[I miss you...]
例年よりも暖かな日が続いた冬は、いつもより早く春に舞台を譲り渡した。
庭先では艶(アデ)やかな桜が風に揺らされ、ひらり、ひらりと石畳を桃色に染める。
弥生末の朗らかな空の下、縁側に腰を降ろし、入れられたばかりの湯飲みの中にふと目を落とした。
頼りない花びらが一枚、所在無気にゆらゆら泳ぐ。
「アラシヤマ」
呼ばれると同時、小走りに部屋から飛び出した彼に深緑の湯飲みを手渡し、再び桜に目をやった。
暫く己を呼び寄せた師と、手渡された湯飲みとを交互に見ていたアラシヤマは、
浮かぶ桜の花びらに目を止め微笑む。
「綺麗どすな…今すぐに入れ直してきます」
盆に湯飲みを乗せようとした手を制し、瑠璃がかった瞳を射た。
「構わん」
ぶっきらぼうな物言いに再び微笑むと、アラシヤマは湯飲みを師の手の中に戻す。
明日には、師自らの指導を受けるのも、二人で季節の花木を愛でるのも、
一つ屋根の下で過ごした人生の半分に終止符を打つのだと思うと、自然と視界が滲んだ。
言葉の端々に溢れる冷たさも、身を焦がす焔の勢いも今では全てが愛しくて、愛しくて。
「お師匠はん、今晩わてにアノ術の訓練してくれまへん?」
迫り来る闇への恐怖に頭から被った蒲団の下から聞こえる啜り泣きに、私は堪え難い程の劣情を煽られた。
年端も行かぬ幼子と思うも、止まぬ鼓動に背を押され、震える掛け布団をゆっくりと捲り上げる。
冷気に晒された細い身体がびくりと一度大きく跳ね上がり、直後小刻みに震えた。
体内で唸る己の雄を静める事など到底不可能に感じるまでの、恐ろしいまでの色。
「怖いか?」
泣き腫らした目尻と、声を押し殺す為に噛み締めた唇は紅を引いたかのごとき朱で私を誘う。
これが無意識に行われたものだとするならば、どれだけ末恐ろしいことであろうか。
「ぁ…」
怯えた顔を何度も左右に振り、私の機嫌を損ねないように愚かしい努力を続けている姿が映る。
動けば動いただけはだける幼子の国の民族衣装に、可能な限り優しく手を掛けた。
「添い寝をしてやるから早く寝ろ」
小さな身体を抱え込む形で彼の蒲団に我が身を滑り込ませると、
先程まで包んでいたアラシヤマの温もりが徐々に冷たくなった服を温め、一体となる。
初めこそ緊張に身体を強張らせていたが、闇への恐怖が薄れたのか腕の中で安らかな顔を浮かべた。
耳元に唇を寄せ囁いてみるが、本当に眠りに就いたようで答えが返ることは無い。
その事を確認すると、布越しに感じるアラシヤマの柔らかく小さな双丘に自身を宛がい、
幼子が目覚めぬよう、ゆるりゆるりと刺激を与える。
悪夢にうなされ、時折苦しそうに洩らす吐息が一層の情欲を引き出し、私の雄を解放へ導く。
月明かり一つ無い新月の晩、私は年端の行かぬ幼弟子に欲情し、下着を精液でしどしどに濡らした。
年端の行かぬ者だという意識はすぐに消え、私はアラシヤマを己に縛り付けたくて堪らなくなった。
彼が他の者に扱われる事も、他の者を心に映す事も、そして他の者が私と同じように劣情を感じ、
それを彼で満たす事も…想像をしただけで行き場の無いほどの嫌悪を感じる。
小さな唇が私に奉仕し、哀願し、気が狂うほどに乱れる姿を夢想しては、何度も想像で彼を汚した。
「お師匠はん、何考えていらっしゃるんどすか?」
木造の湯船から薄桃に染まった顔を覗かせ、楽しそうにこちらを見る。
修行用に隊長から賜った家は、風呂と厠は別棟となっており、アラシヤマはこれを恐れた。
風呂に入れと言えば小さな手が服の裾を引き、寝る前に用を足せと言えば俯く。
強く頼れる師として私を見るアラシヤマの目は、時に私の心を酷く抉った。
それでも日に日に情欲は高まり、とうとう夢想如きでは飽き足らなくなった。
「房事の術を教えるべきか否か迷っていた」
どのように言えば幼弟子が私の言う事に興味を持ち、頑なにやりたいと言うのかは手にとる様に分かる。
数年、私が望む答えを出すように育て続けたのだから当たり前のことだ。
「お前にはまだ早いような気がしてな」
むっとしたように口を尖らせると、アラシヤマは湯船を上がり私の腕に縋りついた。
火照った身体がひたりと寄せられ、腹に飼った雄がざわざわと動き出す。
「お師匠はんはいつもわての事子ども扱いどす!!わてかて出来ますえ?ボージの術なんて」
「後で泣いても後悔しても知らんぞ」
不思議そうに覗き込むアラシヤマの顎を掴み、柔らかな唇に噛み付いた。
驚いて引こうとした腰を抱き寄せ、息継ぎの為の隙間から舌を忍び込ませる。
見開かれた目に涙が溜まり、恐怖や不安の混じった戸惑いに酷く揺れた。
身体がガクガクと震え、地に付ける両の足に力が入らなくなったのか、回した右腕に負荷がかかる。
その姿が堪らなく愛しくて、その哀願を耳にしたくて、唇を離した。
「…ぁ…」
恐怖に引きつった唇が戦慄き、許容量を超えた涙が頬を伝う。
未熟な性器に手を伸ばすと、再びアラシヤマの身体が仰け反った。
「嫌や…お師匠はん、そないとこ触ったら汚いどす」
自分の受けている行為が何なのか、分からぬまま首を振る姿に加虐心を煽られる。
「真似ろ」
小さな手を取り、無理矢理快楽に震える欲望を握らせ、
ゆっくりと擦り上げると、喉から引きつった声が漏れた。
本能的に危険を察知したのか、青ざめた顔で私を見つめる。
「どう変化するか克明に言え」
嫌々と首を振る姿に唇の端を持ち上げ、回した腰に爪を突き立てた。
皮膚にめり込む感触がし、耳を裂く程の心地よい悲鳴が響く。
「…っく…っえ…く」
抑えた泣き声にさえ鼓動が高鳴り、その度にザワザワと欲が首をもたげた。
恐る恐る触れるアラシヤマの小さな手を確認し、無意識に唇の端が釣り上がる。
「どうした?アラシヤマ。泣いていては分からないだろう」
休むことなく掴んだ小さな手で性器を擦り上げる快感に、声が欲に濡れているのがはっきりと分かった。
「…熱ぅなって…大きく…」
私の身体に何の変化が訪れているのかなどという知識は、恐らくない。
それでも、普段と違う様子から、アラシヤマなりに懸命に答えを導き出そうとしているのが伺える。
いくら彼が聡いとは言え、流石に理解など出来やしないだろう。
「身体が成熟すると、性的な興奮でこのような変化をもたらす」
極めて事務的な口調で説明する私に、修業の時のそれを重ねたのか、途端に安心した顔をする。
「通常、子を宿す行為だが…雄の場合、性的欲求がそのまま攻撃性に繋がることが多い。
お前が入ることになる軍など、それが顕著に現れた例だ」
良く分からないと首を傾げるアラシヤマの身体を、怯えさせないように抱きしめた。
「弱いものがどのような仕打ちを受けるのか、身体に刻み込んでおけ」
小さく疑問の声を上げた柔らかな唇を再び塞ぎ、洗い場の床に細い肢体を縫いつける。
驚く顔を無視し、手身近にあった石鹸を手に取ると、泡のぬめりの助けを借りて荒々しく指を秘部に捻込んだ。
「痛ッ…嫌や、お師匠はん、止めッ」
何度も上げられた制止の声も、もはやマーカーを止める事など出来ず、狭い風呂場に悲鳴交じりの嬌声が響く。
首を振る度に、瞳に溜まった涙がボロボロと零れ落ち、そのことが即って劣情を煽った。
「勘忍…お師匠はん、勘忍してぇ」
折れそうな指が縋る師の肌は、興奮に色味を強くしている。
恐怖に戦慄く唇を掠める、舌を差し込んで幼い歯列を貪った。
「っん…んぁ」
くぐもった声が鼻腔から漏れ、抑えが効かぬ程にマーカーの征服欲をそそる。
解放してやった唇が深い呼吸を繰り返すのを確認し、耳元で甘く囁いた。
「押し返す力がなければ服従しろ。お前のどこが私の指を銜えているのか言ってみるか?」
二本の指で押し広げられた秘部が立てる音に、アラシヤマの顔は絶望で歪む。
ぐちゃぐちゅと粘りの有る音と共に蕩け、解されていく身体は、
言葉とは裏腹に侵されることに甘んじているように思われた。
唇と瞼を固く結び、されるがまま身体の力を抜く。
「アラシヤマ、そのまま力を抜いたままでいろ」
視界に映る師の細められた眼を見て、アラシヤマは蛇を思い出した。
自分はこのまま、この強くて心の内の読めない蛇に絞め殺されるのではないかと、
ぼんやり格子から覗く一面の夜空を見つめる。
小さな溜息と共に視線を戻すと、再び恐怖で喉の奥がなった。
先程握らされた師の性器は更に猛り、彼は今将にそれをアラシヤマの秘部に捻込もうとしている。
「お師匠はん、止めて!!入らへん、そんなん入ら…」
悲鳴も空しく、押し込まれたそれは、一度に奥まで届こうと突き立てられた。
「ァ…ヒィアァァ」
直後の激痛に言葉すら紡ぐことが出来ず、内部を掻き混ぜる凶器から逃れようと身を捩る。
結合部からは鮮血が滴り、幼い身体は痙攣を繰り返した。
「…切れたか。まあ、粘膜だから治りは早いだろう」
痛みに歪められた顔など気にも止めず、ギリギリまで引き抜いては、再び最奥まで怒張した性器を突き立てる。
「ァ…ァ…」
半開きの唇から意味を解さない喘ぎが単調に繰り返され、緊張に固まった身体が揺さ振られた。
次第に痛みは薄れ、唯水音だけが響く。
「アラシヤマ…私のものだ」
泣きそうな程切ない声に、彼は何故か、師を憎むことが出来なかった。
「…馬鹿を言うな。明日に備えて早く寝ろ」
そっぽを向いた師に小さな溜息をつき、アラシヤマは素足のまま庭に出る。
地にひしめく桜の花びらは、彼が一歩進むごとに舞い上がり、白い足に纏わりついた。
「馬鹿やおまへん。士官学校から何時帰れるか分かりまへん。
お師匠はん、いつも馬鹿にしはったけど…わて、ほんまにお師匠はんのこと好きどすえ」
帯を解き、はだけかかった布地を邪魔ともせず、彼は師の放られた足に深く口づけた。
ゆっくりとその唇を上にずらし、己と同じように裾を乱した彼の内腿をなぞる。
「誰がそのようなことを教えた、汚らわしい。恋など邪魔な感情だ」
寄せられた頬を叩き、背をむけると、師は家の中に入ってしまった。
一世一代の告白を汚らわしいの一言で打ち切られたアラシヤマは、
変わることなく天から降り注ぐ桜の花びらを手に広い、キツク握りつぶす。
畳に頬を寄せたマーカーは、抑え難い身体の疼きに眉を潜めた。
身体の中に入り込んだ弟子の毒は、消えることなく徐々に全身を蝕み、己の心の全てを攫ってしまった。
少しでも触れれば、きっと彼の命を奪わずにはいられないだろう。
血肉の全てを喰らい、完全に同化してしまわなければ気がすまなくなる。
その欲求を抑える術など無くて、己は唯距離を置くしか方法が見つからない。
それ以降言葉を交わすことなく翌日を迎え、私は弟子の背を見送った。
数年後、ガンマ団内で顔を合わせた弟子の笑顔は薄汚れ、
私以外の男の影が、色濃く残っていた。