抱きしめたい ―One silent night―



 何の不自然もなく、訪れる夜。



 静寂はとっくのとうに世界を包んでいたが、この部屋が静寂に包まれたのは、ほんの一時間前だった。



 部屋には性別の異なる人間が一人ずつ。
 一つしかない一人用のベッドに二人で横たわっていた。
 一人は裸で、もう一人も裸だった。
 一人は目を閉じていて、もう一人は目を閉じていなかった。
 もう一人はなんとなく、

「シズさん」

 眠ってもなお、整った顔を崩さない一人に呼びかけてみた。
 返答はなかった。

(…肌きれいだな)

 自分の肌を白くて綺麗だと、この人は言ってくれるけど、この人の方がきめ細かで綺麗な気がする。
 夜の青白い光に照らされて、なおそう思う。
 もう一人はその頬にそっと触れ、

(…思ったより柔らかいな)

 顔を近づけて、

(まつげ長い…)

 そっと唇で唇に触れた。
 少ししたあと、軽く舌で唇に触れ、軽く唇で濡れた唇を噛んでみた。

(…鉄の味…)

 ゆっくりと顔を放して。
 一人の唇に、わずかについたの唾液が煌めいているのを見て。
 どうしようもなく、恥ずかしくなった。



(何でこんな恥ずかしいこと…)

 この人はボクに何度もやってのけるんだろう。
 そう思ったら、さらに恥ずかしくなった。
 そして、

「おじいちゃん」

 その幼い声に、単純に驚いた。
 驚いて、もう一人は一人の顔を覗きこんだ。
 先程まで整っていた顔が、少し崩れていた。口が少し開いていて、微笑んでいるように見える。
 それが、何だかおかしくて。
 少し、寂しくて。
 ほんのちょっと、うらやましいと思った。
 そして、

「……ぅ」

 一人が眉をひそめ、うなされはじめた。

「シズさん…?」

 いつの間にか冷たい肌に、汗が浮かび始めていた。
 首を横に一回、また一回と揺らしている。

(駄々をこねてる子供みたいだな)

 そう頭に浮かんだ言葉が、かつて、一人が一人自身を自嘲して言った言葉だったことを、思い出す。
 そして、何でそんなことを覚えてるんだろう、ともう一人は首を傾げて、少し笑った。
 そうしている間に、一人の眉と眉の間のしわは、確実に増えている。
 もう一人は無表情になり、一人の頭を両手で抱えるように抱き締めた。
 小さな乳房が、冷たい汗にまみれた頬に優しく触れる。
 もう一人は囁きを産んだ。



「わたしが守ってあげるよ」



 その声は、一生に一度だったかもしれない。






 いつまでもいつまでも抱きしめていたい。



end.






「めちゃくちゃに甘いというか優しいというかキノさん母性本能全開でシズさんがおじいちゃん子な話を書きてえ…やべえ、書きたくてたまらねえ…」と、突発にふつふつと悶々と浮き上がり、電車の中で携帯電話機に向かいながらひたすら打っていました。
 最後の言葉はもちろん、先の話のリフレインです。先のがシズさんサイドだったことに比べて、こちらはキノさんサイドです。



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