あれから取り立てて何が変わったというわけじゃないはずだった。
おキヌちゃんはいつも通りにおいしいご飯を作ってくれるし、美神は仕事の検討をしている。
ただ変わったと言えばシロが私に妙に優しくなったということだろう。
例えば 「お尻を冷やすな」とか「辛いものを食べるな」とか「寝る前に水を飲め」とか………。
あげくの果てに「円座」、所謂ドーナッツ型の座布団まで買ってきてくれたりして。
ああ…そうか……そういうことか。
シロ…あんたってば本気で私が痔だと思っているでしょ…。
うううっ…花も恥らう美少女でしかも傾国の魔物と言われたこの私が痔持ち扱いとは…。
いえ、決して痔を差別するつもりはないのよ。
とても辛い病気ってのは以前にちょっとしたことで知り合った人も言っていたし。
入院一週間地獄を見たとか泣いていたしね。
でもね…やっぱどうかなー?って思うのよ。思っちゃうのよ! 悪い?!
それもこれも…みんなアイツが悪い…。
あんなアホな言い訳をしたアイツが悪い。これはもう確定。
そ、そりゃさ、確かにアイツのアパートで私がパンツを脱いでいたってのはおかしいわよ!
そのための言い訳としてはありうると思うわよ!
でももっとマシな言い訳があったんじゃないかなーと思っちゃうのは仕方ないでしょ。
例えばさ…
「お漏らししました」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「だーーーーーーーーっ! 余計悪いわーーーー!!」
持っていた枕をベッドに叩きつけて大絶叫。
恥の上塗りじゃないのこれ!
い、今のは失敗よ。そ、そうなのよ。も、もう一回チャレンジ!
「パンツが破けました」
お、いけそうかも。
「なんで?」
「オナラの勢いで」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「私のお尻は空気銃かなんかかいっ!!」
あ、あはは…落ち着くのよ。タマモちゃん…。
そ、そうだ…こういうのは少し本当のことを混ぜた方がいいのよね。
んーーーんと…例えば…。
「邪魔だから脱ぎました」
「なんで?」
「横島とエッチするために」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
い、いや! 違うよ! してないようんしてない!
そりゃ指とか入れられちゃったけど、なんか凄く優しく触られたりしたかもしんないけど、ちょっと…というかかなり気持ちよかったけど…してないよ?!してないからね!!
え、えーと…勢いでしちゃってもいいかなー?なんて考えたわけじゃないし、あー、もしかして横島ならうーーーーーんと優しくしてくれるかなーなんて考えたりなんかしてないよ。
あ、あは…い、いや、そりゃあね。キスなんかしちゃったけど、それはまあ流されたというか…ほらあるでしょ色々と。
やっぱこうなんていうかさ。気持ちいいものを求めたいってのはさ。本能?みたいな。
キスであんなにフワフワするなら、指であんなに気持ちいいならって考えちゃう………わっ、わわわわわわわ、私ってば今、凄くエロいこと考えてなかった?!
ち、違うからね! これはそんなんじゃなくて!
「って誰に言い訳している私っ!!」
うがーと吠えながら可哀想な枕にストンピングの雨あられ。
気がつけばお気に入りのそば殻枕はまっ平らになっていて…うん、後でこっそりシロのと取り替えよう。
「タマモー。 ここに居たでござるかー?」
「うひゃあっ!」
「どうしたでござる?」
いきなり入ってこないでよ。こっちには心の準備ってものが必要で…って待ちなさいシロ…あんた何を持っている?
「これでござるか? ネギにきまって…」
「オッケー、シロ。ネギはわかった…問題はそれを何に使うのかってことよ?」
「ああ。実はテレビの『掘削 蟻蟻漢和辞典』でやっていたんでござるよ。「痔」にはネギが効くと」
「痔とか言うなーーーーーーっ!!」
うがーーーとまたまたタマモちゃん大爆発。
これはキレてもいいわよね!
だいたいそれは風邪の治療法でしょうが!!
「え? だって…」
「治った…」
まだ言い募ろうとするシロをとりあえずギロリと一睨み。
私の視線と声音に怯んだか、シロは大汗かきながら二三歩後退する。
「い、いや昔から痔は寺に入らねば治らぬと…」
「治った…」
「で、でも…そんな二、三日で…」
「治ったったら治ったんじゃーーー!!」
キャインキャインと鳴きながらネギを片手に部屋を飛び出すシロ。
うーーーーーーー。
なんだかとっても泣きたい気分…気分転換に散歩でもしょうかしら。
最近買ったキツネ色のジャケットを羽織って私も部屋を出る。
とはいうもののどこへ行くと言う当てもない。
うーん…近くのうどん屋さんもあるけれど…今ひとつ気が乗らないしなぁ。
そういえばこの間食べた鍋焼きうどん…おしいかったな…。
横島も美味しいって言ってくれたっけ。
でも…その後で私ってば寄生虫にやられて…そして…横島が私の…わ、わ、わたひにょっ!
「どうしたのタマモちゃん?」
「おひょうっ!」
「きゃっ!」
「おキヌちゃん! いつからそこにっ!?」
私の剣幕に驚いたのか胸を押さえているおキヌちゃん。
でもとっても心臓に悪いわその登場の仕方。
まあ元は幽霊だったんだから仕方ないのかも知れないけどさ。
「ふえ? 今だけど? タマモちゃんはどこかにお出かけ?」
「う、うん…まあちょっと暇つぶしに散歩でも…と」
「あ、それならお買い物につきあってくれないかな? そこのスーパーなんだけど」
これといって拒否する理由もないから私はコックリと頷いた。
そうね。こういう時は家で腐っていても仕方ないわね。
うん! 行こっ! おキヌちゃん!
とは言うものの冬の街角はとても寒い。
吐く息が白い湯気になって飛んで行く。
なんとなく風に舞う自分の吐息を追っていた私はアイツを見つけた。
そうだ。
今、私がこんな寒い思いをしているのもアイツのせいだ。うん決めた。
横島はぼんやりと何をするでもなく街角に立って腕時計なんか眺めている。
立ち止まった私の視線に気がついたのかおキヌちゃんも横島を見つけたらしい。
さっきまで寒そうだった頬っぺたが今はかすかに熱を帯びているみたい。
おキヌちゃんはこちらに気づこうともしない横島に向かって歩き出そうとする。
「待っておキヌちゃん…」
「え?」
「アイツ…誰かと待ち合わせじゃない?」
「そ、そうかしら?」
「間違いないわ! ほら! アイツまた時計見たでしょ!」
「時計ぐらい…」
「わかってないわね…いい? 腕時計を見て、さらにあの街頭時計にも目をやったわよね。これはつまり自分の時計が正しいかの確認なわけよ」
「は、はあ…」
「あのものぐさがそこまで時間を気にするなんて……女とのデートとしか考えられないわ…」
「え、ええーーーーーーっ!」
目を丸くするおキヌちゃん。
うん。わかるわ。
横島がデートなんてありえないものね。
それにおキヌちゃんって横島のこと好きでしょ?
そんなの見てればわかるわよ。
だからさ…。
「つけましょう…」
「うん!」
ほらね。
尾行する私たちには気づかないのか、突然フラフラと歩き出した横島が入ったのは何の変哲もない本屋だった。
特に目当てのものがあるというのではないのだろう適当に雑誌の類を眺めている。
私とおキヌちゃんは横島に気づかれないように注意しながらちょっと離れた書棚の前で立ち読みのふりをすることにした。
なんだか退屈そうにしていた横島がふと一冊の本に目を止める。
やばいと思って私は手近にあった本をとって顔を隠す。
幸いにも気づかれなかったが、横島が鼻の下を伸ばしながら読み始めた本を見てしまった。
「巨乳の王国…」
ギシャリと手の中の本が歪む。
あの野郎…あんだけ私の乳に好き勝手しておきながらやっぱ巨乳が好みかい。
ふーん。そうかい。そうかい。そうですかいっ!!
「わああっ! タマモちゃん!」
「しっ! 静かに!」
「だって…その本…」
え?とおキヌちゃんに言われて手を見れば、本は見事に歪んでいたりして。
ありゃ?何時の間に?と首を傾げる私の肩をトントンと叩くのはこのお店の店員さん。
「困りますね。お客さん…」
「え?」
「そんなにされては買っていただくしか…」
「あ……買います…」
えーと…「薔薇の世界」か…。む?2500円? 高いわね。
ちょっと痛い出費だけどまあ仕方ない。悪いのは私だし。
ここは美神にならって経費とやらで落としてみよう。
それにしても園芸本の表紙にふんどしの男って何を考えているのかしらね。
ふと横を見ればおキヌちゃんが真っ赤になってなにやら言いたそうにしている。
なんだろう?もしかしたら経費で落とそうって考えているのバレた?
そっか…美神なら怒るかもね。
となれば。
「2500円です」
「あ、領収書ください。「氷室キヌ」で」
「ちょっとぉぉぉぉぉぉぉ!!!」
ごめんねおキヌちゃん。でもその様子からすれば嫌な予感に従って正解だったみたいね。えへっ♪
そんなアクシデントもあったけどなんとか横島には気づかれないですんだ。
本当にどんだけ鈍いのだろうこの男は。
後ろでおキヌちゃんが少しベソをかいてるのが気になるけど、今は横島の相手を突き止めるのが先決だ。
横島は呑気に鼻歌なんか歌いながら本屋を出ると迷いの無い足取りで歩き始める。
どうやら待ち合わせの場所に向かうみたい。
それから何分も立たないうちに横島の相手が現れるた。
長い髪を三つ編みにして、少しくたびれているけれど穏やかそうな顔によく似合うピンク色のコートを着て現れたのは私の見たことも無い女の子。
誰?
「あ、小鳩さんじゃないかな?」
「知っている娘?」
「うん。横島さんの隣に住んでいる人ね」
待ちなさいおキヌちゃん。
それ初耳。
ていうかあんな見るからに美少女美少女した娘がお隣さん?
しかも…しかも巨乳持ち?
説明してもらおうかしら。
「た、タマモちゃん…なんか怖い…」
「んふふ…気のせいよ…」
「えーと…えーと…」
なんだかシドロモドロにって言うか完全に逃げ腰になりながらおキヌちゃんが説明してくれたことによれば、花戸小鳩、横島と同じ学校の下級生。
そして貧乏神憑き…今は福の神らしいけど。
「それでね。その時に横島さんと結婚」
「はあ?!!」
「ちょっ! タマモちゃん! 首っ! 首絞まるっ! ギブギブ!!」
「なによその結婚って!」
「けほけほ…あのね…だからね…除霊のために仕方なく…」
「ふーーーーーーーーーん」
ほほう…私が知らないうちにそういうことがあったんだ。
ふーーーーーーーーん。そうですかーーー。
ふーーーーーーん。
胸の奥から沸き起こるムカムカとかモヤモヤとかそんなのがない交ぜになった
感覚。
ムヤムヤとでも言えば良いのかしら?
でも…なんでだろ?と私の中の冷静な部分が首を傾げる。
そうね。それは私も疑問だわ。
とおキヌちゃんを見れば不安そうな目で私を見ていたり。
どうしたの?
「あ、あのさ…もしかしてタマモちゃん…横島さんの事…」
「燃やすわよ」
「ご、ごめんなさいっ!」
「あるわけないでしょそんなことっ! あんなスケベで変態な奴」
そうよ、あるわけがない。
だって私は由緒正しき大妖怪。
アイツはGS。
言ってみれば水と油の関係だし。
あ、そりゃさ。助けられたのは感謝しているし、悪い奴とは思わないけどね。
うーーーーん。まあどちらかと言えば良い奴?
でもスケベだし。
この間も私の乳とかアソコとか……………って何を思い出している私っ!
わわわわ…なんか顔が緩んでるっ!
な、なんで?!!
「で、でも横島さん良い所いっぱいあるし…」
うんうん。おキヌちゃんはそう言うよね。
そうね。良い所はあるわね。でもね。好きとかそういうのと違うのよ!
これ本当!!
「タマモちゃん?」
「あっ! 動き出した! 行くわよおキヌちゃん!」
「え? まだ尾行…う、うん…わかりました…」
ますます泣き顔になるおキヌちゃんを連れて私は二人の後をつけ始める。
どこかホッとした気がするのは気のせいだろう。うん。きっと気のせいだ。
さて二人がどこに行くのかと思えばなんのことはない近所のスーパー。
なんだか拍子抜けしつつも、まだ安心は出来ない。
ここからどんな展開になるかなんてまだわからないじゃない?
だから私たちもこっそりとスーパーの中に入った。
「とりあえず買い物客のふりしましょう。適当に話を合わせて」
「う、うん…」
もうすっかり立場が変わった私とおキヌちゃんが見守る中で二人は楽しそうに談笑しながら買い物をしていく。
私の時は一人で行かせたくせに…その娘とはそんなに楽しそうに…。
モヤモヤしはじめた私の心など知らないで、おキヌちゃんが話しかけてくる。
どうやら買い物客のふりをしているうちに本当に買い物を始めたらしい。
手に持っているのは小ぶりのカップ麺。
「あ、タマモちゃん。これ新製品ね。でもちょっと小さいかな?」
「そうね。それなら三個はいけるわね」
適当に相槌うちつつ私は仲良く買い物する二人から目を離せないでいた。
あれはアジか…ふーむ…晩御飯のおかずにしては弱いわね。
「タマモちゃん。こっちのウドンは大判だって」
「そんなの普通でしょ」
次はワカメか…もしかして朝食のメニューかしら?
朝食ってことは…。お泊り?!!
「これのお揚げなんか厚そうね」
「その程度余裕よ」
などとどこか上滑りした会話をしつつ、あとをつけているうちに二人は買い物がすんだのかスーパーを出て行く。
当然のように追う私。
そして二人は裏道に入るとちょっと小洒落た喫茶店に入った。
「まずいわね…」
見たところボックスが3つくらいしかなさそうな小さな喫茶店だ。
これでは中に入るわけにはいかない。
うーーーーーん…なにか良い方法は…。
「ねえ…もう止めない?」
「うーーーーん…ここから覗いていたら中からみえみえだし…」
「ううっ…聞いてないし…」
ふと見れば喫茶店の真向かいに真っ黒なガラスの変な店がある。
いわゆるマジックミラーという奴だろう。
と言うことは外から中が見えないけど中からなら向かいの喫茶店が監視できるはず。
だったら…。
「あそこに入るわよ」
「えっ? ええええええーーーーーーーーっ!!」
「ほら!早くっ!」
なんでだか知らないけどジタバタと抵抗するおキヌちゃんを無理矢理引き摺って私はその店に入った。
雑貨屋さんみたいだけどなんの店かはよくわからない。
何人かいたお客さんが私たちを見てギョッとしたのが印象的な変なお店。
「万引きと思われたら嫌だから商品を見ているふりをするのよ」
「う、うん…」
返事はするもののどこか表情が虚ろになりはじめているおキヌちゃん。
どうしたんだろう。疲れたのかな?
それでも優しいおキヌちゃんは私に合わせようと必死に口を開く。
ただ思考が追いつかないのかその台詞は先ほどのスーパーのものの焼きなおしだったけど、私もまともに考えて答えていないのだからお相子だろう。
「あ、あは…タマモちゃん新製品だって」
「そうね。それなら三個はいけるわね」
「なんだとっ!」
「まさか3本もっ!」
私たちの会話を盗み聞いていたのかどよめくお客さんたち。
なにをそんなに驚いているのだろう。
目の前にあるこのコケシ人形になにか意味があるのかしら?
「こっちは大判だって」
「そんなの普通でしょ」
「バカなっ! アレはオーナー自慢の2リットルもの!」
「あんな少女たちがあのような業物を!」
「……これなんかあつそうね」
「その程度余裕よ」
「ろうそくまでもかっ!」
「ぐはあぁぁぁぁ! なんと羨ましい!!」
五月蝿いなぁと思って少し目に力を込めてお客さんたちを睨みつけてやれば、不思議なことにみんな感嘆の目と言うか「感動した。よくやった!」とでも言いたげな目で私たちを見ていた。
なかには拍手しているのまでいる。
本当に変なお店。
おっといけないいけない。
今は横島たちに集中しなくちゃと目を窓の外に向ければ、ちょうど二人して出てくるところだった。
なんか小鳩と言う娘は楽しそうに頬なんか染めているし、横島もまんざらではないみたい。
こうなったらもう意地だ。
とことん追い詰めさせてもらう。
キツネだって狩りには自信があるんだからね!
「行くわよおキヌちゃん!」
「え、う、うん! 早く出よう!」
いつの間にか流していた滝の涙を振り飛ばしながらおキヌちゃんがコクコクと頷く。
変なおキヌちゃんと思いながらも店を出ようとした私たちの前がいきなりふさがれた。
なにと思って見ればいけすかない顔をしたスキンヘッドの親父が助平そうに笑っている。
「どいてよ!」
「おっとそうはいかないなお嬢ちゃんたち。若い娘がこんな店に来るなんて感心しないねぇ…おじさんが躾をしてあげようか?」
うわ。凄いムカツク。
決めたコイツは燃やしてやろう。
だけど私は優しいキツネなのだ。
一回ぐらいは猶予を与えてあげるわ。感謝しなさいよ。
「どいてくれないかしら? 早くしないと行っちゃうでしょ!」
横島を見失いたくない一心で声を荒げてみるが、この手合いの男はそんなことで「はいそうですか」と道を譲るようなタイプじゃないと言うことぐらい人に慣れていない私でもわかる。
これ以上邪魔するなら焼いてやると、男に気づかれないように妖力を高めるけど私が思ったような反応は返って来ない。
むしろなんだか気まずそうにもじもじしはじめている。
ちょっと気持ち悪い。
「あ…その…イくのか?」
「そうよ!」
「そ、それは…」
意外にも気弱な様子で男がオドオドと道を譲ろうとした時、店の奥からしわがれた笑い声が流れてきた。
そちらを見れば白髪の老人が杖を持って立っていた。
「ふおっふおっふおっ…いかんのう。春山よ…お主、自分がなにをしたかわかっておるのか?」
「待ってくれ長老! 俺はこの娘たちがプレイ中だと知らなくて!」
「言い訳は聞けんな…ワシらの掟第1条『何人も他者のプレイを妨げてはならぬ』…忘れたわけではあるまい!」
「ひいっ!」
慄く男に長老と呼ばれた老人は杖を向けると「ヒュッ」と小さく唇を鳴らす。
途端に天井から降ってくる黒覆面に黒パンツのマッチョが二人。
マッチョたちは目に涙を溜めてガクガクと震えだした男の手を両脇から押さえると軽々と持ち上げ奥へと歩き出す。
「待ってくれ! 嫌だっ! 人生観を変えられるのは嫌だぁぁ!! 助けてっ! 助けてぇぇぇぇ!」
「なーに。何事も慣れじゃよ…」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁと魂消るような悲鳴を残してスキンヘッドは店の奥へと連行されて行った。
こ、この店ってなにかとてつもない秘密があるんじゃないかしら?
でも神秘の探求は後回しだ。
今は横島たちを追わなくては。
振り向いてもう完全に虚ろになった表情で泣き笑いしているおキヌちゃんの手をとる。
なんだか魂が抜けたみたいに頼りない彼女の様子に私は少し不安になった。
「おキヌちゃん行ける?」
「おおっ! あっちの黒髪の子がイくのか!!」
「くっ…大和撫子…好みだぜ…」
「あのボンヤリと虚脱した表情…まさに芸術!」
わけがわからないけど盛り上がる他のお客さん。
よく見れば呼吸が荒くなっている人もいる。
あえて言えば「はぁはぁはぁ」
うわわわっ! 今、なんか背筋に冷たいものが走った。
私の本能が訴えてくる言葉に耳を澄ませば「一刻も早く脱出を」と生存本能が警告を送ってくる。
勿論、私は本能の警告に全力で従ったのだ。
横島たちは裏道をまっすぐに歩いていく。
ふむ…この様子だと目的地は近いかもね。
「ね、ねえ…もう止めようよ…」
「もう少しよおキヌちゃん。きっと次が本番だから」
「は?」
「だって見てごらんなさい。アイツらが向かっているのはどこ?」
「えーと…スポーツ店?」
私が目で示した先にあるのは大型のスポーツ用品店。
間違いない。横島たちの目標はあそこだ。
「そうよ。スポーツなんかやらない横島がちょっと寄りましょうって店じゃないでしょ。そ、それに…あの小鳩って子もスポーツには不向きそうだし…」
あれほど質量のありそうな物体、きっと揺れて邪魔なはずだ。
そうなんだ。そうに決まっている!
だから激しい動きが必要なGSとしてはちっちゃい方が正しいあり方なのよ!
「あ、本当だ。入ったよ」
「あそこなら私たちが入っても気づかれないわね」
そして私たちは大型スポーツ店へと潜入した。
店の中はなんか皮とか油とか色々な匂いがする。
正直に言えば苦手な臭いだ。
そして様々な商品の一角、水着コーナーで横島たちを見つけた。
「この時期に水着?」
「うーん。今はプールとかあるから…」
「そうか…つまりデートの下準備ってことね」
「なんで?」
「女物の水着コーナーに男と行く理由を2000字以内で簡潔に述べよ」
「それ多すぎだから…えーと…そっか…そうかも」
「でしょ。間違いないわ」
そうだ。間違いない。
だってあの小鳩って子が真っ赤になりながら水着を選んでいる。
というか横島に選ばせている。
これはもうアプローチ以外のなにものでもないじゃない。
おキヌちゃんは危機感が無さすぎっ!
それにほら…し、試着室までエスコートですよ。
これはあれですよ。
試着した水着を見せちゃったりして、あのプルルンを見せ付けてっ。ついでに谷間なんか強調してっ!「どうですか?」攻撃をするつもりなのよ!
「ちょっとタマモちゃん! 近すぎるよ!」
「大丈夫よ。横島の全神経は今、試着室に向いているから…」
「そ、そうかなー…」
今ひとつ不安そうなおキヌちゃん。
あーもう! やっぱおキヌちゃんは優しすぎて危機感が足りないと思うわけ!
ちょっと活をいれなきゃ!
「悔しくないのおキヌちゃん! 巨乳よ! 巨乳なのよ!! 貧乳のおキヌちゃんとはまさに対極、月とスッポン、肉まんと南部煎餅なのよっ!」
「も、もしかしてヒドイこと言ってる?言われてるっ?! それならタマモちゃんだって似たようなもんじゃない!」
「私は育つから…」
「そ、そんなのわかんないでしょ!」
「育つから…」
「で、でも…」
「育つから…」
「う、うん…そだね。私もまだ育つよね…」
「………………………………………………………………そうね………………」
「今の間はなにっ?!」
涙目で抗議の視線を向けてくるおキヌちゃん。
ごめんねおキヌちゃん。今はそれどころじゃないのと私はあの子が選んでいた水着の一つを手に取る。
赤いビキニ。なかなかにいい角度で切れ込んでくれている。
そして肝心のサイズはと…。
「91っ!」
正確には91〜94だけど91に決定!
カップは? カップはどうなのっ!
「Fッ!!」
なんというか…圧倒的だった。
えーと…私がホニャララだからその差は…えーと。
えーびーしーでーいーえふじー♪
「がっでむっ!!」
「わあっ! タマモちゃんがいきなりアメコミ調に!」
うふふふふふふふ…そう…そういうこと。
あんなに私の乳を揉んだり吸ったりしておいて…「タマモのおっぱいは最高だ」とか「俺はこういう形の良いおっぱいが好きだ」とか言っておいて…これですか。
そうですかそういうことですか…うふふふふふふ。
どうしてくれようかしら…。
「なにやってんだ二人して?」
「うっさいわね! 尾行よ尾行!」
「誰を」
「誰って決まっているでしょ!…横島っ! なんでここにっ!」
「それは俺たちの台詞だから…」
疲れたように首を振る横島。
その後ろでは試着が終わった小鳩という巨乳っ娘が困ったような顔で微笑んでいる。
しまった…つい我を忘れているうちに気づかれたらしい。
おキヌちゃん! なんで教えてくれないのよ!
と振り向いた私の前に居たのは紺の帽子を被ったツインテールの女の子。
あれ? おキヌちゃん何時の間に髪型変えたの?
横島も驚いた顔でおどおどしながら逃げようとしているおキヌちゃんを見ていたり。
「おキヌちゃん?」
「いいえお客様…。私はこの店の店員ですから…」
「頭にブルマ被った店員は居ないと思う…」
「ひん…」
ブルマの足のところから髪の毛を生やして泣くおキヌちゃん。
ううっ…なんだかとっても罪悪感。
ごめんねおキヌちゃん…まさかそこまで追い詰められていたとは……でも…毒食えば皿までよね!
私たちって友達同士よね!
「で? なにをしていた?」
溜め息つきながらも横島は聞いてくる。
これはもう誤魔化すのは無理かも…。
でも何か言い訳と頭の中で右往左往する私を助けてくれたのは小鳩と言う子だった。
「あの…横島さん…もしかしておキヌさんたちもプールに行きたいんじゃないでしょうか?」
「そ、そうなのよ! そろそろ暑いじゃない! だからさ!」
「まだ二月前だが?」
「うっ…」
しまったと唇を噛む私を小鳩ちゃんがまたまたフォローしてくれる。
どうやら見た目の印象通りの子らしい。
「あの…実はですね。私、アルバイト先の店長からプールの優待券を頂いて、それで明日、横島さんと行こうと思っていたんです」
「そ、そう…」
「ええ。でも券はまだありますから皆さんも一緒にどうですか?」
ああ、わかった。
わかってしまった。
やっぱりこの娘も優しいんだ。
おキヌちゃんと同じぐらいに優しいんだ。
だってわかるもの。
この娘は横島が好きで。
きっと全部察しているのに、本当は横島と二人だけで行きたいはずなのに。
でも私たちに遠慮して。
なんだろう。
体が冷えていくみたい。
私が子供だから?
私がキツネだから?
私が妖怪だから?
だからみんなそんなに優しいの?
ねえ…横島もそうなの?
「お前は来るな」
「なっ!?」
ズキンと胸が痛む。
そっか…やっぱりか…。
そうだよね…。
私は妖怪だものね…。
あはは…私…バカみたい…。
「ああ。お前が来たらどうせ俺にたかるだろ。やれアイスだ! ジュースだと!! 生憎だが俺にそんな余裕は無いっ!!」
「そ、そんなことしないわよ!! お年玉だってまだ残っているもん!!」
「ならば良しっ!!」
「へ?」
あれ?
なに? 今のこの自然な流れ?
横島は全然優しくないのに。むしろ酷いことを言われているのに。
ていうかいつも通りなのに。
だけどなんでこんなにホッとしているの?
「んじゃ明日、10時に駅前ね。小鳩ちゃんもいい?」
「いいですよ」と微笑む小鳩ちゃん。笑顔がとっても柔らかい。
む…やっぱり横島には勿体ない気がする。
「おキヌちゃんも?」
「わ、私は店員です…」
「いや…いい加減ブルマは脱ごうよ…」
「ひん…」
おキヌちゃん…私もそれ脱いだほうがいいと思うな。
そのプールは確かに絶好のデートスポットだと思えた。
長いチューブみたいなのはウオータースライダーとか言うらしい。
水の流れる滑り台よっておキヌちゃんが教えてくれる。
おキヌちゃん、なんだかいつもより綺麗。
もしかしてお化粧してる?
今度、私もしてみようかな…。
更衣室は個室みたいになっていて、私たちはそれぞれの部屋に入って水着に着替えた。
私の水着はおキヌちゃんの臨海実習について行ったときのやつ。
ちょっと色気が足りないかしら?
まあいいや。
私には若さとこのピチピチボディがあるもん。
個室を出て真っ先にプールへと飛び出す私。
一番乗りかと思ったら横島がすでに準備運動をしていた。
男の水着は簡単だから当然よね。
前に見たときも思ったけれど横島は良い体をしていると思う。
カップ麺とかインスタントばかり食べているはずなのに、その体には弛んだところが一つも無い。
かといってムキムキってわけでもない。
パッと見ただけではひ弱に見えるだろうけど、私から見ればその体はまるで豹のようにしなやかな肉食獣を思わせる。
もし横島に本気でギュッとされたら私なんか潰れちゃうんじゃないかしら?
そういえばあの地下で気絶していた時、ギュッてされて背骨が折れるかと思ったっけ。
あ…でも気持ちよかったな。
なんていうかこうギューーーってされて潰されてそのまま横島の体に溶けちゃって一つになるって言うか…一つになりたいって言うか…。
………わ、わ、わ、私ってばまたエロいこと考えていたっ?!!
「お、着替えたんかタマモ」
「うわあっ!」
「ど、どうした?」
「い、いきなり話しかけないでよ!」
私の剣幕に横島は首を傾げる。
バカ!
変態!!
乳揉み魔!
指入れ魔っ!!
鈍感ッ!
「横島さん。タマモちゃんお待たせです」
おキヌちゃん。いいところに。
おキヌちゃんもコイツに言ってやってよ!
水着の美少女を前にして他に言うことがあるでしょ!
そうよねおキヌちゃん!
「えへへ。どうですか?」
直球がキターーーー!
ていうかそれって新品?
しかもあの一歩間違えたら透けるという白水着?!
さらにさり気無く切れ込んだハイレグワンピース?!
いったいいつの間に買ってたの?!
うう…侮れないわね。おキヌちゃん。
「ああ。似合うと思うよ」
と口ではさり気無く言うけれど…鼻を押さえる横島。
な、なによ! このリアクションの差はっ!!
「あ、皆さん早いですね」
来たわね本命。
コードネーム『F91』!
いったいどんな水着を着てアイツを悩殺するつもりかしら?!
かすかな敵意を瞳に込めて振り向く私の前に現れたのは濃紺のワンピース。
あれ?意外と地味なの選んだのね?
で、でも…さ、さすがねF91……な、なんて言う威圧感…。
はっ! 横島! 横島はどうなの?!
「こ、小鳩ちゃん…それって…」
「小鳩には水着って高くて…学校の水着を…」
ああ、そういえばスポーツ店では彼女がレジに行った記憶は無いわね。
え? ちょっと待ってよ? すると…もしかして…アレは…。
まさか! 一部の男に大人気と「少女クトゥールフ」に書かれていた伝説の防具兼武具!スクール水着なのっ!!
「やっぱり変でしょうか…」
体を屈め上目遣いで横島を見る小鳩ちゃん。
しかも両手は膝の上に乗せたりして…。
「だっちゅーの」キターーーーーー!!
うわわわわわわ。
横乳が全乳を押し上げて、丸い水着の上から覗く上乳のボリュームがドン!
さらにドン!!
なんという質量と柔軟性。
よ、横島はっ?!
前屈みキターーーーーーー!!
さっきのおキヌちゃんの時とリアクションの質が違う。
これはもう勝負あっただと思う。
だっておキヌちゃん、すでに跪いているもん。
ああああ…背中が完全に煤けている。
しまった…気づくべきだった…。
戦場がプールという時点で私たちに勝ち目は無かったんだ。
しかもこの小鳩ちゃんは自分の武器に慢心せず、さらに必殺のアイテムまでも用意して勝負に挑んできた。
甘かった…。
戦場に対する心構えが甘かった…。
がっくりと崩れ落ちそうになる膝をそれでも必死に支える私。
だ、駄目よタマモ!
そしておキヌちゃん!なんで虚ろな目をしてペットボトルにプールの水なんか詰めているのよ!?
心が折れたら…自分から負けたと思ったらその時は完全に敗北しちゃうわよ!
「そ、そうだよね…タマモちゃん」
おおっ! 声に出てないはずなのに完全に心が通じたっ!
そうよ! 立って! 立つのよおキヌちゃん!!
「へへっ…おやっさん…オレはやるぜ…」
錯乱してるーーーーーーっ?!!
ど、どうしよう?
な、なにか逆転のチャンスは!
な、なにかない? なにかないのっ!!
キョロキョロと起死回生の方策を探す私の目の前にソイツはいきなり現れた。
見るからに暑苦しい肉の壁。
横島と違って実用性のかけらもなさそうな見掛け倒しの筋肉。
変な形のグラサンも似合っていないソイツがまだ前屈みになって「どうしよう大煩悩」とか言っている横島に気づくとギョッとしたように顔色を変える。
「お、お前はっ!?」
「誰だっけ?」
まだ前屈みながらもキョトンとする横島。
どうやらコイツは横島のことを知っているらしい。
「貴様っ! この蛮玄人を忘れたかっ!!」
「いや本気でしらん…」
その目には嘘の光はない。
当たり前でしょバカな筋肉ね。
横島が男なんか覚えているわけないでしょうが。
だけど筋肉は自分が馬鹿にされたと思ったらしい。
見る見る体中に青筋を立てる。
うわ…不気味。
「そうか…GS試験のため、鍛錬に来た俺の邪魔をしようというのだな!」
「だから誰なんだって!」
「問答無用! 本来は奥の手として本番試験まで取っておきたかったが、丁度良い! 新しく身につけた俺の技! お前で試させてもらうっ!」
「話を聞けやーーーー!!!」
幸いにもコイツの登場で前屈み状態からは抜け出せたらしい。
でも筋肉が横島の話を聞いてないのはかわりがない。
なんか勝手に自己完結しているし。
「過去の俺は慢心し100%の力を発揮せぬまま敗れた。そして俺は考えた! 最初から120%の力で戦えば俺は無敵と!! そして身につけたのがこの技!!」
パンツになにやら金属で出来た八角形のものを貼り付ける筋肉男。
そのおぞましさに言葉を失う私たちの前で筋肉は叫んだ。
「見よ! これが俺の新しい力 『武装インキン』だ!!」
「なんじゃそりゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
股間の八角形がピカリと光るとビキニパンツの下から全身へと白い光が広がっていく。
うわわわっ! サブイボがっ!! こいつキショいっ!!
「ぬがあぁぁぁぁぁっ! か、痒いぃぃぃぃぃ!!」
「当たり前だーーーー!!」
「くっくっくっ…だがこの痒さに耐えるため俺の脳はあらゆる脳内物質を垂れ流す…そしてそれは体のリミッターを外す。これが武装インキンの奥義なり!!」
「むうう…なんて下品な奥義だ…」
「ふふふ…それだけではない! 見るがよい!」
インキン男は私の横のイスに軽く触れる。
途端にイスが細かく震え始めるとプールサイドに不思議な声が響き始めた。
『おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉん』
聞いているだけで悲しくなるような苦鳴。
でも誰が?
「うははははは。俺のインキンはこのように無機物まで感染するのだ!!」
え?じゃあコレってイスの声?
あーーー。そっか…イスには手がないから痒くても掻けないんだ…。
うわっ! それってまさに生き地獄じゃないっ!!
「うわはははは。どうだ! 触れれば感染! 触れられても伝染! しかも脳内物質の力で人の限界を超えた俺の肉体!! まさに攻守とも完璧な技!!」
「ほい」
勝ち誇る筋肉に横島は溜め息をつくと文珠を軽く放り投げる。
私の目には文珠が『薬』と言う文字を浮かべていることは見えたけどどんな効き目があるかまではわからない。
けれどあっさりと投げられた割には文珠の効果は劇的だった。
文珠の光に包まれた途端、男の体から刺激臭が立ち上る。
「ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 力が抜けるうぅぅぅぅ!!」
「生憎だったなインキン男。他の病気なら文珠に『薬』と込めてもうまく行かなかっただろうが俺はインキンを明確にイメージできるっ!!」
「なにいっ!」
「そしてタムシチンキの破壊力もな!」
そういうなり横島は霊波刀でインキン男を軽く押した。
悶えているところにバランスを崩されて一たまりもなくプールに落ちるインキン男。
「ぎゃあああああああああ! 沁みるうぅぅぅぅぅ!!」
「タムシチンキ…その強力な効果によりまさにインキンの天敵。だがそれゆえに凄まじく沁みる! そして粘膜についた時のダメージは計り知れないっ!! ましてやタムシチンキをつけた直後に風呂になど入ろうものならそこにあるのはこの世の地獄!!」
「ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ」
断末魔の悲鳴を残してインキン男はプールの底に沈んでいった。
うわーーーーー。もう絶対に入りたくないわ。
係員も水に入るのは嫌なのか棒を持ち出してインキン男を引っ張り上げようとしているし、あれに人工呼吸する人は一生もののトラウマを持つわね。ご愁傷様です。
それにしてもどうしてこう余計な邪魔が入るのかしら?
これってやっぱ横島の人徳?って言うか業?
変なのに纏わりつかれやすいってこと?
ていうことは横島の側に居たら否応なしに巻き込まれるの?これからもずっと!!?
ううっ…嫌だなぁ…なんか疲れちゃった。
「ひゃあああっ! タマモちゃん!!」
「へ? どうしたのおキヌちゃん?」
「そ、それっ!」
私を指差すおキヌちゃん。
え? 私、なにか変なことした?
ただイスに座っただけじゃない………イス…?
「か、痒っっっっっっっっっっっ!!」
「どうしたタマモ?!」
「あ、あそこが痒いっ!」
「感染したのかっ!?」
「そうみたいですね…」
小鳩ちゃんもどうして良いのかわからないみたい。
そりゃそうか…。いや…あの…もの凄く痒いんですけどっ!
思わず股間に行きそうになる手を必死に食い止めようとする私の理性。
だって横島の前でアソコなんか掻けないでしょっ!!
そ、そりゃ触ったりしたことはあったけど!
これは全然方向性が違うしっ!
だってあの時は気持ちいかったけど今は痒いだけだしっ!
ああああああ…痒くて自分が何を考えているのかわかんないよう!!
「タマモちゃーーーーん! 横島さん文珠! 早くっ!!」
「………もうないんだ…」
「そんなぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」
おキヌちゃんの悲鳴を聞きながら、股間から押し寄せる怒涛の痒みに耐え切れなかった私はあっさりと意識を失ったのだった。
気がつけば私は薬臭い病室のベッドの上で両手をベッドの頭の手すりに縛られていた。
ご丁寧なことに両手にはガーゼで出来たミトンの手袋をつけられて。
ぐすん…まだ痒いよう…。
「あ、タマモちゃん気がついた?」
「おキヌちゃん…これなに?」
「んとね、タマモちゃん痒くて無意識に掻いちゃうからって…手を…」
ううっ…確かにさっきよりはマシになったけど気を抜けば手がアソコに行きそうで。
例えどれほど寛容な男でも股間をボリボリと掻くような女の子は嫌いだろう。ぐすん。
「それでね、一応、治療はしたけど…その時に…」
そしておキヌちゃんは気の毒そうに目を伏せる。
あはははははははは…もうこの際、何が来ても驚かないわよ!
さあ遠慮しないで言ってよ!
「剃っちゃったの…」
「え?」
剃ったってなに?
私にはヒゲはないわよ?
疑問符を浮かべておキヌちゃんを見れば気の毒そうに見ているのは毛布の下の私の下半身。
「ま、まさかっ!?」
こっくりと頷くおキヌちゃん。
あは…あははははははははははははは…。
「た、タマモちゃん?!」
「剃られましたか?」
「……剃られました」
「あはははははははははははははははははははははははははは」
「わーーーーっ! しっかりタマモちゃん!!」
その後、錯乱して泣き笑いする私をおキヌちゃんが宥めてくれて、ご飯も食べさせてくれた。
やっぱりおキヌちゃんはいいお嫁さんになれると思う。
昨日一日引っ張りまわしちゃってゴメンネおキヌちゃん。
それから回診の先生が来て私の股間を覗きこんで気の毒そうに頭を振りながら出て行ったりして消灯時間がやってきた。
カツカツと見回りの看護師さんが廊下を歩く音がする。
ぐす…どうして私がこんな目に…。
ヒドイよ…。
寂しいよ…。
怖いよ…。
横島…。
「ん? 呼んだか?」
こっそりと病室に入ってきた横島に私の顔は一気に朱に染まる。
だってまさか来るとは思わなかったんだもん。
だって私はこんなだし…もしかしたら気絶している間に横島の前で掻き毟っちゃったりしたかも知れないし。
「どうして?」
「いやさ。病院食って不味いだろ? 俺、よく入院しているから知ってるんだ」
そう言って笑いながら横島はおかもちからドンブリを出す。
ふわりと病室に漂うのは私が最近お気に入りのうどん屋さんのキツネうどんの匂い。
なんでコイツは何でもないことのように言うんだろう?
なんでこんなに自然なんだろう?
スケベのくせに…。
「うどん屋のおっさんに話したら作ってくれた。食うだろ?」
「うんっ! うんっ!」
コクコクと頭を振る私。
もし尻尾があったら全力で振っていたかも。
「手、使えないだろ? 食わせてやるよ」
「い、いいわよ…」
「無理すんな。 ほらアーンして」
うひゃあっ! こ、コレってもの凄く恥ずかしいよう!
ああ、でも…ふーふーってされて丁度良さそうになったうどんが私の目の前に…。
だめ…もう耐えられそうに無い…。
「美味いか?」
「ぐすっ…おいひい…おいひいよう…横島」
「なにも泣かんでも…」
だって…だってうどんが暖かくて優しくて…とっても美味しいんだもん…。
「揚げは…さすがに無理か…でも箸では切れないしなぁ…」
「……口移しで食べさせて…」
「は?」
ひゃぁああっ! た、タマモちゃんてば今、もの凄いことを口走っちゃっいましたか?
いや、あの、これはね、お揚げがとっても美味しそうだからね…我慢できなくて。
あやややっ!? な、なにしてんのよ。お揚げを噛み切ったりしてっ!!
し、しかもその欠片を私の口元にっ!!
「ほれ。これなら食えるだろ?」
「よ、よよよ横島っ! なにをしているのか判ってんの?」
「ん? なにが?」
「か、間接キスですわよ!」
「おー。そういえば…でも、お前と俺ってキスしたやん?」
「なっ!!!!」
そういえばしちゃったようなしなかったようなー。
あー。確か二回ぐらいはしたようなー。もっとだったかなー?どうだったかなー?
しかも舌まで絡めたようなー。えへへへへへへへ。
「ほれ。アーンして」
「あ、あーーーーん」
そのお揚げはとっても美味しかった。
何度も何度も口に運ばれる小さく千切られたお揚げ。
ああ…やっぱりお揚げって最高だわ。
至福の時に心を震わせる私を横島が微妙な表情で見ている。
なによ? 食い汚いとでも言うつもり?
「しかしそれにしても気の毒だなぁ」
「ううっ…言わないで…そうだ。文珠無いの?」
「うーむ…もう少しで出来そうなんだが…」
文珠なら…横島ならなんとかしてくれる。
あの時もそうだったんだもん。
だから私は精一杯虚勢を張ってみる。
「き、ききき、協力してもいいわよ!」
「協力?」
「ま、また…わ、わたひにょおっぱいを…」
「おお! その手があったか! でも…」
「でも?」
「先に患部を見ておいた方がいいかもな…それによって込める文字も変わってくるかもしれんし…」
「だよな大煩悩」とまた私の知らない誰かと話をしている横島。
ちょっと勝手に決めないでよっ!今はまずいのっ!恥ずかしいのっ!!
「患部って!! だ、駄目よ! 駄目だからねっ!!」
「なんで? 前にも見たやん?」
「ひゃぁああああっ! な、なに恥ずかしいこと言ってんのよっ! 変態っ! すけべ!! あれは非常事態だったからでしょ!!」
「今も充分非常事態だと思うが…」
ううっ…言われて見ればそのとおりだ。
実際、こうして話していても油断をすれば痒みがぶり返してくる。
しかも強烈に。
でもね…今はあの時と違うのよ…。
なにがって?
私のアソコが…。
「だって…そ、剃られたし…」
「そこまで酷かったのかっ!?」
「そ、そんなにヒドイのっ!!?」
お医者さんははっきり言ってくれなかったし。
でも横島ってなんだかインキンに詳しそうだし。
あ、涙が…。ぐすん。
でも待つのよタマモちゃん。
おっぱいを揉まれて文珠を作られるのも、下を見られて文珠を作られるのも一緒じゃない?そうかしら?そうなのよ!
ええい! キツネは度胸!!
「う……じゃあ…お願い…」
「お、おお…」
ううう…恥ずかしいよう。
横島はなんでそんなに冷静なの?
もしかして私のアソコなんか興味なし?
薄目を開けてみれば口の中でブツブツ言っているし。
「これでいいのか大煩悩」とか言っているし。
本当は横島も緊張してるの?
「んじゃ見るぞ」
「うん…」
そして横島は毛布をパッとめくるとゴクっと唾を飲み込んで私のパンツに手をかけ、一気に引き下ろした。
「くさっ!」
「えっ?」
い、いま…なんて…臭い?も、もしかして私のアソコって臭い?
「び、び、びえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇん!!!」
「タマモっ?」
「臭くなっちゃった! 私のアソコ臭くなっちゃったぁぁぁ!!」
「あ、あのな! インキンの時は仕方ないんだ! 治ったら臭くなくなるから!!」
「だってだって…今、はっきり臭いって! う゛あ゛ぁぁああああぁあん」
「大丈夫だって! ほら文珠できたぞ! ほら『治』の文珠!」
「うあぁぁぁぁぁぁん…臭いって言ったぁぁぁぁぁ!!」
「ほら! 文珠つかったぞ! ほらほら治ったぞ」
「うえぇぇぇぇぇん…でも臭いんだぁぁぁぁぁ!!」
「治ったから落ち着けって!」
「ぐすぐす…ホントに? もう臭くない?」
「臭くないとも!」
「うわぁぁぁぁぁん! 嗅いでもいないくせにーーー!!」
「嗅ぐからっ! なんなら舐めてもいいぞ!」
「ひぐっ…えぐっ…ホントに? ホントに臭くない?」
「臭くないともっ!」
「あひゃんっ!」
パクッってな勢いで私のアソコにかぶりつく横島。
いきなりの刺激に思わず涙が引っ込んで、次の瞬間、背骨を電気が走った。
「や、やぁっ!」
腰を動かして逃げようにもガッチリと抱え込まれ身動きできない。
「ち、ちょっと! 横島っ! そんないきなりっ! あうん!」
横島の舌が私の溝にそって動くたびに腰が勝手に跳ねる。
凄い…気持ちいい。
けど…けど…恥ずかしいよ。
ああ…なんだかドンドン敏感になっていく。
横島の舌がどう動いているかわかっちゃう。
やぁぁっ! そんなところを行ったり来たりしないで…。
ああ…開いていく。
私のアソコ開いていくよう…。
「やっ! やっ! 駄目っ! ねぇ…やめて…」
駄目だ。
このままじゃ駄目だ。
開かされちゃう。
舌が溝の凹凸の一つ一つを嬲っていく。
そのたびに走る強烈な快感。
お腹の奥がキューーーってなってどんどん蕩けていく。
零れていく。
滴っちゃう。
溶ける。溶けちゃうよぅ…。
あああ。舌が動く。
舌が私の入り口をこじ開けていく。
駄目だ…。
本当にもう駄目だ。
声が殺せない…。
「あッ、あッ、あッあッあっあッ! やあんっ! よこしっ…よこしまっ…ひっ、やっ…それやぁ…あ、ああぁぁぁぁぁぁあん!!」
声だけじゃない。
腰が勝手に動く。
もっともっとって…。
でもそれ以上はだめって。
グルグル回る。
「あっあっあっあっやっ……やぁっ! そこ、ダメ…中っ…中やあっ!! あ、ぁっあっあっあああああああっっ!」
腰の後ろがズンて重くなって。
お腹の中がギュッギュッって縮まって。
どんどんどんどん溶けて流れ出してきて。
ああ…駄目だ…これはもう駄目だ。
溶けちゃう…溶けて横島に食べられちゃう。
怖いよ横島。
嫌だよ。
一人は嫌だよ。
「あっ、ぁっ……あっ、あっ、あっ、あっ、お願いっ!……横島っ! うぁぁっあ、あっ……! ひゃああぁぁぁぁぁぁぁぁん!」
怖いよ。
助けてよ。
来ちゃうよ。
「あっあっ、あっ……あぁっあッ! やっ……よこしまっ……もうっ、もう……だめっ……わた、し もうっ……もうっ…イ…くぅ!!!!」
横島の舌がベロンと大きく動いた瞬間、私ははじけた。
腰から下が溶けてなくなったみたい。
涙が止まらない。
悲しいんじゃないのに涙が止まらない。
私…バカになっちゃった…。
「は、はぁ……はぁ……はぁぁぁっ…ひぎっ!!」
舌が割れ目の上の方をゾロリと舐める。
一撃ではじける私。
「あっあっあっあっあっあ……! やあぁぁぁぁっ! そこやあぁっ!!」
わかる。
見えないはずなのに頭に映像が浮かぶ。
私のあそこ…ぷっくらと膨らんだクリトリスが剥かれている。
舐められている。
ザラザラの舌で削られちゃう。
「あッあッ! らめッ……あんッ! あっひッ……あッ……そこっらめっ!! あっあッあッ……! らめだからっ!……溶け、ちゃうッ……! らめっ…あーーーっ! ぁあぁぁぁぁぁ!……おね、が…ぅ………吸わないれっ! もう、やめてっ……!!」
吸われている。
しゃぶられている。
食べられちゃう。
「も、もうらめっ…また…また…きちゃうっ…い、イくっ…凄いのイくうぅぅぅぅぅ!!!!」
ギューーーーッって中が震えて。
その途端、私はドロドロになって泣いちゃった。
「お願ひっ! うはぁぁん! 一人いやっ! やなのぅ…いっしょ! いっしょがいいのっ!! もう一人でイくのやぁなのぉ…」
「タマモ?」
「やあだぁ…やなの…ねぇ…いっしょがいいのぉ…」
「いいのか?」
「うん! うん! ちょうだい! 横島ちょうだいっ!」
「タマモ…」
ゴクリと唾を飲み込む横島。
ああ…嬉しい。
きっと一緒に…やっと一つに。
コイツは私のものだから……私は横島のものだから。
だから…泣いてもいいの。
だってこんなに嬉しいもの…。
ねえ……横島………来て…。
でもその前に手を外して欲しいな。
ギュッてしたいから。
「う、うん」
震える手で私の手を拘束していたガーゼを外す横島。
たまらず彼に抱きつく私。
顔を胸にスリスリ。いっぱいに彼の匂いを吸い込んで。
クラクラしてきちゃって。
ねえ……私をあげるから…。
だから一人にしないで。
そう言いたくて。
でも口が動かなくて。
だったら行動でと下から彼を見上げて目を閉じて。
ゆっくりと体を開いたの。
なのに…。
なのに…。
なーーーのーーーにーーーー!!
「そこまでだっ! 神聖なる病室でのピストン運動!! 天が許してもこの私が許さんぞ!!」
突然、病室のドアを蹴り開けて入ってきたのは白い影に一瞬で素に戻る私たち。
最初はお医者さんかと思ったが多分違う。
だって白衣を着ているけれど普通の常識では医者は上半身裸じゃないし、黒いパンツにタイツじゃないだろうし、なにより白地で額のところに『犬』なんて書かれたセンスの無い覆面なんかしてないと思う。
「なんじゃこの覆面レスラーは!!」
「私はこの病院の風紀の精霊『マスクド・ホスピタル』!! しかしてその実体はちょっとお茶目なCW!」
「職員なんかいっ!!」
「いかにもっ! 見ればお主らはまだ若い! 子作りをしたくなるのも道理!ある意味必然!! 授かったら是非ともうちの病院を! 今なら抽選で院長のサイン入り特製オムツが当たるかもっ!」
あーーー。駄目かもこの病院…。
そ、それはそれとしてコイツ今なにいった?!
「こ、子づくりっ!」
いや、横島もそこを復唱しなくていいから。
そ、そりゃまあ結果的にそうなっていたかもと思うけど。
そうなったら嬉しいなとか思わないでもないけど。
えーと…でも…ちょっとまだ早いかなーとか。
やっぱり二人でいる時間も欲しいかなーとか。
い、いや! か、考えてないよ!! 考えてないからね!!
庭にお稲荷さんのある一戸建てで暖炉があってとか考えて無いよ!
本当だからね!
わたわたと勝手に慌てる私のことなど気にもせずマスクマンは高笑いを続ける。
本当にデリカシーの無いレスラーだ。
そんなんだからセクハラ大王とか言われるのよ!
「だがっ! それとは別に病室での繁殖行動は慎んでもらう!! 作るなら自宅で思う存分作られたいっ!! その時はこの私も陣頭に立って応援しよう! なんなら先陣を切ってもよいぞ!! なにしろ童貞と処女では失敗が多いからなっ!! わっはっはっ!!」
「なに恥ずかしいことを言っているのよぉぉぉぉぉ!!」
ベッドから飛び降りて反対側の壁へと駆け上がり、アホなことぬかしたマスクマンに必殺の三角蹴りを放つ私。
しまった! まだ距離が遠すぎた。これじゃ避けられると思ったがマスクマンは微動だにせず私を見ている。
「ぬふうっ! おっぴろげジャンプだとっ!! これは避け切れん!! 否、むしろ避けん!!」
「え?」
あはは…そういや私…下…すっぽんぽんだったなぁ…。
でも今更空中でどうすることも出来ず、とりあえず反射的に股間を隠そうとしてバランスを崩した私のお尻がマスクマンの顔面を直撃する。
『ひゃああああああああ!!』
悲鳴とともに窓を突き破って落ちていくマスクマン。
よっしゃ! これで記憶を失ってくれるはず。
それにしても…。
もうっ! なんで?! なんで邪魔ばっかり入るの?!
横島っ! あんたのせいよ! なんか言いなさいよ!
「横島?」
あれ? 横島は…。
ハッと気がついた私は大慌てで窓から外を見た。
あ、あはは…巻き添えになってましたか…。
えーと…生きているよね横島だし。
あ、動いた…。
うわ! あのマスクマンも動いている。
ここって四階だよね…たいがい丈夫だわ…あの二人。
でも…
でもさ…
「なんでいつもこうなるのよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」
涙撒き散らして絶叫する私にマスクマンが「ニヤリ」と笑ったのが見えたような気がした。
おしまい
このままではいけない。
少女は決意する。
新たな力を得ようとする少女の前に一人の魔女があらわれ彼女を導く。
だが…それは恐ろしい罠への誘いだった。
次週 「煩悩ロボ ダイボンノー」
「吶喊! 新性技 フェランゲリオン」
乞うご期待!!
犬雀様からの、別名寸止めSS第参弾!!です!!(マテ
病院での行為は浪漫ですが、やっぱ止められましたね(笑
ありがとうございました。