「ゲームよ、令」


この状態で、と苦笑しそうにならないこともなかったけれど、わざわざ口に出して咎めるには自分は相手の気紛れに慣れ過ぎていた。
鷹揚に頷くと満足そうに笑って、それでどうやら続けていいということらしいと理解する。

結び目に中指を引っ掛けると、そのまま静かにタイは解けた。










イエス・マスター










「私のこと好き?」

「…は、い」


口付けの合間に喘ぐように答えると、瞬間舌先に軽く歯を立てられる。
痛いと呻けば思うがままだと耐えて、お返しのように冷えた手を胸元に滑り込ませてやる。

指先の滑らかな感触よりも、首筋から覗く肌の白さに惹かれて唇を寄せた。


「由乃ちゃんよりも、好き?」

「はい」

「誰よりも?」

「はい」

「嘘でしょ、そんなの」


どこか淡々とした様子でありふれた質問を繰り返す彼女は、それでも多少いつもよりは楽しそうだった。

くすぐったいと言っては身を捩り、爪先で私を蹴飛ばしては、堪えきれないように吐息を漏らして髪を掴む。
うっすらと上気した頬を見つめながら、この人はこんな時が一番綺麗だとどこか冷静に思う。


「令の嘘つき」

「はい」

「私のことなんて、本当は何とも思っていないくせに」

「…」

「何とか言ったらどう?」


ゲームよ、と笑った声が蘇る。

胸元に埋めた顔を上げた私の目を覗き込んで、ゆっくりとお姉さまが笑った。
最初に私に感情を隠す術を教えたのはこの人だったのに、私はいつまでも嘘がつけない。


「貴女の負けよ」


いつも勝手に初めて勝手に終わる、一人遊びのような戯れも、
人形遊びの駒にされることすら、今では心地良い。

貴女の掌の上で。


「好きって言ってよ、令」

「──…好きです」


貴女の負けよともう一度微笑んで、奪われた口付けはまるで冗談のように甘かった。















江利子さんは興味本位で色々やらかしていればいいと思う。
令はそれに無言で付き合っていればいいと思う。


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