「ススムくん……。やっぱり、僕のこと、猫かなんかだと思っているでしょ……」
喘ぎながら山崎の体の上に体重をあずけて、首筋に息を吐きかけた。
「さっきソージが自分で言ったことだろう」
憎たらしいほどに静かな声だったが、目の前で動く喉がいつもよりかすかに早く、
また呼吸も確かに乱れていることに気が付いて、沖田は口元を歪めた。
「そんなこと、言ってないってば」
ぐっと体を上に引き上げ、小憎らしい口を口で塞ぐ。舌を差し入れ乱暴にかき回しながら
唾液を流し込むと、山崎はゆっくりとそれを飲み干していった。
「僕が言ったのは、可愛いかどうかってこと」
一旦口を離して、それでもまだ指の節一つと離れていない距離で、そう言い聞かせる。
「ススムくんは動物じゃないと可愛がれないの?」
答えるのに困っているかのように閉じたままの口の端を、親指で軽くつねった。
「……」
山崎が口を開こうとするのを見て、今度は逆に人差し指を唇に押し当ててふさぐ。
「言わなくていいよ。どうでもいいから」
そういって沖田は彼本来の目を開けた顔で笑い、また軽くキスをしてから、ゆっくりと後ろに下がる。
「そろそろ挿れるよ。いいでしょ?」
返事は聞かずに山崎の足を割り、布団の上に一度降りてから
従順に腰を浮かせる彼の両足を持ち上げた。
「重いなあ」と聞こえよがしに呟くと、山崎はまた黙って腰を自ら持ち上げる。
愛していないくせに優しい。それがまた、憎らしい。
「……んっ」
沖田は切っ先で二三度彼を突くと、あとは一気に突き上げた。
「……、…っ」
山崎はハッと声にならない息を吐く。
沖田はその長い首が仰け反るのを見ながら、また突き上げた。
「…………っ、……っ」
声にはならずとも、確実に吐息は山崎の喉から送り出されている。
そして同時に下の口がすぼまり、またわずかに開く。
目を閉じて眉を寄せたその顔を見つめながら、この滅多に表情を映さない顔を
もっと乱してやりたいという思いが、沖田の腰をさらに激しく動かした。
「んっ……ぁっ……」
内部の締めつけに思わず声をあげながら、手を伸ばして山崎のものを掴み、さらにしごく。
「……っ、ソージ……っ」
さすがに追い詰められた様子で、沖田の動きを押しとどめようと手を伸ばしてきた山崎が、
唯一口にしたのが自分の名前だったことに満足して、沖田はさらに手と腰の動きを早めていった。
「……んんっ。………ぁん、すごく気持ちいいよ……ススムくん」
「……っ、………っ、……」
「…ん、……あっ、……んん、…………っッ!」
もはや意地のように、相手が射精したことを確認してから、沖田もその精を放出した。
「フゥ。疲れたぁ」
いかに片方が小柄でも、大の男が二人で一つの布団に寝るのは難しい。
自動的に二人は密着し合うことになった。当然のように沖田は山崎の腕の中に潜り込んでいる。
一度行為を達してしまえば、不思議な程にこだわっていたものは消えていた。
「風呂に行くか? ソージ」
「ん。もうちょっとこのままがいいなー、僕」
そう言って甘えるように頬をすり寄せると、また耳の後ろをくすぐられる。
やっぱり癖なんだねと思いつつ、沖田はうっすらと目を開いて尋ねた。
「山南さんにもこういうことするの?」
ピクッと指の動きが止まる。沖田はくつくつと笑う。
「出来ないよね、きっと。ススムくんは、あの人のことは「抱きたい」んでしょ。抱かれたいんじゃなくて。
だからこういうことも、きっとしないんだ」
「……そうだな」
「可愛いね、ススムくん」
本心からそうささやいても、相変わらず山崎の指は止まったままで、
そっと様子をうかがうと彼は天井を見ていた。
ただ心なしかその表情は、いつもとは違う何かを映しているような気がする。
厳しい顔にも見えたし、何か懐かしいものを思い出しているような顔にも見えた。
絶対に自分に対してはしない顔だと思うと、やはり少し腹が立つ。
「でも山南さんって、ススムくんの気持ちには全然気付いていないんでしょ」
「……。ああ」
「今でもあの人のことばっかり追いかけているの? ええと、なんだっけ、あの元総帥……」
「ソージ」
「何?」
珍しく強ばった彼の口調に、つい反応してしまう。
「それ以上言ったら、追い出す」
「怖いなあ。ススムくんに怒られたら、僕でも怖いよ」
沖田は目を開いたままニッコリと笑った。言葉に嘘はなかったが、彼もまた刀を振るう者として
こうしたギリギリの状況こそを楽しんでしまうのも確かだった。
腕の中に収まったまま、この状態で襲いかかられたらどう対処しようかと考えていると、
ふいにそのもたれかかっている腕が引き抜かれて、頭が布団の上に落ちる。
文句を言おうとしたところに手が降りてきて、くしゃくしゃと頭を撫でられた。
「ソージにもいつか分かるだろう」
声には抑揚がない。彼はいつの間にか、いつもの山崎ススムに戻っていた。
「そうかなぁ?」
あくまで茶化すように笑っていると、山崎は淡々と言葉を続ける。
「僕とソージは似ているからな」
「似てないよぉ」と沖田は笑う。そうしてちらりと上目遣いに表情を伺うと、
相手 は顔を上に向けたまま、目を閉じていた。
「……まさか眠ってないよね? ススムくん」
返答はない。胸が上下する動きと浅い呼吸の音を聞きながら、
眠っているのかふりをしているのかを確認しようとして、途中で馬鹿らしくなった。
「いいや。どーでも。どっちでも」
沖田は体を起こし、手早く服を身につけて刀を手に取る。
「僕はもう行くね」
部屋を出るところで一応そう呟くと、「ああ」と小さな声が返ってきた。
「なんだやっぱり起きていたんだ」と言うと、今度は反応がない。
沖田はクスリと笑うと部屋を出た。
「あーあ、ススムくんが僕の相手をしてくれなくなったら、寂しいなー」
聞こえよがしに言いながら去っていく声を聞いて、山崎はうっすらと目を開け、
そしてまたすぐに閉じた。まぶたの裏に今はまだ遠い人の面影を映しながら、
急速に失われていく腕の中にあったぬくもりの残滓を感じながら、
彼は暗がりの中でそっと息を吐く。
2004.9.2
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