Wind Fall



 
 

八戒が開けていった窓から、気持ちの良い風が入ってきた。

なんだか寝てるのが惜しくなって、いつもより早めに起きたら、八戒、いないじゃん。

そーいや、アイツら、来るんだっけ‥‥

あ‥なんか、思い出したら、腹、たってきた。

アイツらが来ると、八戒、俺のコトかまってくんないんだもんなー。

ゆーべも「おあづけ」だったしーぃ。

―――って、何、拗ねてんだよ、俺。





家の裏手の森を少し入ったところに小高い丘があって、そこに、一本だけドデンと聳え立つでっかい樹の、

一際大きな枝に俺は腰掛け、脚を伸ばして、のんびり‥風に身を任せた。

ここは俺の一等お気に入りの場所だ。

おっと、正確には八戒に合う前までの、だ。



五月晴れの風は新緑の丘を静かに彷徨ってから樹を伝い、俺の周りでソヨソヨそよいで‥、と思ったら激しく

吹きつけてくるから、髪が乱れて目の前が真っ赤になっちまう。

あとで八戒に三つ編みしてもらおv

絶対、さんぞー、嫌な顔すっぞー。シッシッシッ

それにしても、いー風‥‥何んか‥八戒みてーだな‥‥

儚そうで、でも「凛」ってしてて、寂しそうに見えるのに逞しい。

吹くたびに様子を変えて、俺の髪を優しく撫でてくれる‥ベッドの上のアイツみたいだ。

―――って、何、湧いたコト、考えてんだよ、俺。





「ああ、やっぱりココにいた」



柔らかい声がして見下ろせば、片手で庇を作りながら見上げる八戒がいた。

「三蔵と悟空が来るっていうと、貴方、すぐ隠れるんだから。探しましたよ」

探してくれたの?ごめんね?

クスクス笑ってくれちゃって。楽しそーだね、八戒クン。

こっち、おいでよ。上がっておいで。

その窪みに左足ひっかけて、そっちの枝に掴まって、ホイ、いらっしゃいv

俺のより、ちょい下の枝に立って、目の前に広がる新緑の丘を見渡してる。

俺の方も、見て欲しーなー‥‥なーんて、重症だな、俺。

「良い眺めですね。ここは」

(うん)

俺の調度目の高さにある八戒の柔らかい髪が風に揺れてる。

触りてーなあ‥‥

「風も‥とても気持ち良い‥‥」

(うん。俺もそう思ってたとこ。八戒みたいだなーって)

「はあ?」

(気持ちヨクって‥俺、イッちまいそv)



「―――落としますよ」



ごめんなさい。

だからそんなに枝を揺らさないで。ね?

あーあ、ホメ言葉なのになあ。

「他に言うことないんですか、貴方って人は‥‥」

そんなに呆れないでよ。しょーがないっしょ?

(俺、八戒のコトしか考えてねーもん)

「おや?いいんですか、綺麗なお姉さん方のこと、考えなくても」

そーゆー可愛くないコトを言う可愛いお口は、塞いじゃうよ?

(ちゅv)

「ん‥」

角度を変えて‥と。

(ちゅ、ちゅ、ちゅ〜うっ)

「ぁ‥ごじょ‥」

八戒、可愛い〜

「まったく‥」

艶っぽいなあ‥、こういう時の八戒は‥‥‥

「貴方って、ホント、南風ですね」

(俺?)

「僕に向かって吹いていて、いつも僕を熱くさせてくれるから‥‥」

八戒をアツクさせるって―――

言ってくれるぜ、子ネコちゃん。

「顔が真っ赤ですよ、悟浄」

降参です。ハイ。



スッパーーンッッ

「いっでーーっっ」



聞き慣れた擬音と威勢の良い喚き声。

あーあ、来やがった。

俺たちが家にいないんで、万年欠食小猿が生臭鬼畜クソ坊主を連れて探しに来たってトコだろう。

(台風接近)

「あははは。悟空=台風そのもの。ですね」

あ、八戒、下りちゃうの?その前にさ、ちゅーしよーぜv

「一人で下りられないんでしたら、三蔵に撃ち落としてもらいますか」

ごめんなさい。

一人で下りれますから、夜まで我慢しますから、それだけは勘弁。な?



「はっかーい!オレ、腹減ったよ〜っっ」

「喧しいっ、騒ぐな!俺が食わしてねえみたいじゃねえか!!」



あー、うるせーうるせー。

せっかくのイイ気分が台無しじゃん。

悟浄、さーみし。

ん?

何が可笑しいの?八戒サン。

「いえ‥、さしずめ三蔵はブリザード‥ですか?」

年中荒れてるからなあ‥‥

「違います?だって、吹雪いてそうじゃないですか、三蔵って」

(んー、どっちかてーと‥三蔵は、)

「旋風」



本日、台風一過につき、晴天なり。ってか?












 

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