Birthday Card 4
目の前にやはり突然出てきた金ぴかの香水の瓶を手にとって悟浄はまじまじと眺めてみた。
こ洒落た感じのデザインだが、どうも酢のような匂いがする。というか少しふたを開けるだけで目にしばしばと痛い。
少しだけ手にとって舐めてみるとまごう事なき酢そのものだ。
「この香水はへんに酢臭いぜ」
「まちがえたんでしょう。ウェイターさん、風邪でも引いていたんでしょうかね」
……おそらくそういう答えが帰ってくるだろうと悟浄も予測してはいたが、まさしくそんな感じだったのでかなりがっくりきてしまった。
頭へ振りかけろといわれても酢を自分に振り掛けて食事をするという作法は聴いたことも見たこともなかったので悟浄は乱暴にその香水を突然出てきた台の上に戻してふんと唇を尖らせた。
もういい加減こんな陰謀に付き合うのは真っ平ごめんだと八戒に今度こそ食って掛かろうとした悟浄は最後に残ったカードを一枚目の前に突きつけられた。条件反射のようにそれを手にとり、つい開いてみてみる自分はどこまでお人よしなんだろうと悲しくなりながら開いたそこには大きな字でこう書かれていた。
「いろいろ注文が多くてうるさかったでしょう。お気の毒でした。もうこれだけです。どうかからだ中に、壷の中の塩をたくさんよくもみこんでください」
そしてまた突然立派な青い瀬戸の塩壷が出てきたが、悟浄はしばらく下を向いて何も言わずにその壷をじっと見つめていた。
そしておもむろに振り返り三蔵に向かって訴える。
「どうもおかしい」
「これをおかしいと思わないほうが異常だな」
「なんでそもそも俺がカードの通りに行動しなくちゃならないんだ」
「最初にそれを疑問に思っとくべきだったな」
両腕を組んで全く他人事の三蔵はそう嘯く。悟浄はとりあえず頭を抱えてその場に座り込んだ。
ここ数年で最悪の誕生日だと悟浄は思った。