Birthday Card 2



……ナゼ毎年毎年自分はこんな目にあっているのだろうか。

 最高僧らしからぬ疑問に胸をさいなまされつつ三蔵は、目の前のペンをもってにこにこ笑っている碧の瞳を持つ誰から見ても人当たりのよさそうなお兄さんにしか思えない存在に思い切りため息をついた。

「ナニ三蔵そんなに嬉しそうなんですかv…悟浄の誕生日を、三蔵もそんなに楽しみにしてくれてるんですねv」

 八戒の笑顔は、見るものを魅了する。大概の人間ならころっとやられてしまう。
 しかし、ごく小数の限られた人間にとっては、ころっとやられてしまう意味が全く違ってくるのだ。

 その笑顔の八戒に逆らおうものなら。

 …これ以上は口が裂けても言えそうもない。

 日ごろ世間一般を騒がす鬼畜生臭坊主で傲岸不遜、俺様が一番の三蔵ですらこの体たらくだ。
 いくらため息をつこうが嫌がろうが、とにかく八戒が持つそのペンを三蔵は必ず手にとり、こころにこれっぽっちもないことをそのカードに書き付けなければならないのはまちがいない。


「…で、今年はあのアカバネエロゴキブリに何を書いてやればいいんだ?」

 どうせ書くなら一刻も早く書き終わった方がましだろう。三蔵は自らすすんでペンを取り、八戒の持つカードをふんだくって言った。

「毎年同じじゃ趣向を凝らしてるとは言いがたいですよね。だから、今年はもっとゲーム要素が強いものを取り入れました」

 よくわかったんだかわからないんだかとにかくそういう理屈で八戒はにっこり笑って、三蔵に説明をはじめた。

「今回はね。「悟浄と」「どこで」「なにをしたいか」って書いてもらうんです」
「……」
「「どこで」と「なにをしたいか」を切り離して、それぞれ別の箱に入れます」
「………」
「そして、その中から悟浄に無作為に選んでもらった「どこで」「なにをしたいか」を実際にやってもらうわけです」
「…………」
「勿論、「どこで」を書いた人と「なにをしたいか」を書いた人を当ててもらいますよ」
「…………」
「もし書いた人を悟浄が当てたら、その人が好きなだけ悟浄におごります。そして、悟浄が当てられなかったら、悟浄に僕たちがご馳走してもらいましょう」
「……………どこかの漫画にそういうネタがなかったか」

 ボソリとつぶやく三蔵ににっこり笑顔で八戒は「そんなのは気のせいですよ」と返した。
 ……確かにそんな細かいことをいちいちつっこんでいる場合ではなかった。

 今年も。
 心にもない絶対に自分だとわからないことを書かなければ。

 あのクソゴキブリエロ河童に好きなだけ好きなものをおごらなければならないという……

「…おい」
「なんです」
「お前まさか今年もあちらこちらからそれを集めてんじゃないだろうな」
「そんなの当然じゃないですか」

 そう言ってひらっと八戒は手を振りかざした。そこには、いままでどこにしまってたんだ、お前はナポレ○ンズか!と思わず突っ込みたくなるかのような見事な手さばきで集められたカードが既に5枚、扇のように広げられていた。

「……」
「今年はさすがに雑魚はまずいだろうということで苦労しましたよ」
「………」
「八百鼡さんと独角さんはまともに正気を保ってましたからまだいいんですけれど、李厘さんはカプセルの中だし紅孩児さんはわけがわからなくなってるし、僕も命がけでもらってきたんです」
「……そこには5枚カードがあるようだが」
「最後の一枚はすごいですよー。でも、結構楽しんでもらえたみたいですけどね」
「…」
「もともとゲームがお好きな人みたいですからね」
「……おい」
「なんです」
「5人目ってお前まさか…」
「名前がないのは雑魚と一緒ですけどかなり有名な人ですよ。名前がないんじゃ不便ですから、本人が言うとおり『カミサマ』ということにしておきましょうか」
「……………………」

 これ以上まさかとかおいとか言いたくなくなった三蔵は、黙っておとなしくそのカードに文字を書きつけた。
 あの笑顔の八戒に迫られた4人+1人に、坊主らしく同情の念を抱きながら。

「ありがとうございます!三蔵、これで悟浄も大喜びですね」

 ……投げやりに渡された(それがせめてもの三蔵の抵抗だった)カードを嬉しそうに八戒は抱えて、三蔵に手を振りながら悟空のもとへと駆けていった。
 三蔵は、ぐったり疲れているまもなく、昨年と同じように心にもない言葉を書きつけた手をすごい勢いでごしごしと石鹸をつけていつまでも洗っていた。



「悟浄。誕生日おめでとうございます」

 にこやかに笑って八戒が見慣れない箱を持ち出したのは、11月9日に日付が変わった直後のことであった。

「…つーかお前、TPOってもんを考えろよ……」

 頭と釈杖を同時に抱えて悟浄は座り込んだ。
 時間だけで言うなら確かにたった今悟浄は誕生日を迎えたところなのだが、状況はといえば目の前のコスプレ野郎が忙しくえらそうに高笑いをしている最中であった。

「まあまあ、そんな硬いこといわずに、ここから先はゲームなんですから♪」
「……おい、ゲームって……」

 今年も律儀にお約束の反応を返してくれた悟浄をにっこり笑って振り向いて、八戒は、一通りのルール説明をした。

「まあとにかく悟浄、誰が書いたか当ててくださいよ。僕、結構頑張りましたよ」

 得意げに言って、八戒は、コスプレ野郎を全く無視して、悟浄に箱を突きつけた。

「ちょっと!ボクを無視しないでよ!!」
「何か言いました?」

 本人が名乗るところのカミサマに八戒がにっこり笑顔を向けると、さすが所詮コスプレのニセモノ三蔵様はう、といったきり、何も言えなくなってしまった。三蔵と悟空は、心のそこからつい今しがたまで敵だったその男に同情した。

「李厘さんや紅孩児さんも連れてきてもらうように頼んだんですけど、遅いですねえ…」

 唇に人差し指を当てて、八戒は西の方角を見やる。再び三蔵と悟空は、心のそこからとりあえず敵として認識している八百鼡と独角に同情した。こんなところに2人を連れてくることができるくらいだったら、ストーリーはとりあえずもっと簡単にすすむのではないだろうか。

「まあ、時間がもったいないですね。とりあえず悟浄、この箱の中からカードをひいてください」

 よからぬことがそのカードに書き付けられているだろう事くらいは悟浄にはわかる。わかるが、とにかく悟浄は、その箱の中から2枚、カードを引いた。

「「「「なんて書いてありますか?」んだ?」の?」」

 周りをぐるりと取り囲まれて、悟浄はそのカードをよく見てみた。

 右手のカードには「富士急ハイランドで」
 左手のカードには「カツオ1本釣り」

とかかれてあった。 

「じゃあ、どちらを当ててもいいですよ、悟浄、頑張って当ててくださいねvあたったらその人に好きなものをおごってもらえる&その人と「富士急ハイランド」で「カツオ一本釣り」ができますよ」
「……ますますそれってどこかの漫画のネタになかったか?」 
  
 相変わらずボソリとつぶやく三蔵など全く無視して、八戒はにこにこ笑って悟浄にせまった。悟浄はそのカードを持ったまましばらく硬直していたが、よく考えれば「鳴門海峡で」「焼きサンショウウオ一気食い」でなかっただけましだと自分を慰めることにした。とりあえず、頑張って答えを導き出さなければならない。

……長いことかかって、悟浄は、今年も唯一答えを知る男、八戒にその答えを耳打ちした。

「ああ、悟浄、それじゃあ…」
にっこり笑った八戒が告げた答えに、悲鳴が重なった。
…さて、おごったうえに富士急ハイランドでカツオ一本釣りをするはめになったのは一体誰だろう?





問1 次のA群とB群とC群の組み合わせで適当だと思うものを選び、それぞれ解答欄に記号で答えよ。(5点×8問、完答のみ100点)


A群 

ア 悟空  イ 三蔵  ウ 八戒  エ カミサマ  オ 八百鼡  カ 李厘  キ 独角  ク 紅孩児



B群 

a 富士急ハイランド
b 佐田岬
c 宮崎シーガイア(閉鎖中)
d 天国
e 吠登城
f 小山ゆうえんち
g 桜島
h 長江のほとり


C群

い 大そろばん大会
ろ こつこつと袋はり
は タイムマシン八連発
に いいコト
ほ 大掃除
へ 台所の椅子とテーブルを直してくれる
と ヒンズースクワット58回
ち カツオ1本釣り


  

 

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