令ちゃんは来ないでと宣言して、由乃がキッチンに引っ込んだのが30分くらい前のこと。 手伝おうとすると怒るから、仕方なくリビングでテレビなんか眺めていたところに、突然聞こえた悲鳴だった。 オートリバース 「だから大したことないって言ってるのに」 ぶーぶー言ってる由乃は取りあえず無視して、台所の床に座り込んだまま濡らしたタオルを押し当てる。 器用にも煮立った鍋を引っ繰り返して火傷を負ったその右手は、半径3センチくらいが赤く腫れていて痛々しい。 「令ちゃん、もういいから」 「よくないよ。ちゃんと冷やさないと」 由乃の叫び声が聞こえた時、本気で背筋が凍った。 まだ鼓動は収まらなくて、自分の声がいつもより高くなって上擦っているのが分かる。 最初に水道水で冷やしたおかげで随分赤みは引いてきている。 それでもまだタオル当て続ける私に、もう平気だと言い張る由乃の声は少し呆れてる。 「本当に大丈夫だから」 「だって」 「もう痛くないし、ちょっとひりひりするだけ。本当よ」 それってやっぱりまだ痛いんじゃないの、と由乃が相手なのも忘れて噛みつきそうになる。 不意に、タオルを掴む私の手の上にふわりとその手が重なった。 戸惑った私が顔を上げるよりも先に、そのまま軽く伸び上がった由乃の頬が、そっと私の頬にぶつかる。 「ありがと。令ちゃん」 好きよ、と囁く声は少し笑っている。 和らいでいく心の音を聞きながら、あぁやっぱり由乃には叶わない、と思った。 令由はとにかくとても書きやすい。 時々どちらがお姉さんだか分からなくなるといい。 i/c |