作品名 作者名 カップリング
「前に進む事、その場に居続ける事」 136氏 マサヒコ×ミサキ

3月。一般的に春とはいえ、まだまだ寒い日は続いている。
それでも冬場より寒さは和らいでいるのだが…寒さに弱いマサヒコは、未だにコタツの世話になっていた。
「ゔ〜…寒ぃ…春先だってのになんだってこんな寒いんだ…」
コタツの中でぶつくさ言いながら窓の外を睨んでいた。
その時だ。マサヒコの部屋のドアがノックも無しに開かれる。
「こんにちわ〜っ♪……ってマサっち、またコタツ虫になってるぅ!」
「ノックしろ。それとマサっちはよせ。あとコタツ虫ってなんだ」
いきなり現れた眼鏡の少女にも、慌てず騒がず冷静なツッコミをする。彼の特技は、ここ数年さらなる磨きをかけていた。
「むぅ〜…小久保君冷たい〜…」
眼鏡の少女はふくれながらも、いそいそとコタツに潜り込んだ。
「あったかぁい…」
「なぁリン…制服がシワになるぞ?」
マサヒコに言われた少女…的山リンコはハッとした顔をした後、「えへへ…」と照れ笑いを浮かべた後、コタツから出て…おもむろに制服を脱ぎだした。
「…うちに着替え置いてあるのはわかるし、俺ももう何も言わん。だが目の前で着替えるな」
「何でぇ?…はっ!まさか…」
「欲情はしないから恥じらいは持て」
「欲情しないのかぁ…


それはそれで寂しいなぁ…私まだ子供体型だからなぁ…胸もそんなに…」
段々とションボリしていくリンコに、マサヒコは『まずいっ!』という顔をして、大慌てで
「ち、違う!そうじゃないんだ!リンコは今も魅力的だから!泣くなっ!」
フォローをする。
「…ホント?」
「ホント!」
「…」
「信じろ」
「…うん、信じる♪」
すぐに明るい笑顔に戻ったリンコは、マサヒコを見つめる。
「?」
「じゃあやっぱり欲情しちゃうのかぁ…」
「あれー何このループはー」


◆
マサヒコ達が中学を卒業してから二回目の春を迎えていた。
二人は、それぞれ有能な(脱線に関しても有能だったが)家庭教師のおかげもあってか、志望校である英稜高校への入学を果たした。
マサヒコとリンコは違うクラスになってしまったのだが、リンコの家庭教師だった中村リョーコに、
「あの子はしっかりしてるようで、天然だ。いや、やっぱり天然か…」
「どっちだ」
「まぁそこが萌え要素でも」
「…就職一年目の忙しいあんたが、同じく高校一年目の忙しい俺を呼び出した理由はそれを伝える為か」
「…アンタ、ツッコミが段々キツくなってきたわね」




「誰のせいだ」
「さぁ?」
「あー…本当に誰のせいだっけ〜…て、あんただ!あんたのせいだよっ!中村先生!」
「ノリツッコミまで身につけたのね、先生嬉しいわ」
「…要件は?」
「泣かなくてもいーじゃないの。…リンコの事よ。何かクラスに知ってる子がいないらしいの」
「?それが…?」
「鈍いわね、だから『ED戦隊タタナインジャー』のタタナインジャーレッドなのよ」
「サラッと意味不明な事を言うな」
「初めては緊張するし不安になるものよ?どういうものかわからないし、頼れる相手じゃなきゃ辛い思い出でしかなくなるの」
「何か説明が怪しいんですが、つまりクラスに知り合いがいないから不安になっている。だから俺が出来るだけ気にしろ…と。そういう事でよろしいですね?」
「ノれよ、もっとさぁ」
「真面目な話だったんでしょ」
「…まぁそういう事。マサ、あんたは気遣い出来るし、優しい子だからわかると思うけど…リンコはあれで凄く脆いの。純粋過ぎるから、壊れやすい。だから…」
「わかりました。俺も実は気になってたんですよ」
「じゃ、お願いね。ここは私が奢ってあげるから」
以上、入学式から一週間後に中村リョーコの就職先近くの喫茶店で繰り広げられたミニコント…もとい、リンコに関してのリョーコからのお願いだった。


◆
『あの頃から…リンとは毎日話してたなぁ…』
マサヒコはボンヤリと思い出していた。
中学卒業後、当時仲の良かった面子とは疎遠になっていた。
自分の家庭教師をしてくれていた濱中アイは就職活動に必死だったし、若田部アヤナは渡米、中村リョーコは就職一年目で、いくらあの最強(狂?)超人でもやはり覚えなきゃならない事、社会人特有の世界でのストレスやらで、余裕はなかった。


天野ミサキは…中学卒業式の日に告白されたが、マサヒコの答えは「ノー」だった。薄々は気付いていた。けれど、仲の良い友達の関係は崩したくなかった。
でも、告白された以上は関係は変わる。良くも悪くも、絶対に今まで通りの友達に戻る事はない。
「…どうして?」
あの時、流れる涙を拭き取ろうともせずに問い掛けてきたミサキの顔は、多分マサヒコの心からは一生消えない。
何故彼女を受け入れなかったのか?
自分でも良くわからない。
ただ…彼女に恋愛感情は持てなかった。付き合うとか…そんな感じは無くて、ただずっと友達でいたかった。
そんな事があって、天野ミサキとは一番疎遠になっていた。
 
「……ぼ……ん……くぼ…」
「……」
「小久保君!!」
「ほ!?」
リンコの大きな声に、マサヒコは回想から引っ張り戻された。
「…あ、あぁ、リン。着替え終わったのか」
驚きでまだバクバクと早い脈をうつ胸を抑えながら、マサヒコはリンコに答えた。
リンコは、いつの間にか制服を脱ぎ、トレーナーとスカートに着替え終え、制服がシワにならぬようにたたみ終えていた。
「…小久保君、またあの顔してた」
リンコは悲しそうな顔で俯く。
あの顔…中村リョーコからリンコの事を頼まれた頃、マサヒコはミサキからの告白を断った事で自らを責め続けていた。
友達と話していても、授業中でも、食事の時も風呂に入っていても…浮かぶのはその瞳に涙を浮かべて、こちらを真っ直ぐに見つめるミサキの顔。
その顔を、その瞳を思い出す度にマサヒコの心はざわつき、苛立ち、答えの出ない自問自答に傷付き、荒んだ。
そんな時、マサヒコは悲しみと諦めと怒りの入り混じった、実に複雑な表情を浮かべる。




年相応とは言い難いその深い感情を持った表情は、言い知れない近寄り難さを醸し出しており…当時はクラスの男子からは
「コイツは俺達の計り知れない何かを持っている」
と噂され、女子からは、元々が中性的な顔立ちな上にあまりにも大人びた憂いを浮かべた表情が密かに大人気だった。

「ご、ごめん。つい昔の事思い出してたら…」
マサヒコは思わず立ち上がり、俯くリンコに謝る。
「…まだ…辛いんだね、小久保君は」
リンコが僅かに顔を上げ、上目遣いでマサヒコを見た。曇りも無く、ただ純粋な瞳に、
「…そう…なんだろうな」
マサヒコは少し呻くように答える。
「やっぱり優しいな、小久保君は」
そう言って、リンコは優しい笑みを浮かべてマサヒコを抱き締めた。
「リン…」
「ミサキちゃん…ね、この前話したら…彼氏出来たんだって」
「そっか…」
「…だから…もう私が小久保君を『マサちゃん』て呼んでもいい?」
「?あ、あぁ…」
「そっか♪良かったぁ…マサちゃん、て呼ぶのはミサキちゃんの事思い出しちゃうんだろうなぁって遠慮してたんだ…」
「リン…ごめんな、ありがとう」
リンコの優しさに触れ、マサヒコは素直に嬉しく、リンコの体を強く抱き締める。



「ふぎゅ…苦しいよぅ…」
「あ、ごめん…」
「ん…大丈夫♪」
二人の間に急に静けさが訪れ、見つめ合う。そのまま二人の顔は近付いていく。
 
 
(ガチャ)
 
 
「おーいマサヒコ。お茶持ってきてやっ…」
「「!!?」」
お互いの吐息が感じられる位まで近付いた辺りで、突如開かれた小久保マサヒコの部屋のドア。
ノックされないこの部屋に、プライバシーはあまり無いように思える。
開かれたドアの向こうにはマサヒコママ。
「あ、お邪魔しちゃったかー。ごめんごめん…て、それで済むかこのマセガキがぁぁぁっ!!!女泣かすなって何度言わせんだぁぁぁっ!!!」
「いきなり人の部屋のドア開けて、何言い出すか!しかも泣かせて…いや泣かせちまったけど、決してオフクロの考えt…」



「そぉぉぉい!!!」
マサヒコ、瞬時にリンコを突き放す
↓
ママン、熱々のお茶の入った湯呑みをマサヒコに全力でブン投げる
↓
リンコ、倒れていきざまにマサヒコの両手を掴む
↓
「ヘイ、ミス・リンコ。両手掴んで倒れられたら、俺はどうやって顔をガードするんだい?HAHAHAHA」とか頭に浮かぶマサヒコ
↓
でも出た言葉は「ちょ…えぇぇ」
↓
ガゴッ!(湯呑み顔面直撃、さらに真上に上がる湯呑みと真上を向くマサヒコ)↓
バシャーッ(真上を向いたマサヒコに降り注ぐ熱々のお茶)
この間5秒

「超熱ぃぃぃぃぃ!!」
マサヒコ絶叫。まぁ熱々だしね。
「マサちゃん…顔射だね♪」
「だね♪じゃねぇっ!」
「リンコちゃん。ナイス表現」
「誉める事じゃねぇ!痛ぇし熱ぃ!!」

3月終わりの暖かいとは言い難い日。
高校二年の終わりになっても、マサヒコは不幸である。
ただ、ちょっと(いや、かなり)天然の少女がいつも寄り添ってくれていた。
それは幸せな事であり、色々な思い出も出来た。 
 
「マサちゃん、濡れ濡れだね…あ、男の子だから濡れるって表現は変?」
「いやいや。いい?リンコちゃん。うちのタタナインジャーレッドはどうかわからないけど、先走るのは濡れるとも表現するし…あながち間違いではないわよ」
 
「んな事はどーでもいい!つかタタナインジャーレッドって言うなぁぁぁぁっ!!!」

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