俺とタマモが事務所から脱出して数日、事務所は表面的には平穏を保ち続けた。
美神さんは俺とタマモの間に何かあったことは察したようだが、どういうわけか深く聞こうとはせず、時折、不意打ち気味にカマをかけてくるに留まっている。
勿論、あの夜のことは詳しくは言ってない。
単に文珠を精製する煩悩を貯めるため、服の上から(これ重要)タマモの乳を揉んだと言っただけだ。
「気持ち良くなっちゃいました」とか「ディープでインパクトなキスをしました」なんて言ってない。
言えばその場で走馬灯を見る羽目になりそうな気がする。
無論、この言い訳は近くの図書館で俺とタマモが顔をつき合わせ、「心理学」やら「人間行動学」やら「浮気を隠す100の方法」やらの学術書を検討吟味した結果、幾多のシミュレーションを重ねて作り出したものである。
全否定はかえって疑われる。
ある程度の真実を交えた嘘の方が人は信用しやすい。
そして人は自分が信じたい嘘を容易く信じる傾向があるのよとタマモは言う。
意味はよくわからんが妖狐の言うことだし、なによりタマモの言うことだから俺は一も二も無く同意した。
とは言えやはりかすかに疑念は残るのだろう。
あれから美神さんは俺とタマモのコンビで偵察に行けと命じることは無くなったし、おキヌちゃんは時折もの問いたげな視線を向けてくる。
シロはといえば事務所にいる間、なにかと理由をつけて俺の側にくっついてるようになった。
となると俺とタマモが二人でいる時間なんてほとんど無いはずなのだが、ありがたいことに世間は今、冬休みの真っ最中である。
つまりバイトが無ければ俺は一日中部屋でのんべんだらりとコタツに包まって怠惰に過ごすことができるのだ。
そう…こうして向かいに座っているタマモとミカンなんかを食いながら。
「なに? なんか言った?」
「別に……つーかさ…お前ここに居てもいいんか?」
俺とエッチッチーなことをしたなんてみんなにバレたらタマモだって嫌なはずだ。
何しろ図書館で打ち合わせをした時にさんざん説教されたのだから。
曰く「あれは緊急避難」だの、「か弱い乙女にあんな狼藉を働くなんて」だの、「まだおっぱいが痛い」だの、「癖になったらどうする」だの、「演技だったんだからね!本気にしないでよ!」だのと図書館にいた受験生たちが血の涙を流しつつ俺たちを睨みつけるもかまわずにがなりたてたぐらいである。
まあ結局はコメカミに井桁を貼り付けた司書のお姉さんに「痴話喧嘩は他所でやりなさい」と放り出されたわけだが…少なくともタマモがあの件を快く思っていないことぐらいはバカな俺にもわかるわけで。
「バカ…」
「は?」
「なんでもない」
と言いながら全然なんでもなくはない顔つきで俺を睨みつけるタマモ。
うーん…どうしたんだろう?と考えてもよくわからん。
あの時あれほど頼りになった勇者「煩悩ロボ ダイボンノー」は俺の意識の奥深くから現れようとはせず、となると俺の思考能力は極端に落ちるわけで…うーーん…やっぱりよくわからん。
これはアレだろうかもしかして腹が減って気が立っているのではなかろうか?
そういえば俺も腹が減った。
何か食いに行くか。
キツネうどんでも食わせれば少しはタマモの険も取れるだろう。
「タマモ。なんか食いにいくか?」
「いい…」
「そっか…」
駄目だ。とりつく島もありゃしねえ。
仕方ないからと見たくも無いテレビをつけようとリモコンに伸ばした手をコタツの反対側からタマモが押さえた。
見ればその目はまるで「私ってばとっても凄いアイディアを思いついたわ」と言わんばかりに輝いている。
ちょっと不気味だ。
「ど、どうした?」
「私がご飯を作ってあげよっか?」
「はぁ?」
「なにもわざわざ高いお金だして外食することないでしょ。あんた貧乏なんだし」
「否定は出来んな…」
「でしょ。だから私が作ってあげるわ! 感謝しなさいよ! この妖怪界にその狐ありと言われた金毛九尾のタマモちゃんの手料理を食べられるなんて人の身にはありあまる光栄なんだから!」
コタツの前で立ち上がり拳を握って力説するタマモ。
なんだか知らないが気合が入りまくっている。
それはそうとタマモさん。
シマシマパンツが見えてますぞ。
まあいいか…なんだか疲れた。
あの夜を経験してしまった俺の煩悩には、今更お子様パンツの一つや二つでは役不足と言うことだ。
「……さて…寝るか…」
「ちょっ! な、なによその醒めたリアクションは!?」
パンツが見えていることには気がついていないのか、タマモは腰に手を当てながら横になった俺を睨みつけている。
放置しておいたらパンツを覗いていたとばれそうなので、俺は不承不承起き上がるとタマモに指を突きつけた。
「ならば言おう! まず第一にお前に料理が出来るとは思えん!」
「うっ!」
「第二に! そんな恩着せがましく作られた料理が美味いはずがない!」
「ううっ! そ、それは…」
「第三に!」
「やめてやめて! もうやめて!」
ナインテールをブンブンと振り回すタマモにトドメの一撃。
うむ。今日の俺は来ているぜ。
「材料が無いっ!」
「ひきゃぁっ!……ってそれなら買い物に行けばいいじゃない」
「それもそうだな」
「でしょ! だったら私が買い物してくるから横島は部屋を片付けておきなさい!」
「お、おい?」
「いいからいいから…じゃちょっと行ってくるわね」
「ああ…」
有耶無耶のうちに押し切られ、何が楽しいのか鼻歌交じりで出かけるタマモを見送ると俺はしぶしぶながら部屋の掃除を始めた。
いつも通り床には雑多なものが散らかっているのを愚痴を零しながら片付けていた俺はふとした違和感に気がついた。
「なんか…妙にタマモの私物が増えてないか?」
今、手にしている雑誌だって俺のものではない。
エロ本ならいざ知らず「少女 クトゥールフ」なんてお茶目な雑誌を俺が買うはずはないではないか。
ちょっとした好奇心から何気なくページを開いた俺はそのまま固まった。
し、少女雑誌だよな…これ…。
なんか…俺のエロ本より凄い気がするんだが…特になんだこの「特集! お口を恋人」ってのは!?
手を使わずにバナナの皮を剥いてどうしろと言うのだ?
はからずも触れてしまった乙女の深淵に俺の正気がごっそりと削られた気がする。
やばい…このままでは引き返せなくなると慌てて本を閉じ、他の本と纏めて押入れに突っ込んだ。
突っ込んだ時に本が「てけり・り」と叫んだのは俺の気のせいだ。そうに決まっている。
怖い考えを封印し床に落ちていたものをあらかた纏めた俺は掃除機をかけ始める。
部屋の隅っこの角から沸き始めた虹色の霧を掃除機に吸い込んで、はて自主的に掃除機を使ったのは何年ぶりだろうかと妙な感慨に浸っていたら、両手にスーパーの袋をぶら下げたタマモが帰って来た。
見たところかなり買い込んだようだが金はどうしたんだろう。
「ただいまー! ねえ! そこの魚屋さんで珍しいもの売っていたの! それもね凄くお得な値段だったの!」
「そ、そうか…で、何を作る気だ?」
「お鍋♪」
「鍋か…いいな」
「でしょ♪ 台所借りるわねー♪」
確かに鍋なら失敗も少ないだろう。何しろ具材を適当に切って鍋に放り込むだけである。
今は鍋の元なんてスープも売っているし、闇鍋でも無い限り食えるものになるはずだ。
これを料理と言うのはどうかと思うがまあ細かいことはいいだろう。
一食浮いたのは確かだし。
タマモはと見ればいつ用意していたのか知らないが、キツネ柄のエプロンをつけて狭い台所で具材の下ごしらえを始めていた。
なんとなく手持ち無沙汰になった俺はコタツの上の急須から茶を注ぐと口をつける。
うーん…美味い。
いつもの安茶のはずなのに今日の茶はいつになく美味い。
水でも変わったのだろうか?でも水道水のはずだよなー。
首を傾げつつ台所でプリプリと動く小ぶりながら引き締まった尻…じゃなくてタマモを眺めると白菜を切り始めたところだった。
軽快とは言いがたい不器用な包丁のリズムに合わせて、タマモは歌なんか歌っている。
「私に還りなさい〜♪」
どっかで聞いたことのあるフレーズになんだったかなぁとぼんやり考えて、それが社会現象にもなった劇場版アニメの主題歌だと気がついた。
へー、タマモもアニメなんか見るんだ。
「にゃにゃにゃにゃにゃにゃにゃー♪」
実はあんまり覚えてなかったのか、歌詞を「にゃ」で誤魔化しながらも楽しげなタマモ。
いや、あのさタマモさん…仮にもキツネなんだから誤魔化すにしても「にゃ」はどうかと思うんですが。
無言の俺の突っ込みなぞ当然気づくはずもなく、タマモの「にゃ」歌はサビへと入る。
まあなんと言うかノリノリで「にゃー♪」とか言っているのは可愛いかも知れないと油断した俺にタマモが無自覚に投擲してきた爆弾が炸裂した。
「にゃにゃにゃは起こるよ。にゃんどでも〜 タマキンがブララン〜♪」
「ぼふおっ! げほっげほっ!!」
咽た。
湯飲みの中の茶を一気に肺に流し込めば誰だって咽る。
下手すりゃ茶で水死するところだ。
気道に刺さった茶柱に悶絶しつつ、咳き込んでのた打ち回る俺に驚いて台所からタマモが飛んでくる。
「ちょっと! どうしたのよ?!」
肺の中で茶がぐりゅぐりゅ言っているんだから声なんか出せん。
お前のせいだと言いたいが今は酸素補給が必要なのだ。
げほげほと咽続ける俺の背をタマモがトントンと叩いてくれる。
「もー。なにやってんだか……もう少しで出来るからちゃんと待っててよ」
「げほ…わ、わかった…げほげほ…」
「あー、もう、こんなに濡らして。ほら拭いて上げるからジッとしてなさい」
「げほっ! げほっ!」
「せっかくのカニ鍋なんだからね」
「カニとなっ!」
「うわ! 復活早っ!」
やかましい。カニ鍋と聞いていつまでも咽ておれようか。いやおれまい。
何しろカニ。
海産物の中でも最高級の食材カニ。
鍋の具材としてもスーパーデリシャスなカニ。
カニの前では人は神にも悪魔にもなれるのだ!
などと俺が拳を握り締めている間にタマモはコタツの上にガスコンロと土鍋を手際よくセットしていく。
あれ?家にそんなもんあったっけ?
「あ、コレ? ついでに買ってきた」
「よくそんな金があったな?」
「お年玉貰ったし」
くそう…俺なんかバイトということでボーナスも無いんだぞ。
当然お年玉なんて貰ってない。
なんだこの差は。
ぬおおおおっ! おのれ美神さん! いつかその乳揉み倒すっ!
「えーと…野菜はここで…と。ちょっと横島も手伝いなさいよ!」
「けっけっけっ…体は嫌とは言ってねーですぜ…」
「はぁ? なにいってんの?」
「あ、すまん。ちと脳内で悪を揉み倒していた」
「もう…馬鹿なことしてないで茶碗とか出してよ」
「おお!」
言われるままに茶碗だの小鉢だのを並べ、俺はいそいそとコタツに入った。
くうっ…カニなんて何年ぶりだろう。
わくわくと見守る俺の前で出し汁がことことと煮え始める。
そろそろ最初の具材を入れなきゃいかんころあいだ。
「カニかー。高かったんじゃないか?」
「ん? そうでもないよ。一山100円だったから」
待ちなさいタマモさん。
それは本当にカニなんでしょうか?
もしや足が20本くらいあったりしませんか?
「そんなことないと思うけど…ほら…普通のカニでしょ?」
とタマモさんがコタツに乗せてくれたのはざる一杯のザリガニでした。
あー。懐かしいなぁザリガニ。関西ではマッカチン。
子供の頃、近くの古池でよくスルメを餌に釣ったもんだ。
「って…カニじゃねえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」
「なに言ってのよ! ちゃんと「ガニ」って名前がついているじゃない! それともなに? タラバガニはカニじゃないとでも?!」
「その前の「ザリ」が問題なんだっ! こんなもんは買ってまで食うもんじゃねー! 池でも田んぼでもうじゃうじゃ居るわい!」
俺の怒涛の反論にタマモが言葉を失う。
それを良いことに俺はざるの中でまだ蠢いているザリガニを指差して追撃を始めた。
「見てみろっ! この不健康そうな色合いに品の無い姿! どっかそこいらの川で獲って来たに決まってるじゃねーか!」
俺の弾劾にシュンとして言葉もないタマモ。
だが反論は意外なところからやってきた。
ざるの中で蠢くザリガニの中で一番でかい奴がハサミを振りたてて絶叫したのである。
『待てぃ! 先ほどから黙って聞いておれば、俺たちザリガニに対する無礼な言動! 断じて許せんぞ!』
「黙れザリガニ! カニと言いつつ見た目はエビじゃねーかザリガニ! 味噌もないくせにカニを名乗るなザリガニ! 悔しかったら横に歩いてみろザリガニ! 節操無く増えすぎなんじゃザリガニっ!」
『ぐはあぁぁぁ! おのれ…おのれ…よくも禁句をつらつらと!! くっ…謝罪さえすれば大人しく調理されてやろうと思ったがもはや堪忍袋の尾も切れた! 貴様らに食われること断固として拒否する!!』
「誰がしゃべるザリガニなんか食うかぁぁぁぁ!!」
そもそも喋るザリガニを認めている時点で異常だが、この程度の非日常は俺にとって日常だ。
何しろ喋る狼やキツネと働いているんだから、ザリガニごときが喋ろうがパチンコやってようがビビったりなぞしない。
とは言え異常は異常。
こんなもんを食う気になれようはずもない。
「え? 美味しいよこれ」
「なんで食ってるんじゃぁぁぁ!!」
ざるの中の一匹を頭からポリポリと丸齧りしながらタマモがキョトンとしている。
キチン質は体にいいとはいえ、生のまま丸齧りはちょっとビジュアル的にどうかと思うぞタマモさん。
一匹目がタマモの口の中に消え、タマモは二匹目に手を伸ばした。
呆然としていた先ほどのザリガニが我に返って絶叫する。
『ああっ! 宏いぃぃぃぃ!!』
「だってザリガニってキツネの大好物だもん」
ポリポリポリ…ともう一匹。
『うおおおっ! 浩之までも生でえぇぇぇぇ!!』
またポリポリと健康的な音とともにタマモの栄養になるザリガニ。
どうやら喋れるのはプルプルと震えているでかいコイツだけなのか、悲鳴も上げずに食われていく。
さすがに悲鳴を上げられたらたまったもんじゃないと俺は密かに額に湧き出た汗を拭う。
そして見る見る減っていくざるの中のザリガニたち。
ポリポリポリ…
「だから生食は止めいっ!」
『うわぁぁぁ! ベンジャミン! ベンジャミーーーーン!!』
こうして喋るザリガニ以外の全てのザリガニはタマモの腹の中へと消えて逝った。
仲間を失い、件のザリガニががっくりと肩を落す。
どこが肩だとか気にしてはいけない。
とにかく喋るザリガニは触角を震わせて号泣していた。
『くおぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ…サバフチェンコ……チョムチョム四世…みんな…みんな…俺を残して先に逝っちまいやがって……誠一郎ぉ……お前…今度、子供が生まれるって言っていたじゃないか…』
「あー…んー…まあ…お前は逃がしてやるからさ…そう気を落すな…」
『くっ! この俺に情けなどいらん! とっとと食えばよかろう!!』
「あはは。喋っているザリガニを食べるのは私もちょっと…」
『さっきまでポリポリ食っておったではないかぁぁぁ!!』
「んー…でも…ちょっと飽きたかも…」
あまりにも無常なタマモの台詞にザリガニは大きく身を震わせると、ザリガニとは思えない速さでざるを飛び出し、コトコトとあわ立っている鍋の縁で立ち上がる。
『おのれっ! おのれえぇぇぇぇ! こうなっては是非も無い! 例えこの身は鍋の具として朽ちようともこの恨み必ず晴らしてみせようぞ! 隅田川ザリガニ帝国に栄光あれえぇぇぇぇ!!』
止める間もあらばこそ、ザリガニは出し汁の中へと飛び込んだ。
熱い汁がコタツに跳ねる。
「うわっ!」
『おぉぉぉぉっ! アイル・ビー・バァァァック!!』
煮えた出し汁の中からハサミが天に向かって突き上げられ、ザリガニの叫びが俺の部屋に響き渡る。
こうして呆然と見ている俺たちの前でザリガニは美味しそうな色合いに煮えていったのだった。
「ザリガニ………隅田川産であったか……食わなくて良かった…」
「おー見る見る真っ赤に…これはこれで美味しそう…」
「食うのかよ…」
「うーん…やめとく」
「ああ、そうしろ。なんだか寝覚めが悪すぎる」
とりあえず出し汁の一部になってくれたことに感謝しつつ、後で庭にでも埋めてやろうとぐったりと煮えたザリガニを鍋から出し、俺とタマモはコタツに入った。
「で、まさかメインの具材はザリガニだけだったってことはないよな?」
「あはは…うんとね…うどんがあるよ。あとお揚げも…うどん鍋ってことで………駄目?」
「………それは鍋焼きうどんという別な料理だ…」
「あはは…そ、そっか…」
「まあいいか…」
意外にもザリガニの出汁が効いたのか、タマモ作の鍋焼きうどんは美味だった。
美少女と差し向かいで熱いうどんをハフハフ言いながら食うのも中々おつなものである。
程なくして土鍋の中身は空っぽになり、俺とタマモは満足そうにお腹をさする。
動くの億劫だけど買い物や調理をしてくれたタマモに後片付けまでやらせるのは申し訳が無いと俺は立ち上がった。
「横島?」
「後片付けぐらいは俺がやるからお前は茶でも飲んでろ」
「へー。なかなかいい心がけじゃない」
「やかましい」
相変わらず憎まれ口を叩くタマモを軽く睨みつけてから俺は食器を抱えて台所へと向かった。
とはいえ悪い気持ちはしない。
むしろ豪華な昼飯を食わせてもらって感謝しているぐらいだ。
材料にはちょっと問題があったが腹に入れば関係あるまい。
万葉集にもあるじゃないか。
「溶けて流れりゃみな同じ」と。
ジャブジャブと食器を洗い、洗い場の横に適当に積むと俺はタオルで手を拭いつつ居間へと戻った。
午後はコタツで昼寝でもするか、それともタマモと一緒に散歩するのもいいかも知れない。
どうせ暇は売るほどあるのだ。
戻ってみればタマモはコタツに突っ伏している。
おいおい。食っちゃ寝かよ。キツネがウシになるぞタマモ。
だけどよくよく見れば寝ているわけではなかった。
コタツの天板に頬をつけ、目を潤ませながらタマモは微妙に体をモゾモゾさせていたのである。
「タマモ?」
呼びかけても返事は無い。
ただ唇から甘めの吐息と「ん…」とか「あ…」とか意味の無い言葉が返ってくるばかり。
「どうした?」と駆け寄ろうとして俺はそのまま固まった。
コタツに突っ伏したタマモの左手は彼女の慎ましやかな胸の上に置かれている。
いや物事は正確に言おう。
胸を揉んでいる。
んじゃ右手はと見回せばコタツの中に延びていて、ちょうどタマモの股間の辺りの布団がモゾモゾと蠢いていた。
こ、これは…もしや…タマモさん…自家発電の真っ最中でございましたか…。
いやいや男ならほらフレミングの法則というか、コイルの中を高速移動する磁石はどうたらこうたらというか、まあ発電と表現することも可能だろうが、女の子の場合はなんと言うのだろう。
うーむ…謎だ。
って違うだろ! 今はなんでまたタマモがこんな嬉し恥ずかしいことをしているのかということが大事だろ!
ええい! しっかりせんか俺の理性!
……そっか…理性はもう居ないんだった…。
て、どうする? どうするんだよ俺!?
うろたえる俺の前でタマモの狂態はますますエスカレートしていく。
濡れた声もギンギンものだが、細かく震える小さな背中もビンビンものだ。
しかもいつの間にか脱いだのか水色縦じまパンツがコタツの脇に落ちていて、あまつさえその中心部分が色濃く湿っているなんて様を見てしまった俺の血圧はすでに200を超えているはずだ。
鼻の奥が痛い。
ヤバイこのままでは血管が破裂すると沸き起こる衝動を必死に抑える俺の前に突然浮かぶ青白い光。
禍々しく光るハサミを振り上げるそれはザリガニの形をしていた。
「なっ!? お前はさっきのザリガニの霊!」
『いかにも! 俺の身は鍋の出汁として煮えようとも、俺の魂魄は現世に留まり、今こそそこの性悪女に復讐をなす!』
「何をしやがった!!」
『ふははははははは。俺ら淡水生物を生食したその浅慮が招いた罰よ! 俺らの体に宿りし寄生虫の一匹を恨みの念で強化し、この性悪女の股座に放り込んでくれたわ! その名も魔蟲『エロノフォックス』! 名の通り強烈エロ成分配合の優れもの! これでこの女は永劫に続く快楽に悶え続けるのだ!!』
「て、てめえ…」
『ふはははは。たかが人間が怨霊となった俺をどうこうできるはずもない! 歯噛みしながら黙って見ておれ!!』
勝ち誇って笑うザリガニを見据えながら俺の目は冷めていく。
さっきちょっと同情したような気がしたが気のせいだ。
コイツはしちゃいけないことをやっちまった。
「ザリガニ…お前は二つ間違いを犯した…」
『なんだと?』
「一つ目は…俺たちはただの人間じゃない…GS…霊と戦う存在だ…」
『な、なにいっ!?』
甲殻類の分際でGSを知っていたのか驚くザリガニ。
俺をその辺のボンクラ高校生とでも思って侮っていた様子がありありと顔というか触角に出ている。
だが俺の怒りはそんなことろにねえ。
それをこのバカに教えてやる。
「そして二つ目……タマモはな…性悪なんかじゃねえっ!! ほんとは気のいい娘だ!そして…そして…」
「横島…あん…う……しい…ああん…いゃぁ…きちゃうよ…」
「そして俺はおっぱいを吸わせてくれた女を絶対に見捨てたりしないっ!!」
「にゃにお……あうん!」
『なんだとっ!?』
器用にもよがりながらコケるタマモ。
そして俺の魂の叫びに驚き青褪めるザリガニの霊。
ザリガニよ。お前に明日を生きる資格は無い!もう死んでいるけど。
「とっとと地獄に逝け! この変態ザリガニがあっ!!」
『ぎゃぁあああああっ! そんなバカなぁぁぁ!!』
二閃する霊波刀に四等分され消える悪霊ザリガニ。
ザリガニよ。お前には地獄の釜がお似合いだぜ。
こうして悪は滅びたにもかかわらずタマモの喘ぎは止まらない。
しまった! すでに魔蟲はザリガニの霊とは無関係な存在になっていたのか!?
「大丈夫か?タマモ!!」
「よこしまぁ…ヤだょぅ…こんなの…こんなのに…イかされたくないよ……きゃぅぅぅん!」
くそう。よくはわからんがこのままではタマモがヤバイ。
だが…今の俺には有効な手段が思いつかない。
文珠か…だけどどんな文字を込めればいい?
誰か…俺に力を…。
そうか!! 俺には頼もしい味方が居たんじゃねーか!
頼む「大煩悩」、俺に力を貸してくれ!!
俺は目を閉じ精神を集中すると一心に念じた。
まわりの喧騒も悩ましいタマモの喘ぎも今この一瞬だけは意識から消し去る。
煩悩集中!と心の地平に降り立って、俺は我が友「大煩悩」召還の呪文を思い出す。
そういやこんな手続き今までしてたったけ? まあいいや。何事もノリが大事だ。
とにかく来てくれ「大煩悩」。
俺は魂の声を形に変え、心象風景のど真ん中で喉も裂けよと絶叫した。
「轟け! 慄け! 勃ち上がれ! 惚気に色気にお股の毛!
高まる煩悩、力に変えて 遥かイドの地平より!!」
両手を天にかざし、見えない心の鍵穴を見えない心の鍵で開ける。
待ってろタマモ。きっとアイツは来てくれる。
「やって来い来い!! 「大煩悩」!!」
途端に俺の精神の荒野の一角が雷光とともに裂け、そこから頼もしい雄叫びが轟き渡った。
『おおおおおおおおおおおおーーーーーーっ!!』
空を貫き、雷鳴背負い、やってくるのは巨大ロボ。
胸に輝く丸にA。
額のRは情熱印。
心の荒野に降り立って天に掲げる鉄の腕。
決めのポーズも勇ましく。
見よ!これが我らの救世主!
『ダーーーーーイボーーーーンノーーーーー!!』
僕らの勇者「煩悩ロボ ダイボンノー」 今、ここに見参!!
ズシンと重い響きを立てて俺の前に立つ「大煩悩」
その威圧感は圧倒的な信頼となって俺を勇気づけてくれる。
『お呼びですか我が主よ』
「来てくれたか「大煩悩」よ。実はかくかくしかじかと言うわけだ」
俺の説明に「大煩悩」は大きく頷くと何事かを考えるかのように目を光らせる。
そしてすぐに結論が出たらしい。
再び、今度は力強く頷いてくれた。
『なるほど…それなら簡単です』
「本当か!?」
『はい。主がエロノフォックスを彼女の胎内から取り出せば良いのです』
「胎内って…アソコからか!!」
『御意』
おいおいおい。ちょっと待ってくれ「大煩悩」
つまり何か?俺にタマモさんのアソコを触れと?
それどころか突っ込めと?
そりゃちょっとヤバイ気もするが…条例とか…。
あ、そっか。医療行為と思えばいいんだよな。
「やっぱ割り箸かなんかでつまみ出すとか?」
『主よ…それではタマモちゃんがあまりに不憫…』
「そ、そうか…だけど指を使うとしてもどうやって捕まえる?」
『主よお忘れか? 主には栄光の手があるではありませんか』
「栄光の手? おい! いきなり拳は!」
驚く俺に「大煩悩」の肩ががっくりと傾ぐ。
しばしの沈黙の後、ちょっと疲れた声音で彼は言った。
『…………誰が手を突っ込めとマニアックなことを言いましたか…指先でのみ栄光の手を展開すればよろしいのです。さらに糸状にしてヤツを捕らえれば万全!』
「そんな器用な真似が俺に出来るだろうか…」
『それ以外、彼女を救う術はありません。このままでは彼女は大変なことになります』
「まさか! 死ぬ?!!」
『いえ。感極まってお漏らしを…』
「………そ、そっか…」
『はい。ですから主よ! 一刻も早く! 主ならば必ず出来ると私は信じております! なによりコタツ布団は洗濯が大変なのです!』
「わかった! ありがとう「大煩悩」」
俺の決意とともに心の荒野が揺れる。
何事かと身構える俺の前、いきなり地面を割って巨大なミミズのような怪物が現れると俺たちに向かって「キシャアアア」と吠えた。
「なんだコイツは!」
『これこそが主が戦う「エロノフォックス」の影。 主とともに私も戦いましょう。この怪物が消えた時、それが我らの勝利の証!!』
「そっか! 任せたぞ「大煩悩」」
『お任せあれ!!』
よし!もう迷いはない。
すまんタマモ!
俺はまた修羅となりお前のアソコをくじり倒す!
『主よ…なるべくお手柔らかに…』
「う…わかった…」
こうして俺は『キシャアアアア』と吠える「エロノフォックス」の影を「大煩悩」に任せ、一気に現実世界へと帰還した。
俺が大煩悩と打ち合わせをしているうちに、タマモの中に入り込んだ魔蟲はますます傍若無人にふるまっているらしかった。
今の彼女の目からは理性の輝きは感じられない。
普段のどこか小生意気なのに愛らしい彼女じゃない。
コタツの天板に上半身を伏せ、腰をたかだかと上げて自らの秘部をまさぐっているのは淫らに侵されているか弱い少女だった。
彼女の目から零れる涙は快楽のものじゃない。
きっと蟲にいいようにされる自分が悔しいのだろう。
そんなことは俺が一番知っている。
必死に声を
かみ殺し、それでもどうしようもない肉の疼きに翻弄されてタマモは啼く。
駄目だ。こんなのはタマモじゃない。
こんなタマモがいていいはずがない。
それもこれも彼女の胎内に潜り込んだ蟲のせいだ。
「あぁぁぁうん……た、助けて、よこしま…こんなのイヤだょう…」
言われるまでもない!待ってろタマモ、今助けてやる!
『主よ!ご武運を!!』
大煩悩が「エロノフォックス」の影に向かって走り出すのと同時に俺もまた行動を開始した。
「タマモ…ちょっとだけ我慢してくれ」
「う、うん…」
それだけ言うのも精一杯なのか後は言葉にならず彼女は必死に首を
ふる。
差し出された尻、無防備にさらけ出された秘所。
今までの俺ならば怒涛の欲望に身を任せていたかもしれない。
だが…だが…俺は「大煩悩」を信じている。
見ていろ「大煩悩」、俺は…俺は…。
「やぁぁぁぁってやるぜえっ!!」
タマモの腰に手を添え、満を持して待機していた右手の人差し指を呼び出すと矢継ぎ早に指令を飛ばす。
「オッケーだぜ隊長」と人差し指は力強く答えてくれた。
まずは状況の確認。
戦術とは正確な戦場の情報をいかに早く効率的に把握するかにかかっている。
その点、彼なら心配はない。
すべての神経を集中した今、俺の人差し指は一万円札の凹凸すら読み取れるだろう。
「行くぜ隊長!」
「待て! 画像確認とマップの把握が先だ」
「へっ! さすが俺たちの隊長だぜ」
目からの情報を必死に解析する俺の脳内司令部。
大丈夫。煩悩、性欲の類はすべて「大煩悩」が制御 してくれている。なんの心配もない。
誘うように震えているタマモのお尻。
俺にすべてを託した彼女は今、自分を 慰めてはいない。
だから白い陶器のような尻も、その中心を
走る線も、その奥に息づく彼女の秘密も俺の目の前にさらされている。
深い谷間の真ん中で一際濃くピンク色に輝くお尻の穴も、そこから前へと続く快楽の小道も、ぷっくらと膨らみ綻び開いている大小の陰唇も俺の目の前だ。
「ふあっ! ふぁぁぁぁぁん! 駄目なのに……もう…」
ヤバイ。彼女の忍耐もそろそろ限界に近い。
もし蟲ごときにイかされたら取り返しのつかない心の傷を負いかねない。
「安心しろタマモ…イってもいいぞ…」
「やあ…やなの…んあぁぁぁっ!」
「蟲がイかせるんじゃない…俺がイかせてやる!」
「ふぇ?」
意味がわからなかったのかタマモの尻の小刻みな震えが一瞬止まる。
今だ!チャンスだ!準備はいいな人差し指!コードネーム「スネーク」よ!
「いつでも行けるぜ隊長!」
「よし!行け!みんなの夢守るため!」
俺の命を受け、勇躍して出陣するスネーク。
するりとお尻の谷間を通り抜け、完全に開いてコタツの天板にトロトロの蜜を零しているタマモの秘所、開いた陰唇のスルリと撫でる。
途端に爆ぜるタマモの腰。
「ひっ! あぅううああん!」
まだだ。スネーク! そこを重点的に制圧しろ!
「了解」とぬかるんだ溝にそって前後進するスネーク。
たちまちタマモの秘孔から新たな蜜があふれ出し、スネークは粘性を増した蜜に絡め取られる。
うお…熱い! なんて熱さだ! 大丈夫かスネーク!!
「なんてことはないぜ! これだけトロトロだとかえって進入も楽そうだ!」
おお。頼もしい奴。やっぱ頼りになるなお前って奴は。
だがまだ進入は早い。そのままそこに橋頭堡を築くべし!
俺の意を受け、ますます活発に前後進、そして時々爪の先で吸い込みたさそうに開き始めた秘孔の入り口を掠めるという小技を見せるスネーク。
スネークの動きにあわせてタマモの声が跳ね上がる。
「あっ! あっ! あっ! あっ! やぁあぁぁ! なんか変なの!」
何度か繰り返すうちに声の間隔はどんどん狭まり、ついにスネークの一撃が秘孔の入り口に軽く打ち込まれた時、タマモは背中を弓なりにそらせて絶叫した。
「はァンっ!あんっ、やんっぅ!んんっっ!!ぁぁぁーーーーーっ!」
長く尾を引く嬌声の後でがっくりと崩れ落ちるタマモ。
目を閉じ、だらしなく開いた口からかすかにのぞかせた舌で濡れた唇を舐める様はとてつもない破壊力だった。
『主よ!』
「どうした「大煩悩」」
『お見事です主よ。彼女は「エロノフォックス」の影響下から逃れました』
俺の脳内で「エロノフォックス」にバルカン砲を叩き込みながら大煩悩が親指を立てる。
そうか…戦況は有利なんだな?
『御意! 奴は弱ってます。今こそ奴を倒す時!』
「了解だぜ! 行けスネーク!」
「ラジャーだ隊長!」
まだ目を閉じたまま荒い息を吐き、体を震わせているタマモの秘裂をスネークがスルリと撫でる。
「きゃうん!」と背筋を震わせるタマモを可愛いと思いながら、俺はスネークにタマモの処女地への潜入を命じた。
ヌプッと濡れた音とともに沈み込んでいくスネークの動きにタマモの背がまた震える。
「あぅん!…だ、だめ…すぐはだめ…」
むー。だが今がチャンスと「大煩悩」が言っているのだ。許せタマモ。
泥濘の中を静かに進むスネークからもたらされる情報が俺の脳内でスパークする。
心なしかスネークも焦っているようだ。
「隊長!やべえぜ!すげー締め付けだ!」
「くっ!大丈夫かスネーク!」
「問題ない!先へ進むぜ!」
グニグニと閉じようとする柔らかな肉の孔を傷つけないように進むスネークの動きにそってタマモの可愛いお尻がユラユラと揺れ、口からはまた嬌声が漏れだす。
「んっ! んっ! んっ! いゃあ…動かしちゃいゃあ…」
待ってろタマモ!もうすぐ助かるぞ!
これか?このザラザラした場所が「エロノフォックス」か?どうなんだスネーク!
「ひゃうぅぅぅぅぅぅん! そ、そこ! 凄いっ! 凄いよぅ!」
違ったか? じゃあこのヒダヒダのツプツプの場所かスネーク?!
「ひっ! ひん! ひぃん! やだっ! 来ちゃうっ! また来ちゃうっ!」
飛び跳ねようとする腰を俺は必死に抑える。
動きを制限されたタマモの嬌声がまた一段と高くなり、スネークを締め付ける力がどんどん強まった。
「う、動くなタマモ! 「エロノフォックス」を補足できん!」
「ご、ごめん…なさい…でも、気持ちイィッ…気持ち、イイのッ…勝手に動いちゃうのっ! っきゃああッ!もう動かさないでっ……!」
ビクビクと跳ねる尻。
ブンブンと振り回される髪の毛。
そしてギュッーーと絞めつけられたスネークから緊急の通信が届く。
「やべえぜ隊長!!」
「どうした!」
「膜がありやがる! このままじゃ傷つけちまうぜ!」
「しまった!」
当然予想してしかるべきだった事態。
だが彼女の大切なもののことを失念していて焦るスネークと俺の通信に「大煩悩」が突然割り込んできた。
『大丈夫です主よ。スネークよく確かめてみろ。膜と呼ばれていても正体はヒダ。中心に隙間があるはずだ』
「待ってろ。ここか?」
スネークが繊細な動きで膜の表面をなぞった途端、タマモがまた弾けた。
「やだっっ…ダメッ…よこしまっっ! そんなっっ…くっぅぅんっ…だめっっ、い、イクッ…指でまたイッちゃうっっ!!! ひゃあぁぁぁっぁっぁぁん!」
ガクガクと痙攣してガックリと崩れ落ちるタマモ。
突っ込んだ指と秘孔の隙間からトプッと溢れた蜜がコタツの天板を濡らす。
タマモの尻がヒクつくたびにトプットプッと零れる蜜。
隙間などないように絞めつけられていたが、逆にその締め付けが中から蜜を溢れさせるのだろうと妙な分析をしている俺にスネークがまた通信を送ってきた。
「隊長! 奴を見つけたぜ! 膜のすぐ裏側にいやがった!」
「よくやったスネーク!今から栄光の指「糸バージョン」を展開する。誘導頼む!」
「了解っ!」
スネークの誘導は正確でタマモの胎内に潜んでいた魔蟲は俺の霊波の糸に雁字搦めに縛られた。
「やった!」
「はぁぁあっぁっっ……」
俺の歓喜の声に合わせるようにタマモの口から濡れた吐息が零れ落ちる。
これでいいのか「大煩悩」と脳内に目を向けると、「大煩悩」も「エロノフォックスの影」にトドメを刺そうとしているところだった。
『超・煩悩トルネード!!』
『キシャアアアアア!!』
「大煩悩」の放つ凄まじい煩悩エネルギーの嵐に巻き込まれ宙吊りにされる「エロノフォックスの影」
こうなってしまえばいかに魔蟲とはいえ逃げよる術は無い。
勝利を目前に俺と「大煩悩」の意志がシンクロする。
タマモの胎内の魔蟲に巻きついた霊波の糸に俺はタマモを傷つけず、そして「エロノフォックス」を破壊するだけの霊気を慎重に送り込む。
そして「大煩悩」も両手を天に掲げ、ドリルのようなものを手に持つと急速回転をしながら空を舞い、一気に奴に突っ込んだ。
「消えろ!スケベ蟲!!」
「キチィィィィィイ!」
『超・煩悩大回転!!』
『ギャアアアアアアアア!!』
「ひゃあぁぁぁぁぁぁぁっ!」
そして魔蟲と影はついに退治されたのだった………けど…最後のタマモの悲鳴はなんだったのだろう。
見ればタマモさん…完全に気絶してらっしゃるのですが…。
『主よ…』
ん? わかるのか「大煩悩」
『主よ…あの中で小規模とはいえ霊波を爆発させれば妖怪であるタマモちゃんにも刺激が伝わると思うのですが…』
「なんとっ!」
慌てて撤収してきたスネークを追うように秘孔からまた蜜が零れ、その量の多さに俺は「大煩悩」の言うことが正しいと確認したのだった。
「えぐっ…えぐっ…う゛えぇぇぇぇぇぇぇん!!」
凄惨な戦いは終わり、俺は目の前でマジ泣きしているタマモの頭を撫でるしか出来なかった。
そりゃあ俺の前であんな痴態を晒したとなればプライドの高い彼女のこととてつもないショックだろう。
なんだったら俺の記憶を消してもいいぞタマモ。
「タマモ…もしかして痛かったか?」
それともどこか傷つけたかと焦る俺にタマモは泣きながらブンスカと首を振る。
どうやら痛みで泣いているのではないらしいが、ということはつまりこれは屈辱の涙だろう。
ならばと俺はこっそり『忘』の字を込めた文珠を用意し、彼女に手渡そうとしてやっと泣き声に混じる彼女の言葉に気がついた。
「うぇぇぇえええん…初めてだったのに…えぐっ…えぐっ…この体になって初めてだったのにーー」
「…タマモさん?」
「ぐす…こんなことで破けちゃって…………ちゃんと…ちゃんとあげたかったのに…ヒドイよ…」
ああなるほど…タマモは勘違いをしていたのだ。
大丈夫。スネークは任務を完璧にこなしたぞ。
それはそれとして若い娘が「破けた」なんて言っちゃいけません!
「それは大丈夫だタマモ! 俺は破いてないぞ!!」
「ほんと? だって最後に「ズン」って来たよ…?」
一縷の光明を示されてタマモの目に光が戻る。
彼女にとってよほど大切なことなのだろう。
「本当だとも! こんなことで嘘はつかん!………………ん、ちょっと待てタマモ……………さっきなんとおっさいましたか?」
「ひくっ…なにって………ちゃんとあげ…………………………はウドンにのせて食べようね…」
「そんな風には聞こえなかったが?」
タマモはしばらく俺から目を逸らしていたが突然、ムキーとばかりに吠え出した。
ていうかタマモ…さっきまでの涙はどこへ行った?
むう…恐ろしきは女の涙。
「そ、そんなことはどうでもいいでしょ!! とにかく破けてないのね?!」
「ああ。それは間違いないけど…」
「そっか……良かったーーーーー……」
ホーーーーッと盛大な溜め息を吐いてタマモは肩を落す。
むう…やはり女性にとって「膜」は重要なのだなぁと心のメモ帳にしっかり書き込んで、俺はもう一つの疑問を再度口にする。
「いや、あの、だからさ…さっきなんて………ん!?………!!!」
なおも聞き出そうとする俺の唇をタマモはいきなり塞ぎに来た。自分の唇で。
この前の感触が蘇り、俺の頭は真っ白になる。
バカみたいに目をパチクリさせている俺の胸に額をつけタマモは小さく囁く。
「そんなこと聞かないで…」
そして顔を上げ、潤んだ瞳のままもう一度俺の唇を奪い…俺に体重を預けて来て…。
「せんせー! 居るでござるかー?」
「うおっ! シロ! どうした?!」
突然のシロの乱入に1ミリ秒で離れ、向かい合ってコタツに入る俺たち。
さしもの人狼の動体視力でも今の動きは見切れまい。
案の定、シロは俺たちがキスしたまま抱き合っていたことに気がついていないようだ。
「珍しいものが手に入ったのでおすそ分けに来たでござるよ…おろ?タマモも来ていたでござるか?」
「ちょっと前にね…」
いつも通りのこまっしゃくれた感じでシロの持っているビニール袋を見やるタマモ。
しかしまあ女は化けるというが本当なんだと実感した。
今のタマモと10分ほど前のタマモが同一人物であるなんて一部始終を知っている俺だって思わない。
でも俺は知っているんだ。
タマモ…お前さ……。
下はすっぽんぽんのまんまだろ。
考えてることが伝わったのかタマモがキッと俺を睨みつける。
ちょっと怖い。
でもまあシロからは死角になって見えないし、パンツは咄嗟にコタツの中にしまったし、このまま誤魔化せるかもと考えたが甘かった。
シロは人狼だったんだ。
「すんすん」と鼻を鳴らすシロ。
シロさん? なにしてらっしゃるのかな?
「なんか酸っぱしょっぱい臭いがするでござるな?」
途端にボンと音を立てて発火するタマモの顔。
あーそうか…そりゃ気絶しているあいだに拭いたとはいえ、あんだけ零せばなぁ。
こうなったら仕方ない。すまんシロ!
「シロ! ミカン食え!」
俺はコタツの上のミカンを一個握り締めるとシロの鼻面につきつけ握りつぶした。
「ぎゃあああああ! 目がっ! 鼻がぁぁぁ!!」
「すまんすまん…つい力が入った…」
予想通りミカンの汁に鼻と目をやられて七転八倒するシロに詫びつつ、俺はタマモになんとか顔色を戻せとアイコンタクトする。
「うん」と口には出さずに頷いてタマモは深呼吸を始めた。
やがて顔色が平常に戻っていく。もう大丈夫そうだった。
「先生…ひどいでござるよ…」
「あー。すまんかった」
グシグシと目と鼻を擦りながらこちらを睨みつけてくるシロ。
どうやら目論みどおり鼻は一時的にバカになってくれたらしい。
本当にすまんシロ…後でドッグフード買ってやるからな。
「で、なんの用事だったんだ?」
「あ、そうそう。忘れるところでござった。これでござる」
まだ痛いのか目をシパシパさせながらシロは持っていた袋をタマモにつきつけた。
「タマモも好きでござろう?」
袋の中で蠢くは先ほど戦った水生生物。
それを認めた瞬間、タマモの髪の毛が逆立ち、彼女はコタツから飛び出ると壁に背をつけて絶叫した。
「ひいっ! ザリガニ嫌あぁぁぁぁぁああ!!」
「どうしたんでござるか? タマモ! 何ゆえ下がすっぽんぽん!!?」
二重の意味でシロが驚きの声を上げる。
あああああ…これはもう駄目かも知れん。
なんとか…なんとか言い訳を考えねばと脳内の「大煩悩」にアクセスしたが、彼は今、チリトリ片手に俺の脳内の「エロノフォックス」の残骸を片付けていて『掃除中です』とつれない返事を返してくるだけ。
なにか…なにかないか? 下半身丸出しでも不自然でない理由は…そうだ!!
「こ、これは…」
「これはなんでござる!!」
タマモに詰め寄りいきり立つシロの肩に手を乗せ、俺はつとめて悲しそうな顔をしてみせた。
俺の表情に驚いたのかシロの剣幕が止まる。
チャンスは今しかない!
「あー。シロ…実はな…タマモは痔なんだ…」
「そ、そうなの! 私ってば切れちゃって血がどばーーーって!」
「そ、そうなんでござるか?」
「ああ。しかもそれだけじゃない。でっかいイボはあるわ、脱肛だわともう見るも無残な有様で…」
「なっ!!?」
思わず抗議の声を上げかけたタマモがなんとか踏みとどまる。
彼女の奥歯がギリリと鳴った気がするが考えないことにしよう。
今はシロを言いくるめるのが肝心なのだ。
シロは先ほどまでの怒りなどどこかに置き去りにして、その大きな目にはっきりと憐憫の色を湛えてタマモを見はじめていた。
よしよし…素直な弟子で俺は嬉しいぞ。
「それで仕方が無いから俺が薬を塗ってやっていたんだ…恥ずかしいからお前には知られたくないって言っていたんだが…まさかお前が乱入してくるとは…」
「そうでござったか……拙者配慮がたらんかったでござるよ…」
シュンと肩を落すシロの頭を撫でてやる。
このままなし崩しにしてしまうためには事後工作もせねばなるまい。
「そこで頼みがあるんだが…」
「なんでござるか?」
「うむ。薬を買ってきてくれ。ここまで重症だと俺の手持ちじゃ足りないんだ…」
「わかったでござる! タマモもちょっと待ってるでござるよ!」
そしてシロは勢い良く玄関から飛び出して行った。
薬局までは遠いから最低でも10分は稼げただろう。
今のうちにタマモにパンツを履かせたり、ファ〇リーズしたり色々と工作しておこう。
だがちょっとぐらいはホッとしてもいいだろう。
「ふーーーー。 なんとか誤魔化せたか…良い子だなぁ…シロは…」
「そうね…私もそう思うわ…んふ…んふふふふふ…」
「タマモさん?」
俯いて暗く笑うタマモさん。
マッテクダサイ タマモサン ナンデオコッテラッシャルノ?
「よりにもよってなんて言い訳してるのよぉぉぉぉぉ!!」
「カンニンやーーー!! ぎゃああぁぁぁぁぁぁぁ!!」
下半身丸出しのせいなのか、いつもの数倍の威力の炎に巻かれた俺に出来ることはただ絶叫するだけでした。
「せんせー! 買ってきたでござるよー。超電痔治療薬『ヘモテスV』!」
「……シロ…火傷薬も頼む…ぐふうっ!」
「先生っ! せんせーーー!!」
薄れいく意識の片隅でこれでよかったんだろうかと首を傾げる俺の肩をエロノフォックスの残骸を片付け終えて帰り支度をしていた「大煩悩」が『それもまた幸せ』と叩いてくれた。
おしまい
犬雀様、別名寸止めSS第二弾をありがとうございます(マテ
よりにもよって、痔持ちにされたタマモ嬢に敬礼!!(何故に