「そう。いい子だね」
だからそう言ってルーザーがにっこりと笑った時、高松は思わず涙をこぼしていた。
そんな涙を楽しげに舐め取って、ルーザーは教え子の下半身へと指をすべらせる。
ベルトが外され、ボタンが開かれるをの感じた。胸の鼓動は張り裂けそうに高まったが、
自分の欲望がさらけ出されることは怖かった。すがり付きたいのに、やはり手は動かせない。
腕を抜いてみることは考えたけれど、さっきたしなめるように言われた
たった一言の静止を命じる言葉がまだ頭の中にあって、出来なかった。
そんな彼は不自由な体で精一杯悶えることで、自分の気持ちを残酷な教師に伝えようとする。
「焦る子は嫌いだよ」
ルーザーは淡々とそう言った。
思わず体を凍らせる高松の、ズボンのファスナーを開いて腰回りへと手を入れる。
脱げと言っているのだと分かって、彼は腰を浮かせた。
ルーザーの両手が猛々しく動いて、下着ごとそれをはぎ取っていく。
腰から股、膝から下肢へと衣服が落とされて、最後には足からも抜き取られた。
むき出しになった下半身に、机の冷たい感触が当たる。
酷く心細かったが、一方で期待はいよいよ高まって、体をよじることが止められない。
「大人しくしなさい」
そう言われて性器を掴まれた。
「あ、ぅっん」
ビクンと体を震わせると、また朗らかに笑われる。
普通なら自信を喪失するような状況だったが、高松は元々この人に対して
自分に価値があるなどという妄想は持ってはいなかったので、
その笑い声はただ相手が満足していることを伝えてくる、嬉しい音だった。
「ルーザー様」
高松は陶然と呟いた。
「なんだい?」
目をつぶっていると衣擦れの音がする。
まだ腕にからみついたままのシャツは、ほどくことを許されていない。
だからその音は、敬愛する人が身にまとった最後の一枚を脱ぐ音に違いなく、
幸福で心臓が破れそうで、だけど確認するには怖くて、ずっと目をつぶっていた。
「私はずっとあなたを見ていました」
「知っているよ」
太股に手の感触がした。
「あなたのことがずっと好きでした」
「みんなそう言うね」
探るように足全体を一度撫でられて、持ち上げられる。
腰が浮く感覚に思わず不自由な手をそよがせて、背後のガラス戸に指紋を付けた。
「これからもずっとあなたにお仕えします」
「沢山の努力が必要だろうな」
指が滑ってきて、そこを探る。軽く突き入れられる感触に、身を震わせた。
「なんでもしますから……ッ」
言葉を遮るように、さっきまで指が当たっていた場所に別のものがあてがわれる。
指よりもずっと太い感覚に体がすくむ。
「なんでもするんだろう?」
「は、い……」
高松は歯を食いしばって、懸命に下半身から力を抜こうとした。
「あッ……。うぅ……く…」
きりきりとねじ込まれる感覚に歯を食いしばる。微かに目を開けると、ルーザーと視線があった。
こんな時でもこの人は、静かな眼差しでじっと実験動物を見つめている――。
そう思うと、なぜか少し気が楽になる。
「……ぅん、………なっ…ぁッ…」
高松は途切れ途切れの悲鳴を上げながら、
ゆっくりと恋い焦がれた人のものを飲み込んでいった。
それは決して甘いものではなく、むしろ痛みしか感じない世界だったが、
それでも今自分がしていることを考えると、確かにこれは天にも昇る心地というものだった。
一糸まとわぬ姿のルーザー。その前に開かれ捧げられている自分。
そして貫かれつながっている部分。
「あ、ぅ、っ……く」
ルーザーの腰の動きが止まる。けれどまだ終わりではない。半分も来てはいない。
そのことはひどく幸福だった。痛みと幸せはとても近い所にあることを、全身で感じる。
「………ん、……あ…あぁっ」
もっと、もっとと、気付かぬうちに繰り返していた。
まだ痛い、ずっと痛いからこそもっと続けて欲しいと願う。
ルーザーの息づかいが聞こえる。それは荒くはなっていたけれど、乱れてはいなかった。
腰が掴まれ打ち付けられる。小刻みな往復運動。
「あああああっ」
身をよじって悶えた。また少し瞳を開く。ルーザーは笑っていた。
笑いながら彼はより動きを増し、高松を追い詰めていく。
「…………ああぅ…んッ。……はぁっ、………あああッ」
とうとう耐えきれなくなって意識を放つのを待っていたかのように、
中にも熱いものが溢れ出してきた。
「さっき言ったことを覚えているかな」
手慣れた様子で後始末をしたルーザーは衣服を身につけてから、
服は着たものの、魂の奥底までさらけ出された感覚に打ちのめされている高松に問うた。
「はい。……あの、ずっとあなたにお仕えしますと」
「今でもそう思っているかい?」
最後に白衣に袖を通し、何事もなかったかのように立つ若き天才は、
今日の実験結果を確認するかのような口調だった。
「もちろんです」
高松は最後の意志を振り絞って、きっぱりと答える。
まだ体の芯が痛かったが、その痛みこそが幸福だった。
「そう」
ルーザーはあっさりとうなずく。こんなことにはもう慣れきっているという様子で。
胸が痛んだ。こちらの痛みは幸せを伴ってはいなかった。
「じゃあもっと努力をしなさい」
甘えや余韻など許さない厳しい声であり、体を貫くような甘美な響きでもあった。
高松はいつものように去っていく人の背中をじっと見つめていた。
いつものように心は熱くなる。
しかし溶けきってしまわないのは、すでに先ほど溶かされたからだろう。
そこにあったのは想像していたよりもずっと過酷で、狂おしいほどに心を縛る何かだった。
彼はひたすらに愛する人の背中を見つめる。今までにはなかった雄の瞳で。
ようやく始まったのだと思う。最高の望みを果たしてようやくスタート地点に立った。
その先は遥か遠く、果てがあるかすら定かではない。
けれど歩いていくつもりだった。あの人の背中を追って。
彼はまだ、歩いていけると信じていた。
2004.8.10
|