なっちゃん×ホスト(2-852さん)




俺は知る者ぞ知る凄腕のホストだ。
知る者ぞ、というのは枕営業を必殺技として持っているという事についてだ。
一応、色恋沙汰で持っていくものの、寝るのはホストとして下の下という
暗黙の了解が業界にはあるのだ。
が、そんなの太い金づるを引っつかむためにはそんな理想なぞ吹っ飛ぶ。
今日も今日とて手を組んでるマダムから「営業」の仕事が回ってきた。
そのマダムは事前にその相手が自惚れてる点やら弱いところなど
役に立つ情報をくれる。つまり初対面一目見ただけで相手の本音を見抜く、
なんつー少女漫画バリの王子様役なんてこの仕入れのおかげで朝飯前。

今日のマダムの歯切れは悪い。これまでも何回かあった。例えば
超VIPの奥方等興味はあっても絶対夫以外との性行為、など口には出せない人。
むろん凄腕のマダムだしそれなりに鼻は利く。だが肝心の本音は引き出せない。
となると、マダムの知り合いと紹介され酒もすすみ酔いが回るうちに、男側の
情熱にほだされアラアラ、という流れで奥方の躊躇心を無くしてやるわけだ。
金と暇に漬かってすっかり脂肪で潰れた女にさえ俺は最高の熱演で迫ってみせた。
若かりし時今の夫に娶られた時にも味わったことがない、己へ尽きることなく
注がれた賛美の言葉に陶酔した女の変貌振りは、何回体験しても痛快だ。

今回の仕事もそれだと思い「心配ない。」と返答する。
なんでも相手は香港マダム。おお!これはどれだけ引き出せるか眩暈がする。
いくら金持ちでも行動範囲は知れた事、はっきりいって籠の鳥だ。
エステも買い物もすべて身代金誘拐の心配のない夫の手の内の中。
俺の脳内にはまだ見ぬ香港マダムを篭絡する手順がすでに描かれた。



そのマダムが滞在するという超高級ペニンシュラホテルに向かう。
艶のある黒のスーツにシルクのマフラー、手には花ではなく宝石ケース。
つまり表向きには宝石のセールスマンを部屋に招きいれたとするわけだ。
だが、こんな派手でコロンの香りがするセールスマンなどありえない。
あっちも知ってて知らぬ顔で招き入れる。そこからどう落とすか。
そう、つらつら考えているとシースルーのエレベーターが降りていく中に
げっそり憔悴した若い男が一人へたり込んでいた。同業だろうか。
情けない。と鼻で笑うとまた違うエレベータに今度は五人が居るのを見た。
こりゃマダム達が乱交パーティーでも開いたのか?おやまあ。

マダムが待つ階の部屋に着いた。ドアが開く。
と今度は10人ほどの男がドッと乗り込んできた。黒人も混じっている。
「お、おおおおおおおお」「ああうあううううあううあ」
どいつもこいつもスーツもまともに着れず、中には下着姿の男も居る。
さすがに今度こそ不審に思った。情事の疲れではない何か別の…
ほとんど倒れこむように乗り込んだ男達を見送ると、見張り番だろうか
あちこちの包帯が痛々しい男達に声を掛けられた。
俺の疑問はそこでストップし、日本のヤクザ崩れらしい風情の彼らに
部屋に放り込まれた。まるで俺の気が変わる前にと急いでいるかのように。
さあ、俺の腕のいや息子の活躍する出番がきたようだ。



部屋の中に入ると、妖しい香がうすぼんやりと近寄ってきた。
いいかげん放蕩に飽きた奥方がクサを焼くのに数回出くわしたが
仕事遂行の為「貴方の魅力があるのに、コレはまったく必要ない」と
俺は丁重に遠慮申し上げている。
これはクサとは違うが、けれどもコンディションの万全のために
紗の天蓋が下がった、重厚なダブルベッドに横たわる香港マダムに
優しく声をかけた。
「マダム、貴方が匂やかな上にこの空気ではいささか参ります」
だから空調を、と言いかけたところで
「マダム?いやあねアタクシはまだ独身よ。レディとお呼び!」
?。しとやかな籠の鳥のマダムとばかり思っていたので面食らったが
ドラ娘が親のスネでもって堕落するというのは良くある話。落ち着いて
「失礼いたしました。紹介いただいた方よりマダム、と伺っていたもので。
けれどもやはりよく見ましたら、レディという呼称にふさわしい…」
「そんな御託はどうでもいいから、役に立つの?立たないの?
ってあら、レディなのに立つ立たないなんて、まっ、をほほほほほ」
いささか調子が狂うが、まあ成金なら下品な口調もあることもある…
なら表向きに持ってきた宝石の小道具ももう必要ない、早速仕事に
「ねえ、その手に持ってるのケースでしょ?まあ見せてごらん」
「…いえ、これは単なる見本でして本物はさすがに一人で持ち歩けませんよ。
でもお嬢様のような方へ信用の置ける宝石商をご紹介することはできますよ」
まったく、本題に行くかと思えば気まぐれに宝石に興味を示す。いやはや。




「アタクシの手にはどんなのが似合うのかしら、ねえ?」
「では、その御手を拝見してよろしいですか。レディ?」
天蓋から差し出された手は、フヨフヨと柔らかで非常な色白であった。
が、太さが…まるで…
「どうしたの?」
「いえ、あまりの白さに驚きまして…」
「まっ白魚のような手だなんてさすがセールスマン、褒めるのがお上手ね」
「ええ、このままマスタードをつけてかぶり付きたいような、いえ醤油をです!」
「まあそんな指を嘗め回したいだなんて、もう、まだ会って数分なのに」
どうしよう、指にはまるサイズの指輪なんて持ってきてないぞ…!
「指輪なんてありきたりのものはお嬢様レベルになるとつまらないでしょう。
アンクレットなんてどうでしょう?セクシーですよ」
「んまあ、んまあ!そんなセクシーなんて恥ずかしい。まだ乙女のつもりですのに」
「いいから、さあ、おみ足をお出しになって下さい」
足を出された。なんというかスッというよりもヌッという擬音が相応しい様な
綺麗にケアはされてはいるが、実にたくましい…さてアンクレットをば…汗
「なんか、鎖がちょっと太くないかしら?」
「いえ、やはりここはアピールすべき箇所ですから強調気味でいいのです」
急遽彼女の足にはめたのは、ネックレスである。
「もう、アタクシの気持ちは分かっているのでしょう?」
ようやく俺の仕事に取り掛かれるか。
「私、鈍感な男でありますのでレディのお気持ちを判れておりません。
ですのでどうかお顔を見せていただけウワッ」
レディを引き寄せるつもりが天蓋の中へと引きずりこまれてしまった。

まったく、調子が狂いっぱなしである。



さっきの時点から覚悟はしていたものの、さすがに恰幅の良いお嬢さんである。
特にウエストが無い。が、まだ年齢であろうか肌のハリはある。
これよりもっと悲惨な老令嬢を相手したこともある。今度も大丈夫だ。
「さあお顔を見せて」とっさに伏せる所はまだまだウブなのか?と思ったら
俺の下半身を凝視されていた!さすがにまだ戦闘体制ではない。
「あうっ」あっという間にズボンのファスナーが下ろされて出されて
その柔らかい手で包み込まれると思わぬ急成長をした。
「んまあ…さすがねぇサイズより硬度なのよねえ…日本製は優れものだこと」
「レディ、積極的なのは嬉しいですがこれでは私の立場がありません」
「もう立っているじゃないの、あらまたお恥ずかしいをほほほほほ」
「いいから、さあ横になって」
「あら、あら、お待ちになってほほほほほ」
体格が良いのでほとんど張り手で突き倒す勢いでベッドに横にならせると
ようやく俺のペースが戻ってきた。
顔は肉に埋もれているものの痩せたら骨格がくっきりした意志ある美人だろう
それを想像して自分を励ましながら深く口をつけた。
大降りなのは体格ではなく舌もそうらしく一気に俺は翻弄された。
ッポン!と音がする勢いで顔を離すと彼女はウットリした様子。よしいけるぞ。
さて、首筋へ…って首?どこだ?ええい背中を…ってベッドに手を差し込めない
こうなりゃ胸だ胸!おおさすがに揉み応えが。よし片手は下へ…
一人一人場所は違うがそれでも踏んだ場数のおかげかすぐにポイントを探り当てた。
とたん「う、わわわわわわ」ロデオ、ご存知だろうか。あの状態である。
腰が上下にバッタンバッタン跳ね、俺はベッドから落ちないように必死である。




とにかく、入れる準備は整ったわけだ。あっちもとにかくやる気まんまんである。
もう気迫が肌から立ち上っている感じだ。熱気で周囲が歪んで見える。
「さて、じゃ始めてちょうだい。最低でも5回は頑張ってもらうわよ」
さすがに俺はムッとした。お金は頂戴するけども夢を見させるのがホストである。
「レディ、いくらこの時間限りとはいえそれでは寂しいです。楽しみましょうよ」
「じゃあ、数え歌なんてどうかしら?10まで数えられたらいいの」
「それはつまり…男の?」
「もちろん、10に届くまでは死ぬまで頑張ってもらうのよ!」
そういう遊びじゃなくってだなあ、と俺は彼女の顔を見る。
見れば見るほど不思議な顔である。肉食獣のように凶暴なのだが
感じている瞬間まるで童女のような無邪気さが垣間見えるのだ。
「レディ、大事なのは回数ではありません。内容です」
「だって何度もやってこそ男の勲章だってお祖父さまが言ってたわ」
「そりゃ…(ははん、つまりそういう家の子なんだな)そうですけども
私は、女性を何度天国に連れて行くかに価値を置く人間なのです」
「ま、私はとにかくありあまるエネルギーを発散できるならそれでいいのよ。
行くわよ」



足の肉付きが良いのでどうしたらと思ったが異常な体さばきというのか
相撲の股割りだな、足が全開脚するので届かない、という事態にはならなかった。
それよりも、その運動能力でガッシガッシ腰を振るので入れているこちらの腰が!!
さっきの大量の瀕死の男どもが記憶に蘇った。そして眩暈がしそうな予感がしたのは
大金ではなくコッチの事態だったとは!
こ、このままでは今後の営業そのものが出来なくなってしまう!なにかツボを!
上で腰をグラインドさせる彼女を上半身に抱え込み、横に転がり正上位へ
チェンジするのに成功した。見ると彼女の顔は不満げだ。
命の恐怖をさっきまで感じていたのに、これで俺のホスト魂が目覚めてしまった。
(どこにポイントが?どう扱われると感激するのか?どこだ??)
髪を振り乱し、大汗をかいて豊かに肉を震わせる様子は美術の教科書にあった
古代日本の天女のようである。なにかひらめくものがあった。南無三!
「なんてきれいなんだ。まるで天女が俺の手に舞い降りてきたようだ」
「天女…?」
「不満かい?じゃああなたはまるで天使だ、ふっくら可愛い天使ちゃんだよ」
「天使!!ああ、ああ!!!!優しく厳しいお父さまがそう可愛がってくださった」
よし、ここがツボだったかと喜ぶ間もなくあっというまに目の前が暗くなってきた。
だがここで負ける?訳にはいかない。まだ、まだだ。
「ああっ!もう奈津子、だめえええええええん」
全身をミシミシと締め上げられて、もうさすがに俺は気絶した。どうにでもなれ。





気が付くと、ごーじゃすな真紅のバラが全面に刺繍されたバスローブの彼女が
枕元に立っていた。俺はというとまったく足腰が立たない。やれやれ、だ。
「あなた、気に入ったわ」
彼女の宣告はまるで死刑通知のように俺の耳に届いた、が。
「でも、いくら愛し合っててもホストでは死んだお父様に顔向けできないわ。
何よりも頂点に立つ女帝としていささかの汚点も残してはなりませんもの。
本当に、残念だわ。けれど、これまでの男62人のなかで貴方が一番でしてよ」
「それは…どうも」色々複雑な思いが渦巻きながらも満足させられたことに
俺は、俺を褒めてやりたいと思った。
「あまり長居するとお互いのために良くないわ。送らせるからもう出て行って。
アタクシは、アタクシは栄光の未来のため過去を振り捨てて茨の道を歩むのよ!!
愛しい貴方、アデュー!」強烈に口を吸われてしまったが今回は気絶はしなかった。

後日、かなりの小切手に香港精力剤が送られてきた。
彼女は存在自体が理不尽であるが、これと認めた相手には礼を尽くすらしい。
俺はといえば、あまりの強烈な体験のためしばらくは湯治となりそうだ。
日本へ帰る空港への道すがら、この香港滞在のトドメとなるような光景を見た。
中世の甲冑をきた物体が、高速道路の車の屋根を踏み抜きながら走る光景を。
「をーーーーほほほほほほほほ逃がしやしないよ待てや非国民ども!」
…どっかで聞いた声…けれどもあの動きは普通の人間じゃない感じだ…
ま、俺は今日も無事でお天等の下で生きている!これでいいじゃないか。

竜堂兄弟がいつも以上に精力に満ちたなっちゃんの追跡を受けてしまった責任を
作った漢はそれをまったく知らぬまま、香港から一人去っていった…





      

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