□絵筆□




「島が見えたぞ―――!!」

 見張り台から双眼鏡を手にして水平線を眺めていた狙撃手の声が降ってきた。
 直後にカモメがクー、と鳴く、まったくもって穏やかなグランドラインの昼下がりである。

「ウソップ―――!どんな島だーーーーっ!」

 尻尾がついていたら振りちぎらんばかりの勢いだろうこの船の船長がワクワクした声で聞く。今にもそのゴムの両腕を伸ばして見張り台の上まで文字通り飛んで行きそうだ。
 キッチンから顔を出して、サンジも水平線を眺めてみた。まだこの高さからは陸地が確認できないが、久々の土の上だ。新鮮な食材を仕入れてきて、そして久しぶりに生野菜のサラダとかフレッシュフルーツシェーキとかビタミンCたっぷりのお食事をこの船のレディのために作って差し上げよう、とうきうきする。
 勿論食料が底をついていると言うことはないし、今の食事だって栄養バランスをちゃんと考えて作っているから、玉のお肌に何か出る、というようなことは決して起こらない。

 だがやはり取れたての野菜の味は格別だ。今とってきました、という胡瓜の切り口から滴り落ちる水滴は、乾いた喉にすうっと染みとおり、そしてとても甘いのだ。

「…で、今度の買出しは誰だ」

 昼寝をしていた後部甲板からいつの間にかゾロがキッチンまで上がってきていた。空気は穏やかでも太陽光線は強烈な昼に無防備に昼寝をしていたため、当然皮膚の露出面が真っ赤になっている。

「……西瓜も買わなきゃなんなくなったからなー」

 そのゾロの痛々しい日焼けを見て、サンジは嫌そうに眉をしかめて顎に手を当てた。

「ていうかサンジくん。いいこと。しばらく買出しは3人で行くように」

 甲板のパラソルの下からナミがちらりとキッチンを見やって言った。手首のログポースはゆらゆらと小刻みにゆれ、真っ直ぐにウソップとルフィが見ている方角をむいている。



 ゾロは隣に立つ金色の髪を持つコックをちらりとみやった。
 この間立ち寄った島でとんでもない大怪我を負ったとはとても思えないくらいの回復力だ。化け物並だ。たったの1週間も安静にしていることができなかったこのコックは、チョッパーが止めるのも全く聞かず、出航から3日目―――すなわち、あの夜から2日目―――にはキッチンに立っていた。あの夜、あんなことにならなければきっと出航から2日でキッチンに復帰していたに違いないこの男のコックという仕事に対する執念をゾロは大したものだと思った。
 そして勿論そう思っていることなど口に出すことはない。

 自分が、このコックに「戦闘お疲れ様大したもんだ」などと言われた日にはなんと言葉を返したらよいかゾロにはわからない。当然のことをした、という感慨しかゾロには浮かんでこない。

 だから、ゾロは、きっとこのコックもそうなのだろう、と思っていた。当然のことをした結果に対して、ゾロに大仰に誉められることなど、決して望んではいないのだろうと。




「ナミすゎーん、そんなー、大丈夫ですよ俺一人で…」
「確かにログは3日で貯まるし、次の航海は1日くらいだ、って言ったけどね」

 大きくため息をついて、ガタンと音をたてて椅子から立ち上がったナミは、人差し指をサンジに突きつけて一気にまくし立てた。

「もう私はこれっぽっちもごはん作る気は絶対無いの!ルフィが冷蔵庫荒らすのを見張るのも疲れたし無邪気な顔してチョッパーが盗み食いするのを張り飛ばすのも飽きたの!!ウソップが魚を釣るのを待ってたら100万年かかるし生ゴミも大っ嫌い。それにそこのゾロのアホの日焼けのためにも西瓜も買ってこなくちゃならないしとにかくサンジくんは2人見繕って買い出しに行ってくること!そうじゃなかったらお金渡さないからね!!」
「お、怒ってるナミさんもステキだ―」

 背中に何かどす黒いものを背負ってまくし立てるナミにサンジは両手を突き出してそれを振りながら引きつった笑顔を作って言った。
 ごはんを作りたくない、というのは全くの真実だろうけれど、勿論、ナミの台詞の真意がわからないサンジではない。
 この間の島と同じようなことが起こるのがナミにとっては許せないのだろうと。ボロ雑巾のようになったサンジなど二度と見たくないのだろうという程度には自惚れてもいいような気がする。
 あのオレンジの髪の航海士は、自分を助けるために誰かが傷付くのが一番嫌なのだということを改めてサンジは肝に銘じることにした。

「そーゆーわけでゾロ!ウソップ!あんたたち買出し部隊ね!」
「俺かよ!」

 ゾロは軽くため息をついただけで無言でそれを受け入れたのに対し、ウソップは口角を魚類の口のように下げながらつい反論した。

「…ナニ、ウソップ。何か私の言葉に都合の悪いことでも?」
「…いえ、なななんでもありません。けど…」
「けど、ナニ?」

 足を波打たせながら真っ青になってウソップは答えた。が、逆説の接続詞をつい続けてしまったために、ナミは右手を腰にあて、左手の人差し指をウソップの鼻先に突きつけてにっこり笑って続きを促した。ウソップはガタガタ震えて変な汗をいっぱいかいていたがしばらくして開き直ったらしい。両手を腰に当てて胸を反らせてどーんと言った。

「だってあの島チョークアイランドだぜ。芸術を志す者にとってあの島は聖域といっていい島だ!」


……
………

「誰が芸術を志してんだよ」
「ゲージュツってなんだ?」
「あーあ、じゃあロクな食い物なさそうだな」

 おざなりな反応がウソップに残されて、それまでそこで議論していたナミもゾロもサンジもそれぞれやりかけの仕事に戻る。一人ウソップに向かって「ゲージュツって何だ?」と繰り返しているチョッパーに、ウソップは「俺のことを理解してくれるのはお前だけだ!」と右腕で涙をぬぐってどっかりと座り込み、彼の言うところの「ゲージュツ論」について熱く語るのだった。




「ルフィ!不用意なことして変なの連れて帰ってくるんじゃないわよ」
「わかってる!」

 絶対にわかってないだろう船長にそれでも一応させる釘はさしておこうとナミは島のはずれの岩場に着岸した途端飛び出していった船長の背中に向かってそう言った。

「アイツは…」
「まあ、ルフィらしいんじゃないの」

 前の島で飛び出していったきり帰ってこなかったルフィの留守中にとんでもないことが起こってしまったことから少しは衝動を自粛するのではないかと考えていたゾロは、そんなことを気にする船長ではなかったということをきっぱりと思い出した。
 隣ではロビンが、人差し指を唇に当て、くすくすと笑っている。

「航海士さん、私は今度は船番だったわね」
「うん、ロビン、チョッパー、ちゃんと留守番お願いね」
「ナミはどこへ行くんだ?」
「ナ・イ・ショv」

 また山のように服を抱えて帰ってくるだろう事はゾロやサンジやウソップには想像に難くないが、チョッパーもロビンもその現場をまだ見たことがないため顔を見合わせて同時に首を同じ方向に傾けた。




「ちょっと!そこのおにーさん」

 島のメインストリートを両手をポケットに突っ込んで歩いているルフィに向かって声がかけられた。
 メインストリートはかなり広い。ルフィが15ゴムゴムくらい手を伸ばしても大丈夫な広さの道の両脇には様々な露店が軒を連ねていた。
 わらぶきの簡単な屋根だけあって、道にそのまま商品を並べている店もあれば、立派な布張りのテントをどんと構えている店もある。
 ルフィは食べ物屋を探していたのでかけられた声に興味はなかった。

「ちょっと待て!」

 無視してすたすたと遠ざかるルフィに向かって慌てたような声が再度かけられた。しかし、食べ物を扱う店が全然ないこの近辺にルフィの足を留めておくことができるわけはない。

「待てといってるだろそこの麦藁帽子のにーちゃんよぉ」

 黒い布を頭に巻きつけた背の高い男が三人、ルフィの周りを取り巻いた。
 面倒くさそうに立ち止まったルフィはその中で一番背の高い男を見上げてみた。

 強い日差しの中、日に焼けた肌と真っ白の歯が対照的なその男はにっと笑ってルフィの肩に両手を置いた。

「悪いことはいわねーからさ、ちょっとそこの店に寄って行ってくれよ。今なら出血大サービス中だぜ」




□□□□□

 私の書きたいものってなんだろう、って思ったときに、やっぱり冒険物が書きたいなーという結論に達したわけです。
 少しでもその私の理想に近づけるようにがんばっていこうと思います。そして、ゾロとサンジも少しずつ少しずつ、特別な何かがわかってくるといいなあなんて思っています。

 感想なんかいただけると嬉しくて喜びの阿波踊りを踊っちゃいます。もしよろしければ掲示板とかメールとかに…



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