってもいなかったマサヒコの天然発言にリョーコは思わず照れる、と言うか、珍しくうろたえてしまった。
「ちょ、別にアタシはアンタとプールに来たかったわけじゃないんだからねっ! たまたま今日出くわし…わブっ!」
一瞬、脚が棒のようになったかと思った瞬間にリョーコを襲ってくる激痛。 まずい、足つった? 激痛から思わず体を丸めてしまい
体全体が水の中に没してしまう。 あ、水も少し飲んだみたい…。 ヤバ……。 かも…。 ……。

「……! …生! 先生っ!!」
「うあ? …ごほっ」
意識が飛んでいたのはほんの数秒だっただろうか。 リョーコは仰向けのまま、泳いだマサヒコに抱きかかえられながらプールの
波打ち際へ向かっている。
「あ、ごめん…。 アタシ……」
「いいから。 喋らないで先生。 少し水飲んじゃってるかも」
足の激痛は収まっておらず、リョーコの体はどうしても丸くなってしまう。 一刻も早く自分の体で泳いで岸にたどり着きたいのだが、
どうやらそれは無理っぽく、この場はマサヒコに任せるしかなさそうだ。 更に数秒たったところで、細いながらもしっかりとしたマサ
ヒコの腕に抱きかかえられていた感触が急に消え、一瞬水の中に体が沈みかけたところでリョーコは急に不安を覚える。
「マ、マサ? ちょ…、きゃぁ!」
いきなり体が水中から空中に放り出されたような感覚。 これは所謂お姫様抱っこと言う体勢だろうか? まさかマサヒコが軽々と
自分のことを持ち上げるとは思わず、自分でも『らしくない』声がでてしまう。
「波のプールで良かったです。 普通のプールだったらプールサイドへ上げるのが大変だった」


小走りで波打ち際から、ちょっとした休憩スペースに向かうマサヒコと抱きかかえられているリョーコ。
休憩スペースでのマサヒコの手並みは、まず満足と言えるもので、リョーコにタオルを掛けて座らせ、足を曲げては伸ばす。を
繰り返す事により、リョーコの脚から違和感はすぐに無くなっていく。
「う、上手いモンね…」
「サッカーやるでしょ、俺。 ガキだから、限界知らずに走りすぎてすぐに足つっちゃうんですよ。 それで」
「こりゃ将来、女体のあつか…」
「無理にボケるな」
「ゴメン」
なんか調子が狂う。 教え子っつか、いや、アイの教え子なんだけど。 いつもバカにしていてその反応を楽しむのが面白くて
からかいがいのある弟って言うの? いやいや、弟って言っても最近は大分大人びてきていて、だけど所謂思春期のがっついた
エロガキって感じにはならなそうな。 ちょ、ちょい待ち。 別にアタシはアイと違ってショタコンじゃないっつの。 でもマサったら
将来はイイ男になりそうな感じよね……。 だだ、だから違うって。 今日は出来が悪くて口の減らない弟をプールに連れてきたと
思えばいいだけなんだから……。
ん?こんなにマサのことでゴチャゴチャ考えてしまうなんて、ちょっとヤバいかもしれない。 などと長めの妄想にひた走るリョーコ。
「良かった」
ふと我にかえると、痛みの消えた脚から既に手を離しているマサヒコの顔が結構近くにあった。
「へ? な、なに?」
思いっきり声が裏返った返答なのがリョーコ自身よく分る。 ペースが乱れっぱなしだ。
「中村先生が無事だったからですよ」
「いや…、ちょ? マサ?」
「せっかく連れてきてくれてこんなに楽しくって…。 そ、それでもって。 言うのが遅くてバカだなって思ったんですけど……。 
俺がプレゼントっていうんですか? ・・・した水着が似合って綺麗だと嬉しいって言うか……」
「ばか…。 じ、十年早いわよ…」
リョーコは悔しいながらも、初めて年下の男に陥落したことを自覚せざるを得なかった。


マサヒコは戸惑っていた。 あれからすぐにレジャーランドを出て隣だけあって5分もしないうちに中村宅にお邪魔している。
どっちにしろ今日の本来の目的は、課題図書を入手すること。 その過程でリョーコと出会い、いつもは見る事のできない、
そして女は化けると言うか、メガネを外し後ろで髪をまとめ、屈託の無い笑顔を浮かべるリョーコの姿。 一般的な男子中学生
にはうらやましすぎると言えるプールでの一日を楽しむ事ができた。
それが何故か中村宅にて風呂に入っているというのはどういうことなんだろうか。
中村宅に到着後すぐに『マサ、風呂に入ってから帰りな』と言われ何故か断る事が出来なかった。
いつもの自分だったら固辞し、さっさと家に帰っているのだろうけど、今日はそんな気にならない。
考えてみれば『水着がどうの』なんて、中学生のガキのくせにリョーコに生意気な事を行ってしまったのかもしれない。
レジャーランドを出てから中村宅まで短い時間とは言え、リョーコはムスッとしたような顔をして、一言も喋らなかった。
風呂から出たらすぐに『生意気言っちゃってすいませんでした。 今日はありがとうございました』と言って、本を借りてから
すぐに帰ったほうが良いか。 などと思いつつ、泡立てたシャンプーを頭にこすりつけガシガシやり始めたところだったので
後ろの異変に気づかないマサヒコ。
そのマサヒコの体験した事の無い感触は不意に後ろからやってきた。

むにゅ・・・。
「?」 
むにゅ・・・。
「??」
背中に感じる二つの柔らかな感触。
「マサ…」
声と同時に自分の手ではない二つの手がマサヒコの頭から泡を取ったかと思うと、素早く目の辺りに擦り付けられる。
「!」
とてつもない事態になっている事に気づいたマサヒコだが既に目を開けることも出来ない。
「ちょ…、ななな中村先生!?」
「マサ…あのさ…」
「じょ、冗談にしては洒落にならないっすよこれ」
目を開けることも振り向く事も出来ないので、まともなツッコミもできない。


「おとうと・・・」
「?」
「弟みたいなつもりだったのよね・・・。 不本意ながら脚がつったあのときまでは」
「そそそそれとこれとが何の関係が…」
「アンタ今日、アタシのスイッチ入れちゃったんだわ」
『ススス、スイッチってなにーーー!?』と、言いたいマサヒコだが、喉の奥がひりつく様な感じで言葉が出せない。
「あぅ」
ボディソープでも掛けられたのか背中に急に冷たい感触を覚え、間抜けな声を上げるマサヒコ。
「今、泡立てるからさ…動かないで」
「ちょ、先生。 マジでヤバいって」
「アンタがどう感じるかは気にしない。 今日のアタシはマサが欲しい」
「お、俺は別に欲しくな…」
リョーコの押し付けられる胸とマサヒコの背中との摩擦で泡が立ち始める。
「それはウソね…。 アンタさっきアタシの水着のこと褒めたでしょ」
「先生、ホント。 やめ…」
マサヒコの背中に当たるやわらかい感触の真ん中に、加わり始める少し硬い感触。
「今日のアタシをオカズにしようと思ったでしょ。」
「そんなこと…うぁ」
反論しようとするマサヒコを黙らせるかのように、リョーコは脇の下にツツー、と指を走らせる。
「そんなこと? なに?…マサ? 続けて…」
「………あ、あるかもしれません」
リョーコの絶妙な言葉責めと指遣いに意外とマサヒコの陥落は早かったようだ。
「ほら、ちょっとバンザイして」
マサヒコの言葉に満足したのか、リョーコは尚も大人しく指示に従い両手を上げたマサヒコの体を普通に
洗い始める。 この時点でマサヒコをからかったりしたら、本当に拗ねて帰ってしまいかねない。


「先生?」
「ん? 今更やめましょう、なんて戯言は聞かないわよ」
マサヒコがそれほどヘタレだとは思わないが一応クギを指すリョーコ。
「いや、俺としてはホントにこのまま体を洗うぐらいで終わって欲しいんですけど。 今ならまだ…はぅ」
マサヒコの言葉が終わらぬうちにリョーコの両の手の人差し指がマサヒコの前に回り、その乳首に
円を書くように泡を塗りたくる。
「変な責任感だとか、罪悪感とかを持ってるなら…、今日は捨てときなさい。 ほら、前向きな」
「ま、前って そ、その…俺、もう」
どうやらマサヒコのモノは既に抜き差しならないところまで来ているようである。
それをリョーコに見られたときの反応が怖いのかも知れない。
「別にからかったりしないってば。 あのね、今のアタシは本気なの。 さっき、プールでマサの
本気を見せてくれたでしょ? ほら」
リョーコにせかされ、且つ目が開けられないおかげで、おずおずと体ごと振り向きバスチェアに座りなおす
マサヒコ。 その両の手が膨れきっているモノを隠しているのは致し方ないことだが、リョーコは更にマサヒコに
指示を出す。
「そのまま立って。 脚洗うから」
立ち上がったマサヒコの脚に両手で泡を拡げていくリョーコ。
「た、たぶん今おれ、マヌケなポーズですよね」
「ふふ・・・。 そう思うんなら、その手どけなさいよ」
手をどかしてしまえばリョーコの顔の前に自分のモノが丸見えになってしまう。 しかし一瞬は逡巡した
マサヒコも覚悟が出来たのか、いきり立つ自分のモノを隠していた両手を下ろした。
「それじゃ、湯船の縁に腰掛けて」
ひとしきりマサヒコの脚に泡を塗りたくったリョーコの声。
「あ、あの。 こ、これって」
マサヒコの未知への不安と期待が入り交じった声がリョーコには、やけに心地よく聞こえる。
自分に年少の童貞君を苛める趣味があるわけでは無いが、それでも背筋をゾクリと走るものがある。
両の平にたっぷりと泡を乗せた手がマサヒコのナニを包み込むように触れた瞬間、思わずマサヒコは声を
出してしまう。


「ぐぅ・・・う」
まぶたに目一杯力を入れて閉じ苦悶のような表情を浮かべ上を向くマサヒコ。 それに追い討ちをかけるかのように
リョーコの右手がマサヒコのモノを刺激していく。
あまり喘ぎ声を出してしまうのは、格好悪いとでも思っているのか、我慢しているマサヒコでも息遣いだけはどうして
も荒くなってしまうのだが、そんな少年の抵抗をリョーコは許さず、親指の腹で亀頭の裏側を強く擦られる。
「ふ…ぁうぅ」
「さ、それじゃ流すわよ」
リョーコの声で我に還るマサヒコ。 なんでこんなに醒めた感覚なのだろうか。 いや、醒めてはいるのだけれど
見えないながら自分に対して行われている行為の非常にリアルな質感が自分を圧倒している。
そんなマサヒコを一瞬、上目遣いで見つめたかと思うと、リョーコはマサヒコのモノをゆっくりと、そして愛しげに咥えこんだ。
「あ… うあ''あ''あぁっ」
自分の排泄器官の一つに押し寄せる温かさと快感に大きく体を仰け反らせるマサヒコ。
「ちょ、センセ!そんな汚いところ…ぅぁ」
暗闇の中であっても自らにどのような行為がされているのかが分ったマサヒコの恥辱の入り交じった声に、リョーコの
背中は一層ゾクゾクし、自分のアソコからも秘液が滲みだして来るのがはっきりと分る。
マサヒコを奥まで咥えこんだリョーコの口が、今度はゆっくりと舌で刺激されながら戻っていき、それに伴いマサヒコは
声こそ出さなかったものの先ほどとは別方向の快感に体を震わせる。
リョーコの口中からマサヒコのモノが全て出たかと思うと、次には舌先が根元から先端まで走りそのまま咥えこまれた。
「う、センセ…。 俺…」
咥えこまれたモノが喉の方に向かっていく途中で、マサヒコのモノが大きく膨らむと同時に、マサヒコの両手がリョーコの
頭を掴んで口中から引き出そうとしたその瞬間。 マサヒコは小さな呻き声と共に爆ぜた。
断続的に打ち震えるモノの先端から、本当に音でも聞こえてきそうな飛び出し方をする精液にまずリョーコの口中が。
そして顔面がひどく汚されていく。 抜いてから数秒経っても幾度かの波と共に精液の噴出は止まらない。
「あ…、あ、俺…」
どう見ても早すぎです。 と言う罪悪感に襲われ始めたのか、マサヒコがうろたえた声を出す。
マサヒコのその声にリョーコの反応は無く、シャワーのコックを捻る音が聞こえると同時に目の前と頭の泡が、水流とともに
落ちていき、その水音だけがマサヒコには断罪かのように、やけに大きな声で聞こえてくる。


「やっぱりマサ…、若いわね」
どう考えても早すぎたことを言われたのかと思ったマサヒコが、恐る恐る目を開けてみると、大量の精液を吐き出した筈な
のにいきり立ったままのマサヒコのモノを見つめているリョーコが目に入った。
見ればマサヒコのモノから吐き出された精液はリョーコの顔から、その重みによりゆっくりと重力に引かれて動いている。
「セ、センセ…ごめ…」
普段は意識していないが、間違いなく一級品と言えるリョーコの顔をひどく汚しているのが、自分の精液だと言うことに
気づきマサヒコの顔は紅潮する。
「そのまま次もいけるわね。 これなら」
リョーコはシャワーノズルを初めて自分の顔にあて、顔面の精液を洗い流す。
「つ、つぎ…って?」
「決まってるじゃない。 アタシももう用意は出来てるし」
そう言うとリョーコは立ち上がって湯船に座ったままのマサヒコの上に跨りはじめる。
「あ…。 あ…」
次の行為が何だか分ったマサヒコの怯えるような声に、リョーコは今まで隠れていた自分の性癖を認識した。
「初めてだし、普通にベッドの上での方が良いのかも知れないけど、スイッチを入れられた貸しは返しておかないとね…」
先程とは違い、今度は何もかもが見えるにも関わらず、マサヒコは今自分に起こっている、そして自分のナニに加わり始めた
感触が理解の範疇外だと感じる。 
自分の顔より上にあったリョーコのひどく艶かしい顔が、その台詞と同時に目の前に下りてくる。
そして…、両肩に置かれていたリョーコの手が、マサヒコの首に絡まり始め、リョーコの秘所にマサヒコのモノが埋まった。

「うああああ! な、中村先生っっ!!」
マサヒコの理性が飛んだ。 セックスをした事が無いにも関わらず人間の子孫を残すために備えられている本能なのか、
乱暴に動かすその腰は、快感を得るためにしなければならない動きとして、教えられなくともわかるものなのか。
「あ…、マサ…」
その声に目を開けたマサヒコは、自然にリョーコと見つめあい、どちらからとも無く激しいキスにしばらく没頭した。
今、自分に聞こえてくる淫らな水音は上と下、どちらからなのかももう分らない。
「ふ…、ぁ…、あああぁあっ。 マサ!」
「センセ…、中村先生…」


マサヒコは体の全体でリョーコの感触を得たいのか、強くリョーコを抱きしめてくる。 かと思うと目の前で揺れるリョーコの
形の良い胸の先についている小粒を、これはいくつになっても男が母親を求める本能なのか、むしゃぶりつく。
「んっ…はァっ マサ…。 アンタとアタシは体…―の相性がイィいかも… うあっ」
リョーコの腰がマサヒコの稚拙ながらも激しく動く腰に併せて、うねるように動いていく。 マサヒコがすぐに出してしまっても
構わない。 何度でも自分が満足できるまで続けるまでだ。
「中村先生、中村先生…」
快感からだろう、オウムのように同じ単語を繰り返すマサヒコ。 しかし事前の行為が効いているのか、すぐには達せず、
リョーコにも快感が押し寄せ始める。 この分なら心配せずともこの一度でイケるかも知れない。
「ぁ――――マサ、あぅっ! イ…イよ…来て」
「うぁ…、はいっ あ…でも」
「いい…から! そのま……んま来て」
「センセ…センセ・・・うあああああっ……!」


リョーコがその激しい行為から覚醒したのは、事が終わった後で投げやりにシャワーを二人で浴び風呂から出て、一日泳いだ
疲れからかベッドに体を投げ出して、でも夕方になってやっぱり裸のままじゃちょっと冷えるんで二人して子供のようにタオル
ケットに潜り込んで少しだけウトウトした後の事。
横にはマサヒコが、これ以上は無いと言えるほどの顔つきをしたまま、リョーコに甘えて抱きつくかのような体勢で寝入っている。
リョーコにとっては久しぶりに満足のいった営みだった。 本数を減らしている煙草で一服したいかのような感じかもしれない。
『はっ…。 これじゃ何処かのエロオヤジみたいね』
マサヒコはもうちょっとしたら、起こしてやろうかと思う。 いくらなんでもここに泊めるわけにもいかないし。
でも、もうちょっとだけ、その風呂上りのすべすべした肌と肌をあわせていたくて。 今度は自分が甘えたくなってマサヒコに
抱きついた。

マサヒコがその眠りから醒めたのは、もうすぐ日が暮れようとしている時間。 さっきのアレは夢じゃないよな〜、と思いつつ
横にいるリョーコを見たら、既に目覚めていて夕暮れに照らされたリョーコの顔が、少し照れたように、でもすぐにいつもの
リョーコに戻って、ニーっと大きな笑顔になったのだけれど、その顔が何故か物凄く綺麗な絵のように見えたから
自分もちょっと照れて、リョーコの体に回している腕に少しだけ力を入れ、すぐに布団に顔をうずめた。
『あ…、今『本貸してくれ』って言ったらやっぱ、ムードぶち壊しなんだろうな』なんて考えながら。

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