作品名 作者名 カップリング
No Title 102氏 -

常夏の日差しを全身に受けながら、少女はその地へと降り立った。
「ハワイ…。見なれた土地のはずなのに、なんだか今日は違って見えるわね」
少女…若田部アヤナは、目を細めてそう呟いた。
その背中に、初老の男が穏やかな声を掛ける。
「…自分の決断を後悔しているのかね?」
アヤナは苦笑して小さく首を振った。
「そういう風に見えて?」
「いや。…だが、止めてもいいんだぞ?」
「…大丈夫。自分で決めたことだもの。やり遂げてみせるわ、必ず」
自らに言い聞かせるようにそう言うと、やあやって、アヤナは力強く歩き出した。
彼女の熱い一週間がこれから始まる。


時は遡って十一月下旬。
三年一組の生徒たちは浮き足立っていた。
確実に迫りつつある高校受験に焦燥感を感じているのだ。
授業も入試を意識した模擬試験が中枢を占めはじめ、それに伴って教室の緊張感も日に日に高まっていく。
そんな中でアヤナは、自分が周囲から浮いた存在になっていると感じていた。
中学卒業後は渡米し、向こうのハイスクールへと通う事になっている。
編入試験があるにはあるものの、そんなものはアヤナの才覚からすれば無いに等しい。
級友たちよりも一足早く進路が決定してしまい、これといった目標を持たずに卒業までの数ヶ月を過ごすことになってしまったのである。
何の非があるわけでもないのだが、皆が必死で努力している横で無為な時間を過ごすことに彼女は強い罪悪感を覚えていた。

そんなある日の放課後。
「若田部、ちょっといいか?」
男嫌いのアヤナが親しく接している稀有な少年、小久保マサヒコが声を掛けてきた。
「あら、何かしら?」
アヤナの反問に、小久保少年はバツの悪そうな顔をした。
「いや、悪いんだけどさ、ここの問題が解けなくて。ちょっと教えてくれないかな?」
「そういうことなら、天野さんに頼んだ方がよいのではなくて?」
「うーん。ミサキは的山の方を相手してるんだよ…」
言われて、アヤナは天野ミサキの方をチラリと見やった。彼女と目が合う。
ミサキは申し訳なさそうな表情をしながら、ポリポリと頬を掻いた。
苦笑しながら嘆息するアヤナ。
「…仕方ないわね。ほら、見せてみなさい」
「悪いな」
「ホントにね。…あら、なに? こんな問題も解けないの? …アナタ、こんなことで受験大丈夫?」
そう口にした後、アヤナはハッと息を呑む。
そんな気はないのに、ついキツイ口調になってしまった。
自分の悪い癖だ。分かっているのに直せない。
「ゴ、ゴメンね小久保君。キツイ言い方をしてしまって」
慌てて詫びるアヤナ。
だが、マサヒコの方は気にも留めていないようだ。
「いいって。本当のことだし。オレのこと心配して言ってくれたんだろ? …ありがとな」
「え、でも、私…」
「それにさ、お前はオレ達よりも何倍も大変なんだろうし。不甲斐ないオレに苛立ったとしても仕方ないよ」
「何倍もって…」
「外国の高校へ行くための準備ってすごく大変だろうけど、あんまり無理するなよ」
「…うん…」
マサヒコの優しい言葉に、アヤナは何とも言えない後ろめたさを覚えた。



夕刻。
ボンヤリとTVを眺めながらアヤナは思案に耽っていた。
(小久保君に天野さん、あの的山さんまでもが大きな目標に向かって日々精進しているというのに、私は何をしているのかしら…?)
ゴロンとソファーに寝そべり、天井を見上げてみる。
当然、彼女の自問に対する解答などは書かれていない。
「…ふぅ」
大きく息を吐く。
(卒業後の進路がすでに決定済みとはいえ、それにあぐらをかいて何もしないというのは時間の浪費だし、何よりも精神衛生上よくないわね、やっぱり…)
渡米後の生活に備えて何かすべきだ。それは分かっている。
(うぅーん、でも、具体的に何をすればいいのかしら?)
意味もなく床をゴロゴロと転がりながら熟考してみる。
(英会話の練習? …別に今でも出来るし…。 
向こうの法律の勉強? …それも違う気がする…)
ゴロゴロゴロゴロと部屋中を転がり回る若田部アヤナ15歳。
年頃の乙女の行動としては、やや問題がある気がしないでもない。
と、長時間持続されていたアヤナの連続横転運動がピタリと止まった。
その双眼はTV画面に映し出されたニュース番組を見据えている。
「…アメリカ合衆国における発砲事件の件数は過去最悪を更新し…」
どうやら、アメリカにおける銃犯罪は増加の一途を辿っているらしい。
「…これだぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」
アヤナは絶叫すると、両拳を握り締め、興奮した面持ちで立ち上がった。
「私が移住するアメリカ合衆国は、国民全てが帯銃している無法地帯にして犯罪天国!(※かなりの誤解があります)
そんな国に、平和ボケした日本で生まれ育った私が踏み入れたら、たちまち犯罪者たちの餌食になってしまうわ!! (※ かなりの誤解があります)
そうならないための強さを身に付けなくては!アメリカでは力無き者は死あるのみなのだから!! (※ かなりの誤解があります)」
「よくぞ言った!」
突如として、場に拍手が鳴り響いた。
目を向けると、立っていたのは初老の紳士。
「…お父様!?」



「私は嬉しいぞ、アヤナ!
 よくぞその結論に辿りついた!
 左様、アメリカは厳しい国。…いかにお前といえども、今の力では太刀打ちできないだろう!!」
「お父様…。私…、強く…強くなれるでしょうか?」
悲痛な表情で尋ねてきた愛娘に、父親は力強く頷いた。
「もちろんだ!だが、その為には過酷な修練を積まねばならんぞ?」
「…!!」
修練という言葉を聞いたアヤナの脳裏に、必死に受験勉強をする友人達の姿が浮かぶ。
「承知の上です!…むしろ望むことですわ、お父様!!」
「それでこそ我が娘!よろしい。ではさっそく、年末年始のハワイ旅行を修行へと切替えよう。
お前をかの国でも生き延びられる戦士とするべく、考えうる最高の師を召還しようではないか!」
「はい!ありがとうございます!!」
そう応えたアヤナの目には、闘志の炎が熱く燃え盛っていたという。
かくして、若田部アヤナは2005年12月末、年を跨いでの修行を行うべく、大いなる決意と覚悟を胸に抱いてハワイへと旅出っていった。


ハワイ諸島のはずれにポツンと浮かぶ、名も無き小さな無人島。
その無人島の入り組んだ入江にアヤナ達を乗せた小型船(なぜか迷彩)は到着した。
滑って海に転落せぬようにように注意しながら、ごつごつした岩場へと降り立つ若田部親子。
「では、一週間後にお迎えに参りますので…」
「ああ、頼む。…わかっているとは思うが、くれぐれも悟られぬようにな」
「はい。承知いたしております」
父親と船長が帰港の段取りを決めている傍らで、アヤナは自分が連れてこられた島の様子を興味深く観察している。
「……」
見事に何もない。
島の周囲は2、3kmといったところだろうか。
島の中央部に僅かな林があるだけで、あとはすべて岩場だ。その岩の質から、海底火山の噴火による隆起で誕生した島だということが分かる。
近くに他の島の影は確認できない。人里離れた孤島といった風情である。
船が島を離れていくのを見届けた父親が、アヤナの胸中を察したかのように微笑を浮かべた。
「ふふ、何もないところだろう? 波の音しか聞こえぬ。まさに秘境だ」
「あの、差し出がましいとは思いますが、こんなところで修行ができるのでしょうか?」
「…まぁ、付いてきなさい」
そう言って、父親はゆっくりと林の方へ歩み出した。困惑しきった表情を浮かべながらもアヤナがそれに続く。
「ここだ」
島の林の中心部、一本の大きな樹の前で父親はその歩みを止めた。



「この樹が…いったい?」
娘のその質問には答えず、父親は無言で樹の幹の部分を強く押した。
と、音も無く樹皮が割れ、中から一目で新しいものと判る複雑な機械が姿を現す。
「こ、これは!?」
驚愕しているアヤナを尻目に、父親は指紋と網膜、声帯による個人照合を手際よく済ませていった。
何重にもチェックがあるらしい。最後に暗証番号を入力する。
「5・5・5…9・1・3…3・3・3」
「complete!!」
機械的な音声が鳴ったかと思うと、突如として辺りが紅い輝きに包まれた。
「きゃあっ!?」
思わず目を閉じて悲鳴を上げてしまったアヤナ。
光がおさまったとき、そこには「何か」への入り口が存在していた。
地面から隆起して現れたらしい。
予想を超えた事態の推移に茫然自失としているアヤナとは対照的に、父親は落ち着き払った足取りで「何か」の中へと入っていく。
「さ、行くぞ」
「あ…。は、はい…」
その声でわれに返ったアヤナも慌てて後を追った。
足音を反響させながら親子は通路を歩いていく。その傾斜から地下へと降りていることが分かる。
「お父様…。ここは…?」
「まぁ、倉庫みたいなものだよ。取引のための物資なんかを保存しておくんだ」
「倉庫…ですか。それにしてはセキュリティが厳重でしたけど…」
「貿易の世界というのも大変でね。なにかと物騒だからこういう施設も要るということだな」
「はぁ…」
腑に落ちない様子のアヤナを見て、父親はニヤリと笑った。
「お前も大人になれば分かるさ…」
そんな会話を交わしながら5分も歩いただろうか。二人は目的地とおぼしき広い空間へと到着する。
そこでは二人の人物がアヤナを待っていた。
「…遅かったな」
葉巻を吸っていた男がゾッとするような感情のない声を発した。
その鋭い眼光から、彼が只者ではないということはすぐに分かる。
「待たせてしまってすまない。予想より波が高くてな」
「……」
父親が謝罪する。男は無言で煙を吐いた。
その姿を見て父親は軽く苦笑し、もう一人の人物にも言葉をかける。
「よく来てくれた。今回は無理を言ってしまって本当にすまないと思っている」
「いえ、私が貴公から受けた御恩を考えれば当然のことです。…後ろにいらっしゃるのがお嬢様ですね?」
「ああ。…アヤナ、こちらに来てご挨拶しなさい。今回はこちらの御二方がお前を指導して下さる運びとなっている」
「お初にお目にかかります、アヤナお嬢様。まだまだ未熟者ゆえ至らぬ点もあると思いますが、精一杯ご指導させていただきます」
にこやかにそう言って手を差し伸べてきたのは、アヤナと大差ない年頃の可憐な少女であった。
「あ…。は、はい!私の方こそよろしくお願い致します…」
緊張した面持ちで若き師と握手を交わすアヤナ。
父親が説明をする。
「彼女は年こそ若いが、古武術の達人だ。名前は…そうだな…、『Miss.T』ということにしておこうか。お前は男嫌いだから、護身術は女性に指導してもらうことにした。同じ日本人で年齢も近いから気も合うだろう」
「そこまで考えて…。ありがとうございます、お父様!」



「さて、もう一人の方だが…。こちらは『Mr.T』と呼ぶことになるな。彼には射撃術の指導をしてもらう。雰囲気からも分かるように、その道で知らぬ者のない達人だ。この方から教えを受けるというのは最高の贅沢なのだぞ」
「はい!…先生、よろしくお願いします!」
そう言って、アヤナは恐る恐る『Mr.T』に手を差し伸べる。
だが、彼はそれには応じようともせず、横目でアヤナを見やりながら低い声で静かに言った。
「…俺は本来、こういった依頼は決して受けない。だが、お前の父親には大きな借りがある。今回は特別だ。…だが、引き受けるからには容赦はしない。この一週間で、お前にスナイパーの心得を叩き込む。俺のやる仕事だ。甘えなどは一切許さんから、そのつもりでいろ…」
「…もちろんです。そのためにここへ来ました。どんな試練にも耐えてみせます」
鋭い眼光に威圧されそうになりながらも、アヤナは毅然とした口調で誓いを立てた。
それを聞いた『Mr.T』の片眉がピクリと動く。
「…口だけでないことを期待する。…時間が惜しい。…始めるぞ」
「はい!」
こうして、名も無き無人島の地下施設を舞台にした地獄の特訓は始まった。
昼も夜もなく、睡眠と食事以外の時間はその全てが修行に充てられる。
あまりの過酷に、さすがのアヤナも幾度か心が折れそうになった。
だが、その度に自分への誓いを思い起こし、歯を食いしばって立ち上がる。
「負けないわ!私は強くなるのよ!…そう。イデの巨神のように…!!」
そして、嵐のような一週間が過ぎた・・・。

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