敵は誰? -6-


サービスは舐める。舌を這わせる。懸命に。不浄の器官を。
小さな頭を、顔をこすりつけるようにして、それを舐める。目からは涙を流しながら。
けれどもそれは苦痛の涙ではなく、おそらくは……慈愛。
可哀想だと言った。嫌いになれないと言った。それは本当に真実。
その傲慢さゆえの罰を今受けながら、それでも少年は懸命に舌を使う。

頭を抑えたミツヤの手が導くままに、竿を舐めあげ、亀頭に舌を這わせる。
「キスをして」
そうささやいた。
――君の兄さんにするようなキスを。
チュパッと吸われる。それだけでもう、欲望をはじけさせてしまいそうだった。
思えばサービスがミツヤにキスを――頬にする普通のキスだが――をしたことは、今までなかった。
今日初めて口づけをし、あまつさえ性器にまでキスをさせている。
素直な少年、可愛い少年。数年たてばあっという間に変わってしまう、つかの間の美。
数年どころかこの数時間で、この子供はどれだけ変わったのだろう。
どれだけ――ミツヤに近づいたのだろう。汚れた世界へようこそ、サービス。

「もっと深く」
頭を押さえつける。
小さな口にミツヤの性器は大きすぎるが、それでもサービスは懸命にそれを口に含んだ。
「舌を使って」
舐める。口の中の物体を。吸う。それがキスをするということだから。
ぎこちない動きはもちろん巧みさとはほど遠いが、この状況は巧拙で語れるものではなく、
むしろその物足りなさすら情念を煽る。それだけ長く、苦痛が続くということもであるのだから。
もちろん、サービスの。

頭を動かす。前後に、そして左右に。それに振り回されながら、サービスは懸命に舌を使う。
必死になってミツヤのものを舐める。彼にもうすうす分かっているのだろう。
とにかく応じるしかないのだと。懸命に奉仕する、それだけが唯一この苦痛を終わらせるすべだと。
……もう、サービスの心の中に慈愛はどれだけ残っているのだろう。
彼の愛は、今もミツヤに向けられているのだろうか、それとも自分に向かっているのだろうか。
汚してやりたい、穢してやりたい、その気持ちとはつまりこういうことだ。
相手を堕落させること、それこそが快感の原則。背徳の誘惑。

「サービス、君のこの姿を見たら、兄さんは……ルーザーはどう思うだろうね」
ゆっくりピストン運動をさせながら、もちろん根本まで飲み込むことはとても出来ず、
ただ亀頭を吸ったり離したりするだけの運動だが、それをさせながら、
ミツヤはねっとりと笑った。
「だからね、このことは誰にも言ってはいけないよ」
首がこくこくと動く。必死になって肯定する。
――誰にも言ってはいけないよ。
ルーザーがサービスに言っていた言葉。サービスは決してその言いつけに背かない。
ミツヤは笑う。そうしながら、ますます深く、少年の頭を動かしていく。

快感は緩やかに背筋を這い上った。右腕に残るかすかな痛みですら、今はもう気にならない。
ルーザーのことすら……今は怒りよりも楽しさが勝っていた。
ああ、いつかこのことをルーザーに話してやろう。彼が完全に僕の道具になったなら。
その時ルーザーはどんな反応を示すだろう。楽しい、とても楽しい想像だった、それは。
下半身がうずく。その時が近づいている。気持ちがいい。とてもとても、気持ちがいい。

「……んっ」
その時が来たとき、ミツヤはサービスの頭から自分の性器を引き抜いた。
そして自らの手で、頭をつかんでいるのとは別の方の手でそれをしごきあげる。
勢いよく射出された粘液は、少年の顔を汚した。……サービスは、ただ呆然と、それを受け止めていた。

ミツヤはベッドに横たわり、頭の後ろで腕を組んで、傍らの少年を見る。
呆然としながら、顔にかかった精液を取ろうとあがき、その結果ますますそれを広がらせて、
その臭いに、鼻や口から進入してくる味と臭いにむせながら、ぽろぽろと泣いている少年を。
――洗ってやらないとな。とのんびり考えた。
やっぱり証拠を残すのはまずい。だからキスマークがつかないように、体へのキスは最小限にした。
ミツヤはちゃんと考えている。考えて行動している。
すべてはマジックを覇王にするため。これもまた、その一環。
ルーザーを殺人兵器に。このサービスは……きっといい娼婦になる。覇王のための娼婦に。
想像は止めどもなく広がっていく。愉快に、そして陽気に。

「ねえ、サービス。今でも僕のことが好きかい?」
あえてその聞き方をした。
少年はしゃくり上げる。しゃくり上げながらも、彼は答えた。
「嫌いじゃないよ……僕は、ミツヤのことが、嫌いじゃないよ……」

優しい優しいサービス。

……サービスは思い出していた。
あれは兄さんと――ルーザー兄さんとチェスをしていた時のことだ。
サービスはまた負けてしまったけれど、兄さんは優しく丁寧に、どこがいけなかったのかを教えてくれた。

兵士(ポーン)の使い方、騎士(ナイト)の使い方、司祭(ビショップ)の使い方。
そして女王(クイーン)の使い方。さらに王様(キング)の守り方。

チェス盤の上に展開される小さな宇宙。
「眺めてごらん」と兄さんは言った。
そうして兄弟は頬をよせあって、チェス盤の高さまで目の位置をさげて、それを見た。
立ち並ぶ自軍の兵士たち、その隙間から見える敵の兵士たち。さらにその後ろに配置された、敵の王。
取るべき駒。
「倒さなくてはいけないよ」とルーザーは言った。
だからサービスは尋ねたのだった。

「ねえ、ルーザー兄さん……」
「なんだい? サービス」
「僕たちの敵は誰?」
「それはね――。世界だ」

サービスはそのことを、思い出していた。


2007.1.17

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