「お姉さま」


その声で、我に返った。

ティーカップを差し出した時のままの格好で、志摩子が覗き込むように私の顔を凝視していた。
揶揄るように首を傾げて視線を返すと、何も言わずに指を伸ばしてくる。


そのまま頬に触れられて、初めて自分が涙を流していることに気付いた。










メイキンミィシック










「驚いた?」


咎められる前に薄く笑うと、僅かに伏せた目といいえという小さな声が返る。


「別に大したことじゃないから、気にしないで」

「どうして、泣くんですか」

「…泣いてないよ」


志摩子の指先に掬われて、あっと言う間に水滴は温度をなくす。
ひんやりとした感覚が気持ちよくて、されるがままに目を閉じた。


「勝手に出るだけ」


鷹揚に口角を持ち上げたけれど、成功したかは解らなかった。


志摩子の指は輪郭を辿ってゆっくりと滑り、いつしかそっと私の顎先を持ち上げる。
微かな吐息と共に、目の下に温かいキスが降る。


「─……そんな風に笑わないでください」


行為と不似合いな深刻な声で囁かれて、それが彼女の最大級の不器用な慰め方なのだとようやく気付く。
そしてやっぱり小さく笑った私に、志摩子は今度こそ非難するような視線をくれた。


耐えきれずに縋るように腕を回した。
細い身体を抱き竦めると、そのまま首筋に顔を埋める。


「…有り難う。ごめんね」

「いいえ」


それから私が泣き止むまでの10分間、志摩子は何も言わなかった。


静かに髪を撫でる、柔らかい指先の感触だけが残った。















聖様は志摩子の前でだけは泣けるといい。
蓉子の前では絶対かっこつけて強がってると思う。

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