SEASON

夏の日の石の河原を素足にて歩くがごとき後悔がある
淡路島海渡る橋見守りて今宵も瞑(ねむ)れ須磨の関守
ひとひらの紅葉川面に舞い落ちて流されてゆく恋の行く末
主(ぬし)のなきフルートはただ置かれいて無音で歌え秋風の歌
バーテンの背後に立ちし棚の上(へ)に夢の数だけボトル並びぬ
LPのテナーサックス叫びつつ並ぶボトルを眠らせぬ夜
灰皿のたばこのけむり宙に消え思い出せない会話の結末
バーの椅子立ち上げるとき人はみなもう一度だけ明日を待ってる
一つづつまた一つづつ街の灯が消えゆくがごと種(しゅ)は減りゆきぬ
街灯に照らされて雪何本も斜線でビルを抹消している
水滴は氷柱となって凍りつつまた太くなる殺意、いくつも
六千の耳が戦(そよ)ぎしコンサートホールに響くピアニッシシモ
辞令持つ我の背後で春闌けぬ廊下を渡って机を超えて
日出づる処の我は日没する処のケントにEメール書く
ネクタイと決済とともにたわむれる苦い遊びを仕事と言おう
ミスコピーしたる紙束積み上げぬ君に届かぬ言葉のごとく
筆跡も笑顔も知らぬミカからのEメール見てほほえむ夕暮れ
電源を切りしパソコンこの星にあまた置かれし箱に戻りぬ
一塊のレア・ステーキを切る我の本音のごとき紅き断面
夕焼けと大吟醸と君の笑み我を優しく染めてゆくもの


関口健一郎氏 自選20首




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