棒や錫杖に性別は絶対必要不可欠のものなのか





 ある日棒から美女が出てきました。(ちょっとちがう)



 今の今までこんな美女がこんなに近くにいたということに気づかなかった自分を呪いたいくらいだと悟浄は思った。

 弾力のある白い肌。すべらかで絹糸のようにつややかな髪。推定3サイズ88・58・86の豊かなボディ。
 きれいに紅を引かれた唇は大きすぎず、小さすぎず、それでいてむしゃぶりつくしたいくらい魅力的で。
 スリットから見える脚線美は絶対に藤原○香以上だし、きゅ、とひきしまった足首は星団一の足首を誇るフローレンスファティマ、エストよりもすばらしい。

 どれをとっても悟浄が飢えていたイイ女の条件を満たしている。

 今までの善行がやっと報われた気が悟浄にはしていた。いつもいっしょにいるとなったら口説くチャンスはいくらでもある。当然夜もいつもいっしょにいるわけだからコトに及ぶのも簡単だ。
 一気に旅が薔薇色になった気分で、非常に上機嫌に悟浄はハイライトをくゆらせた。
 未だ茫然自失の悟空と何が起こっても超越している三蔵なんかのことはどうでもいい。
 八戒は…如意棒が出現したときのまばゆい光で少し目を痛めたらしい。ようやく光がなくなってきた周辺を、少し手探りの状態で水場を求めて歩いている。
 危なっかしいので手伝うか、と腰をあげた悟浄の耳に、か細い、小さな声が聞こえてきた。

「あの…」

 同時に服のすそを引っ張られ、悟浄は辺りを見回した。背の高い彼の視界にはその声の持ち主が入らなかった。
 もういちどぐるりと辺りを見回してから、悟浄は足元に視線を向ける。

 ……こげ茶色のさらさらとした髪をした、色の白い、華奢な少女が立っていた。
 ためらいがちに目を伏せ、少し肩を震わせて、明らかに悟浄を怖がっている。
 それでもその右手は悟浄のジャケットのすそをつかんで離そうとはしなかった。


「………………………このクソエロ河童!!死ね!今すぐ死ね!!ここで俺が殺してやる」
「……ちょっと待て―――――っ何で俺が貴様に殺されなきゃいけねーんだこのハゲッッッ」

 ガゥンガウン

 ハゲと呼ばれた一行の仲で最年長の金髪の最高僧は返答のかわりにきっちり銃声を返した。

「何だ何だ何だ、何で俺がこんな目にあうんだよっ」

 慌てて銃弾を避けながら(もちろん三蔵は悟浄にしかあたらないように銃を撃っていたので)、悟浄は白く乾いた大地に転がりながら叫んだ。

「煩い!このドエロ河童!!こんな小さな少女まで守備範囲か貴様は!」

 少女から悟浄が離れたのをこれ幸いと一段と銃声を響かせる三蔵がきっちり悟浄の心臓を狙いながら言った。

「ナニわけのわかんね―こといってるんだ?!俺が一体ナニをしたっ」
「とボケんな。何かしないでこんな小さな子がこんな荒野に忽然と姿をあらわすかっ。どうせ貴様がさらってきたんだろう」
「……どこをどう考えたらそんな結論になるんだ?!」

 ごろんごろん転がりながら器用に三蔵の銃弾をよけている悟浄を尻目に、義眼を水で冷やして少し症状が落ち着いたらしい八戒が、その少女の目線までひざを降り、やさしい声で話し掛けた。

「…どうしたんですか?誰かとはぐれてしまったんですか?」

 ふるふると首をふる少女を見て、ころころ笑いながら如意棒が横から口を出す。

「…面白いからもうちょっと黙っててもいいんだけど。その子があんまりかわいそうだからあなたに教えてあげるわ」

 相変わらずBGMの銃声は鳴り止まず、悟浄と三蔵はお互いを罵り合っている。八戒は首を傾げて不思議そうに先ほどまではただの棒だったその絶世の美女を見上げた。

「その子は、その姿になったのは初めてだろうから、戸惑っているのよ。あなた、やさしくしてあげてね」
「はあ……」

 豊かな胸の下で腕を交差してそばにある木に身体を持たせかけて如意棒は言った。

「1000の妖怪の血を浴びたら、どうなるか、知ってるでしょう?」

 さらにもう一度八戒に向かってその言葉を放つ美女に、先ほどよりわずかに表情を硬くして、八戒は言葉を返した。

「知ってますよ。…それにしても貴女は僕にそれを聞くのが好きですね」

 ごくわずかの間にこめられた八戒の気持ちがわからないはずはないだろうのに、如意棒は微笑を絶やさず、一歩も引かず、八戒の左右の色がわずかに違う碧の瞳を面白そうに見返して言った。

「だって私はじめてみたんだもの。――――まあ、そんなことでカリカリしないで。何で私がこの話題を蒸し返すか、聡明なあなたならわかってくれると思ったんだけれど」
「……まさか……」
「ふふ、そうねえ。きっとあなたの考えているとおりだわ」


「ぎゃ―――――八戒――ー、助けてくれよ―」
「悟浄!僕を盾にするのはやめてください………あれ?」

 八戒の後ろに回り込もうとした悟浄の紅い双眸が見開かれた。
 乱射しつづけていた銃を三蔵も驚いた顔をしてついおろしてしまった。
 八戒は、にこにこと笑っている如意棒のほうを仰ぎ見た。

 両手を広げて三蔵の銃口の前に悟浄を守るように精一杯立ちはだかったその少女を、3人は3対の色の異なる瞳でみつめていた。




「…………………………一言言ってもいいか?」
「何なりと」

 ぱち、ぱち、と焚き火がはぜる音がして細い細い月に弱々しく照らされた荒野をオレンジ色の炎が照らしている。
 焚き火の周りでは、三蔵が我関せずとばかりにまったくいつもと同じようにごろりと横になって眠っている。如意棒は、呆然としっぱなしだった悟空をその豊かな胸にかき抱いて(というか寝袋が足りないので仕方がないことであるのだが)眠ろうとしたが、約1名の激しい反対にあい、その人物の寝袋に包まって悟空の隣で眠っている。先ほどの少女はやはり寝袋に包まって、天使のような顔をして眠っていた。
 寝袋からあぶれた二人が、ジープもいいかげん休ませなければならないという理由で寝ずの焚き火の番をさせられているのは、ひとりは自業自得とはいえ、もうひとりはかなり付き合いでそうしているとしか言いようがなかった。
 自業自得の人物が、付き合ってくれている人物に声をかけたわけだが…

「何で、何で俺の錫杖はあんな小さな女の子でクソ猿の如意棒はあんなイイ女になってんだ?」
「……あきれた。貴方棒にまで欲情するんですか?」
「たまってんの。悪ぃかよ」

 ため息混じりの八戒の声に悪びれもせず、悟浄は己の不運を嘆く。

「ああ、このままだったらいつ貴方がこのいたいけな少女に手を出すことになるか…僕は心配でなりません」

 大げさに肩をすくめて泣きまねをしながら八戒がいう言葉に悟浄はぐっとつまり、うまい具合に反論の言葉も見つからなかったので仕方なくひざを抱えてぶつぶつ言う。

「ああ、せっかく俺の人生やっとバラ色になったと思ったのに。如意棒って義理堅いんだもんな。っ手言うかあの猿になんてもったいなさすぎる。『ご主人様のご意向をきいてからねv』なんていわれた日にゃ―一体俺にどうしろっちゅ―わけ?」

 涙ぐみながらぶつぶつ言いつづける悟浄にあきれ果てて、それでも突っ込むところは律儀に突っ込んであげる八戒は思い切りあきれた声で悟浄に言った。

「そりゃ貴方が悟空に頭を下げて頼めば貴方の望みがかなうんじゃないですか?」
「そーれーだーけーはっっっ」

 がば、と勢いよく顔をあげて必死に否定する悟浄にちらりと冷淡な視線を投げつけて、八戒は、なんともフクザツな気分でオレンジ色の炎が揺らめくのを見ていた。

「大体如意棒なんてどれくらい生きてるんだかわかんないんですから。元はといえば天の川の底を支える棒だったんですよ?天地開闢のときから存在してるといっても過言ではないでしょうから、そんな霊力の強い棒と、きっとまだまだ若い貴方の錫杖と比べれば、あれくらいの差は出るに決まってるじゃないですか」
「そりゃそーだろーけど―――」

 ぱちっ、とひときわ大きく炎がはぜる音がして、火の粉が巻き上げられていった。

 何で、フクザツな気分になっているのかよくわからずに、八戒は少し身震いをしてひざを抱えてそこに頭をうずめて、急激に冷える乾燥地帯の夜に対抗しようとしていた。

 
 





 

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