□緑色□



「……剣士さんは…」
「ロビン」

 海楼石で出来た網の下でロビンがやっとのことで声を出す。勝ち誇った顔をした海軍に銃を突きつけられながらナミはすばやく辺りを見回した。

「…まだ、浮き上がってきてはないわ」
「……刀…」

 目だけ動かして、ロビンがそう言った。ウソップとナミは同時に顔を見合わせて、そして同時にぽんと手をうった。

「何してんだそこ!」

 パスカルの声が飛び、網の外から銃口をぎり、と押し付けた。ウソップは途端に腰を抜かして足を震えさせる。ナミは冷や汗を流しながらも挑戦的な目つきでパスカルを見上げた。

「生き延びる相談に決まってるじゃない」
「生き延びる?この状況でか」

 目を丸くしてパスカルは本気で呆れた声を出した。ヌールが面白そうにルフィを見下ろして言う。

「海賊はこの世に執着が多そうね」
「お前にだけは…殺されたくねぇな」
「寝言は寝てからどうぞ」

 にっこり笑ってヌールは短剣をスパンと横に払った。ルフィの赤い上着が切れ、胸から血を滴らせている。
 どっと哄笑が海軍から立ち上った。

 どれだけ笑われようと、何をされようとも、彼らはここで死ぬわけにはいかなかった。
 それぞれの目的を達成しないどころか、その夢への道から大きく外れたこんなところで、もたもたしているわけにはいかなかったのだ。

「ウソップ、あんたどうにかしてゾロの刀用意しといて」
「用意…ってお前どうするつもりだ?」

 哄笑に紛れてナミがウソップのほうを見ずに囁いた。腰を抜かしていたウソップはなんとかナミの方を見ずに答える。

「バカね、ゾロが帰ってきたときに刀投げてよこす役が必要でしょ」
「…なるほど!…っててめぇがやれよ!」
「か弱い女の子にそんなことさせる気!」

 ますます声をひそめてナミが言う。動くこともままならないロビンとチョッパーもその声に耳をそばだてていた。一人大役をまかされたウソップが思わずナミに突っ込む。

「……か弱い女の子がどこにいるってんだ」

 目をそらして低い声でウソップはつぶやいたが、その言葉は完全に黙殺されていた。ナミが少しだけウソップのほうへ身体を動かして言う。

「冗談は置いといて。あんたの方が刀に近いでしょ。どうにかして準備して。私はあんたの作ってくれたこの天候棒でどうにか状況を変えてみるわ」

 確かにウソップが足を伸ばせば何とか刀1本には届きそうだ。いつもゾロが口に銜えている白い刀がそこにある。
 何かいい方法はないものかとウソップは必死で考えた。確かにこの状況を打破できるのはゾロだけだ。

 海楼石で動きを封じられない、この船の化け物のうちの一人。

 しかしそれも、とにかくゾロがサンジを抱えてこの海面に浮かび上がってきてからの話だ。
 ゾロが潜ってからやたら時間が経っている。常人ならとうに溺れていておかしくないほどの時間だ。ゾロが常人離れしているのはよくわかっているが、しかしゾロは意識のない重症のサンジを連れているのだ。






 まいった。
 とにかく空気が足りない。

 ゾロはもうほとんど目もかすんで見えなくなっていた。暗い海底へと二人を引きずり込んでいく重い鉄の錘に逆らい、意識のない金色の髪のコックを必死の思いで引きずりあげる。

 少し、サンジが身じろぎをしたような気がゾロにはした。


 ……無事に連れて帰らないといけない。
 腕の中のあたたかい身体がまたキッチンでフライパンを振るってくれる為に。

 その金色の髪を見やってゾロはなんだか元気が出てきたような気がして、力をこめて水をかき、上を向いた。



 ゴーイングメリー号の船底と、大きな海軍の船の船底。そして明るく煌く水面が、ゾロの目に飛び込んできた。






「なんであんたはそんなに海賊が憎いのよ」

 ナミがヌールに向かって言う。ウソップがやっていることを気取られないためには何か騒いでおくことが必要なのだ。

「話してあげてもいいけど…でも私がなんで海賊を憎むかは私にしかわからないわ」
「ごもっとも。だけどね、大切な人を海賊に殺されたとか言わないでよね」
「そういうことならその理由にしてあげたっていいけど」

 豊かな胸の下で腕を組みヌールはナミから見て逆行の位置で唇の両端をあげて笑った。

「人間というのは平等に人間としての権利を持っているはずだわ」

 ヌールは歌うような口調で一歩ナミに踏み出して言った。

「それを認められない人間がどれほど惨めな思いをするかはあなたにはわからないでしょうね」
「ちっともわからないわ」

 ナミはヌールをものすごい勢いで睨みつけた。ひらりとまるで演劇をしているかのようにヌールがその身を翻す。

「まあ理由なんてどうでもいいの。小さな頃のトラウマがあるとか大切な人を殺された復讐だとかそういうのはそれを乗り越えた人間にとって笑い話でしかないんですもの。自分の卑小さを他人に宣伝して回るのは私は好きではないわ」
「…ご立派な心がけね」

 ナミの額から汗が一筋流れた。ヌールはナミを見やってそして足元にへばっているルフィを見下ろした。海楼石の網の下ではロビンとチョッパーが動けずにいる。

「ほめてくれてありがとう。でもそれにしても海賊の生き残り根性も見上げたものね。……さっきからそこで何をたくらんでいるのかしら」

 冷たい視線がウソップに突き刺さりウソップは思わずひぃっと声をあげてびくついた。
 そしてその拍子にゾロの刀が空中に舞う。

「刀で切れるものじゃないわ。その網は。海楼石と鉄をより合わせて作っているのよ」


 ざばぁっ


「…な、なんだ!」
「何者だ!」

 くるくると回転しながら落ちてくる和同一文字をゾロは左手で受け取った。さやを払い、一瞬のうちに4人を捕らえていた網を切り刻む。

「……ゾロ……!!!」

 ウソップが心の底から安堵した声を出す。そして次の瞬間あわててロビンとチョッパーの上にかぶさっていた網の残骸を払いのけた。

「チョッパー!クソコックを頼んだぞ!」
「サンジ…!サンジ生きてるのか!!」
「勿論だ、後はお前に任せた」
 大きく音を立てて息を吸い込んだかと思うとゾロは残りの刀を拾いに走る。同時にチョッパーの隣にどさりとサンジが落ちてきた。チョッパーがあわててサンジの上着を脱がし、呼吸と脈を確かめる。それらは弱々しかったしいつ停まってもおかしくないような状況ではあったが、確かにサンジは生きていた。

「何をしてるの!」

 呆けにとられていた海軍にヌールの叱咤が飛ぶ。ようやく彼らは目の前で起こっていたことが何かを理解しようと頭を動かし始めた。

「ロロノア・ゾロだ!刀を渡すな!!撃て!」

 現状把握をいち早く済ませたパスカルの声が飛ぶ。あわてて海軍がゾロに向かって発砲した。
 あと僅かのところで刀を取りそこなったゾロがごろごろと床を激しく転がり銃弾を避ける。
 その間に忌々しげにヌールは海楼石を突きつけたルフィの胸倉を掴みあげ、銀色の短剣でその喉元をかききろうとした。

「サンダーボルトテンポ!!!」

 そのナミの掛け声と共に小さくはあるがが鋭い雷がヌールを襲った。ヌールとの会話中、ウソップから注意をそらせつつもナミは影で天候棒を操作していたのだ。

「何!」
「ナミ!ありがとな!!」

 雷を避けようとして避けきれずヌールは持っていた剣とそのさやを取り落とす。すなわちルフィを押さえつけていた海楼石が取り除かれたわけだ。

「麦わらだ……!」
「麦わらが自由になったぞ…!!」

 海軍の間に動揺が走った。構えていた銃を降ろしてぽかんと口を開けてその様子を見ている。ゾロはその隙を突き、雪走と三代鬼鉄を手にした。

「ゾローーーっよくやったぞーーー!」

 両腕をぐるんぐるん振り回してからルフィがゾロに向かって親指を立てた。ゾロはそれを見て唇の片端だけあげて笑って返す。そしてその半瞬後にがらりと表情を変えるときっとルフィを見据えて言った。

「ルフィ。その女は俺によこせ」
「いやだ、こいつ、サンジに酷いことしやがった」
「だからよこせっつってんだろ」

 ゾロの目がいっそう険しく光った。とっくに抜かれている刀からゾロの怒りのオーラが立ち上っているかと見まごう程鬼気せまるものがあった。
 ルフィはそのゾロの目を真正面から受けとめた。

「…馬鹿にしてくれるわ。二人がかりでも私に勝てるわけない…」

 雷を食らったダメージから立ち上がり、少しこげた唇の端をぬぐおうとしたヌールはその台詞を言い終わることが出来なかった。

「…二人がかりでも、なんだって?ああ?」

 ゾロの雪走がヌールの喉元に突きつけられ、そしてそのまま喉を貫こうとした切っ先をバランスを崩しながら彼女は避けた。









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2003年12月26日



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