エクリプス: 関口健一郎氏



匿名の人が充ちゆくこの街に埃だらけの月が昇りぬ


神は我が10本の指作りたり掬ひしものが漏れ出づやうに


夜ごとに私の影は消え去りて誰かの体探してをるや


幾億年分の枯れ葉と死者の上我は今宵も眠り続ける


命にも習作期あり今年また小粒のままに野いちご生れぬ


砂浜に打ち上げられし靴片方 人間はみな途上で死せり


放埓に若葉繁りて生臭き春の空間占有したり


生むことを諦めてゐる卵にて我が手の中にしんと冷えをり


屋上へ階段昇る昼下がり空への入口探し求めて


英霊といふ名でひとつに括らるるさまざまな恋さまざまな傷


無作為に恋始まりぬ 春雨は心くまなく濡らしてゆけり


わたくしの罪を焼きしか山頂に硫黄の匂いはつか残りぬ


千代田線新御茶ノ水駅深く二万の心臓奔り続けて


帰る雁群れなして飛ぶ深酒の我のこころをおいてきぼりに


開戦を告ぐる新聞燃やしをり 炎の中の兵士の背中


道を行くひとりたりともノアに似た人居らぬ街 あなたはだあれ


夕立は国の境を清めむといよよ激しく降り続けたり


夕立の降り注ぐ地は今もなほ私とユダを等しく乗せる


流れ星赤く燃え尽き歳時記に異常気象といふ語はあるや


山中に一個きらめくとほき灯は我が青春の読点として


双子座よ同じ夢など見ぬままに永久に並びて天空に在り


国中の湖上の月がいつせいに蝕を始めぬ音なき夜に


満月は地球の影に蔵はれて街はことばを喪ひゆきぬ


見つめをるまなこあるべし街灯の絶へたる道の草むらの中


いつかまた都市を焼く火がひとつずつ点されてをり暗きバーにて










2003年10月16日

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