「Sous aucun pr[e']texte,je ne veux…」 (どんな事情があっても)
ミッターマイヤーはいつの間にか歌を口ずさんでいた。
「Avoir de r[e']flexes malheureux…」 (私は不幸になりたくないわ)
それはロイエンタールが教えた歌で、 もともとは付き合った女の1人がよく歌っていたものだった。
遠い昔、人類がまだ地球に住んでいた頃に流行ったものだと言っていた。
「Il faut que tu m'expliques un peu mieux…」
(もっとよく教えてくれなくてはいけないわ) 口ずさむ声が止まり、ロイエンタールの前に軍服姿の小柄な身体が立ち止まる。
広い肩幅の両端をそっとつかんで、少し背伸びをして。 「許してくれ、ロイエンタール」
それまで一度も自分からはすることの無かったミッターマイヤーの唇が、 自分から請うようにロイエンタールの薄い唇に触れた。
「許してくれ、ロイエンタール…」 もう一度言うと、ミッターマイヤーはパネルを操作してドアを開け、
その向こうにそっとロイエンタールの身体を押しやった。 背中でドアの閉まる音が聞こえる。
「Comment te dire adieu…」 (あなたにどうやってさよならを言えばいいか)
ロイエンタールは歌の続きを口ずさみながら、 一見何事も無かったような顔をして自分の部屋に戻っていった。