□風にも雪にも負けることない針葉樹林のような緑□



「ガードポイント!!」

 ナミとウソップがロビンの手を引っ張り、ランブルボールを噛み砕いたチョッパーの後ろに飛び込んだ。
 直後、銃弾がチョッパーを襲ったが、その分厚い体毛に阻まれたそれらはぼとぼととゴーイングメリー号の甲板に落下した。

「ゾオン系…!」
「まだ悪魔の実の能力者がいたのか?!」

 絶対的勝利者であったはずのヌールの海軍から動揺が立ち上る。血まみれになって甲板に倒れ伏すはずだった目の前の海賊は、誰一人としてうずくまりもしていなかった。

「何をうろたえている!第2射用意!!」

 パスカルの鋭い声が飛び、半瞬で自失から立ち直った海軍は慌てて銃口を麦わら海賊団に向ける。しかし、その見事なまでの統制は、直後に発せられた悲鳴寸前の仲間の声によって動揺を隠せずにはいられなくなってしまった。

「投石器はどうした!悪魔の実の能力者など海の前では凡人以下だぞ!!」
「…!それが…投石器が……!」

 支点と力点をがんじがらめに絡めとられた投石器を前にして絶望的な表情で海軍の兵士がへたりこむ。

「ハナハナの実の能力…!」
「ロビン!!」

 ナミがものすごい勢いで振り返りながらロビンの名を呼ぶ。まだ海水をその黒髪からぽたりと滴らせながら、その手を投石器に幾重にも咲かせ、ロビンは鋭い視線をルフィに向けた。
「怯むな!2射目、撃て―――――っ!」
「まかせろ!ゴムゴムのぉーーーーーーーー風船っ」

 ロビンの視線の意味がわかったのかわかってないのかとにかくルフィは銃弾の前に立ちはだかりその身体を風船のように膨らませた。体積を稼いで銃弾から彼のクルーを守り通す。

「サンジくんが………!!」
「サンジが海に…!」

 敵が投石器を使えない、つまりルフィとロビンが思う存分戦うことが出来る、という状態を確認するや否や、ナミとチョッパーが同時に深い藍色をたたえた海を覗き込んだ。

「そこの色黒女!」

 ルフィがメリーの船首に勢いよく上り、右手の人差し指をヌールに突きつけた。

「てめーは絶対許さねぇっ!!!」

 ヌールしか眼中にないルフィに抗議の声を上げかけたウソップが、ロビンに制された。投石器にその手を咲かせながら、ロビンは冷静にその場にいない人物の名を口にした。






 スローモーションを見ているかのように、一つ一つの動きがゾロにははっきりと見えた。

 パスカルが右手を振り下ろしたその瞬間に、よく訓練されたその軍隊は、銃の引き金を引いた。
 ズドン、とかガゥン、とかとにかくそういう火薬が爆発し、鉄の弾をはじき出す音がして、発射した力と同じ力が反作用の方向に銃身を押し上げる。
 女海軍は満足した笑みを浮かべ、右手に握っていたコックの首につながっていた縄をするりと解いた。

 支えを失った金色の頭が前にぐらりと傾き、危ない均衡を保ってそこに置かれていた、足にがっちりと太い鎖で固定されていた黒い鉄の塊もぐらりと動き出した。

 球形のそれはごろりと転がり、板の端にきて支えを失った途端、地球の重力に従って、ものすごい勢いで落下し始めた。

 そして当然、その塊に固定されたサンジの足が、身体が、後ろ手に縛られた手が、意識を取り戻さないままの金色の頭が、深い深い海に向かって落下していく。

 派手な水しぶきを上げて、サンジの姿は水中に沈み、急速に海の底へ向けて引きずり込まれていった――――――




 包囲を受けていた海軍から飛んできた銃弾がどうなったかなどということは全くゾロの意識には干渉しなかった。
 ゾロを狙っていた銃弾が右腕を抉り取ったり頭髪を掠め取ったりしていたようだがそんなことはゾロに全く知覚されはしなかった。

 金色の頭が海に沈むのと同時にゾロはその後を追ってゴーイングメリー号から藍色の水をたたえた海へと飛び込んだ。だから、ゾロは、ヌールの表情が次の瞬間失望にゆがんでいたことを知らなかったし、パスカルが真っ青になって虚しい反撃を試みようとしたことも知るわけはなかった。


 そんなことはどうでもよかった。
 なにもかもがゾロにとってはどうでもよかった。

 目の前で沈んでいった金色の髪の持ち主を生きたまま引っ張り上げること。

 それ以外のことを考えるだけの心の余裕も隙間もゾロには全くなかった。


 ゾロはどんどん潜っていった。あんな大きな鉄の塊がついているのだから、あの金髪のコックは沈みこそすれ浮かんでくることなど決してありえない。
 どうしてこんなに海の底というのは深いのかとどうしようもないことをゾロは思った。

 潜れば潜るほど日の光が届かなくなる。
 徐々に漆黒へと塗りつぶされていく視界に、ゾロは負けるわけにはいかなかった。


 もう一度、生きて、あのコックに会いたい、と強くゾロは思った。


 ごぼっと言う音がして、ゾロは自分が空気を吐いたことに気が付いた。随分深く潜ったらしい。水圧で耳がおかしくなりかかっている。

 名前を呼んで探すことが出来ないもどかしさが、更にゾロの両手を激しく動かした。思い切り力いっぱい水をかいた拍子に、ゾロは再びごぼごぼっと息を吐いた。
 
 どうして自分は水中で呼吸が出来ないのだろうとゾロは思った。
 
 そんなのは魚人にでもならない限り当然無理なことなだし、水中で呼吸が出来なくても世界一の大剣豪になるために何ら問題はない。
 しかし、ゾロは、息が苦しくなっている今の自分がとても情けなく思った。

 先ほどまで間違いなくあのクソコックは生きていた。
 意識を失っていたとはいえ、あれだけの拷問に耐えぬき、あの男は生きていたのだ。

 自分ひとりの理論で、自分を犠牲にして仲間を残忍な海軍の手から逃し――――

 あのコックは何もわかってはいないのだ。
 自分を犠牲にするということがどれだけ相手を傷つけるのかということを。
 どれだけ相手を絶望のどん底へと叩き込むかということを。


 考えれば考えるほどゾロは腹が立ってきた。
 
 とにかく、それを、あのコックにはわからせないといけない。
 わからせるためには海の底へ沈んでいったあの金色の髪を海の外へと引きずり出さなければならない。

 サンジは人間で、おまけに気を失っている。水中で呼吸が出来るわけもなく、いくら拷問に耐えぬいたからといって、両手両足を拘束されて更にクソ重たい鉄の塊までつけられて奇跡的に浮き上がってきましたなどということは決して起こらない。起こるわけがないから、ゾロはあのコックを引きずり上げに行かなければならないのだ。







「許さないですって?」

 くすくすと笑いながらヌールは豊かな胸の下に組んでいた手を口元に移し、正義コートを風に翻して言った。

「よく言うわ。私に勝てるとでも思っているの?」
「勝てる!」

 きっぱりと言い切って、ルフィは右腕をぱきりと鳴らした。

「ルフィ!」
「雑魚はまかせて」
「援護は任せろっ!」
「……援護はいいってば」

 銃口に包囲されている海賊とは思えない態度で彼らはヌール海軍に対峙した。パスカルはそれでも動揺の走る仲間を叱咤して、3射目を発射しようとした。
 しかし、まさにその瞬間、投石器の支点を支えていた閂状の棒を抜き取ったロビンが、次々と海軍の銃を叩き落していく。
 ナミは天候棒で雷を呼び出した。

「…サンジさえ助かりゃこっちのもんだ。もう遠慮しねぇぞ」
「…あきれた、あのコックさんが助かるとでも思ってるの?」

 本当に呆れたという顔をしてヌールはルフィを見やった。そんなヌールの視線をまっすぐに受けとめてルフィは不敵に笑った。

「当たり前だろ、ゾロが助けにいったんだ。お前が縄離したってことはサンジは助かったってことなんだからよ」










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2003年11月20日



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