おんがく会のお弁当

「いい天気ですね―v」

 両腕に抱えるようなお弁当箱を八戒の手からひったくって家を出たのは少し前だった。

 わけのわからぬうちにお弁当の匂いをまとわりつかせた八戒にたたき起こされて、悟浄は、今日が「約束の日」だったことを思い出した。
 
 なんだかわからないけれど、八戒は最近とても嬉しそうだった。
 ―――そう。あの約束をした日から。

 理由はとにかく、八戒が嬉しければ悟浄はめちゃくちゃ嬉しいから、悟浄としてもここ最近はなんだかとても嬉しい日々が続いていた。
 さらに今日は八戒の特製お弁当までついている。

 いつもいつもいつも八戒のご飯を食べているじゃないかといわれればそれはそのとおりなのだが、お弁当というものは大変非日常的で、悟浄もめったに食べられることがない。
 しかもものすごく大きな重箱を用意していた八戒は、きっとその重箱の中身を悟浄の好物で満たしてくれていることはまちがいがなかった。好物が入っているということよりもむしろ、八戒がそうやって悟浄の好物を作ってくれようとするそのことが悟浄にはとても嬉しかった。悲しいくらい、胸がなんだかきゅう、と締め付けられて、その碧の同居人をぎゅうと抱きしめたくなるのだ。

「悟浄、ちゃんと予定を空けておいてくれたんですね。ありがとうございます」

 そう言ってにっこり悟浄に笑う八戒の上にやわらかな小春日和がふりつもっていた。悟浄はまぶしくなってしまって、少し眉をしかめて、ああ、と返事を返した。…意識して予定を空けておいたわけではない、などという余計なことは胸ポケットにしまっておいて。

「それにしてもどこ行くんだ?」

 ライターを取り出して、くわえたハイライトに火をつけながら悟浄は八戒に向かって聞いた。
 八戒は、ジーンズのポケットから薄っぺらい大きな木の葉を取り出して、それを悟浄に見せた。

「…ここですよ。もうすぐ、門が見えてくるはずです」
「…しょうたい状…?」

 珍しそうにその木の葉をひっくり返したり日にすかしたりして悟浄は一生懸命ながめている。その様がおかしくて、八戒は少し笑った。

「そうですよ。僕たち、招待されたんです。……まあそれは、おまけである可能性はかなり高いんですけどね」

 そう言って八戒は、欅でできた学校の門らしきものを指し示した。

「……………………………………ナルホド」

 その指の先の物体に、悟浄は激しく脱力した。



 

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