BIRTHDAY CARD 3



「…どうしてお前はいつも沙悟浄の誕生日を祝うんだ?」

 几帳面な字で書き込まれた白いカードを差し出しながら、紅い髪の妖怪の「カリスマ」といわれている男は八戒に真剣な瞳で問い掛けた。

「人が生まれた日が何故めでたいんだ?」

 紅孩児には「自分のため」を連発する三蔵一行のうちのひとりが、これほどまでに毎年毎年「他人が」生まれた日に執着する理由がいまいち解せなかった。

「…祝ってるように見えるんですか?」
「この行為が祝い以外の何だというんだ?」

 そろいもそろって大変すっとぼけている敵さんだ、と八戒は思った。
 八百鼡にしろ独角にしろこの紅孩児にしろ。

 三蔵と悟空からはただの念の入った嫌がらせとしか取られていないこの行為を、額面どおり、ただ素直に受け入れることができる輩ばかりがそろっている。

 とりあえず返す言葉を失って八戒はあははとかわいた笑いを紅孩児に向けた。紅孩児は真剣な表情で八戒の返答を待っている。

「紅孩児。あなたは、誰かが生まれてくれたことを感謝したことはありますか?」
「それは勿論ある。母上がこの世に生まれていなければ俺はこの世に存在しなかったのだから」

 筋金入りの激率直マザコンだとは口に出さず、八戒はあいまいな笑みを浮かべて言葉を続けた。

「だったら人が生まれた日が何故めでたいかなんてことは説明しなくてもご理解いただけるでしょう?」
「……なるほど」

 浅黒い顎をつまみながら、紅孩児は恐ろしく納得した顔をして軽くうなづいた。

「つまりお前は沙悟浄のことをとても大切な存在だと思っているということなのだな」
「………どこをどうとったらそういう結論になるんですか」

 眩暈を感じて八戒は紅孩児を仰ぎ見た。紅孩児は自分て言った言葉にかなり納得して仕切りとうんうんうなづいていた。

「仮にも敵である俺たちに、危険を顧みず毎年毎年お前はそうやって沙悟浄に渡すためのプレゼントを集めてまわる。それだけ手の込んだことをする情熱があるほど沙悟浄がお前にとってとても特別な存在ということができるだろう」
「………」

 今回は絶句させられてばかりだ。それだけを言って、母上のところに戻る、とどうしようもないマザコンぶりを発揮して、紅孩児は八戒に背を向けて駆け出した。
 

 大切だの好きだのそんな感情は。
 口に出すだけならいくらでもできるその感情は。
 
 ある1点を境にこの胸に沸き起こってくるわけもなく、とっくの昔に凍り付いてこなごなに砕けたはずだった。


 











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