シズさんは、プレゼントをするのが好きらしい。



 会えば決まって何かを渡される。それは大体、少し高そうな礼服だったり、アクセサリーだったり、ぬいぐるみだったりする。どれも実用性がないし、荷物になるだけだし、そもそも、正直ボクの好みでもなかった。



 どうして、こんな高価ものをボクに? 受け取ったとしても、資金の足しにしてしまうだけですよ。



 以前そう聞いてみたら、あのいつもの嫌みのない笑顔で、そうしてくれて構わないよ、と言って、

「私が好きでやってるだけだから」

 と言った。そして、綺麗な銀の指輪をくれた。






 シズさんは、セックスをするのが好きらしい。
 
 ボクと顔を合わせると、その日はもう必ず、ボクとセックスをしている。ボクには、何がそんなにいいのかわからないけれど、シズさんは、終わるといつも満足そうな顔をしている。



 …ボクみたいな薄っぺらい身体を抱いて、楽しいですか?



 以前そう聞いてみたら、あのいつもの嫌みのない笑顔で、体型は関係ないよ、と言って、

「君を愛してるから、楽しいんだよ」

 と言った。そして、ボクの身体に紅い痕を刻んだ。






 シズさんはボクにアイシテルヨと言うのが好きらしい。

 ふと目が合うと、必ずといってもいいくらいに顔を寄せてきて、アイシテルヨと言ってキスをくれる。

 …何故そんなに簡単に、愛してると言えるのですか?

 以前そう聞いてみたら、少し寂しそうな目でシズさんは、そうだね、と言って、

「伝えられない本当のことを、繰り返し言ってるだけだよ」

 と言った。そして、キスをくれなかった。









 最後にキスをくれたのは、いつのコトだった?









裸体 ―I'm Waiting for You with Red Flowers―









 わたしはあなたをまっています。



「ねえ、キノ。いつまでそうしてるつもり?」

 バスルームの薄い扉の向こうから、何度も聞きなれた相棒の声が聞こえてくる。

「もう、三日目だよ。いつかの約束ごとは?」
「…もう少し、だけだよ」

 ボクはそう答えると、浴槽に浮かべた紅い花に、他愛もなく指で触れた。
 年の数だけの、紅い花。



 最近、国を訪れては、紅い花を十数個買って、浴槽に浮かべて…そこで身を縮こまらせて、ひたすら待っている。
 …今回も、あなたに会えないのだろうか?



「……」



 名前を呼ぼうとして、唇のあたりで、思いとどまった。
 呼んでも来なかったら、呼ぶ意味がない。
 …コナカッタラ?

「…ん」



 気がついたら、小さな手が下の熱いところをいじっていた。



「ン、ぁ……あんっ」

 出しなれた、いやらしい音声。最初のころは、出すのが嫌で必死にこらえていた。それが、今になっては。

「…ん、ぁう、あ、あ」

 自分の手が生み出す刺激に頭と身を委ねる。いや、自分の手じゃない。



 コレハ、“あの人”ノ手。






 それは一種のまじない。
 





「…ふぁッ」

 “あの人”の片手は、昔より少しだけ膨らんだ乳房を包んで、ゆっくりと、その全体を撫で回す。

「んっ……く」

 もう片方の“あの人”の手は、下の突起をつねったり指で押したりする一方、余った指がボクのなかに入って激しく蠢いている。
 やがて……

「ンんぁッ」

 “あの人”自身が無造作にわたしの中へ入ってきて。それだけで、わたしの頭の中にある糸のようなものが、ぷつん、と切れた。
 下が限りなく大きく、熱く轟いて。
 そのまま、平たい身体が弛緩して、ずるずると沈んでいった。

「……」

 “あの人”が私の中から出ていった途端に、魔法は解けて。“あの人”は消えた。
 目に写るのは、水じゃないものでひどく濡れた、私の五本の指。



 その途端に、虚しさが襲ってきて。
 少しだけ、音声が枯れた。



 口まで沈んだ顔の重さに引き寄せられ、紅い花の花びらが、鼻の先に触れてきた。
 その優しさが痛くて。
 目から水面へと、生ぬるい塩水が伝っていった。






 ワタシハアナタヲマッテイマス。



 そのまじないの言の葉。
 私から消えるように。
 私から消えないように。
 願って。



end.






自慰ネタ。
Coccoの「裸体」より。少しニュアンスが違うかもしれませんが。

シズさんに、完璧に体を染みらされてしまったキノさんですね。
その身体には、彼から与えられたものしか、残っていないのかもしれない。



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