BIRTHDAY CARD 3



 残るカードは3枚だ。

 ひとりも当ててない悟浄は少々あせりだした。ひとりも当てられないということはこのカードにかかわった全員におごることになるわけだが、脳味噌まで胃袋が詰まった猿や最高僧のくせになまぐさを食べることにかけては天下一品の唯我独尊男や鯨飲馬食な兄だとかそーいう面子を思い描いただけで、これから先しばらく煙草も酒もお預けになってしまいそうな状況がくっきりと脳裏に浮かんできた。

 当てにいかないとまずい。
 残りの3枚のうち1枚を八戒から受け取って、悟浄はじっくりその文面を眺めてみた。

『沙悟浄、誕生日おめでとう』

 きっちりと枠に収まったように読みやすい字が並んでいる。これはあの紅毛の王子様が書いたものではなかろうかと悟浄は瞬時に判断した。しかし、そうと見せかけて別人が書いているのがこの毎年繰り広げられているゲームの結果である。

 去年もおととしも奇跡的に悟浄は全員におごるという自体を免れた。全くのあてずっぽうで言った答えがたまたま偶然当たっていただけだったから、当てた悟浄のほうもとんでもなくびっくりした。およそ三蔵が書いたとしか思えない文章を紅孩児が書いただとか、これはどう見ても八百鼡だろうとふんでいたら実はただの雑魚だったとか。ただの雑魚にまでそういう風なメッセージを書かせることのできる八戒を悟浄は改めてすごいと思ったのだが…

 今はそんなことを考えている場合ではない。

『お前の紅い髪をはじめてみたときに俺はとてもびっくりした。俺以外に紅い髪の妖怪がいるとは思っていなかったからだ。お前の兄がいつも俺に向かっていっているのも話半分に聞いていた。「血がついた髪が赤く見えるだけだろう」と思っていたがそうではなかった。

 俺が赤毛の理由を俺は知らない。
 禁忌の子供は紅い瞳と紅い髪を持って生まれてくる、とさんざん聞かされた。あの強欲ババアにそれでよくハクガイされたものだ。しかし、妖怪たちの間でそれは知る者がほとんどいない、本当なのかどうか誰もよく知らないというものだった。

 いや、そんなことはどうでもいい。なにが禁忌で、禁忌じゃないかなんてことは時代や人や立場によってころころと変わっていくものだ。

 俺の存在自体を忌み嫌う女もいれば、俺がいることだけで喜んでくれるような女もいる。沙悟浄、お前もそうだろう。
 お前自身を憎み、抹殺しようとした存在がいる一方で、おまえ自身をこんなにもいとおしむ存在がいる今のお前が俺はとてもうらやましい。毎年毎年やろうと思ってもやれるものではないぞ。正直言って敵であるところの俺たちからこんな風にカードを取っていくことができるなどということは。よほどお前のことを大切に思っていないとできない芸当だろう。

 俺は実は、お前たち一行の中で一番強いのは孫悟空ではなく猪八戒ではないかと思っている。猪八戒が妖力制御装置をはずしたところを俺は見たことがないが、銀の制御装置を3つもつけてなおかつあれだけの力を発揮できるのだ。並大抵の妖怪ではないだろう。その猪八戒がこれほどまでに入れ込むお前は、きっと猪八戒にとってすごく強くて、すごく大切な存在なのだろうと俺にすら予想ができる。

 そんなお前が生まれた日を、俺も言葉足らずながらお祝いしよう。お前と、お前のために一生懸命になる猪八戒に。

 誕生日、おめでとう』


 そろいもそろってどうしてそういう認識しかできないんだと悟浄は頭を抱えて座り込み、そして力なく八戒に答えを告げた。

 そして、今日もまた、見事に答えをはずした。









 


Q4 さて、上の文章を書いた人は一体誰でしょう?


 →答えは最終日。





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