■ 桜の時 ■

十河 蒼 様:作



ひらり。と。
真白の上に薄紅のひとひら。

「悟浄」
「んぁ?」
「桜の花びらですよ、ほら」
「お」
「そういえば近くに桜の木ってありましたっけ」
「……あったような、なかったような……」
「もうそんな季節なんですねぇ。今度お弁当作りましょうか。それで……」
「ちょい待ち」
「はい?」
「今、クソボーズとバカ猿も誘おうとか思っただろ?」
「当たり前じゃないですか。去年も皆で行ったでしょう」
「却下」
「は?」
「却下って言ったの!貴重なデートをアイツらに邪魔されてたまるかっつーのよ」
「……デートねぇ」
「ナンだよ、ご不満?」
「そーいう訳じゃないですけど。でも皆でお花見ってのも楽しいじゃないですか」
「いーの。ココにある花びら愛でてるだけでジュ−ブン」
「…?ここにある、って……?」

白の上の一枚だけの花びら。
摘みあげると、その手をそっとさらわれて。

「この白に咲く花びらでジュ−ブン」

うっすらと咲いた薄紅に軽い口づけが落ちて。
目の前の男は視線を交わしてにやりと笑った。

「……馬鹿ですよね」
「そ?」
「ええ。お互いにね」
「…言えてる」

春の早朝。
何気ないひとコマ。
 





 
 
 




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