「このままじゃいけないわっ!!」
いつもの屋根裏部屋。
いつものベッドの上で私は新しいビーズ枕を片手に叫んだ。
そうだ。このままじゃいけない。
なにがって? そりゃ決まっている。
前回、前々回、さらにその前、私は横島に痴態を見られまくったのだ。
乳揉みから始まり、指入れ、さらには…な、な、舐めですよ奥さん!
これっておかしくありません?
だって私は横島と恋人って関係じゃないわけで。
横島もそんな素振は見せてくれないわけで。
つまり非常事態だったとはいえ、恋人でもなんでもないタマモちゃんが一方的に責められるというこの状況は大変に遺憾なのであります!
だいたい横島がおかしい!
私にあれだけのことをしていおいて、なに次の日にはツラッとした顔で「おー。治ったかー」なんて言いやがるのか?!
私の裸はそんな価値しか無いのか!?
300円でレンタルできるHビデオ並みなのか?!
それはかつて傾国の美女と言われた私にとってとてつもない侮辱なのであります!
そ、そりゃまあなんて言うか…ちょっと流されてあげてもいいかなぁーとか思ったりしたような気がしないでもないような気がする今日この頃。暦の上では季節は春ですなわけだけど。
横島も「うん」って言ってくれたのが嬉しくないような気がしないでもないわけですけど。
結果として変態マスクマンに阻止されたけれどさ。
まあアイツは今度あったらみっちりと燃やすとして。
その後のフォローなしってのは酷すぎると思いませんか? み〇さん!!
せ、せめてデートの一つぐらいは誘ってもバチは当たらないと思うわけですよ!!
結論…。
つまり横島は私を舐めている。
いやいやいやいや…舐められたのは私だけどっ!
なんかとても気持ちよかったけどっ!!
いやいやいやいや…そう言う意味じゃなくってっ!!
横島は私をバカにしている。
いやいやいや…バカになっちゃったのは私だけどっ!
だってもうペロペロって凄く気持ちよくて頭の中が白くなっちゃって。
なにも考えられなくなっちゃって。
ああ…もっとして欲しいなーなんてちょっとエッチいことを…。えへへ…。
ぎゃああああああっ! なにを考えているのタマモちゃん!!
わっ!わっ!わっ!頬が緩んでいるっ!
まずい!
これはまずいっ!!
なんとか…なんとかしなくちゃ…。
そうか…そうだ。
それしかない…。
「私が横島を気持ちよくすれば万事解決っ!!」
グワシと拳を握りしめて力説する私。
小脇に抱えていたビーズ枕が圧力に負けて弾けた気もするけど今は無視っ!
そうなのだ!
私は過去に幾多の男を手玉に取ってきたのだ。
むふふふふ…。
その私が本気を出せば横島なんか一発でKOよ。
そして横島は思い知るのよ。
金毛九尾の狐の実力をね。
んふふふふふふふ…見てなさいよ横島。
今度はアンタが泣き喚く番だからね。
さてと…じゃあ具体的にどうしましょうか?
うーーーーーん。
転生してからそういう知識って使ってないから、今ひとつイメージがわかないのよねー。
とりあえず私は精神を集中して頭の中にある前世の記憶にアクセスしてみることにする。
私の心象風景が桃色の空で覆われているのが凄く気になったけど、今は記憶のライブラリを探すのが先だ。
確かあそこには房中術関連のデーターがあるはず…なんだけど……あれ?
ライブラリがあった場所はすっかり更地になってました…。
「なんで無いのよぉぉぉぉ!!」
『転生の影響です。マスター』
「は?」
突然、話しかけられて驚く私が振り向いて見ればそこにわだかまるのはピンク色の霧。
し、知らないっ!
私ってば頭の中にこんなの飼った覚えは無いっ!
「誰よ! あなたっ!」
『ワタクシはアナタの心の一部です。マスター』
「え、えーと…つまり私の影みたいなもん?」
『そう解釈していただいても結構です』
「んじゃ私の記憶の場所とかも知っている?」
『無事だったものは…ですがマスター。ほとんどのデーターは転生の際に破損しました』
「え?…じ、じゃあ房中術とかは?」
『残ってません…』
「そんなぁぁぁぁぁぁぁ…」
がっくりと跪く私に寄り添うように近寄ってくるピンクの霧。
慰めてくれるの?
ううっ…なかなか良い奴じゃない私の心の一部さん。
『ですから新たにデーターを蓄積することが必要です』
「どうやって?」
『学ぶのですっ!』
「そ、そうね…それしかないわね。ありがとう…」
『いいえ』
そして私はビンク色の霧に手を振って別れを告げ、脳内世界から現実へと帰還した。
ふーーーーむ…そっかーーー。やっぱ学習するしかないか…。
となると…どうすればいいのかな?
うーーーーーん…あ、そういえばこの前買った少女雑誌にそれっぽい記事が…。
あう…横島のところへ置きっぱなしだった…。
とりにいくしかないかぁ…横島は今、学校だし…。
そうね。取りに行きましょう。
ついでにお掃除なんかもしてきちゃおうかな?
えーと…なにを着て行こうかしら。
部屋に入ったらエプロンでいいとしても、外を歩くんだからいつもいつも同じ格好というのも芸がないわね。
まあ化ければいいんだけどさ。
でも化けるってのも味気ないわけで。
だってさ脱ぐって行為が存在しなくなるわけよ。
パーーッと気分が盛り上がったりしても次の瞬間全裸ですよ?
これって男にとって興ざめじゃない?
ふむ…となると下着から変えた方がいいかしら。
んーーーー。ちょっと派手かも知れないけどレース付きのにしてみようかな?
あ、そっか。だったらシャワーも浴びておいた方がいいわね。
『あの。タマモさん?』
「ん? なに人工幽霊?」
『いえ…なにゆえ「脱ぐ」を前提に考えておられるのかとちょっと気になりまして…』
「あはは…そりゃ決まってるじゃ………待て…なんでアンタが私の考えを知っている?」
『途中からダダ漏れでしたけど?』
「うぞっ?!」
『具体的には「横島は学校だし」からですが…』
「あははは…」
『はははは…』
「誰かに言ったらヒドイからね…」
『承知しました……あの…でももし誰かに言ったら何をなさるつもりですか?』
「…毎晩、壁に椎茸の胞子を塗りつける…あと風呂の天井とかにも…」
『椎茸っ!?』
「ついでにナメコも…」
『い、言いませんとも!! あ、その若草色のセーターなんかお似合いですよ! いや本当に!! だから菌類はやめてっ!!』
気のせいか声が上ずる人工幽霊に見送られ私は意気揚々とバスルームへと向かったのだった。
シャワーの後で美神からこっそり借りたコロンをつけ、薄茶色のダッフルコートに身を包んで外に出てみれば陽射しはあるもののやはり寒い。
空はどんよりと曇っていて今にも雪が降りそうで。
うん。やっぱりこのコートで正解だったみたい。
ほら若草色のタートルネックと合わせてなんとなく春って感じでしょ。
とりあえず横島のところへ向かおうと思ったが、掃除のついでに料理の一つもしてやろうと考え直して私は商店街へと向かった。
だってこの前の鍋焼きうどん…とっても美味しそうに食べてくれたし、病院では私にキツネうどんを持ってきてくれたし、やはり食べ物で受けた恩は食べ物で返すのが筋だと思うわけよね。
「うーん…でも毎回うどんってのもちょっとねー…」
私はそれでも全然OKだけど…横島も文句は無いと思うけど…でもそれじゃあなんというか誠意?が伝わらない気もするし。
幸いにもお年玉はまだ残っているし。
うーん…なにがいいだろうか?
前に見た漫画では「肉じゃが」が男の子に人気とか描いてあった気が…。
でもどうやって作るのかわからないし。
ううう…もしかしてタマモちゃんって料理下手なのかしら?
そうね。そのうち料理も勉強してみよう。
あ、お化粧も覚えなきゃ。
きっと昔とは違うんだろうし。
でも…今は…えーと…その…悦ばせ方が先よね。
うーーーーん。やっぱり今日の晩御飯は軽いものでカンベンしてもらって、今は横島の部屋に置き忘れた本を取り戻さなきゃ。
「あれ? タマモさんですか?」
「え?」
急に後ろから声をかけられて振り向けば泣きボクロが印象的な美人が立っていた。
あー。誰だったかな。
「あ、私、GSの魔鈴めぐみです」
ああ。そう言えば聞いたことがある。
確かこの人って魔女なんだっけ。
たまに美神が口に出していたな。なんか怖い目で。
でも私のことなんで知っているんだろ?
悪い人ではなさそうだけど、とりあえず警戒しながら頭を下げてみる。
「どうも…」
「はい。よろしく」
ニッコリと笑うととても美人。
元々美人だけどさ。なんていうか大人の落ち着きみたいなものがあって。
ちょっと回りには居ないタイプかな?
でもよく私のこと知っていたわね?
「横島さんからよく聞いてましたからすぐにわかりましたよ」
「え?」
よ、横島がこの人と知り合い?
こんな美人と?
いや…別に不思議はない。だって同じGSなんだし。
落ち着け。よし落ち着いた。
そ、それよりも問題はその後だ。
横島はこの人に私のことを話しているらしい。
それはどういうことかナ?
もしかして「タマモちゃんってとっても可愛いんですよー」とか、「もーね。抱きしめたいぐらいっす」とかそんな感じ?
そ、それは困るな。
うん困る。
いやだって恥ずかしいでしょ普通。
「毎日、キツネうどんばっかり食っててよく飽きないもんだって……どうしましたっ!急に倒れたりして!?」
あははははははは…あいつめ…いつか必ず焼く。
な、なによ! こんな美少女の評価がそれでいいわけ?!
ていうか評価以前の問題だしっ!!
だいたいあんただって人の食生活が言える立場じゃないでしょ!!
決めた…絶対に料理を覚える。
そしてアイツに食べさせて見返してやるわ。
「どう! タマモちゃんは料理も上手なのよ!」
「すまんかったタマモ…俺が考え違いをしていた…」
「ふっ…わかればいいのよ。さあ一番食べたいもの言ってみなさい! タマモちゃんに不可能はないわ!」
「そうだな…今一番食べたいのは…オ・マ・エ♪」
「え…そんな…まだ日も高いのに…」
「駄目か?」
「駄目じゃないけど…」
そして私は抱きしめられて…そのまま。
「あのー…この劇はいつまで続くんでしょうか?」
「え?」
「いえ…人が集まりはじめてるんですけど…ここは一応往来ですから…」
「も、もしかして…」
「はぁ…全部口に出てました…しかもご丁寧に声色まで変えて…」
「にゃああああああああっ!!」
大慌てでパタパタと手を振る私を見守る人だかり。
ううう……なんかギャラリーの皆様の目が生温い…。
いやっ! そんな目で見ないでっ!
「なんか想像していたタマモさんと違いますね…」
「違うの! これは横島が伝染ったの!」
「は?」
「いいから早くここから逃げましょう!」
一際生暖かい目をしていた魔鈴さんの手を握る。
ここは戦略的撤退あるのみ。
だってこのままここに居たらきっと私は恥ずかしさで石に戻っちゃうよぅ。
「え? きゃっ! 私もですか?」
「一蓮托生!」
「ううっ…嫌だなあ…同じ目で見られるの…」
「なんかヒドイこと言ってる?!」
問い詰めたい気もしたけど、とにかくこの場を逃げ出す私たち。
そしてたどり着いたのは彼女が経営するというお店。
なんだか疲れてしまってがっくりと肩を落す私に魔鈴さんが紅茶を煎れてくれる。
なんでも今日はお店はお休みらしい。
そういえばドアの前に「定休日」とかって札がかかっていた気もする。
しばし無言でカップを傾けあう私たち。
ううう…恥ずかしいよ…絶対に変な娘だと思っているよ。
だってこの人って魔女だし。
てことは陰陽師みたいなもんでしょ?
頭も良いに決まっている。
しかも美人だし。
スタイルも良さそうだし。
そんな人の前であんな一人芝居を…ううううう。
う? 待てよ? この人って魔女だよね。
確か魔女って…。
『どうしましたマスター?』
「魔女に関するデーターを至急!」
『了解しました。該当あります。魔女…魔法や術を使うもの。黒魔術や性魔術を使うことから過去にヨーロッパでは弾圧されたこともある』
「性魔術?!」
そうか…ふふふ…これよ。これなのよ。
まさに天の助けって奴ね!
これも普段の私の行いがいいからなのよ。
そうなのよ。インキンはイレギュラーなのよ。
「あの…どうしました?」
「魔鈴さん! 教えてっ!!」
「はい?」
「男の子の悦ばせ方っ!!」
「ぶふうっ!」
うわっ! 鼻から紅茶がっ!
こんな美人が鼻紅茶なんて…シュールだわ。
「げーほげほげほっ!」
「大丈夫?」
「誰の…げほっ…せい…げほげほ…すか…げほほ」
「そこまで咽なくても…魔女なんでしょ?」
「魔女だっていきなりあんなこと言われれば驚きます!」
「魔女なのに?」
キョトンとする私を半目で睨む魔鈴さん。
うーん…美人のこういう顔って悔しいけど絵になるわ。鼻から紅茶が垂れてなきゃだけど。
「あなたはいったい魔女をなんだと…」
「だって魔女って性魔術とか使うんでしょ?」
「は?」
「凄い魔女は性魔術も凄いって…魔鈴さんは凄い魔女だからそっちも詳しいかと思って…」
「まあ…そうですね…多少の心得はアリマス…」
何となく遠い目線になる魔鈴さん。
ていうかなんで微妙に目を逸らすのかしら?
台詞も変になってきているし。
「本当?」
「本当です!」
「じゃあ教えて…」
「うっ…」
「だめ?」
「駄目じゃないですケド…具体的にはどんなコトヲ?」
「んーーー。それが何をしていいやらさっぱりで初歩からということで一つ」
「ワ、ワカリマシタ…デモ、今日ハ都合が悪いので明日また来てください」
なんだかロボットみたいになっている。
変なの?
でも魔女の人が教えてくれるんだからこれを逃す手はないと私は素直に頷いたのだった。
さて…魔鈴さんの店を出たもののまだご飯の食材を買ってないことに気がつく。
あー。そうか。あの人に料理を教わればよかったんだ。
でも…と振り向けば彼女のお店はなんだかおどろおどろしい空気を放ち出している。
気のせいかカラスなんかも集まってきているし。
これは戻らない方が正解みたいね。
うーーーーん。だったら何を作ろうかなぁ…。
鍋だったら汁の中に具を放り込んで煮るだけだから簡単だったけど。
切って煮る系の料理かぁ……やっぱカレーかなぁ。
正直に言えばああいう香辛料の多い系って苦手なんだけど、横島は人間だし、前にテレビで男の子の好きな食べ物ってのの中に入っていたし。
うん! カレーにしよう!
えーと。まずカレーの材料を買わなきゃ…。
ふむふむ…これね。三分間煮るだけと。
そして箱の写真から推理するに…イモとニンジンかな?これはタマネギかぁ…タマネギはまずいなぁ…私キツネだし…。
一つぐらいは材料が入らなくてもいいよね。
あとは肉か…。やっぱビーフカレーってことで牛よねぇ。
うーん。ちょっと高いかなぁ…あんまりお小遣い持ってこなかったし…高い肉がちょっとより安くてもいっぱい入っていた方が喜ぶかなぁ?
お! これ安いよ。ブタベーコンって書いてあるけど肉だよね。
よしこれに決定!
あ、あとサラダなんかも必要かな?
えーとじゃあキャベツね。ふむふむ。これなんか良さそうね。
さて後は横島のアパートへ行くだけだぞっと。
横島のアパートはまあいつも通りって感じで。
あの小鳩って子も今は学校だろうし。
今度横島の学校に行ってみようかなぁ…。
どんな勉強してるのかな?
あはは…アイツが勉強なんかするはずないか。
えーと。鍵は……ってかかってないし…。
無用心にもほどがあるわね。
だから前だって良いところでいきなりシロに乱入されるのよ!
こほん…それはともかくとしてとりあえず…お邪魔しますと。
「汚なっ!」
ち、ちょっとなにこの荒れようは!?
ゴミの海の真ん中で孤島のように見えるのはコタツだし。
インスタント食品の殻が散乱しているし!
鼻をかんだティッシュとかも散らばっているし!!
うーーーーーーーん。
こりゃやっば先に掃除しなきゃ駄目ね。
エプロンに着替えてと…。
まずはゴミを捨てましょう。
そして雑誌類は一まとめと…。
あれ?そういえば私の本はどこかしら?
見渡せる範囲にはないわね。
まあそれは後でもいいとして…どうせ掃除すれば出てくるでしょ。
手早く手早くと…。
「うーーーーん。こんなもんかしらね…」
掃除機をかけ終わって見回せば、さっきとはうってかわった部屋の様子。
うんうん。タマモちゃんお掃除上手!
「えーと…そしたら次はご飯仕度っと…」
買ってきた材料を並べて調理開始。
知らず知らずに鼻歌なんか出たりして。
まずは野菜をブツに切って、そのままお鍋に投入して。
次にカレーの元を取り出してと。
えーと。一個が一人前だから二個入れてと。
うん…この感じ。良い匂いだわ。
さて後は三分間煮るだけね。
じーーーーっとガスの炎を見つめること三分。
あ、ことこと言ってる。出来たみたい。
なんだ簡単じゃない料理って。
とりあえず料理は出来たから後は横島が帰ってくるのを待つだけ。
手持ち無沙汰になった私はさっき積んだ本を一冊手にとって見る。
ふむふむ…いきなり水着の女の子の写真が表紙ですかそうですか。
だいたいなんですかこのけしからんおっぱいは。
大きくたって同時に子供に飲ませるおっぱいは2つじゃないですか。
つまり機能的に考えれば量ではなく数で互角なわけですよ。
そこのところを横島は考え違いをしていると思うのですよ。
ま、まあいいわ…さてと…次は…………………。
にえぇぇぇぇぇぇっ!!
い、いきなり絡んでますよ奥さん!
じゃなくって! これってもしかしてエロ本?!
うわーうわー初めて見た。
にゃああああっ! な、なに? この体勢はっ!
うわあ…上四方固め?
でもお互いがお互いのを…ひえぇぇぇっ!
あーんーえーと…ちょっと想像してみて…こ、これは恥ずかしいかも!
無理っす! 私には無理っすから!
つ、次のページと…。
あ…挟んでいる…。
これは参考にならない…じゃなくてしなくていいわね。えーと…次と。
ふむ…男が喜ぶ台詞ベスト3ですか。
なるほどなるほどこれはなかなか参考になるわね。
記憶しましょう。
『了解ですマスター。それと先ほどから人格が安定してませんので落ち着いてください』
「へ?」
い、今なんだか心の中から声が聞こえた気がするけど…まあいいか。
とりあえず覚えたことは間違いないのだし。
えーと…他に参考になりそうなのはと…。
ふむふむ…こっちの本なんかも良さそうね。
「俺の部屋で何をしとるんだ?」
「ひゃああっ! 横島っ!? どうしてっ?!」
わわわっ! 気がつけばいつの間にかこんな時間?!
しまった!タマモちゃん一生の不覚。
横島が帰ってくるのに気がつかなかったなんて…ううっ…どうしよう。
「自分の部屋に帰ってきちゃいかんのか?……ってタマモさん…君がいまメモを片手に読まれているのはもしや俺のお宝本ではありますまいか?」
「あ、あっ! こ、これはね! あんたがどんだけエロいかリサーチをしていたのよ!」
「なんでそんなもんを調べられにゃならんのだっ!!」
「敵を知り己を知れば百戦危うからずって言うじゃない! 情報を制するものは世界を制するのよ!」
「意味がわからんわいっ!! つーか敵って俺のことか!?」
「そうよ! 横島は女の敵っ!!」
「ぐはあっ! そこまでダイレクトにっ!!」
「あ…」
違うの。そんなことを言うつもりじゃなくて…。
どうしよう…。
『例の方法で機嫌をとるのですマスター』
そうね!その手があったわね。ありがとう謎の声の人。
私は体育座りしながら落ち込み始めた横島の背後に回った。
そっと彼の首に手を回し意外と広い背中に押し付けてみる。
これはさっきの本たちから得た知識だ。
これをやられればどんな男でも機嫌が直るらしい。
ふむ…それと後は必殺の台詞を耳元で囁くだけね。
えーと…確か…
「友達の家に泊まるって言ってきたの!!」
「は?」
あれ? なんか反応が違う?
間違ったかしら?
「あ、んと…子供扱いしないでよっ!」
「はぁ?」
あれ? まだ違う?
変ねぇ…んじゃ次。
これは必殺よ。なにしろ言葉と感触の両方からの攻撃なんだから!
「当ててんのよ!」
「なにを?」
「せいっ!」
「くえっ!」
し、失礼ね!!
この体勢で当てているったら胸しかないでしょうが!!
何をとは何を言ってやがるのよ!
ちょっと聞いてるの?!
なに白目剥いてこっちを見ているのよ!
『あのーマスター…横島さんの首がとんでもない角度に回転してますが?』
え? 言われて見れば確かに…あ、あはは…人間の首って180度までは大丈夫よね?
『それは普通に致命傷だと思いますが…』
そ、そうかな?でも横島だし…それよりもアンタだれ?
『ワタシの素性より今はチャンスかと』
は?チャンスってなに?
『マスターの記憶によれば横島さんはこの程度では死にませんが容易に目覚められるようなダメージでないことも事実です』
う…確かにそうかも…
『ですから今こそが男体の神秘を観察する機会かと』
え、ええーーーーーっ! そ、それって私が横島のナ、ナニを見まくるってこと?!!
『イエスですマスター』
な、ななななな、なんつーことを言うのだこの謎の声は!
だけど…ううっ…確かに私は横島にアレコレ見られたのだし…。
『そうです。ここは等価交換ということでマスター』
そ、そうかな?そうかも…う…で、でも…。
どうしよう…。
うーんうーんと考えた私の脳裏に浮かぶ不思議なウインドウ。
矢印のカーソルが早く選択肢を指定しろとばかりに点滅している。
えーーーと…なになに…。
1 チャンス到来! パンツを脱がしてじっくり観察
2 やっぱり恥ずかしい。ここは膝枕
3 とりあえず料理を準備して目覚めるまで待つ
こ、ここはやっぱ常識的に考えて3でしょう!
い、いや、そりゃあさ2もありかなーとか思うけど。
えーとえーと…とりあえずどっちにしようかなー…。
『お待ち下さいマスター』
「な、なにっ?」
『ただ今よりこの議題について第128回タマモちゃん会議が開催されます。マスターもオブザーバーとして参加なさってください』
タマモちゃん会議ってなにっ?!
つーか何時の間に128回もやっているのそんなの!
全然気づかなかったわ。
『普段はあまり表に出ませんが今回は一大事ですので…ちなみに前回の議題は『キツネうどんに七味唐辛子は必要か?』でした』
必要でしょそれはっ!
『はい。会議の結論もそうなりました』
ふむ…当然よね。
なるほど中々に権威のありそうな会議かも。
よし!どうせ迷っていても無意味に時間が過ぎるだけだし、ここは会議とやらに参加してみましょう。
案内してよ謎の声。
『了解ですマスター』
こうして私は目を閉じ、自分の深層意識の海へダイブした。
ゆっくりと落ちていくような不思議な感覚が薄れ、ガヤガヤと喧騒が耳に飛び込んできて私はゆっくりと目を開く。
目の前にはどっかの国会議事堂みたいな会議室が広がっていてイスにたくさんの私が座って居た。
でもよくよく見ればみんな微妙に違う。
小学生みたいな私も居れば、眼鏡をかけてインテリっぽい私も居るし。
『彼女たちはマスターの心の一部です』
「ふーん。つまりアナタと同じってわけね」
『そうですね。ただし私の場合はちょっと違いますが…そんなことよりそろそろ会議が始まります』
謎の声に促され私は席に着く。
ちょっと待て。
なんで他の私があんな立派なイスなのになんで私はチープなパイプイス?
『申し訳ありません。なにしろオブザーバーは初めてですので段取りが…』
ていうか本体は私よね?
この扱いってヒドイと思うんだけど?
『以後善処します』
むう…と割り切れない思いをかみ殺す私とは関係なしに始まる会議。
やたらと眠そうな年寄りじみたキツネが座っているのが議長だろう。
でもあんな年寄りが私の心の一部? ちょっと凹む。
『彼女は『ヒュプノス』ですね。あまり関わりにならないほうが賢明です』
「ふーん…そうなんだ」
言われても良くわからないけどまあいいだろう。
そのヒュプノスとやらが間延びした声で会議の開幕を告げると、今度はやたらとセクシーな格好をした大人っぽい私が現れた。
『彼女は『エロス』です。最近、勢力を拡大して主流派になりつつありますね』
「そ、そうですか…」
あ、あは…言われてみれば心当たりがあるようなーないようなー。
えへへへへへへ。
「えっとー…ここはやっぱり一番だと思うのですー」
ちょっ! いきなり一番って!
「やっぱ気持ちいいが全てだと思うですー」
エロスの声に「おおお」と上がる賛同の声。
そ、そういうものなの? も、もう少し穏便な方法は…なし?
「意義ありでちゅー」
立ち上がったのはやたらと小さな私。どうみても幼稚園児。
『彼女は『一般常識』です』
あ、あはは…私の常識ってあんなものですか…。
なんだか激しく凹むんですけど…。
『それを学ぶために居候しているのですから…』
「そ、そうよね…」
凹む私を慰めてくれる謎の声の主。
正体が凄く気になるけど、どうにもはっきりしない。
でも考えてみれば変な話だ。
だって彼女?も私の心の一部だと言うのに私に自覚が無いなんてことがあるのだろうか。
「女の子が男の子のパンツを脱がすのは変態だと思うでちゅー」
待ちなさい一般常識!
あんたは本体を変態呼ばわりする気なのっ?!
『実は脱がせるおつもりでしたか?』
「そ、そんなわけないじゃないのっ!」
な、なにを言っているの謎の声。
私は一般常識の味方よ。ほら。手なんか振っちゃうし。
そんな私の声援が届いたわけでもないだろうが、会議の方は一般常識側の提案が通りそうな雰囲気で着々と進行していった。
特に見て居る私が思わず赤面するぐらいやたらと乙女チックな『乙女心』が「やっぱ恥ずかしいですー」とか言ったのが効いたのかも知れない。
となると…3番かなぁ……ちょっと残念………じゃないからねっ!
誰も見ていないのにワタワタと手を振る私。
あれ? そういえば謎の声の姿がない。
どこかしら?
「あー。それでは二番と三番で決を取ります」
「お待ち下さい!!」
眠そうなヒュプノスの声に会場が同意の声をあげ、採決が始まろうとしたまさにその時、会場の一角にスポットライトが当たると凛とした声が響き渡った。
え? あの声は…謎の声の人?
あれ? でも何だか姿がぼやけていて良く見えない。
輪郭は私に近いと思うけど…。
「確かに常識的には二番か三番でしょう! ですが皆さんお忘れですか? 私たちにはライバルが多いと言うことを!」
「おお…」とか「確かに」とかざわめく会場。
オブザーバーの私にもわかる。
会場の流れは今の一言で変わり始めていた。
「勝負は迅速を持って良しとするの例えもあります。また機を見てせざるは勇無きなりとも…私はここに一番の選択肢を支持いたします!!」
どよどよとどよめく会場で議長は大きく頷くとトントンと机を叩いた。
「えー。ただいま『×××』が提案した一番について異議のある方はおりますか?」
「意義なーし!!」
え?ちょっと待って! 今までの会議はなんだったの?
ていうかなんでそんなに影響力があるの謎の声?
『どうなさいましたマスター?』
「うわ! いつの間にっ!? それよりあなたって何者なの?」
『それは秘密です。というかまだ気がついてくださいませんか……まあ仕方ないですね。とりあえず現世に戻りましょう』
「え? え?」
謎の声の主が手を握った瞬間、私の意識は深層心理から浮き上がる。
目をパチパチとしばたいて状況確認。
うーん。なんか長いこと会議に参加していたみたいだけど実際はそんな時間でも無かったみたいね。
だって横島はまだ目覚めて無いし…それに…………にえぇぇぇぇっ! わっ! わっ!! 私ってばすでにパンツに手をかけているっ!!
ううう…タマモちゃんすっかりエッチな娘になっちゃいました…。
えーと…とりあえず下します。
はい。出てきましたね。これがそうですね。
今はぐったりしてらっしゃいますが…。
ではちょっと触ってみましようか。
こんな感じでどうでしよう。
あ、ピクピクってしてきた!
あわわわ…育ってきたよう。触ると育つんですねお姉さん。
『そうだねー。良いところに気がついたねー』
あははは…なんかどんどん熱くなってますけどどうしたら良いんでしょうか?
『とりあえずしごいてみてはどうでしょう?』
そ、そうね。
んーと、んーと、こ、こんな感じでしょうか?
うわわわっ! 生きてますっ! 生きてますよコレ!!
なんか先っぽがニョロンとしてきたんですけどっ!
えーと…これがもしかして私の中に……あははははははは…痛そうだなぁ…。
我慢できるかなぁ…うーん…なんとかなるよね。
えーと。次はどうするんだっけ?
さっきの本では………にゃあああっ!
パクッってハムって?!
『ファイトですマスター!!』
うん頑張る!負けている場合じゃないよね!
い、いきまーす。
ハムッ…と…ううっ…なんか不思議な味と感触が。
ちょっと苦い?
んでツルツル?
ねえ、横島は気持ち良い?
チロリと上目で見れば相変わらず意識は無いものの、微妙に鼻を膨らませた横島の顔が見えて。
そっか…気持ちいいんだ…。
んふふ…じゃこれはどうかな?
ペロペロと先の割れ目に舌を這わせれば横島が急に腰を突き上げて、げほっ!
の、喉ちんこ直撃…く、苦しいよ横島っ!
あ…でも、変…なんか苦しいのに気持ちいい。
私、なにもされてないのに…なんで?
あ、なんか夢中になりそう。
苦しいのは相変わらずだけど、蕩け始めた横島の顔を見ていればそんなのどうでも良くなって…うふ…んじゃこのくびれたところなんかどうかな?
ちよっ! 激しいってば! そんなにズンズンしないでっ!
あ、なんかピクピクしてきた…ねえ…イきそう? 私のお口、気持ち良い?
出してもいいよ。
私もなんだか限界って感じ。
苦しいのに幸せで。
もう出そう? 出してもいいよ。
「くっ!」
横島のお尻がピクッと震えた瞬間、私の口の中で濃い雄の匂いが爆発した。
けほっ!けほっ! 濃いよう横島ぁ…。喉に絡むよぅ…。苦いよぅ…。
『マスター…無理に飲まなくても…』
ううん。いいの。飲みたいの。
だって…これって横島の霊力の源なんだもの。
だから…最後の一滴まで…。
彼を口に咥えたまま、私は喉を動かし一滴も余さないようにと手で彼を扱く。
あは…凄い量。
ねえ? まだ出るの?
私って今、幸せなの?
「止めろっ!!!」
「え……?」
突然の怒鳴り声に思わず顔を上げる。
口の端から彼のが零れたけど、そんなことはどうでもいいの。
横島…どうしてそんな冷たい顔をしているの?
私…なにかあなたに嫌われるようなことしちゃったの?
こんなことしちゃ駄目だった?
だけど…だけど…私、アナタにも気持ちよくなって欲しくて…。
「出ていってくれ…いや…出て行ってくれないか…」
「な、何を言っている…の?」
信じられない言葉。
言い直したけれど…中身は拒絶のまま。
なんで? どうして?
あは…嘘だよね。冗談だよね…
あれ? なんか…目が霞んで…あ、あは…横島がよく見えないよ…。
「……自分で気づいていないのか? それなら好都合だが……」
「なんのこと…?」
「アナタは失敗した…否…我の見込みが甘かったと言うことか……まあ良い…どっちにしろ大差は無い」
グシッと袖で目を擦ると私は横島の顔を睨みつける。
ガクガクと膝が震えるけどここは我慢しなきゃ駄目。
だって聞かなきゃ…なにが起きているかちゃんと聞かなきゃ…
でも…だけど…
横島の目は…とても…とても…冷たくて…
「今一度言う…出て行け」
駄目だった。
だから私はもう話は終わったとばかりに背を向ける横島に一言だけ…。
「あ、あのね…ご飯作ってあるから…」
返事は無かった。
どうしようもない気持ちを抱えて私は横島のアパートを飛び出した。
馬鹿にして!馬鹿にしてっ!!
病院にいたときは拒否する素振も見せなかったくせに!!
私が…私が頑張ったら拒絶するなんて…!!
手を差し伸べておいて…あんなに暖かいものを見せ付けて…それを振りほどくなんて!!
泣くもんか! 絶対泣くもんか!!
だのに…
だのに…涙は止まってくれなくて…。
気がついたら私は知らない公園にいた。
あたりはすっかり夜の帳に包まれている。
今、何時だろう?
もう帰らなきゃ…。
でも…おなか…すいてないし…。
このままどっかに行っちゃおうかな…。
「あれ? タマモさんどうしましたこんなところで?」
ゆっくりと顔を上げた私の前に、両手にバナナが山と入ったスーパーの袋を持った魔鈴さんが立っていた。
次回予告
豹変する世界。
渦巻くエゴ。
荒涼たる荒野の中心で少女は叫ぶ。
「来なさい! 私の心たち!!」
そして圧倒的な敵との最後の戦いが始まるのだった。
次回 「煩悩ロボ ダイボンノー 最終話 ─承認! ファイナル・フュージョン!!─」
乞うご期待!
犬雀様からの、別名寸止めSS第四弾…寸止めではないか(マテ
豹変する横島の態度に涙目タマモに動揺を隠せません。
先の展開が気になるところで、ある意味寸止めを食らいました(マテれ
ありがとうございました。