足を開かせる。抵抗などあるはずもなく、友は膝を割った。
再三の奉仕ですでに充分に怒張したものをあてがうと、
頭が傾いて泣きはらした目がぼんやりと高松を見つめる。
「なんです?」
聞きながらゆっくりと腰を進めた。サービスはうめいて、また喉がむき出しになる。
「みんな……そう思っているんだ」
絞り出すように声が漏れた。
「ええ、そうですよ」
何が言いたいのかは知らないが、無造作に肯定して、さらに突き上げる。
手と同じように柔らかく締めつけてくるそこに、自らを埋没させていく。彼は快感だけを求めていた。
「みんな、私が殺したのだと思っている」
熱に浮かされるようにサービスは呟き続ける。熱ではなく、性の感覚に浮かされているのだ。
高松は、今度は否定も肯定もせず、黙って自分の快感だけを求めた。
「なのに、誰もそう言ってくれないんだ。おまえ以外は誰も」
白い喉が震える。
「みんな、私が殺したと思っているのに……」
本当に、嫌になる。分かっていないくせに、分かっている。何も知らないくせに、知っている。
一つ一つ、言葉が胸に浮かぶのに合わせて、腰を動かした。
いつだってそうだ。恵まれた才能、恵まれた環境。
天才ルーザーが周囲に求めた難題、「何も語らずとも理解してみせよ」を、
こんな形でクリアした……卑怯もの。
妬ましかった。そんな相手を組み敷いていることには、確かに悦びがあった。
「………ぁあ」
細い喉から漏れるのは、紛れもない喘ぎ声。
「死にたい。死んでしまいたい」
性が強制する快楽に溺れながら、サービスは泣き続ける。
「もういやだ……いやなんだ……」
高松には言うことができない。本当は自分だって、死んでしまいたいほどに悲しいはずなのに、
どうしてもこの言葉だけは言うことができなかった。
すでに今までの人生だけで、犠牲と努力を払って掴み取ってきたものが多すぎるのだろう。
逆にサービスは、何も掴んではこなかったゆえに、簡単に死を願うことができる。
それはあまりに短絡的な、嫉妬に満ちた考え方だが。でも事実だ。事実の一辺だ。
だから代わりに言わせる。どこまでも責めさいなんで、サービスに言わせ続けるのだ。
死にたい、と。
腰はゆっくりと、こらえられるギリギリの範囲でゆっくりと、動き続けた。
深く呼吸を繰り返しながら、高松は性に溺れる。下半身からあがってくる衝動とは別に、
頭の一部はどこまでも冷え切っていた。だから、もっともっとと求めていく。
この冷たさすら押し流せるようにと。
サービスの内部は焼けるように熱く、高松を包み込んではうごめいた。
意志によらずして体は動き続け、侵入者に希なる歓びを与え続ける。
これもまた一つの才能だろう。そう考えると、愉快だった。
誰よりも気位が高く、征服されることの嫌いな彼が、蜂を惹き付けてやまない蜜を持っている。
皮肉だ。ああそうだ、人生は思い通りになんてならない。
何一つ、思い通りになんてなりはしないのだ。
熱が這い上がってくる。自ら掘り起こした嗜虐的な悦びも、理性を押し流していった。
けれどもまだ足りない。
「………ぅ、あ……」
泣き疲れた喉が震えていた。
高松はぼんやりとそこに手を伸ばす。腰の動きが、ふと止まった。
「…………ん」
目が合った。青い瞳が透明な水をたたえて友を見上げる。
自分は今、どんな顔をしているのだろうと高松は考えた。
きっとサービスの右半面に劣らない程、醜い顔をしているのだろう。
喉に指をかける。
手の下で、驚くほどに早くまた強く、血管が脈打っているのを感じた。
そして口が、何かを期待するかのように開かれる。
「ダメですよ」
優しくささやいた。
「殺してなんて、あげませんから」
「ああ……」
そうなんだろうねと、サービスは微笑む。
高松はまた動き始めた。しっかりと相手の目を見つめながら、徐々にスピードを早めていく。
「……ふ、…あ……は…っ」
笑うようにサービスは声をあげた。だがその目に狂気の光はない。
「は…、あぁ……、……んっ」
泣くだけ泣いたから、あとは笑うしかないというように、サービスは笑っていた。
笑いながらまた性に溺れていった。友の手を取って、引きずり込むようにして、深い深い底へと。
「ふ……う…、あ……ん…、は、あ……」
胸が大きく上下する。喉が誘うように仰け反ったけれども、高松はもうそれを見てはいなかった。
彼もまた、自分を満たす快楽に、笑いながら泣くように押し流されている。
「は……」
額に汗がにじむのを感じながら、最後の力を振り絞って、さらに先を求めた。
もっともっとと何かを叫んでいた。冷たさはもうどこにもなく、熱だけがあったが、
知りたかった。この熱がどこからくるものなのかを。
「あ、あ……」
声をあげる。性楽に浮かされた声を。どちらが発しているのかは、もはや分からなくなっていた。
ただ、遠い幻聴を聞いた。笑い合っていた頃、世界がまだ光に満ちていた頃の音を。
頭の中が白く染まっていく。
高ぶりはもう抑えきれないほどに熱く、止めようもなくほとばしっていた。
「は……、ぁは……、は……っ」
遠くで声が聞こえる。そう思いながら高松は、最後の理性を手放して、熱い内側に放出した。
汗にまみれた体をシーツに横たえる。
体中から力が抜けきっていた。
「本当に、殺してくれるかと思ったのに」
「まだ言っているんですか、あんたは」
背中から聞こえてくる声に、声だけで言い返す。体を横向けるのすら面倒だった。
「なんで私がそんなことしてあげなきゃいけないんです」
「いいじゃないか」
本気ですねているような声がする。だけど本心ではないことを、高松は知っていた。
学生の頃からそうだったから。もう見分けられるほどに、長い付き合いなので。
そして少しの安堵もしていた。これで少なくとも、当分の間、
サービスは死にたくはならないだろうと。一人で死なせてなど、なるものか。
そうしたら今度こそ、高松は一人っきりになってしまう。
それはあまりに寂しかった。決して口には出さないけれども。
この全てに恵まれた優等生に、沢山の嫉妬をして、沢山の苛立ちを覚えて、
それでもあの時間は、他の何ものにも代え難いほどに楽しかったのだと……
結局は、それだけで、それが全てだった。
男二人で狭いベッドを分け合いながらも、出ていく気配のない相手の傍若無人さに
聞こえよがしに溜息を吐きつつ、叩き出すにはあまりに疲れているからと言い訳して、目を閉じる。
今は心地よい気だるさだけがあるが、また明日からは暗い日々が続くことを、二人は知っていた。
未来なんてもう、どこにもないような気がしていた。
彼らは20歳で、すでに絶望を知り、それでもまだ若さと生命があった。
だから、生きずにはいられない。
性に溺れ、泣いて笑うことしかできなくても、生きていくしかなかった。
いつか光が射すことを、半ば信じ、半ば疑いながら。
あるいは未来を希求する心と、過去に耽溺する心に引き裂かれながら。
互いに自分にないものを相手に求めて、寄り添って生きていた。
ただ、生きていた。
2004.10.7
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