coffee rumba



ばらばら・と、音を立てて、茶色の粒がテーブルに転がった。



「コーヒーが苦手な奴ってさ、たいてー、美味いコーヒー、飲んだことがねーんだよ」

そう言って、悟浄はコーヒー豆を選り分け始めた。

「豆にも良いのと悪いのとがあるワケ。ソレをちゃんと見切れるのが、『通』だね」

多少、容の歪さは見て取れても、どれが良くてどれが悪いかなんて、僕には検討もつかない。

なのに、悟浄は一つ一つ摘んでは、迷うことなく「良い豆」を選び出す。

「美味いコーヒー淹れンの、俺、自信、あんだわv まあ、お前の料理には負けるけどさ」

豆と一緒にミルやネルまで買ってきて(サイフォンじゃないのが彼らしい)、いそいそと

ケトルで湯を沸かし、豆を挽き始めている。

どうやら本格的に淹れてくれるみたいだ。

別にコーヒーが嫌いなワケじゃないけど、どちらかと言えばカフェオレの方が好きで、

もっと素直に言えば、緑茶が一番好き。

香ばしいコーヒーより、清々しい緑茶の香りの方が落ち着くし、緑茶はコーヒーほど

手間暇がかからない。

なんて言ったら・・ジジくせえ・・って、呆れられる・・かな?

うん。黙っておこう。







休日には二人で料理をして、一緒に食べて、二人で片付けて、お茶を飲む。

それが、僕と彼女の生活。







そういった生活を、悟浄と望んでいるワケじゃあ、ない。

でも―――



白くしなやかで、綺麗な指が好きだった

不器用で武骨でヤニ臭い指が、今は好き。

彼女の、暖かな笑顔と優しい声が好きだった。

彼の、皮肉屋の微苦笑と荒れた言葉使いが、今は耳に好い。



彼女のすべてを過去に葬るつもりはないけれど―――







「八戒?」



何時の間にか目の前には、マグカップ。

「俺に見惚れるのはしょうがないけどさ。とりあえず、飲んでみなって」

僕は、ずっと悟浄を見ていたらしい。うわぁぁ、恥ずかしい////

慌てて顔を伏せ、何気ない仕種でマグカップを持って・・馨しい深みのある香りを味わった。

そして、ゆっくり口元にカップを運んで・・・

コクリ。



「あ・・」

―――美味しい。



口の中に溢れる濃厚な味に、虜になりそうだ。

 してやったり♪

な、悟浄の顔が気に食わないけど・・・これは美味しい。

ゴクゴクと飲み干すんじゃなくて、コクリ、コクリ、味わって飲むコーヒーだ。これは。

ブラックコーヒーなんて初めて飲んだけれど、これなら大丈夫。っていうより、今まで僕が

飲んできたコーヒーって、何?

「違いがわかる男にしか、わからねーんだよ、この味は」

あははは。



――なんだか、悔しいって、思うのは、僕の我儘?それとも思い上がり?



「気に入った?」

余裕ありありの態度なのに、どこか窺うような気配がするのは・・悟浄の奥深いトコロにある弱さ。

だから、賛辞と感謝を込めて、頷いた。

「だろv」

途端にホッとする彼が・・今は一番好きだと思う。





梅雨明けの、カラリと晴れた午後。

朝の天気予報では、穏やかなのは今日限り、明日から本格的な夏だと告げていた。

家の窓を全部開けているから、風の通り抜ける道が見えるみたいで、

ゆっくり、ゆっくり・・・

ゆっくり流れる風と、時間。

気持ちのいい風。

心地好い時間。

あれ?

こんなに黙っている悟浄なんて・・珍しい・・かな?

そういえば、コーヒーを淹れている間、煙草を吸っていないし・・・

悟浄が淹れてくれたこのコーヒーの香りも良いけれど。

悟浄の香りも・・ないと寂しい。



―――かなり、クサってますね。ヤバイかもv



でも、こんなに美味しいコーヒー、二人で飲むのが惜しい気がする。

三蔵達が今度来たら、淹れてあげて下さいね。

「あー、ダメダメ」

どうしてです?

「アレだ。三蔵なんか、絶対猫舌で、氷2つくらい入れて冷まして薄めなきゃ飲めないタイプに

決まってる。でもって、味オンチのクセして美味いモンだけはわかるってゆー『我儘舌』だね。

俺様のとびきり☆美味☆なコーヒーを味わったら最後、これから俺に会う度に淹れろって

命令するぜ、あのエセ坊主( ̄へ ̄〆)」

す、鋭い―――。

確かに、そういうトコロ、ありそうですね、三蔵って・・・。

でも、

「悟空はな、」

あ、訊く前に切り出されてしまった。

「ありゃあ、まだお子様だから、せっかく美味いの淹れたって、砂糖やらミルクやら

ダボダボ入れて、台無しにするって。せいぜいコーヒー牛乳がお似合いだな」

あはははは・・・ホント、鋭すぎ。

「だいたい、なんで俺がアイツ等に淹れてやんなきゃなんねーんだよ。自分の分、淹れるのだって

面倒くせえのに」

え?

そういえば・・コーヒーを淹れるのが得意って言ったけど、この家にコーヒーメーカーは

なかったし――

ずっとインスタントで済ませていたのに、どうして急に?

「豆だって結構良いの使ってんだぜ?これ以上、尽くしてどうするよ」

じゃあ・・もう淹れてくれないんですか?



(―――美味しかったのに・・・)



「ん?」

ネルから水気を搾り取り、悟浄は灰皿にコーヒー粕を捨てた。

「悪い豆って言ったけどさ、全然平気。残りは挽いておいて、普段はソレ飲んで、無くなったら

また買って、俺が一番珈琲を淹れる、ってのは、どうよ?」

一番茶・は聞いたことがありますが、一番珈琲?

あ、じゃあ・・新しい豆を買ったら、その度に悟浄が淹れてくれるんですか?

「おう。ちゃんと水汲みから始めて、淹れてやるぜ」

森の湧き水をわざわざ汲んできて、ですか?貴方が?

それは・・楽しみですね。

じゃあ早速ゼラチンを買ってきて、コーヒーゼリーを作ろうかな?

シフォンケーキに、モカローフ・・、そうだ!アイスコーヒーを凍らして、カキ氷にするのも

好いかもしれない。

「おいおい」

悟浄が笑った。僕の好きな・・悟浄の表情。

「どうせ悟空のオヤツだろ?高い豆をンなのに使うなって。勿体ねえ」

悟浄は残りのコーヒー豆を挽き始めた。



悟空のおやつって、どうして決め付けるんだろう。

悟浄、早くその豆、挽いちゃって下さい。

とりあえず今日は製氷皿でコーヒー氷を作って、アイスコーヒーを作るとしましょうか。



早くコーヒーを使い切らなきゃ。

早く使い切って、新しいコーヒー豆を買って来なきゃ。





どうしよう。

僕、どうしようもないくらい・・・



「貴方が好きかも?」





 

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