□みどり頭□



「…それでどうするつもりだ!どうやってサンジ連れ戻すんだよ」

 ウソップが必要以上にやたらと大きな声でルフィの胸倉を掴みゆさゆさと揺さぶりながら叫ぶ。

「どうにかなるだろそんなの、どうにかするのがうちの航海士だ」

 黒く強い瞳でルフィはナミを見る。先ほどからナミはどうしたらあの島に帰ることができるかというただそれだけを考えつづけていた。

「…なあ、この島にきたエターナルポースを逆にたどるってできないのか?」

 ゾロにしては頭をフル回転して考えたであろう結論に、一瞬チョッパーの目がキラキラと光った。が、すぐにそのひかりは失われ、うなだれてチョッパーが口を開く。

「ゾロ、そのエターナルポースの針の先は、必ずこの島を指してるんだ。『たとえどこの島から出発しようとも』な」
「……つまり、エターナルポースの針の後ろはありとあらゆる島の方向を向く可能性があるんだな」
「だからサンジくんはちゃんと2つエターナルポースをよこしたのよ。私たちをうまく騙せると思ってね」

 それでもサンジをほおっておくわけには行かない。あのわからずやを取り戻してぶん殴ってそして飯を作らせなければならない、とゾロは強く思った。
 金色の髪のコックの存在が麦わら海賊団にとってどれだけ大きなものなのかその身をもって実証させてやらないと気がすまない、とゾロは更に強く思った。

「航海士さん、船の追走はできる?」

 先ほどから黙って沖を注視しつづけていたロビンがナミを振り返り言った。

「ロビン?」
「…どうやらヌール船団はあの島に向かうところらしいわ。だとしたら、あの商船を追っていけば…」

 能力の限りを尽くしてロビンはあの船の行く先を追っていたようだ。おそらくは麦わら一味であるところの自分達を探しているあの船の行き先の確証は、そのエターナルポースであった。

「…わかったわ。それしか方法はないようね」

 顔色は悪いままだがナミは笑って手に持っていたエターナルポースをぽんと後ろにほおり投げた。

「ナミ!どうにかなるのか?」
「どうにかするのよ!ウソップ、あんたは海賊旗をしまって!」
「何ー――っっ!」

 ウソップが不安な声をナミに向かってかける。ナミは完全に据わった目で波の彼方にかすかに見えるヌール船団の動きを逃すまいと必死になりながらも、必要な指示をどんどん出していく。
 しかし、ウソップはそのナミの指示にびっくり仰天した。

「…へたに騒ぎは起こせないわ。ロビンの言う通りだとするとサンジくん助ける前にこっちが全滅よ」
「でも海賊旗は誇りだぞ…!」

 チョッパーが四本の足で立ちながら、ナミを上目遣いで見て遠慮がちにだがきっぱりという。

「その誇りとサンジとどっちが大切なんだ。我慢しろ」
 今まで黙ってやり取りを聞いていたルフィがぎり、と歯をかみ締めて言った。ゾロは黙ってでかオールを既に肩に担いで持ち出してきている。
 
 あのアホは、殴ってでも言うこと聞かせないと気がすまない、とゾロは思った。
 その行為がどれほど自分を傷つけたかを、言って聞かせてやらない限り絶対許せない、とゾロは思った。

 あの夜、何か言いかけた金色の髪のコックを気にもとめず、引っかかることがあっても無視して、あと数日でいつもと同じ日常が戻ってくることを疑っていなかった自分の油断っぷりに情けなくて涙がでそうになる。

 だから

 だから、絶対あのアホエロコックを生きたまま取り戻さなければならない、と強くゾロは思った。

 生きたまま。





「血が足りなくなると身体って不思議と重くなるのよね」
「どっかのスペースオペラのぱくりか?その台詞」
 
 どくりどくりと心臓の鼓動にあわせて血が流れ落ちていく。サンジの足を覆っていたズボンは既に血をふんだんに吸い込んだボロ布と化していた。

「見たものが見えなくなる」

 美しい手をサンジの目の高さまで持ち上げてヌールは何かを読み上げているかのような朗々とした調子で言った。

「聞きたいものが聞こえなくなる」

 その手がひどく優しくサンジの耳にふわっと触れた。

「それが死に至る過程」

 す、と手を引いて3歩後ろに下がり、ヌールはマントで口元を覆って言った。

「……でもまだ口がきけるようね。あきれた強さだわ」
「俺はうたれづよいことには人一倍自信があるって言ってるだろ」

 かすむ視界を少しでもはっきりさせようとぎゅっと目を瞑り、2,3度頭を振ってサンジは言う。

「じゃあ口がきける間に教えて頂戴。……どうして麦わら一味を逃がしたの?」





「……なんてことだ。ヌール様の計算は完璧なはずだったのに…!」
「パスカルからの連絡によると、どうも麦わら一味の中に一人ヌール様を海軍だと見破った奴がいて、そいつが他のクルーを逃がしてしまったという寸法だ」
「他のクルーはどこに行ったんだ?そいつらみつけて殺した方が早いぞ」
「バカ言え、どうやってヌール様とパスカルだけであのクソごちゃごちゃした島から情報を集めるんだよ。人質を逃がさなかったことだけで充分だ」
「人質?殺しちまえばいいだろ海賊なんて」
「まあ殺すのはいつでもできるけどな。ヌール様はきっともっとすごいことを考えていらっしゃるだろうよ」
「その人質を利用してクルーをおびき出す…というのは当然だとしても」
「あのお方は海賊を異常なまでに嫌っているからな。どんな手段をとってもおかしくはない」
「……まあ、それは俺たちもそうなんだろうが」
「……とにかく急ごう!ヌール様に一刻も早く合流しなくては!」




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がんばれサンジ。
 感想なんかいただけると嬉しくて喜びの阿波踊りを踊っちゃいます。もしよろしければ掲示板とかメールとかに…

2003年9月15日



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