「──…助けて、お姉さま」


夢から醒めた後で、あぁあれは夢だったんだと確認する時のような不思議な感覚に捕らわれていた。

ゆっくりと一度目を閉じてから再び開く。目の前で震える細い肩は、けれどまだそこに存在していて少しだけ安堵する。










メイキンミィハッピー










たった30センチ程度の距離なのに、俯いた志摩子の表情はよく見えない。
窓から差し込む明る過ぎる光が、薄い色の髪を必要以上に輝かせている。

溢れ出す衝動にただ戸惑っている彼女を、受け止めてやるのが私の役目だった。


「おいで」


仕方ないな、というポーズを作ってやると、広げた腕の中に素直に身体を投げだしてくる。

その背中を軽く抱き寄せると、慣れた優しい匂いがした。
制服の襟元から白い項が一瞬だけ覗いて、そんなことでも簡単に意識は痺れる。

こんな時ばかり囁き掛ける自分の声はまるで作り事のように甘い。


「志摩子」


ささやかに腕の力を緩めて、そっと触れた指先で髪の先をくすぐった。
微かに啜り泣く声がして、私の制服に顔を埋めたままごめんなさい、と志摩子が呟く。



この子の中にある悲しみや苦しさが到底私には理解出来ないものだとしても、
それでも繰り返し求められ続けることに、一体どれだけ救われているのだろう。

自分のそんな無力感さえとても心地良くてどうしようもない。



いいから、とだけ囁き返して、肩口に預けられた頭をもう一度ゆっくりと撫でた。

このまま時間が止まってしまえばいいなんて、無意識に願っている自分に気付いて、小さく笑った。
















志摩子は聖の前でだけ弱くなれるといいなと思う。

i/c




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